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東京Rap Atlas|代表14組・注目3組と1989–2026年の作品地図

Rap Atlas30 min read

東京に「東京のシーン」はない。

あるのは、新宿と三軒茶屋と板橋と新小岩と王子とお台場と渋谷が、それぞれ別の速度で回っている状態だ。

このページは、1989年のRHYMESTER結成から2026年9月のJUMADIBA『Kibarashi』までの年表である。

あわせて代表14組と注目の若手3組を、掲載基準つきで並べた。

誰が一番かは書かない。書けないからではなく、この街ではそれが意味を持たないからだ。

先にひとつ。2024年、川崎のBAD HOPは東京ドーム単独公演を完全ソールドアウトさせた。音楽ナタリーはこれを「日本のラッパーでは前代未聞の快挙」と報じている。

このページの順路

  1. 年表で37年の変化をつかむ
  2. 仕組み、街、会場の三方向から東京を読む
  3. 代表14組、クルー、若手3組へ進む

このページの要点

東京に一つの「東京のシーン」はなく、新宿・三軒茶屋・板橋・新小岩・王子・お台場・渋谷がそれぞれ別の速度で回っている。

対象は東京都(23区・多摩含む)。1989年のRHYMESTER結成から2026年9月のJUMADIBA『Kibarashi』までの年表と、代表14組・注目3組を掲載基準つきで収録している。

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目次

なぜ「東京の音」は定義できないのか

地域シーンの記事は、たいてい「その土地の音」を定義するところから始まる。東京ではそれができない。

理由は単純だ。レーベルもメディアもライブハウスもフェスも、決める側の人間がここに集まっている。他地域出身のアーティストが上京して拠点を構える先でもある。

結果として「東京のシーン」と「日本のシーン」の輪郭が重なる。東京について書いているつもりが、いつのまにか日本全体の話にすり替わる。

そこで本アトラスは、個人は出生・育ち・本人が公表する拠点のいずれかが東京都内と確認できることを地域の条件にした。団体は、東京での結成や地域シーンにおける歴史的役割も確認する。単に東京で公演したという理由だけでは紐付けない。この線を引かないと、東京のページは日本語ラップ全体の目次になってしまう。

漢 a.k.a. GAMIは新潟県生まれで、新宿で育った。出生地と育った街を分けることで、二つの地域との関係を記録できる。

STUTSは名古屋出身で東京拠点。東京圏の広がりのなかで、帰属はすぐ曖昧になる。

曖昧なものを曖昧なまま書くのが、この地図の作法である。

1989年から2026年まで:東京の日本語ラップ年表

主要な転機を、確認に使った出典とともに並べた。幅の狭い画面でも横スクロールせず読めるよう、二つの時期に分ける。

1989〜2009年:グループ、野外イベント、街の作品

2012〜2026年:大会、武道館、世界チャート、東京ドーム

  • 2012年 BSスカパー!『BAZOOKA!!!』の企画として高校生RAP選手権が開始。同年、世田谷を拠点とするKANDYTOWNが結成。
  • 2015年 Chaki Zulu、JNKMN、PETZ、MonyHorseらを中心にYENTOWNが結成。渋谷のパーティー「YENJAMIN」を含む活動へ広がった。
  • 2021年1月24日 葛飾区新小岩のZORNが日本武道館で単独公演「My Life at 日本武道館」を開催(ZORN公式)。
  • 2023年3月8日 KANDYTOWNが日本武道館でクルーとしての「終演」公演(Warner Music Japan)。
  • 2024年6月28日 千葉雄喜がMegan Thee Stallion『MEGAN』収録「Mamushi」に客演(Apple Music)。Billboard Hot 100に初登場68位(Billboard)、2024年8月3日付では36位を記録した。
  • 2025年 7月3日、千葉雄喜が日本武道館で単独公演。翌4日、Warner Musicとの包括契約と300 Entertainment Japan所属が公表された(Warner Music Japan公式リリース)。12月31日、ちゃんみなが第76回NHK紅白歌合戦へ初出場(ORICON NEWS)。
  • 2026年2月16日 ZORN主宰のAll My Homiesが日本武道館で「Family Day」を開催。ZORN/OZROSAURUSのツーマンだった(ZORN公式)。
  • 2026年7月11日・12日 ちゃんみなが初の東京ドーム公演「AREA OF DIAMOND FINAL」を2日間開催(ぴあ音楽)。
  • 2026年9月9日 JUMADIBAが17曲入りの1stアルバム『Kibarashi』を配信。公式配信ページに本人の制作クレジットを収録。

