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【HIPHOPCs独占インタビュー前編】北海道からNYへ:巨匠dj hondaが切り開いたヒップホップ〜Mos Defとの制作秘話〜

少年時代とロックからの出発 北海道留萌市。雪に包まれた地方都市で育った少年が、のちに世界のヒップホップシーンで名を馳せることになる。彼の名は dj honda(本名:本田勝裕)。日本から海を渡り、ニューヨークで数々のラッパーやプロデューサーと肩を並べた数少ない日本人だ。 しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。今回は、この偉大なるヒップホップの巨匠へぶつけた質疑応答を交えつつ、その軌跡を振り返る。 逆境を超え、ロック少年→ターンテーブリストへ 幼いころの honda 氏はヒップホップとは無縁。夢中になったのはギターとロックバンドだった。仲間と音を鳴らしながら「いつか大舞台に立ちたい」と願っていた。しかし東京に出てから、1980年代後半に日本へ届いたアメリカ発の新しいカルチャー――ヒップホップと出会う。クラブに鳴り響くビートとスクラッチの音が、彼の人生を大きく変えた。 Sei:少年時代は、どんな子どもだったのでしょうか? dj honda: 9歳の頃にギターを手にして、12歳には本気で弾き始めた。中学ではバンドを組んでライブにも出て、当時は完全にロック一筋。音楽がすべてだった。 Sei:幼少期、または上京した際の小話エピソードがあれば。 dj honda :11歳で耳を悪くして、左耳の手術を13回受け、鼓膜を除去したこと。17歳で東京に出た時は、金も伝手もなく、ゼロからのスタートだった。 Sei :ロック少年からヒップホップDJになった経緯は? dj honda:音楽をやるために東京に出たけど半年くらいで行き詰まって、住み込みの仕事を見つけた。その行き先がディスコだった。ギターを続ける資金を稼ぐつもりが、そこでDJと出会ったのが転機になった。 Sei:音楽的な世代間の溝(マンブルラップやトラップ)をどう見ますか? dj honda:音楽は音楽でしかない。マンブルだろうがトラップだろうが、オールドもニューも関係ない。結局は良いか悪いか、それだけ。 Sei:10〜20代前半へのアドバイスは? dj honda:遊びでも仕事でも本気でやってみること。中途半端にやったことは残らない。若い時はとにかく、“やらない理由”を探さないこと。結局、経験したことが全部武器になる。 Sei:他に何か若者へメッセージ、アドバイス等があれば。 dj honda:夢は簡単に叶わない。でも諦めず追い続ければ、必ず形になる。若いうちの挑戦も失敗も、全部が力になって未来を作る。 東京でのDJ活動とNYへの挑戦 1980年代後半、17歳で東京に上京。クラブでスクラッチやターンテーブルのスキルを磨き、クラブシーンで名を馳せる。1990年代初頭にはDJバトルで注目を浴び、アンダーグラウンドで確固たる地位を築く。 「日本で認められるだけじゃ本物じゃない。ヒップホップの本場で勝負したい」 1992年、英語もままならないまま活動の場をアメリカへ。ニューヨークでゼロからの挑戦を始める。MCやプロデューサー達とセッションを繰り返す中で、独自のハードなビートメイクで頭角を現し、現地ラッパー達の心を掴んでいった。 Sei:1992年 Battle for World Supremacy のために西海岸に住んだと聞きますが? dj honda:最初に挑戦したのは1990年。1回戦で負けて日本に戻った。本格的に住み始めたのは92年のバトル後。ロサンゼルスに渡って、そこから拠点を移した。 世界を驚かせた『h』 1995年、デビューアルバム 『h』 をリリース。Fat Joe、Redman、Common、The Beatnuts らを迎え、NYヒップホップ黄金期を凝縮。日本人プロデューサーがここまで豪華な布陣でアルバムを作ることなど誰も想像していなかった。批評家も驚き、ファンは honda のビートに熱狂。彼は本場で認められたのだ。 『hV』2曲目に収録されている『Respect...

