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徳島・四国のラッパーとシーンの記録──確認できた四つの回路と、武道館まで届いた阿波弁【Rap Atlas】

日本語ラップ16 min read

日本語版Wikipediaの「日本のヒップホップ」を開いて、「四国」で検索してみてほしい(2026年8月25日版・版ID 110767669)。

一件もヒットしない。少なくとも本稿が確認した版では。

本稿が確認した概説資料(日本語版Wikipedia「日本のヒップホップ」2026年8月25日版)の範囲では、札幌や名古屋のように地域名がスタイルと結びついて語られることがなく、四国の項は立たない。

だがそれは、シーンの不在を意味しない(扱われてこなかった原因は本稿では検証していない)。香川には2003年から活動を続けるラッパーがおり、愛媛にはパーティの回路があり、徳島・高知はMCバトル予選から全国区の名前を送り出してきた。そして2026年3月9日、徳島県小松島市出身のWatsonは日本武道館の単独公演に立った(FNMNLライブレポート)。

本稿はRap Atlasシリーズの一篇として、徳島・香川・愛媛・高知の4県を記録する。掲載基準はシリーズ共通である。網羅を謳うものではない。確認できた範囲と確認できなかった範囲は、文末の「確認範囲・参照」に分けて示す。


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そもそも「四国シーン」は存在するのか

最初に向き合っておく問いがある。「四国シーン」という単位は、あるのか。

実は、四国を一つに束ねる試み自体は存在した。2008年10月22日、愛媛のDJ SHUNが四国4県のラッパー40名の楽曲をミックスしたコンピレーション『4THCoast』(FORCE RECORDZ)を発表している。参加40名・全41トラックという数字はタワーレコードの商品ページの記載によるもので、DJミックス形式のため参加者数とトラック数は一致しない。「四国40名のRAPPERによる楽曲をMIXした」という説明はOTOTOYのDJ SHUNのアーティストページでも確認できる。2018年にはDisryが四国をレペゼンしたシングル「4THCoast Yella」を出し、四国各県のMCによる『4THCoast Yella REMIX』が続いた(OTOTOYのDisryのアーティストページ)。「4番目の海岸」という名で島を一つに数える発想は、確かにあったのだ。

ただし、それが継続する全島回路として定着したとは言いがたい。県別の活動例と県横断企画は確認できたが、現在の接続状況は本稿では判断できない。

もう一つ、本稿の掲載組に限って言えば目立つ傾向がある。島の外で評価を得た例が多い。Watsonは18歳で大阪へ、Disryは沖縄を経て関東へ、IDとはまchamも関東へ——四国出身で全国区に届いた名前の多くは、島の外で評価を得た。一方で、地元に残ったまま全国流通へ接続した例(TKR、仏師、二拠点のT-STONE)もある。どちらが多数派かを断じる材料は、本稿にはない。

だからこそ、T-STONEが藍染を作品に取り込み、Watsonが阿波弁を書き、地元での凱旋公演を告知するに至ったことの意味は大きい。出ていくことで成立してきた回路に、「帰る導線」を作り直す動きとして読めるからである。

年表──確認できる四国ヒップホップ史

1990年代の四国、および仏師の活動開始を除く2000年代前半の四国については、地域史を通覧できる文献・報道が確認できなかった。以下が「存在しなかった」ことを意味しない点は明記しておく(詳細は文末の確認範囲を参照)。各行の括弧内が出典である。