東京が全国に渡したのは、音ではなく仕組みだった

東京の話がいつのまにか日本の話にすり替わる、と先に書いた。理由はもうひとつある。

東京が外へ渡してきたのは、東京の音ではない。人が上がってくるための仕組みのほうだ。

代々木公園のB BOY PARKは1997年に始まり、主催者側は20周年の2017年を最後と発表した(WEBザテレビジョン)。入場無料で開かれ、KREVAが1999〜2001年に3連覇したMCバトル部門は、誰でも見られる入口だった。

2005年に始まったULTIMATE MC BATTLEは、そこから一段先へ行く。漢 a.k.a. GAMIとKEN THE 390の対談では、漢やMUSSOらMSCの面々が2004年に開いた「お黙り!ラップ道場」が、翌年のUMBへつながったと語られている。地域のバトルから全国大会へと規模を広げた経緯を、当事者の言葉でたどれる。

B BOY PARKが無料で見られる入口なら、UMBは各地の入口を1本の決勝につなぐ仕組みだった。

2012年には高校生RAP選手権、2015年にはテレビ朝日『フリースタイルダンジョン』が始まる。

テレビ朝日公式はZEEBRAを「メインMC&オーガナイザー」と記載している。全国の挑戦者が5人のラッパーに挑む番組だった。

代々木公園の無料イベントから、大会、深夜のテレビ番組まで。作ったのは東京だが、そこを通って出てきたのは全国のラッパーだった。

だから東京について書くと、勝手に日本全体の話になる。逆に言えば、器を差し引いた残りが東京の地域性だ。その残りは、区や駅の名前で割れている。

街の名前が音を決める:新宿、板橋、新小岩、王子

東京の日本語ラップを読むうえで、いちばん効く補助線はこれだ。東京の内側で、レペゼンの単位がさらに細かく割れている。

レペゼンは、どこの代表を名乗るかという意味だ。本稿の代表14組の多くは、「東京」より細い街名と結びついている。

2000年代前半、新宿のMSC、三軒茶屋の妄走族。2006年、練馬のSEEDA『花と雨』。2009年、板橋のPUNPEEと5lackを含むPSG『David』。

区や駅の名前がそのまま名乗りになり、声の質から言葉の選び方まで変わっていった。

渋谷のレコード店やクラブは交差点として働いた。同じ時期、葛飾、板橋、北区といった山手線の外側の生活圏が、自前の言葉づかいを持ち始める。

ZORNの新小岩、千葉雄喜の王子はその先にある。

会場と地元の関係は、出演告知にも現れる。Tokyo Young Visionが2026年6月6日にZepp DiverCityで予定した『EDOTENSEI』には、Normcore Boyzの出演が事前に発表された。

Normcore Boyzはコメントで、お台場を出会ってラップを始めた場所と説明し、そこで再び集まることへの思いを語った。また、自分たちで始めたパーティーに一つの区切りを見せるという意向を述べている。これは出演に向けた発言であり、活動再開や解散の確定情報とは分けて読む必要がある。

会場をどこに選ぶかは、規模だけでなく、どの街と自分たちを結びつけるかという表明にもなる。KOHHが2016年に王子の北とぴあで組んだ地元公演と並べると、東京という大きな名前の内側にある街の単位が見えてくる。