【HIPHOPCs独占インタビュー】サウスにコネクションを築いた唯一の日本人ラッパー──Cz TIGERとレジェンドBun B(UGK)“Let’s Get To It”制作秘話

アメリカ南部、いわゆる“サウス”に足を踏み入れること。普通の感覚じゃ「行きたくない」と思う空気があると思う。そんな空気に、“HIPHOPファン”としてではなく“同じ目線で”飛び込みコネクションを築いた日本人が何人いるのか。 https://youtu.be/EydIfdtHODA?feature=shared 英語が通じると思ってる人は多いが実際、サウスでは「英語」ではなく「訛り(スラング)」が支配しているし、そもそも英語が通じないところもある。 他の地域なら、すでに多くのアジア系が暮らしていて、音楽カルチャーに参加する入り口は多いのも事実だろう。 https://youtu.be/NqtVgabWVkc?feature=shared King Von がATLのクラブ外で、Quando Rondo関係者との口論から銃撃戦になり、亡くなった抗争も如実に土地柄を表していると感じる。 Bun Bは、Pimp Cと共にUGKとして全米チャート1位を獲得 彼はUGK(Underground Kingz)という伝説的デュオの一人として、1980〜90年代からテキサス州ポートアーサーを拠点に、南部(サウス)のリアルを叩きつけるラップで地位を築いた。つまり、南部ヒップホップの土台を作り、Jay-Zすらもリスペクトを表明するリアルと知性を兼ね備えた南部の王者である https://youtu.be/Cgoqrgc_0cM?feature=shared https://youtu.be/CQL-IFEk6hw?feature=shared Bun B、まさにアンダーグラウンドのキング その意味の重みは関わった人間にしかわからないからこそ、Cz TIGERがBun Bやその他のラッパーと築いたとコネクションや信頼は、日本のヒップホップ史上でも極めて特殊で異質だと言える。多くのリスナーは気づいているのだろうか そしてそんなCz TIGERさんに今回は貴重なインタビューをさせていただいた。 インタビュー・Bun B(UGK)との出会いについて Cook:Bun B(UGK)といえば真のレジェンドですよね。出会いについて是非教えて頂きたいです!どんなエネルギーを感じましたか? Cz TIGER : 今までコラボした海外アーティストの人とは制作する曲の意見交換とかVibesを会うなり、どうしても会えないならビデオ通話で制作を進めてきました。 Bun B ( UGK ) に限っては当時中学の頃から聴いていてかなりのファンだったので例外で、僕のことをデビューする前から応援してくれてた DJ 3cho から電話が来て...