出来事
2003 香川で仏師が17歳で活動開始。初ライブは丸亀市のClub Axis(TuneCore Japan公式プロフィール
2008-10 愛媛のDJ SHUNが四国4県40名参加のコンピ『4THCoast』を発表(タワーレコード
2010 徳島市秋田町にclub GRINDHOUSE開業(公式サイト「since 2010」)。県内ライブ動線の柱の一つに
2011 松山のパーティ「JUICE」にDisryがレギュラー出演開始(TuneCore Magazine 2019年7月27日
2014-17 DisryがUMB愛媛予選で優勝(本人インタビューでは2014・16・17年)。16・17年はUMB春選抜の四国代表(同上
2018 Disry「4THCoast Yella」と、4県のMCによる『4THCoast Yella REMIX』(OTOTOY
2010年代後半 徳島のT-STONEがUMB徳島予選3連覇→『フリースタイルダンジョン』へ(HYPEBEAST 2025年10月23日
2019-20 高知のIDが2019年10月に『フリースタイルダンジョン』3代目モンスターに就任(Real Sound 2019年10月)。香川のTKRはWDsounds支援で2020年3月に『ALCATRAZ』(Qetic 2020年7月23日
2021-11 WatsonがEP『Thin Gold Chain』(PRKS9 2022年3月14日)。「18K」の倍速フロウが拡散
2024-05 愛媛5名のマイクリレー『Silence (Ehime Cypher)』配信(MOVEMENT PRESS 2024年5月10日
2024 松山のGOUUが「NEXT GENERATION RAPPERS BATTLE 2024 THE HOPE」優勝(HYPEBEAST 2025年9月9日
2024-09/11 UMB2024愛媛予選(9月22日・松山CLUB BIBROS)と徳島予選(11月3日・徳島HIGH LOUNGE)が開催(UMB公式・愛媛UMB公式・徳島
2025-07-26 Watsonの凱旋ワンマン「Watson ONE MAN LIVE“TOKUSHIMA”」(アスティとくしま、7月26日)の開催が告知される(FNMNL 2025年3月27日。実施後の一次レポートは未確認)
2026-03-09 Watson、日本武道館単独公演。実施はFNMNLライブレポート(3月31日)で確認
2026-08-13 Watsonが阿波おどり開催中の徳島・秋田町でフリーライブを開催すると告知(音楽ナタリー 8月3日)。実施後の一次レポートは本稿では未確認
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代表7組──県ごとの回路から

仏師(香川)

香川県出身、1985年生まれ。2003年、17歳でラッパーとして活動を開始し、初ライブは丸亀市のClub Axisだった(TuneCore Japan公式プロフィール)。2024年の5thアルバム『TOKI』(一色RECORD)はMikiki(2024年9月13日)で「香川のラッパー」「21年にわたるキャリア」として取り上げられた。2024年時点で21年。上京もバズも経由せず、地元に留まったまま作品を積む型の一例である。

Disry(愛媛→沖縄→関東)

松山市溝辺町出身、1991年生まれ。2011年から松山のパーティ「JUICE」にレギュラー出演し、UMB愛媛予選で優勝した(以上TuneCore Magazine 2019年7月27日。同記事では2014・2016・2017年の3回とある)。2017年に沖縄へ移住して604クルーに合流(同上)。2023年からは関東に拠点を移し、現在も作品を出し続けている。2010年代前半の愛媛のパーティ回路を、本人の言葉で辿れる数少ない書き手だ。なおウルトラ・ヴァイヴのプロフィールはUMBの優勝年を2014・2017・2018年としており、記事によって年次が一致しない。

ID(高知→全国)

高知県土佐市出身(HOT KOCHI 2020年1月20日)。戦極MC BATTLE優勝を経て(TOKION 2022年11月9日のプロフィール)、2019年10月に『フリースタイルダンジョン』3代目モンスターに抜擢された(Real Sound)。地上波バトル番組のレギュラー枠に立った四国出身者の一人である。2022年にアルバム『B1』(TOKION)。

T-STONE(徳島)

徳島市加茂名出身、1999年生まれ(HYPEBEAST 2025年10月23日、本人の自己紹介による)。UMB徳島予選3連覇から『フリースタイルダンジョン』で全国区へ(同上)。特筆すべきは、その後も徳島に拠点の一つを置き続け、藍染文化を主題にした『藍』を出していることだ(lute 2025年12月8日)。2025年4月29日に渋谷WWWでワンマン、同年12月3日にNSW yoonとの共作EP『120』(同上)。地元表象の実践例として、四国の現在を語るうえで外せない。

TKR(香川)

香川県琴南町出身、1999年生まれ。16歳でマイクを握り、20歳でHick Three Brotherzを結成。東京のインディペンデントレーベルWDsoundsの支援を受け、2020年3月にRhythmJones全曲プロデュースの1st『ALCATRAZ』を配信、4月にCD化した(以上Qetic 2020年7月23日)。香川に居ながら全国流通へ接続した例の一つである。

Watson(徳島→大阪)