ラッパーの地元と、共同制作のネットワーク

ラッパーが名乗る地元だけでは、作品を形にした制作陣の関係までは見えてこない。

『花と雨』は練馬のSEEDAの作品として語り継がれているが、全面プロデュースを担ったのはBACHLOGICである。YENTOWNもChaki Zuluらを中心に始まった。

冒頭で帰属が曖昧な例として挙げたSTUTSは、名古屋出身で東京拠点、そもそもトラックを作る側の人間だ。

PUNPEEはラッパーでもあり、SUMMITを通じて作品を発表するプロデューサーでもある。2021年にはVaVa、OMSBと『オッドタクシー』の劇伴を担当した。板橋という地元と、複数の作り手による制作の関係は、別の角度から作品を説明する。

この例から見えるのは、地元を示す名前と、制作を担う人々のつながりは同じ地図には収まらないということだ。都市の分布と制作クレジットを並べて読むと、東京の音楽の輪郭がもう一段具体的になる。

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東京の代表ラッパー・グループ14組

掲載の条件は2つ。どちらかを満たした人物・組が掲載候補になる。

  • 基準1:公式ストリーミングでのリリース実績があり、全国メディアでの言及・出演・チャート実績も確認できる
  • 基準2:地域シーンにおける歴史的役割が、独立した複数ソースで確認できる

並びはおおむね活動開始順。年は、本文に記した名義・所属グループでの活動開始または初リリースの目安で、資料の粒度が揃わない場合は年代で示した。優劣ではない。

代表14組は掲載候補の網羅リストではない。KANDYTOWNは候補だが、この版では2023年の「終演」を年表とクルー節で扱い、代表カードは次回更新の候補に残した。

RHYMESTER(1989年〜)

宇多丸とMummy-Dが大学で出会い1989年に結成。EAST END、MELLOW YELLOWらとFunky Grammar Unitを組み、さんピンCAMPにも出演した東京シーン最初期の中核グループ。 公式略年表で追える作品には、2023年6月21日発売の12thアルバム『Open The Window』がある。

結成年と歩みは公式略年表、さんピンCAMP出演はエイベックス監修書籍の公式リリースで確認できる。[基準1・基準2]

BUDDHA BRAND(前身は1980年代末/1995年にBUDDHA BRANDとして帰国)

1980年代末のニューヨークで前身グループを結成し、1995年にBUDDHA BRANDとして帰国。1996年の「人間発電所」で、東京のアンダーグラウンドとNYのラップ観を直結させた。年次とメンバーは公式BIOGRAPHYへ戻せる。[基準2]

ZEEBRA(1993年〜/港区・渋谷区育ち)

キングギドラのMCとして『空からの力』を発表し、以後ソロ・メディア活動を通じて東京シーンの基準を作った。結成と作品はソニーミュージック公式、育った地域はJ-WAVEの本人インタビューによる。[基準1・基準2]

KREVA(1997年〜/青森県生まれ・江戸川区育ち)

1997年にKICK THE CAN CREWを結成し、ソロでも活動。代々木公園のB BOY PARK MCバトルで1999〜2001年に3連覇。2006年『愛・自分博』がオリコン週間アルバムチャート1位。[基準1・基準2]

般若(1998年・妄走族結成〜/世田谷区三軒茶屋出身)

渋谷〜三軒茶屋の仲間と妄走族を結成し、2000年代の東京アンダーグラウンドと後の昭和レコード周辺を接続した。活動開始と結成年は本人インタビューを含むタワーレコード記事、三軒茶屋で育ったことは金冠堂との公式企画で確認した。2004年にはソロアルバム『おはよう日本』を発表した。[基準1・基準2] 声の使い方への考えはHIPHOPCsの般若インタビューで読める。本人はAuto-Tuneそのものを否定せず、自分が使わない理由を説明した。

