Diddyの民事代理人Sher Tremonteが辞任を申請──書面が挙げた6か月未払いと留置権
4ページの宣誓供述書が、ニューヨーク南部地区連邦地裁の電子記録に上がっている。表題は「Sher Tremonte LLPの辞任申立てを支持するMichael Tremonteの宣誓供述書」。日付は現地時間2026年9月14日。Sean「Diddy」Combsが1億ドルの名誉毀損訴訟で雇ってきた法律事務所が、原告代理人から降りる許可を裁判所に求めた書面である。本誌は申立書(ECF 124)、宣誓供述書(ECF 125)、送達証明書(ECF 126)のPDFを取得した。
要点:この事件に適用されるローカル民事規則1.4(b)では、訴訟代理人が代理人から外れるには裁判所の命令が必要となる。9月14日に出たのは、その許可を求める申立てだ。
書面が挙げる理由:報酬・費用の相当額が未払いで、6か月以上入金がない。4か月以上、案件についての直接の実質的な連絡に応じていない。いずれも事務所側が申立てで述べる主張だ。
辞任と同時に求めた留置権:事務所は、報酬が支払われるまで本件の依頼人ファイルを留め置く権利も求めている。
1億ドル:この訴訟でCombs側が被告に求めている賠償額であって、未払い報酬の額ではない。
宣誓供述書が挙げた、二つの理由
Tremonte弁護士は、偽証すれば処罰されるという前提で署名している。根拠は、南部・東部地区の統一ローカル民事規則1.4と、ニューヨーク州弁護士職務規程1.16(c)の(5)(7)。挙げた理由は二つ。「(1) Combs氏は弁護士報酬、費用および実費の相当額を支払っていない」「(2) Sher Tremonteの代理業務は、Combs氏の非協力と連絡不通によって不合理に困難なものとなり、弁護士と依頼人の関係は崩壊した」。
未払い額は示されていないが、期間については具体的な記載がある。6か月以上まったく入金がない。直近の支払いは2025年後半に発生した分。延滞残高のうち相当部分は、90日を超えて未回収の請求書だという。事務所は、裁判所が望むなら詳細をイン・カメラ(非公開)で提出すると申し出ている。
連絡については、Combsが4か月以上、自分の案件について適時で実質的な、直接のやり取りに応じることを拒んできた、とある。書面はFarmer v. Hyde Your Eyes Optical判決(S.D.N.Y. 2014)を引き、依頼人の非協力と連絡不通は辞任の正当理由になるという先例を示す。
辞任とともに求めた、事件ファイルの留置権
宣誓供述書の第11項は短い。Sher Tremonteは、報酬が支払われるまで、事務所が保有する本件の依頼人ファイルを留め置くリテイニング・リーエン(retaining lien)を求める、とある。依頼人の書類を手元に留め置いて支払いの担保にする権利で、先例としてKarimian v. Time Equities事件(S.D.N.Y. 2011)が引かれている。後任の弁護士がファイルを受け取れるかに直結する請求である。
事前通告の記録も残っていた。本人へは9月3日と9月11日に郵便で、同じ日に代理権者へメールで、支払いと連絡が回復しなければ辞任を申し立てると伝えたという。申立書はECF提出に加え、ニュージャージー州のFCI Fort Dixにいる本人へUSPS優先郵便で、Tri Star Sports and Entertainment GroupのRobin Greenhill氏(代理権者と記載)へメールで送られている。
代理人から外れるには、裁判所の許可が必要
この事件に適用されるローカル民事規則1.4(b)では、訴訟代理人として届け出た弁護士が代理人から外れるには、原則として裁判所の命令が必要となる。Sher Tremonteは、その許可を求めて今回の申立てを提出した。同条は、申立てに加えて宣誓供述書などで「満足すべき理由」と事件の進行段階を示し、留置権や報酬債権の主張の有無まで明らかにするよう求めている。申立ての依頼人への送達と、その証明の記録化も同条の要求である。9月14日に送達証明書が並んでいるのは、そのためだ。
事務所は、辞任が訴訟の進行に与える影響についても説明している。却下申立ては9月4日に決着したばかりで、当事者はディスカバリの初期段階。公判期日は入っていない。9月17日午後2時〈米東部夏時間/日本時間9月18日午前3時〉の電話会議を除き、辞任によって延期される審理期日はないと事務所は述べている。その会議にも、前に解任されない限り出席する予定だという。Combsに実質的な不利益は生じない、という主張だ。
本人側は過大請求と反論、事務所側は否定
9月16日(水)、Combsは広報担当のJuda Engelmayerを通じて声明を出した。Complex、USA TODAY、Page Sixが同じ文面を載せている。