DJ KORINが語る「ARMAND」誕生の背景 Jetlag×T.U.G.を結んだビート、その先にあるアルバム像

兵庫県出身、大阪を拠点に活動するDJ/プロデューサー/ビートメーカー、DJ KORIN。一昨日リリースされた最新曲「ARMAND」は、Jetlag、T.U.G.という二人のラッパーを迎えた一曲であり、近づくアルバムの先行シングルとして位置づけられている。 注目したいのは、この曲が「誰かのアイデアをビートに落とし込んだ」タイプの制作ではないという点だ。出発点はJetlagからのひと声、そこに乗ったのはKORIN自身の「この2人ならこう乗ってほしい」という想像力であり、最終的に形になったのはT.U.G.を含む参加ラッパーの熱量だった。つまり「ARMAND」という曲は、信頼と想像力のうえに成り立ったビートとして語るのが最もフェアである。 HIPHOPCsでは今回、その「ARMAND」がどう生まれ、どのようなアルバムへとつながっていくのかを、DJ KORIN本人に訊いた。ビートメーカーとしての核となる美学と、アーティスト同士の距離感、そして作品の温度が見えてくる内容になっている。 DJ KORINというビートメーカー ── 哀愁とペインを軸にする大阪の才能 まずは本人のプロフィールから聞いた。 まずはじめに、DJ KORINさんご自身について、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。 DJ KORINです。2000年兵庫県出身で、大阪を拠点にクラブDJ、プロデューサー、ビートメーカーとして活動しています。 2000年生まれ、関西拠点。クラブDJとしての現場感とビートメイクの両輪を持つタイプのアーティストであり、後述する「哀愁漂うペイン系」というワードは、そのまま彼の音楽的IDとして読める。 「ARMAND」は、得意な質感と2人の熱が噛み合った一曲 リリースされた「ARMAND」は、DJ KORINさんにとってどのような位置づけの作品なのでしょうか。 今回の「ARMAND」は、アルバムの先行シングルのひとつです。自分がビートを作る時に得意としている、哀愁漂うペイン系の質感がしっかり出ている曲でもあって、そこにJetlag君とT.U.G.君の熱いリリックが乗った、自分の中でもすごく思い入れのある一曲になっています。 単に先行で出した曲というより、自分のビートの色と、2人のラップの強さがしっかり噛み合った曲という意味で、すごく大事な作品ですね。 ここで一度押さえておきたいのは、「先行シングル」という言葉の扱いである。一般にそれは「アルバムの顔として戦略的に切り出された一曲」を指すが、DJ KORINが語る「ARMAND」は少し違う。本人の言葉を借りれば「ビートの色と2人のラップの強さが噛み合った曲」であり、アルバムの顔というよりも、作品全体の質感を一番素直に示すサンプルとして機能している一曲だ。まずはその音を確認してほしい <!-- Spotify例: --> 出発点は、Jetlagからのひと声だった 「ARMAND」が生まれたきっかけや、制作の出発点についてお聞かせいただけますでしょうか。 実は、Jetlag君が「T.U.G.君と曲を作りたいから、ビート作ってや」と言ってくれたところから始まりました。そこがこの曲の出発点ですね。 そこから自分の中で、「この2人が乗るなら、どういうビートが一番ハマるか」を考えていって、結果的に自分の得意な哀愁のあるペイン系のビートにたどり着きました。最初のきっかけはシンプルなんですけど、そこからイメージを膨らませていった感じです。 https://www.instagram.com/reel/DWd0X7fgZDT/?igsh=MTBid2ZweGV5bzJtcA== 制作の発端が「ラッパー側からのオーダー」であった点は、曲の性格を読む上で無視できない。ビートを作る側が先に世界観を決め、そこにラッパーが合わせに行く構図ではなく、Jetlagが「T.U.G.と組みたい」と持ちかけ、その化学反応を最大化するためにビートが後から設計されたという順序である。KORINの「哀愁漂うペイン系」が選ばれたのは、2人の声と言葉の熱をもっとも強く受け止められる器だったからこそ、と考えると筋が通る。 Q. 今作にはJetlagさん、T.U.G.さんが参加されていますが、この組み合わせに込めた意図や意味があれば教えてください。 この組み合わせ自体は、さっき言った通りJetlag君の「T.U.G.君と曲を作りたい」という流れから始まっているんですけど、自分としてもすごく意味のある並びだと思っています。 この2人には、こういう空気感の上でラップしてほしいな、というイメージが自分の中にあったので、その想像をビートとして形にしたところはありました。実際に出来上がったものを聴いても、2人それぞれの熱量や言葉の重さがしっかり出ていて、この組み合わせだからこそ生まれた曲になったと思います。 「想像をビートとして形にした」という表現に、この曲の制作姿勢が凝縮されている。KORINは2人をスタジオで座らせてから考えたのではなく、ビートの段階ですでに2人がマイクの前に立っている風景を描いていた。その想像力の解像度こそが、ペイン系という質感の選択理由であり、結果的に「この組み合わせだから生まれた曲」という手応えに直結している。 “派手さ”ではなく、“痛みが残る空気感”を優先する . 「ARMAND」を制作される中で、特に意識されたことや、大切にされていた空気感があればぜひお聞きしたいです。 この作品は、2人が作り上げてくれたものだと思っています。自分はビート以外の部分で大きく関与したわけではないんですけど、そのぶん、ビートを作る段階では「この2人にはこんなふうに乗ってほしいな」という想像をすごく大事にしていました。 そこで意識していたのは、派手さだけじゃなくて、哀愁とか痛みみたいなものがちゃんと残る空気感です。