SEEDA(2000年代〜/練馬区出身)

2006年の『花と雨』と、DJ ISSOとのミックスCDシリーズ『CONCRETE GREEN』(本人インタビュー)で、2000年代東京アンダーグラウンドの中心的な回路を作った。練馬区出身はKADOKAWAの人物プロフィールによる。[基準1・基準2]

漢 a.k.a. GAMI(2000年〜/新潟県生まれ・新宿区育ち)

2000年、新宿発のMS CRU(現MSC)で活動を開始。MS CRUは2002年にEP『帝都崩壊』を発表した。2005年にULTIMATE MC BATTLEを立ち上げ、9SARI GROUP/鎖グループも運営する。新潟県生まれで、3歳頃から高田馬場、中学から北新宿で育った経歴は本人鼎談へ戻せる。[基準1・基準2]

PUNPEE(2007年・PSG結成〜/板橋区育ち)

PUNPEEは5lack、GAPPERとPSGで活動し、2017年にソロアルバム『MODERN TIMES』を発表。SUMMITの公式略歴は、2021年の『オッドタクシー』でVaVa、OMSBと担当した劇伴も記録している。ラップとプロデュースの両方から作品をたどれる。[基準1・基準2]

ZORN(2000年代〜/葛飾区新小岩出身)

生活に根ざしたリリックで、山手線の外側の東京を代表する語り口を確立した。公式プロフィールは新小岩出身とする。Billboard JAPANの商品解説では、2017年『柴又日記』がiTunes総合ランキングで一時1位。2021年には日本武道館で単独公演を開いた。

自身が主宰するレーベルAll My Homiesを運営する。2026年には江戸川区出身の後藤真希と「地元LOVE」で組んだ(ZORN × 後藤真希「地元LOVE」)。[基準1]

5lack(2007年・PSG結成〜/板橋区出身)

PUNPEE、GAPPERと2007年にPSGを結成。2009年のソロ作『MY SPACE』『WHALABOUT』を通じ、2000年代末以降の東京の空気を更新した。板橋区出身は音楽ナタリーの人物プロフィールで確認した。[基準1・基準2]

千葉雄喜(KOHH)(KOHH名義を経て/北区王子出身)

KOHH名義での活動を経て、2024年以降は本名で活動している。王子出身と経歴はWarner Music Japan公式プロフィールで確認できる(千葉雄喜「まーいいや」×Amazing Thailand)。

「Mamushi」は2024年8月3日付Billboard Hot 100で36位。2025年7月、Warner Musicとの包括契約と300 Entertainment Japan所属が公表された。[基準1]

kZm(2010年代半ば〜/渋谷区生まれ・渋谷区育ち)

kiLLa在籍中にYENTOWNにも参加し、2018年3月に1stアルバム『DIMENSION』を発表。2024年にZepp DiverCityでワンマンを開催し、2025年には台北、上海、香港、ソウルの4都市を回った。自身のプラットフォームDe-void*でも活動する。[基準1]

NENE(2016年〜/東京出身)

Ryugo Ishidaと2016年にゆるふわギャングを結成し、2017年にソロ1作目『NENE』を発表(Mikiki本人インタビュー)。2024年にはフジロックへ出演した。[基準1]

ちゃんみな(2017年メジャーデビュー〜/韓国生まれ・練馬区光が丘育ち)

ラップとポップスの境界で規模を拡大。韓国生まれと2017年のメジャーデビューはビクター公式プロフィール、光が丘で育った経歴は練馬区の本人インタビューへ戻せる。

2025年の年間Billboard JAPAN「Artist 100」10位、第76回NHK紅白歌合戦初出場、2026年7月に初の東京ドーム公演。[基準1]