「弁護士を替えると決めたのは私だ。過大請求をして、承認もしていない費用を積み上げるようなやり方で、誰かに食い物にされるつもりはない」「これは純粋にビジネス上の問題であり、未払い報酬という話は、承認していない請求をめぐる我々の争いの一部にすぎない」。
Tremonte弁護士はメールで反論した。事務所は「困難な状況のもとで、熱心かつ非常に効率的に」代理した。「我々が辞任するのは、彼が長期延滞している請求書を支払わず、非協力的になったからだ。過大請求をしたという示唆は、端的に誤りである」(NBC News、Page Six)。広報担当のEngelmayerはUSA TODAYに、別の訴訟でCombsと関連会社を代理してきた民事弁護士Jonathan Davisが「しかるべき時期に」NewsNationに対する訴訟を引き継ぐと説明している。
誰が誰を、何で訴えているのか
この訴訟でCombsは、Courtney BurgessがCombsによる性的暴行の動画を保有していると主張したことや、Ariel Mitchellの発言、それらを扱ったNewsNationの放送内容を、虚偽として争っている(USA TODAY)。今回、辞任を求めたSher Tremonteは、その原告Combs側の代理人だ。
被告は、NewsNationを運営するNexstar Media Inc.、Mitchell弁護士、Burgessの3者。請求は名誉毀損で、2025年1月の提訴時は5000万ドル、2025年8月の修正訴状で1億ドルになった(USA TODAY)。
訴訟自体は係属中で、9月4日にJohn P. Cronan判事が、Nexstarの却下申立てを一部認容・一部却下、Mitchellの却下申立てを全部却下とする意見・命令を出している。
刑事事件とは、別の話である
Tremonteが担当してきたのはCombsの民事訴訟で、2025年のニューヨークでの刑事裁判では代理していない(NBC News)。今回の書面も、刑事弁護団や他の民事訴訟の代理人には何も述べていない。触れるのは「本件および他の多数の事件にまたがる業務量」という、財務的負担を説明する一節までだ。
Combsは56歳。2025年7月に売春目的の州際輸送2件で有罪となり、50か月の連邦刑に服している。連邦矯正局の受刑者検索は、2026年9月17日時点で収容先をFCI Fort Dix、釈放予定日を2028年2月5日と返す。本誌は8月に、この予定日が27日後ろへ動いた経緯を書いた。
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9月4日の却下判断は2026年9月第2週のニュースまとめで扱った。訴訟の発端となったテープをめぐる主張の出どころは、2024年のAriel Mitchell弁護士のNewsNation発言を伝えた記事にある。Combsをめぐる発言の重さについてはUsherとJ. Coleの発言を検証した記事もあわせて参照できる。
FAQ
弁護士はもう辞めたのか
今回確認したのは辞任の許可を求める申立てです。申立ての提出だけで代理人から外れるわけではなく、裁判所の許可命令の有無は本稿では確認できていません。
Combsはいくら払っていないのか
今回確認した申立資料には、未払い額は記載されていません。宣誓供述書が述べるのは「相当額」の未払い、6か月以上の入金なし、延滞残高の相当部分が90日超という3点です。事務所は詳細を非公開で裁判所に提出すると申し出ています。本人側は、事務所の請求に過大なものや承認していない費用が含まれると反論しています。
1億ドルは未払い報酬の額か
違います。CombsがNexstar Media Inc.、Ariel Mitchell弁護士、Courtney Burgessに対して求めている損害賠償の額です。報酬の話とは別の数字です。
リテイニング・リーエンとは何か
報酬が支払われるまで、弁護士が依頼人の書類や記録を手元に留め置ける権利です。Sher Tremonteは辞任と併せてこれを求めています。認められた場合、後任の弁護士へのファイル引き継ぎに影響します。
刑事事件の弁護団も離れたのか
今回の申立てはこの民事訴訟に限られます。NBC Newsによれば、Tremonte弁護士は2025年の刑事裁判でCombsを代理していません。刑事弁護団や他の民事訴訟の代理人について、書面にも確認した資料にも記載はありません。
未確認の事項
裁判所が辞任と留置権を認めるかどうか。未払いの金額。9月17日午後2時(米東部夏時間)の電話会議の結果。9月4日の命令でNexstarの却下申立てのどの部分が認められたのか(本誌が読んだのは命令の記録上の要旨までで、意見全文ではない)。本人側が言う「承認していない請求」の中身。後任として挙がったJonathan Davisが、この訴訟で正式に出廷したかどうか。