いわゆるペイン系のビートの良さって、ただ暗いとかエモいとかではなくて、その上に乗る言葉や感情がより強く届くところにあると思うので、そこは特に大切にしていました。 ここはこのインタビューでもっとも重要なパートだと言っていい。「ペイン系=暗い、エモい」で消費されがちなジャンル観に対して、KORINは「その上に乗る言葉や感情がより強く届くための器」として定義し直している。言い換えれば、ビート自体が主役として泣くのではなく、ラッパーの言葉を最後のひと押しで突き刺すための余白を確保するビート、ということだ。「ARMAND」を聴くときに最初に注目すべきは、この「余白」の設計である。 DJ KORINさんにとって、T.U.G.さんはどのような存在でしょうか。今回の作品を通して感じたことも含めてお聞かせいただけましたら幸いです。 T.U.G.君は、やっぱり言葉や熱量に説得力のあるアーティストだと思っています。今回の曲でも、その存在感はしっかり出ていたし、自分がイメージしていた以上の形で応えてくれた感覚がありました。 ビートを作る側としても、「この人ならこういう質感にどう向き合ってくれるか」が想像できるアーティストってすごく大きいんですけど、T.U.G.君はまさにそういう存在だと思います。今回の作品を通して、その強さを改めて感じました。 「T.U.Gなら、この質感にどう向き合ってくれるかが想像できる」──この一言は、KORINが日頃からラッパーの声や言葉の持ち方まで含めてビートを設計していることを示唆する。ビートメイカーにとって「想像できる相手」がいることは、単なる制作効率の話ではない。自分の音の出口を確信できる関係があるということであり、それは作品の強度に直結する。 先行シングル「ARMAND」が示す、アルバムの輪郭 今作が先行シングルとなっているアルバムについて、差し支えない範囲でどのような作品になりそうか教えていただけますでしょうか。 まだ詳しくは言えない部分もあるんですけど、自分の中で大事にしている音の質感や空気感がしっかり詰まった作品になると思います。「ARMAND」はその中のひとつであって、アルバム全体としても、自分らしいビートの世界観を感じてもらえる内容になりそうです。 先行でこの曲を出したのも、アルバムの空気をひとつ象徴する曲だと思っているからです。 そのアルバムには、どのような思いやテーマを込めていらっしゃるのか、お聞かせいただけますと幸いです。 自分の中では、ただ曲を並べるというより、今の自分が鳴らしたい音や空気感をちゃんと形にしたいという思いが強いです。特に、自分が得意としている哀愁や痛み、熱量みたいなものを、ひとつの作品としてまとめて聴いてもらえるようなアルバムにしたいと思っています。 ビートメーカーとしての自分の色を、よりはっきり見せられる作品にしたいですね。 この2つの回答を並べると、アルバムの性格がかなり明瞭になる。コンピレーション的に客演を並べていく集合体ではなく、「DJ KORINというビートメーカーの輪郭をはっきり見せること」そのものが目的のプロジェクトである、ということだ。「ARMAND」はそのうち、2人のラッパーを迎えた形でペイン系という軸を最も素直に示したサンプル ──という位置づけになる。裏を返せば、アルバムには別の角度から同じ美学を照射する曲が控えていると読むのが自然だ。 今回のアルバムには、どのようなアーティストの方々が関わっていらっしゃるのでしょうか。可能な範囲で教えていただけましたら幸いです。 現時点で詳しくはまだ言えないんですけど、「ARMAND」に参加しているJetlag君、T.U.G.君のように、それぞれちゃんと個性と熱量を持ったアーティストたちが関わってくれています。アルバム全体としても、ただ名前が並ぶというより、自分のビートとしっかり化学反応を起こしてくれる人たちが集まっていると思います。 「名前が並ぶ」ではなく「化学反応を起こす」という言い回しに、前述した制作姿勢がそのまま反映されている。参加アーティストの選定基準はネームバリューではなく、KORINの哀愁/ペインという器に意味のある温度で向き合えるかどうか。アルバムの全貌が明らかになった際、この発言は答え合わせの材料として効いてくるはずだ。 「リスナーに届く熱」を信じて作った作品 最後に、「ARMAND」そしてアルバムを通して、リスナーの方々に最も伝えたいことがございましたら、お聞かせください。 まずは純粋に曲を聴いてほしいです。その中で、ビートの空気感だったり、Jetlag君とT.U.G.君の言葉の熱だったり、自分たちが込めたものを感じてもらえたらうれしいですね。 「ARMAND」は、自分の得意なビートの質感と、2人のラップの強さがしっかり重なった曲なので、そこを受け取ってもらえたらと思います。そしてアルバムでも、もっといろんな角度から自分の音を聴いてもらえたらうれしいです。 作品の起点にあったのは、信頼と想像力だった 改めて整理するとこうなる。「ARMAND」は、Jetlagのひと声で始まり、DJ KORINの「こう乗ってほしい」という想像力を設計図として、T.U.G.を含む参加ラッパーの表現で完成した。単なるコラボレーションではなく、互いの熱量と信頼関係のうえに成り立った制作である。 「派手さだけではなく、痛みが残る空気感」という本人の言葉通り、ペイン系ビートの良さをラッパーの言葉を届けるための器として設計し切ったこの一曲は、アルバムの顔というより、アルバムの核にある美学を最も素直に示したサンプルとして機能している。そしてその核は、これから続くアルバムで別の角度からも照射されるはずだ。DJ KORINというビートメーカーの輪郭は、「ARMAND」の次にこそ、より鮮明になる。 「ARMAND」を聴く https://youtu.be/QMnWTDr0BQ0?si=6ktNkrs9wqy8XFjN ▶ Spotifyで聴く DJ KORIN ▶ Instagram