本アトラスは彼女を東京の代表に数える。ただし賞の側の扱いは割れている。

MUSIC AWARDS JAPAN 2026では、「WORK HARD」が最優秀ヒップホップ/ラップ楽曲賞にノミネートされた。

同じ公式候補一覧で、ちゃんみな本人は最優秀J-POPアーティスト賞にノミネートされている。式典への出演見合わせと部門の扱いは、本誌の記事で追っている。

曲はラップ、人はJ-POP。この地図では、どちらに数えるかを賞に決めさせない。

14組のうち9組は、山手線の外側に具体的な地名を持つ

生まれ・育ち・拠点のどれかで区名まで書けるのは、14組のうち11組。

ここでは、本文に書いた出身地・育った場所のうち、山手線の環外と確認できる地点だけを数えた。生まれと育ちが異なる場合は、育った場所を採る。

該当するのは9組。KREVA(江戸川)、般若(三軒茶屋)、SEEDA(練馬)、漢 a.k.a. GAMI(北新宿)、PUNPEEと5lack(板橋)、ZORN(新小岩)、千葉雄喜(王子)、ちゃんみな(光が丘)である。

漢は中学から北新宿で育ったと語っており、新宿区の地図で山手線の外側と確認できる。一方、ZEEBRAの港区・渋谷区育ちとkZmの渋谷区育ちは、この本文が示す区名だけでは位置を一点に定めず、環内とも環外とも数えない。

PUNPEEは板橋区育ちなので、上の規則で環外に数えた。

同じ区から2組出ている場所もある。練馬のSEEDAと光が丘育ちのちゃんみな、板橋のPUNPEEと5lack。

練馬に結びつく2人は20年離れている。2006年のSEEDAは、DJ ISSOとミックスCDシリーズ『CONCRETE GREEN』を始めた(タワーレコード掲載の作品履歴)。2026年、光が丘で育ったちゃんみなが東京ドームに2日立っている。

この14組は、「都心から外へ広がった」という単純な順番には並ばない。少なくとも9組は、環外の具体的な生活圏からそれぞれ育ち、あとから「東京」という一語でまとめられている。

もうひとつ、この一覧が自分で晒している数字がある。14組のうち女性はNENEとちゃんみなの2人だけだ。

掲載候補を確認する基準に性別の項目はない。この版で選んだ14枠の構成は12対2だが、候補全体や東京のシーン全体の比率ではない。

基準をいじれば数は動く。ただしそれは東京のシーンではなく、この一覧の作り方が変わっただけだ。だから数字はこのまま置いておく。

クルーとレーベル:東京では「自前で回す」が何度も現れる

この一覧を追うと、大手と契約する前に、自分たちで作品を出す器を作る例が何度も現れる。

クルー

レーベル

この一覧だけを見ると、自作を出す器から始まった例が続いているように見える。

主宰者や運営の中心まで確認できる器だけでも、漢 a.k.a. GAMIの9SARI GROUP/鎖グループ、ZORN主宰のAll My Homies、kZmの活動プラットフォームDe-void*がある。

SUMMITとDogear Recordsも、PUNPEE/PSG周辺や5lackらの作品が外へ出る器として動いてきた。

レーベルだけでなく、YENTOWNのようにクルーを制作の単位とする例もある。

All My Homiesの歩き方はもっと分かりやすい。2026年2月16日、レーベル名義で日本武道館の興行を組んでいる。ZORNは出演しながら、レーベルとして興行を組む側にも回った(ZORN公式)。

自分たちの作品を出す器を持ち、自分たちで興行を組む側にも回る。

資料から追えるのは、ここまでだ。この動きが、この一覧では繰り返されている。

ただ、千葉雄喜の2025年にこの読みをそのまま当てはめることはできない。7月3日に日本武道館で単独公演を開き、翌4日にWarner Musicとの包括契約が公表された。