出典
- 連邦裁判所提出書類 Combs v. Burgess, No. 1:25-cv-00650 (JPC)(ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所、John P. Cronan判事)。本誌がCourtListener/RECAP経由でPDFを取得したのは、ECF 124「NOTICE OF MOTION FOR LEAVE TO WITHDRAW AS COUNSEL」(2026年9月14日、1ページ)、ECF 125「DECLARATION OF MICHAEL TREMONTE IN SUPPORT OF SHER TREMONTE LLP’S MOTION TO WITHDRAW AS COUNSEL」(同日、4ページ、全15項)、ECF 126「CERTIFICATE OF SERVICE」(同日、1ページ)。本文の引用と数値は、特記のない限りこの3点による。取得日は2026年9月17日。
- 同事件 ECF 122(2026年9月4日、却下申立てに関する意見・命令。9月17日午後2時の電話会議を指定)、ECF 1(2025年1月22日、訴状)、ECF 61(2025年8月11日、修正訴状)。ECF 122:訴訟の発端と当事者の主張は記録要旨および報道(USA TODAY)で確認し、却下申立ての処理結果と電話会議の指定は記録要旨で確認した。
- 記録を確認した範囲と時点:2026年9月17日(日本時間)にCourtListener/RECAPで取得できたのは、2026年9月14日提出のECF 124・125・126までである。本誌はドケット一覧全件を照合しておらず、辞任の許可命令の有無は確認していない。
- ニューヨーク州南部・東部地区連邦地方裁判所 統一ローカル民事規則(2026年1月2日施行)、Local Civil Rule 1.4(b)。辞任には裁判所の命令が必要であること、宣誓供述書等による「満足すべき理由」「事件の進行段階」「留置権・報酬債権の主張の有無」の開示、依頼人への送達とその証明の記録化。
- NBC News「Attorneys in Sean ‘Diddy’ Combs’ $100M defamation lawsuit seek to withdraw over months of unpaid fees」(米東部時間2026年9月16日午後1時40分、Matt Lavietes/Chloe Melas/Emanuella Grinberg)。Tremonte弁護士の反論メール、刑事裁判を担当していない旨。
- USA TODAY「Sean ‘Diddy’ Combs’ lawyers allege unpaid fees, withdraw from $100M case」(2026年9月16日、Liza Esquibias)。Jonathan Davisに関するEngelmayerの説明、請求額の推移、公判期日未定。本誌が参照したのはAOLの配信版。
- Complex「Diddy Says He Switched Lawyers in Defamation Suit Because ‘I Won’t Let Anyone Take Advantage of Me’」(2026年9月16日、Trace William Cowen)とPage Six「’Unreasonably difficult’ Sean ‘Diddy’ Combs dropped by lawyers in $100M defamation lawsuit: court docs」(2026年9月16日、Tamantha Ryan。本誌が参照したのはYahooの配信版)。Combs側の声明。
- 連邦矯正局 受刑者検索(2026年9月17日取得)。FCI Fort Dix、釈放予定日2028年2月5日。
- 未払いと連絡不通は、いずれもSher Tremonte LLPが申立てで述べている主張である。裁判所が事実として認定したものではない。
画像クレジット
アイキャッチ:HOTSPOTATL「Sean Combs in 2023.png」(2023年)、Wikimedia Commons、CC BY 3.0。掲載用に縮小。
更新ログ
2026年9月17日:訴訟の発端の記述を修正し、画像クレジットを確定。
2026年9月17日:原稿作成・資料確認。最終確認日は2026年9月17日。辞任申立てと留置権への裁判所の判断、9月17日の電話会議の結果について続報が出た場合は本記事に追記する。事実関係の誤りを見つけた場合は、お問い合わせから連絡してほしい。訂正が生じた場合はこの欄に記録する。