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スーパートラップとは何か──”壊れた音”が快感に変わる時代のヒップホップ

最近、「スーパートラップ」という言葉を耳にする機会が増えてきた。 街中で流れてくる音、SNSのコメント、友人との何気ない会話──その中で、断片的にこの言葉が現れる。 だが、それが何を指しているのか、明確に説明できる人は多くないはずだ。 そして実際に音を聴いてみても、「何かが違う」「異様に気持ちいい」「でも説明できない」という感覚だけが残る。 その違和感の正体こそが、いまヒップホップの中で起きている変化である。 それは単なる流行ではない。 それは「何が気持ちいい音なのか」という基準そのものの変化である。 綺麗な音が正義だった時代は、静かに終わりつつある。声は割れ、ビートは歪み、ミックスはあえて破綻させられる。それが「ミス」ではなく「表現」として成立する。むしろ、それによってしか到達できない快感がある──そういう領域が、いま確実に広がっている。 本稿では、その変化を「スーパートラップ(Super Trap)」という概念で定義する。 スーパートラップとは、"壊れた音が快感になる"トラップの進化形である。 日本語でこのサブジャンルを体系的に整理した記事は、少なくとも筆者の観測範囲では見当たらない。だからこそ、ここで書く。 スーパートラップとは何か─定義 まず、定義を説明しよう。。 スーパートラップとは、重く歪んだ808、壊れたように加工されたボーカル、変則的で癖の強いビート、そして異世界的な空間演出によって成立する、トラップの過激化・実験化された進化形である。 それは"強いトラップ"ではない。"壊れた音が快感になるトラップ"である。 通常のトラップは「ノらせる」ことを目的とする。重低音のキック、規則的なハイハット、気持ちいいフック。リスナーは身体を動かすことで音楽に参加する。 スーパートラップはその前提を崩す。 リスナーは「ノる」のではなく、「飲み込まれる」。808の圧、空間の歪み、壊れた声──そのすべてが同時に作用することで、知覚そのものが書き換えられる体験。それがスーパートラップの本質である。 一文で言い切るならこうだ。スーパートラップは、トラップの"スーパー版"ではなく、トラップを異世界化・過激化・実験化したサウンドである。 起源──Travisが入口を開き、Cartiがその扉を蹴破った スーパートラップは、ある日突然誰かが発明したものではない。トラップの中で静かに進行していた変化が、ある時点で臨界に達した結果として生まれたものである。 その変化を理解するには、二人のアーティストから始める必要がある。 美学の起点──Travis Scott Travis Scottの功績は、トラップを「聴く音楽」から「入る音楽」に変えたことにある。 『Rodeo』(2015年)。サイケデリックなシンセ、ディストーションされたボーカル、没入感のあるプロダクション。このアルバムはトラップの定番として広く認知されているが、その実態は従来のトラップとは決定的に異なっていた。Scottはトラップに「空間」を持ち込んだ。リバーブ、シネマティックな演出、声の加工。それによって、リスナーは楽曲を「外側から聴く」のではなく「内側に入る」体験をするようになった。 『Astroworld』(2018年)ではこの方向性がさらに深化し、楽曲ごとに異なる音響空間を構築する手法が確立された。トラップが「ノるための構造」から「体験のための構造」に変わった瞬間だったといえる。 ここにスーパートラップの土台がある。過剰なリバーブによる空間支配、声を「意味」ではなく「音響」として扱う感覚、シネマティックな世界観──これらはすべて、Scottが最初に入口を開いた領域である。 表現の拡張──Playboi Carti Scottが開いた扉を、蹴破ったのがPlayboi Cartiである。 『Whole Lotta Red』(2020年)。F1LTHYらWorking on Dyingクルーによる不協和なプロダクションの上で、Cartiのボーカルはほとんど意味を持たない音として機能した。叫び、つぶやき、唸り。言語としてのラップではなく、音響現象としてのボーカル。 Cartiが押し広げたのは、「声は何を言っているかではなく、どう響くかが重要だ」という認識である。Scottが空間を変えたとすれば、Cartiはその空間の中で「声そのものを壊した」。人格を超え、人間性を超え、純粋な音響現象としてのボーカルが成立することを証明した。 Scottが土台を作り、Cartiがそれを極端な領域まで拡張した。この二段の変化によって、「すべてを壊すことで成立する音楽」──スーパートラップの地盤が完成した。 輪郭の整理──DX / HiTek、そしてプロデューサー経済圏 ScottとCartiによってすでに生まれつつあったこの感覚に、名称とフレームワークを与えたのがプロデューサー側の動きである。 2018年前後、プロデューサーのDxvid808(DX)がGrim Brxzy、JodyBとともに、トラップにグリッチやダーク・エレクトロニックの要素を融合させた新しいサウンドを「Super Trap」と呼び始めたとされる。