武道館の翌日に契約の発表が出たという順序は、本人の公演活動と流通面の展開を並べて読む接点になる。契約が公演を理由に決まったという意味ではない。

会場規模の階段は都内にそろう。川崎BAD HOPが完売させた東京ドーム

東京には、無料イベントからライブハウス、アリーナ、ドームまで、会場規模の階段が都内にそろっている。

起点は1996年の日比谷野外音楽堂(さんピンCAMP)と、1997年に始まり主催者側が2017年での終了を告知した代々木公園(B BOY PARK)。入場無料のブロックパーティーとMCバトルが、長くシーンの入口を開いていた。

その階段をいちばんわかりやすく登ってみせたのが、高校生RAP選手権だ。

2012年に始まった大会は、2016年8月30日の第10回で日本武道館へ到達した。来場者は約8,000人と音楽ナタリーが報じている。

開始から4年後の武道館公演は、テレビ企画から生まれた大会が会場規模を広げた節目として読める。

中間層は恵比寿LIQUIDROOM、渋谷のSpotify O-EAST/WWW/WOMB、お台場のZepp DiverCity。

そして日本武道館。ZORN(2021年・2026年)、KANDYTOWN(2023年)、千葉雄喜(2025年)。東京のラッパーがキャリアの節目を刻んできた場所だ。

ここまでは東京の内側で完結する。

だが、ドームへの到達は東京の内側だけで完結しなかった。

2024年2月19日、川崎のBAD HOPが解散公演「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」でそこに立っている。チケットは完全ソールドアウト。音楽ナタリーは「日本のラッパーでは前代未聞の快挙」と書いた。

そこから2年4か月あまりあと、2026年7月11日・12日、ちゃんみなが「AREA OF DIAMOND FINAL」を開いた。本人にとって初の東京ドーム公演だった。

会場が都内にあることと、都内出自のアーティストがその舞台を主導することは、別の話だった。

日比谷野音、代々木公園、ライブハウス、日本武道館、東京ドーム。都内の会場だけで、入口からドームまでの規模は描ける。

ひとつ付け加えておく。東京のクルーを抜けてBAD HOPに加わったVingoは、「東京から」来たと本人が語っている(後述する)。彼もその舞台に、川崎のクルーの一員として立っていた。

2026年の東京:注目の若手ラッパー3組

条件は、直近24か月のリリース実績に加えて、メディア掲載・大会・フェス出演のいずれか1つ以上。無理な水増しはせず、検証できた3組だけを挙げる。

JUMADIBA(杉並区出身)

本人は2019年にラップを始めたと語る。積み上げの単位はミックステープだ。2025年7月9日に3rd『IEGUMO』を発表し、リリース時には全国11都市を巡るツアーを告知した。ファイナル会場には渋谷Spotify O-EASTが案内された。

2026年は4月4日、POP YOURS 2026公式のDAY2に出演。7月19日には渋谷WOMBでリスニングパーティが予定されていた。

その間の6月17日、1stアルバムの第2弾先行曲「ジョガボニート」が配信された。作品別の配信情報は2026年6月17日を発売日とし、作詞・作曲・プロデュースをJUMADIBA、ミックスをUKDと記載している。

1stアルバム『Kibarashi』は2026年9月9日に配信された。公式配信ページでは17曲を収録し、JUMADIBA自身がプロデュースを担当する。ミックステープを重ねた歩みから、セルフプロデュースの初アルバムへ進んだ。

Vingo(東京出身とされる/区は未確認)

川崎のクルーBAD HOPに参加。本稿の地域帰属は、本人がラジオで語った「東京から」という発言にもとづく。2024年の解散後、ソロへ軸足を移した。

2025年4月29日に1stソロアルバム『VINNY』(全18曲)を発表(Apple Music)。同年9月28日、新木場FACTORYで開いた無料公演には15,000人超の応募が集まった。2026年5月4日には「XXXL」を配信した。

BAD HOPに入る前にいたのは、次に挙げるDALUと同じクルーだ。

DALU(旧名義:Young Dalu/港区お台場出身)

