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茨城・栃木・群馬のラッパーとシーンの記録──水戸の起点と、東京に近すぎた三県の回路【Rap Atlas】

日本語ラップ15 min read

茨城・栃木・群馬。三県とも、都心まで1〜2時間で着いてしまう。

本稿で取り上げた人物には、活動が軌道に乗ったあと早い段階で東京へ移った例がある。ただしそれが三県の人材の一般的な傾向かを、本稿は断定しない。確認できるのは掲載する各人の経歴だけだ。

「北関東サウンド」と呼べる音の共有は、本稿の資料からは確認できなかった。それでも県単位の回路は、本稿で確認できた範囲で1990年代から続いている。辿りやすい起点は水戸だ。BUDDHA BRANDのDEV LARGEに見出されたLUNCH TIME SPEAXが水戸から全国へ出て(音楽ナタリー「音楽偉人伝 第19回 D.L a.k.a DEV LARGE(後編)」2020年7月15日)、2025年には応募6,780名の『RAPSTAR 2025』を下妻市出身のPxrge Trxxxperが制している(優勝と応募数はReal Sound 2026年8月26日、出身地はMOVEMENT PRESS 2024年12月7日の本人発言)。

本稿はRap Atlasシリーズの一篇として、茨城・栃木・群馬の3県を記録する。掲載基準はシリーズ共通である。網羅を謳うものではない。確認できた範囲と確認できなかった範囲は、文末の「確認範囲・参照」に分けて示す。


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そもそも「北関東シーン」は存在するのか

北関東の3県は、それぞれ性格が異なる。茨城には水戸と土浦という二つの核があり、本稿で確認できた範囲で1990年代から2020年代までの継続性が見える。栃木と群馬について本稿が確認できた全国接続は、MCバトルの県予選を経由した例である。3県をまとめて語れる共通の音楽的特徴は、本稿の資料からは論証できない。県ごとの回路の記録として本稿を編む。

水戸には辿りやすい系譜がある。LUNCH TIME SPEAXは、DEV LARGEのレーベルEL DORADOから輩出された水戸拠点のクルーで、のちにメジャーへ進出した(音楽ナタリー、同上)。メンバーのGOCCIは、DEV LARGEに「フックアップしてもらった」と本人が座談会で語っている(FNMNL 2019年8月29日)。1998年にマイクを握ったMr.Low-Dが、のちに水戸から単身上京した(本人公式プロフィール)。千葉・茨城で育ったt-Aceの経歴はタワーレコードのプロフィール(CDジャーナル)に記録がある。t-AceがLUNCH TIME SPEAXを動機にラップを始めたとする証言は一次ソースで確認できないため、本稿では「水戸から水戸への継承」という構図を採らない。

年表──確認できる北関東ヒップホップ史

各行の括弧内が出典である。一次ソースで確認できなかった年代(LUNCH TIME SPEAXの結成年とデビュー年)は、確定年表には入れず文末の未確認リストに記した。

出来事
1998 Mr.Low-Dがマイクを握る。のち水戸から単身上京(本人公式プロフィール
2001-08 LUNCH TIME SPEAXがシングル「CHASE」をSMEJから発売(タワーレコード
2016 佐野市のDOTAMAが『フリースタイルダンジョン』初代モンスターに(音楽ナタリー 2016年7月4日)。群馬のNAIKA MCがUMB群馬予選を制して本戦を制覇(UMB公式ABEMA TIMES 2020年7月14日)。宇都宮の舟平/SAMがUMB栃木予選優勝(UMB公式
2017-12-30 DOTAMAがUMB GRAND CHAMPIONSHIP 2017を制す(音楽ナタリー 2017年12月31日DLE公式
2018 DOTAMAが佐野市公式ページに「佐野ブランド大使」として掲載(佐野市公式)。「とちぎ未来大使」名簿に2018年12月13日付で記載(栃木県公式)。舟平/SAMがUMB栃木予選を2年ぶり2度制す(UMB公式
2019 DOTAMAが自主レーベル「社会人ミュージック」を設立(音楽ナタリー 2019年3月31日)。ゆるふわギャングがRyan Hemsworthプロデュースのシングルとソウル・香港・上海を回るアジアツアーを公式サイトで告知(公式サイト
2022-05 ZOT on the WAVE & Fuji Taito「Crayon」がBillboard JAPAN Heatseekers Songsで2位(Billboard JAPAN 2022年6月1日
2024 土浦のLOMが「閃光ライオット2024」ファイナリストに選出(TOKYO FM SCHOOL OF LOCK! 公式
2025-05 LOM & S-Liam「LV (feat. 百足 & Albert Connor)」がBillboard JAPAN Heatseekers Songsで4位(2025年5月5日〜11日集計。Billboard JAPAN 2025年5月14日)。自主レーベルは同曲のTikTok週間音楽チャート1位(2025年4月)を発表(PR TIMES 2025年8月20日・自主レーベルの発表で、独立した報道での確認は取れていない)
2025-12-13 下妻市出身(本人発言・後述)のPxrge Trxxxperが、応募者数6,780人の『RAPSTAR 2025』を制す(Real Sound 2026年8月26日ABEMA TIMES 2026年8月26日
2026-08-21 Pxrge Trxxxper「OWAKARI?」配信(Real SoundTuneCore公式リンク
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本稿で取り上げる8組

LUNCH TIME SPEAX(水戸)

DEV LARGEのEL DORADOから輩出された、水戸を拠点に活動したクルー(GOCCI / TAD’S A.C. / DJ DENKA)。のちにメジャーへ進出した(以上音楽ナタリー)。2001年8月1日にはシングル「CHASE」がSMEJから発売され(タワーレコード)、後年はPARANOEAR SOUND、SLUG TUNE ENTERTAINMENTの自主レーベルからのリリースが同じタワーレコードの目録で確認できる。結成年(1993年とされる)と「止マッテタマッカ!!!」での1998年デビューは、本稿では一次ソースで確認できていない。