3人は当初PrxjectSin, LLCとして活動し、2023年12月にHiTekへリブランドしている。 彼らの役割は「発明者」というよりも、すでに空気中に漂っていた美学を結晶化し、ドラムキットの販売、YouTubeのtype beat、TikTokのハッシュタグを通じて流通させた「整理者」として捉える方が正確だろう。ジャンルの「顔」として広く知られるようになったReddaは、スーパートラップにポピュラーな要素を加えレイジ寄りに簡素化し、Grim Brxzyはサウンドの密度と複雑さを最大化する方向へ進んだ。この二極分化が、スーパートラップの音像に幅をもたらしている。 この成立過程自体が、従来のヒップホップとは異質である。T.I.が『Trap Muzik』でトラップを命名し、Migosがトリプレットフロウで定義したように、これまでのサブジャンルはラッパーの作品を通じて形成されてきた。スーパートラップはそうではない。プロデューサー経済圏の中で名付けられ、ビートメイカーが輪郭を与えた。この構造そのものが、2020年代のヒップホップの地殻変動を映し出している。 スーパートラップを定義する5つの軸 スーパートラップを支える要素は、5つの軸に整理できる。 重要なのは、これらが個別に存在するのではなく、すべてが同時に作用することで「壊れた音が成立する」状態を生んでいる点である。どれか一つが欠ければ、それは通常のトラップか、レイジか、トラップメタルか、別の何かになる。 軸① 低音の凶器化──地面が揺れるレベルの808 スーパートラップの808は、通常のトラップのそれとは別物である。 ただ重いのではない。歪んでいる。ディストーションがかかり、飽和し、時にクリッピングする。サブベースは身体を通り抜けるのではなく、身体を掴む。カスタム808と呼ばれる独自に加工された低音が標準的に使用され、テンポは概ね150BPM前後に設定されることが多い。 ──808は土台ではなく凶器になる。 軸② ビートの変則性──ノれない、けどハマる スーパートラップにおいて、ビートは安定しない。 キックやスネアは不規則に配置され、ドロップはズレ、時にビート自体が歪む。ハイハットはビートの上を絶えず走り回るように複雑なパターンを刻み、グリッチ処理が施されたパーカッションが違和感を生む。 それでも楽曲として成立するのは、もはや「ノるための音楽」ではないからだ。リスナーはリズムに身体を預けるのではなく、違和感そのものに引き込まれる。 ──ノるのではなく、違和感でハマらせる。 軸③ ボーカルの破壊的加工──声を音響現象にする スーパートラップの中心にあるのは、ボーカルの扱いの根本的な変化である。 ディストーション、クリッピング、過激なオートチューン、極端なピッチシフト、シャウト。声はあえて割られ、歪まされ、人間の枠を超えさせられる。 ここで重要なのは、オートチューンの使い方の質的な違いである。T-Pain以降、オートチューンは「歌を上手く聞かせるための道具」として普及した。スーパートラップにおけるオートチューンは真逆だ。声を壊すために使う。人間らしさを剥ぎ取るために使う。 その結果、リスナーは歌詞の意味より先に「衝撃」として声を受け取る。ボーカルは言語ではなく音圧として機能し、人格ではなく音響現象として作用する。この非人間的な響きが、スーパートラップが「Alien Trap」とも呼ばれる所以であり、特有の異様な魅力を生んでいる。 ──声が人格ではなく、音響現象になる。 軸④ 異世界的な空間演出──音の中に"入れられる" リバーブも常識的な範囲を大きく超えて使用される。 通常のミックスにおいて、リバーブは「音を空間に配置する」ための道具である。スーパートラップでは、声が空間に溶けるのではなく、空間そのものを覆い尽くす。リスナーは音の外側から聴くのではなく、音の内側に「入れられる」。 ダーク、浮遊感、シネマティック、エイリアン的な空気。これらの音響的世界観が、スーパートラップの「体験」を決定づける。単に曲を聴いているのではなく、別の空間に放り込まれている──そういう感覚を設計するのが、スーパートラップの空間演出である。 ──音を聴くのではなく、音の中に入れられる。 軸⑤ 快感の質の変化──"異常なのに気持ちいい" 最後にして最も本質的な軸がこれである。 従来の音楽は「聴きやすい」ことが快感の条件だった。クリアなミックス、適切なダイナミクス、綺麗な音。しかしスーパートラップでは、その前提そのものが崩れる。 歪み、飽和、破綻。これらはミスではなく、表現として選ばれている。ボーカルだけでなくトラック全体が壊れている状態──それでも成立するどころか、それによってしか到達できない快感がある。 ──異常なのに、気持ちいい。 トラップの系譜──スーパートラップはどこに位置するのか スーパートラップを正確に理解するには、トラップの系譜の中に配置する必要がある。 黎明期──アトランタ、2000年代前半 トラップの起点は2000年代前半のアトランタにある。T.I.の『Trap...