お台場で生まれ育ち、Normcore Boyzを経てTokyo Young Visionへ加わった。同クルーは代々木公園のサイファーを起点としている(TuneCore Japan)。 初期制作をさらに知るにはDALUの独占インタビューへ。お台場のTAKEの自宅スタジオで「Call I」を録音し、フックをOSAMIが担当した経緯を本人が語っている。

2025年3〜5月に向け、Tokyo Young Visionは1stアルバムの全国14都市リリースツアーを告知した。2026年2月18日には、同クルーが2ndアルバム『EDOTENSEI』(全11曲)を発表した(公式配信情報)。

クルー外の参加作では、Sad Kid Yaz「夜だけのフレンド feat. DALU」が2026年7月15日に配信された。作品クレジットにはラップ担当としてSad Kid YazとDALU、プロデュース担当としてTAXONが並ぶ。

6月6日のZepp DiverCity公演については、Normcore Boyzの出演告知と本人コメントがある。二つのクルーは別の組織で、DALU/Young Daluらの参加者が重なる。

若手3組のうち2組が、同じクルーの名前に行き当たる

Vingoは川崎のクルーで名前を作った。だが、その前にいたのは東京のクルーだ。

2024年2月7日、BAD HOP解散公演の直前に出演したZEEBRAのラジオ番組で、本人がこう話している(WREP放送の書き起こし)。

元々は僕、今もあるんですけど。Tokyo Young Visionっていうクルーをやっていて。

DALUが今いるクルーである。

離脱の理由も、同じ番組で本人が言っている。

Tokyo Young Visionの活動の中で「ちょっとこいつら、ノロすぎるぞ? これ、なんか嫌だな」って思い始めちゃって

そこから彼はBAD HOPに合流し、川崎のクルーの一員として東京ドームまで行った。

その後のTokyo Young Visionは、2026年6月6日のZepp DiverCity公演を告知している。Vingoの離脱時期と、この公演の企画時点は区別して読む。

一方はBAD HOPでの活動へ、もう一方はTokyo Young Visionでの活動へ。それぞれの道を追ううえで、同じクルー名が二度現れる。

VingoとDALUがTokyo Young Visionに同時期に在籍したかは、この番組からは確定できない。一方、作品上の共演は、2025年8月14日配信のVingo「Magic Hour feat. DALU」に残る。プロデュースはfoux。共通するクルー名だけでなく、一曲の制作から二人の接点をたどることもできる。

Tokyo Young Visionの公式配信プロフィールは、代々木公園のサイファーで出会ったメンバーを中心に結成され、クルー全体の活動を2021年に本格化したと説明する。B BOY PARKと同じ公園に接点があるが、両者の組織的な継承を示すものではない。

JUMADIBAは、ミックステープ、ツアー、フェス出演を経て、2026年9月の『Kibarashi』で初アルバムへ進んだ。二人のクルー史とは別の、作品を軸にした歩みとして読める。

先に、東京は仕組みを作って全国へ渡したと書いた。B BOY PARK、UMB、高校生RAP選手権、フリースタイルダンジョン。

このページの若手掲載条件にも「大会」は入れてある。だが本ページで確認できた範囲では、3組の経歴にバトルの大会名がひとつも出てこない。満たしたのは、リリースとメディア掲載、あるいはフェス出演のほうだ。

東京が全国へ開けた入口と、いま東京の若手が使っている入口は、同じではない。

3組しかいない一覧で言い切れる話ではない。次にこのページを更新するとき、最初に見るのはここだ。

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このページの掲載基準と、掲載申請について

Rap Atlasは、公開した基準で掲載候補を確認する。そのうえで、この版の範囲に合わせて紹介する人物・組を選ぶ。

  • 代表アーティスト:前掲の基準1か基準2、どちらかを満たすこと
  • 注目若手:直近24か月のリリース実績+メディア掲載・大会・フェス出演のいずれか1つ以上
  • 序列をつけない。並びは活動開始順または五十音順。「誰が一番」は書かない
  • 反社会的行為に関する未確認情報は書かない
  • 出身地の記載は本人公表または信頼できる報道ベースのみ。推測で地域に紐付けない
  • 掲載の可否・順序を金銭で変えない(PR掲載は明示分離)