小松島市出身(PRKS9 2022年3月14日、本人発言)。生年は同インタビューでの本人発言「21歳」(2022年3月時点)から2000年または2001年と推定できるが、確定記載は本稿では確認していない。2021年11月のEP『Thin Gold Chain』と「18K」で頭角を現し、オーディション番組を経由せず配信とYouTubeで登り詰めた。2025年7月26日にアスティとくしまで凱旋ワンマン「Watson ONE MAN LIVE“TOKUSHIMA”」の開催が告知され(FNMNL 2025年3月27日。実施後の一次レポートは本稿では未確認)、2026年3月9日に日本武道館単独公演(実施はFNMNLライブレポートで確認)。今年8月13日には阿波おどりで賑わう秋田町でのフリーライブが告知された(音楽ナタリー 8月3日本サイト 8月11日。実施後の一次レポートは2026年9月8日時点でも未確認)。10月25日には川崎のFORCE FESTIVAL 2026への出演が発表されている。

ただし、正確に書いておくべきことがある。Watsonは18歳で先輩のツテを頼って大阪に出て、大阪でラップを始めたPRKS9、本人発言)。地元のシーンの影響の有無を、本稿は判断しない。それでも「阿波弁」「TOKUSHIMA」と地元を主題化し続け、県内アリーナ規模の凱旋公演の開催告知まで出た書き手であることは、確認できる事実として残る。

GOUU(愛媛)

松山市出身、2002年生まれ。高校時代から松山のフリースタイルバトルに出て育った、現在の愛媛シーンの内側から出てきた書き手だ。2024年に「NEXT GENERATION RAPPERS BATTLE 2024 THE HOPE」を制してフェス「THE HOPE」に出演、2025年8月1日に1st EP『ProtoTape』(以上HYPEBEAST 2025年9月9日)。2026年7月29日には地元・伊予を主題にした「IYO」を出し、土地の名を掲げる書き手としての輪郭を強めている。T-STONEを迎えた「555 Remix」(Spincoaster 2025年7月25日)も出ており、四国内の世代接続がここに一つ生まれている。

次に来る名前

はまcham(高知県出身、2004年生まれ)——2023年頃に関東へ拠点を移し、2024年から作品発表を開始。2025年の「RAPSTAR 2025」で応募動画が公式SNSにピックアップされ話題となった(以上ABEMA TIMES 2025年12月24日)。

若手がこの1名にとどまるのは、今回確認できた公開資料と掲載基準の範囲で、証拠の揃う書き手がこの1名だったためである。それが四国の活動人口の小ささを意味するとは限らない。掲載を見送った名前は文末に記す。水増しはしない。

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場所と装置

  • club GRINDHOUSE(徳島市秋田町2-23)——2010年開業(公式サイト「TOKUSHIMA LiveHouse since 2010」)。ロックも含む複合ブッキングだが、県内ラップの主要動線の一つ。2026年9月4日確認時点で9〜10月のスケジュールが公式サイトに掲載されている
  • HIGH LOUNGE(徳島市紺屋町)——UMB2024徳島予選(2024年11月3日)の会場(UMB公式
  • UMB四国各県予選——UMB2024では愛媛予選(9月22日・CLUB BIBROS)と徳島予選(11月3日・HIGH LOUNGE)が公式サイトの一覧で確認できる。香川・高知は同年の一覧に見当たらず、四県すべてで毎年開催されているかは本稿では確認できていない。四国から全国区へ出た書き手のうち、T-STONE(徳島)とDisry(愛媛)はここを経由した。UMB2026の四国4県予選は、8月30日時点で公式からまだ発表されていない(GRAND CHAMPIONSHIPは12月29日・渋谷WOMBで開催予定)
  • JUICE(松山CLUB BIBROS)——2011年にDisryがレギュラー出演していた愛媛のパーティ(TuneCore Magazine)。同会場は2024年9月のUMB愛媛予選の会場でもある。JUICE自体の直近の開催は本稿では一次確認できていない(文末参照)
  • TOONICE(高松)/CLUB BIBROS(松山)/X-pt.(高知)——TOONICEは2013年開業(Eggs 2020年1月9日)で、2026年7月5日に13th Anniversary Showが組まれ、公式サイトには2026年9月のスケジュールが載る。X-pt.は公式サイトで「2006年12月OPEN」とあり、2026年12月で20年になる。TOONICEとX-pt.は2026年9月4日の確認時点で公式サイトに営業情報がある。CLUB BIBROSは公式サイトが確認できず、2026年の営業確認は取れていない(2024年9月のUMB愛媛予選会場としての記録はある)
  • Silence (Ehime Cypher)——2024年5月、Frankkissの発案でDiva Wisteria、Disry、KT-VOICE、MICHOOが参加した5名のマイクリレー(MOVEMENT PRESS)。県単位でシーンを束ねて提示した企画の一例