2026年3月第4週:週刊ヒップホップニュース |Kanye West『BULLY』投下、JAY-Z「ビーフは後退」発言、POP YOURS 2026 最終形態、Kendrick iHeart 3冠──混沌と覚醒の7日間

Kanye West『BULLY』投下、JAY-Z「ビーフは後退」発言、Kendrick iHeartRadio 3冠、POP YOURS 2026最終形態。混沌と覚醒の7日間を、HIPHOPCs Intelligence Unitが総まとめ。

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カニエ・ウェスト、英国で入国拒否論──Wireless 3夜を止めるのはスポンサーではなく移民法1971か

カニエ・ウェストのWireless Festival出演問題は、もはやスポンサー離脱だけの話ではない。英国では移民法1971に基づく入国拒否論が浮上し、Ye側の再生の物語と国家の公益判断が正面から衝突している。

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咆哮系ラッパーMystikal、第3級レイプで有罪を認め、終身刑を逃れたものの最大20年の懲役の可能性

「Shake Ya Ass」で知られるルイジアナ出身のラッパーMystikal(本名Michael Lawrence Tyler)が、2022年に発生した性的暴行事件で第3級レイプの罪を認めた。量刑は2026年6月6日に言い渡される予定で、最大20年の懲役刑が科される可能性がある。

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