基準の全文はRap Atlasの掲載基準についてに掲載している。

このページは完成品ではない。 掲載漏れ・事実誤認のご指摘はお問い合わせ窓口からお送りください。

編集部が一次資料と独立した複数ソースで検証し、掲載基準に照らして判定します。そのうえで地域データベースと本ページへ反映します。

指摘者のクレジットは、ご本人が希望した場合のみ実名で記載します(匿名・記載不要も選べます)。

関連する地域ガイドには、川崎・横浜と名古屋・東海もある。

他地域はRap Atlasから順次辿れる。

注記

  • 年表は1989〜2026年。経過年数は37年、両端を含めると38暦年になる
  • 本文の年表、代表14組、若手3組は、公式資料、本人取材、作品配信面、直接報道のいずれかへインラインで接続した。事典項目は本文根拠に使っていない
  • 「初」「唯一」は一次資料で確定できる範囲に限定した。BAD HOPの東京ドーム公演は本稿で「日本初」と断定せず、音楽ナタリーの見出しを帰属付きで紹介した
  • 川崎のBAD HOPは掲載リストに入れていない。会場の話をするうえで避けて通れないため、本文中で比較対象として触れた(クルーの扱いは川崎・横浜のページにある)
  • 地域帰属は自治体・本人・公式プロフィールを優先し、取れない場合だけ本人取材か全国媒体の人物プロフィールを使った。たとえば、ちゃんみなの光が丘は練馬区の本人インタビュー、kZmの渋谷はQeticの人物プロフィール、SEEDAの練馬はKADOKAWAの人物プロフィールによる。推測での紐付けはしていない
  • Vingoの出身地は、BAD HOP公式のプロフィールに個別の記載がない。本人は2024年2月7日のZEEBRAのラジオ番組で「東京から」と語っているが、区までは述べていない。本文の「東京出身とされる」はこの発言と二次情報にもとづく表記で、区の特定できる一次が取れ次第あらためる
  • 逮捕歴等の事案は本ページの評価軸に含めていない

主要参照

数字・日付・会場は公式資料、本人取材、作品配信面、直接報道へ戻した。「初」「唯一」は一次資料で確定できる範囲に限った。

公式・一次資料

報道・DSP

関連記事

よくある質問

東京のヒップホップシーンとは?
新宿、三軒茶屋、板橋、新小岩、王子、お台場、渋谷などの地域と、作品、制作、会場、大会の関係を読む。単一の東京サウンドや全国シーン全体の網羅を主張するものではない。
東京を代表するアーティストは誰?
RHYMESTER、BUDDHA BRAND、ZEEBRA、KREVA、般若、SEEDA、漢 a.k.a. GAMI、PUNPEE、ZORN、5lack、千葉雄喜(KOHH)、kZm、NENE、ちゃんみな。詳細は記事内の代表的アーティスト欄に出典とともに掲載している。
東京シーンを支える主要レーベル・クルーは?
妄走族、MSC、KANDYTOWN、YENTOWN、Tokyo Young Vision、SUMMIT、Dogear Records、9SARI GROUP/鎖グループ、All My Homies、De-void*。クルー、レーベル、活動プラットフォームを区別して紹介する。
この記事の年表はいつから始まる?
1989年のRHYMESTER結成から、2026年9月のJUMADIBA『Kibarashi』まで。本文ではちゃんみなの2026年7月東京ドーム公演も扱う。
この記事の情報はどう検証されている?
本文の参照リンクから、地域の本人発言、作品情報、告知や公演記録をたどれる。出生・育ち・拠点、告知・実施、公開日・出来事の日を区別する。資料が示さない情報は推測で補わない。