確認できた記録と調査の限界

四国の日本語ラップは「空白」ではない。本稿が確認できた範囲で、記録できる動きがある

確認できる範囲でも、香川では一人のラッパーが2003年から書き続け、高知のX-pt.は2006年から、徳島のGRINDHOUSEは2010年から営業し、松山では2011年にDisryがレギュラー出演したパーティ「JUICE」の記録がある。県予選は2024年にも愛媛と徳島で開かれた。これらの動きをまとめて記録した媒体を、本稿は見つけられなかった。

本稿は確認できた資料をまとめた記録であり、追補・訂正を受け付ける。情報の追加・訂正は、シリーズ共通の窓口から連絡してほしい。

あわせて読む: Rap Atlas入口 / 北海道Rap Atlas / 茨城・栃木・群馬Rap Atlas


確認範囲・参照

最終事実確認日: 2026年9月8日(参照先の再照合。会場の営業情報とUMB公式一覧は2026年9月4日時点の確認)。以下、本文の主張ごとに対応する参照先を示す。

未確認・限界

  • 1990年代の四国、および仏師を除く2000年代前半の四国について、地域史を通覧できる文献・報道は発見できなかった。年表が2003年から始まるのは、本稿で確認できた資料の範囲による。
  • 本稿は網羅的なガイドではない。掲載基準を満たす証拠が揃った7組+1名のみを載せた。AMO、Evisv、GOORA、飛鳥akaCATMAN、KUYA MIGUELは、出身地・実績の裏付けが一次的なソースで取れなかったため掲載を見送った。
  • UMB四国各県予選の歴代王者一覧は公式から網羅的に確認できなかった。確認できたのは2024年の愛媛・徳島予選の開催と、本人インタビューに基づくDisry・T-STONEの優勝歴のみ。香川・高知予選の開催状況は未確認。
  • DisryのUMB優勝年は、TuneCore Magazine(2014・2016・2017年)とウルトラ・ヴァイヴ(2014・2017・2018年)で一致しない。本稿は本人インタビューの年次を採り、両論を併記した。
  • IDの戦極MC BATTLE優勝は媒体プロフィールで確認できるが、優勝した章と開催年は本稿では公式から確認できていない。
  • Watsonの2026年8月13日のフリーライブは告知のみ確認。実施後の一次レポートは2026年9月8日時点でも未確認。
  • Watsonのアスティとくしま凱旋ワンマン(2025年7月26日の開催が告知)は、実施後の一次レポートを本稿では確認できていない(2026年9月8日に音楽ナタリー・Spincoaster・FNMNL・OTOTOYを再検索したが、確認できたのは開催決定と客演発表の記事のみ)。実施実績としては扱わず、告知の事実のみを記載している。
  • T-STONEが阿波踊りを作品に取り込んだとする流布情報は、参照先で確認できないため本稿では記載しない。
  • JUICEの直近の開催については、会場の公式SNS上に2026年7月開催の告知があるという検索結果を得たが、本稿では一次確認できていない。
  • 音楽ナタリーのWatsonプロフィールは「徳島県小松市出身」と表記しているが、本人インタビュー(PRKS9)および徳島県の市名から「小松島市」が正しいと判断した。
  • 『4THCoast』(2008)・「4THCoast Yella」(2018)の存在は確認できたため、本稿の見方は「共同企画は存在したが、継続的な全島回路としての定着は確認できない」とする。
  • 本稿の「島の外で評価を得た例が多い」は、今回の掲載組と確認できた公開資料に基づく観察であり、比較可能な指標による断定ではない。県間の接続状況は確認できず、「四つの独立した回路」とする表現は本文から外した。

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