Mr.Low-D(水戸→東京)

1998年にマイクを握り、その後水戸から単身で上京した(本人公式プロフィール)。活動開始地については本人プロフィールに明記がないため、本稿では特定しない。

t-Ace(千葉・茨城)

1981年4月3日生まれ、沖縄県出身。3歳までに千葉へ移り、7歳頃より茨城県で育つ。14歳からDJを始め、21歳のときにラッパーへ転向した(以上タワーレコード・CDジャーナル)。LUNCH TIME SPEAXのDJ DENKAへのミックステープ持ち込みと、同クルーを動機にラップを始めたとする証言は、本稿では一次ソースで確認できていない。

DOTAMA(栃木・佐野)

佐野高等学校卒業後、10年間サラリーマンをしながら音楽活動を行い、平成24年(2012年)に上京(佐野市公式。勤務地の明記はない)。2016年に『フリースタイルダンジョン』初代モンスター(音楽ナタリー)、2017年12月30日にはUMB GRAND CHAMPIONSHIP 2017を制した(音楽ナタリーDLE公式)。佐野市の「佐野ブランド大使」に掲載され(佐野市公式)、栃木県の「とちぎ未来大使」名簿に2018年12月13日付で記載(栃木県公式)。2019年には自主レーベル「社会人ミュージック」を設立(音楽ナタリー)。ラッパーが自治体の公式な地域発信を担う例を、二つの自治体で作った人物である。

NAIKA MC(群馬)

2016年、UMB群馬予選(11月19日・CLUB ROC TAKASAKI)を制して本戦へ進み(UMB公式)、本戦を制覇した(ABEMA TIMES 2020年7月14日「UMB2016で悲願の優勝を果たし」)。活動開始年(2002年とされる)は本稿では未確認。

舟平 / SAM(宇都宮)

UMB公式の出場者プロフィールに「Rep:宇都宮」とあるラッパー(UMB公式)。UMB栃木予選を2016年(7月2日・SOUND BASE A NEST)と2018年(9月2日・STELLA)に制し(UMB公式UMB公式)、自身のレーベルPer Lifeを率いる(レーベル公式ストアABEMA TIMES 2024年10月18日)。出生地(埼玉県所沢市とされる)と10代での栃木移住は、本稿では一次ソースで確認できていない。

Ryugo Ishida(土浦)

茨城県土浦市出身(Spincoaster 2021年5月4日)。Ryugo IshidaとNENE、プロデューサーのAutomaticによるプロジェクト・ゆるふわギャングのMCで、2016年に東京で結成された(音楽ナタリー)。2019年にはRyan Hemsworthプロデュースのシングル「Fresh All Day」と、ソウル・香港・上海を回るアジアツアーが公式サイトで告知された(公式サイト。ツアーの実施後レポートは本稿では未確認)。

Fuji Taito(群馬・大泉町)

群馬県邑楽郡大泉町のラッパー。FNMNLのインタビュー(磯部涼「Rappers Update Vol.4」2019年7月3日)では、中学時代に先輩に勧められてフリースタイルを始めたこと、大泉に戻って参加したクルーUMAがのちのBRIZAに発展したことが本人の言葉で記録されている(FNMNL。「2016年のクルー結成」「15歳でラップを始めた」とする流布情報はこの本人証言と一致しないため、本稿では採らない)。BRIZA YAVAISZ DAZEは2025年時点でも群馬のクルーとして報道される(音楽ナタリー 2025年8月27日)。ZOT on the WAVE & Fuji Taitoの「Crayon」は2022年5月集計のBillboard JAPAN Heatseekers Songsで2位(Billboard JAPAN)。大泉町は総人口41,267人のうち9,011人(約22%)が外国人住民という町で(令和7年12月末現在・大泉町公式)、本人はFNMNLのインタビューで、比率で言うと日本で最もブラジル人口の多い町だと語っている。

注目の若手

LOM(土浦・2005年生まれ)——茨城県土浦出身。地元でスケートボードをしながらラッパーとして活動する(PR TIMES・自主レーベルのリリース、2025年3月)。2024年に「閃光ライオット2024」ファイナリスト(総応募者数3,078組から選出。TOKYO FM SCHOOL OF LOCK! 公式)。LOM & S-Liam名義の「LV (feat. 百足 & Albert Connor)」はBillboard JAPAN Heatseekers Songsで4位を記録し(2025年5月5日〜11日集計。Billboard JAPAN)、自主レーベルは同曲のTikTok週間音楽チャート1位(2025年4月)を発表している(PR TIMES・一次発表で、独立した報道による確認は取れていない)。2024年にEPを2枚出したとする記述は、本稿では一次ソースで確認できていない。

Pxrge Trxxxper(下妻・2006年生まれ)——本人の発言で「茨城県の下妻市です」と答えている(MOVEMENT PRESS インタビュー後編、2024年12月)。2006年11月6日生まれで、18歳の誕生日当日(2024年11月6日)に「DEATH NOTE」をリリースしている(MOVEMENT PRESS インタビュー前編)。2025年12月13日、応募者数が過去最多6,780人を記録した『RAPSTAR 2025』を制す(Real SoundABEMA TIMES)。「NEW COMER SHOT LIVE」枠でのPOP YOURS OSAKA 2025(2025年10月18日・大阪城ホール)への出演が主催者から発表され(スペースシャワー公式。実施後の一次レポートは本稿では未確認)、2026年8月21日には新曲「OWAKARI?」を配信した(Real Sound 2026年8月26日)。「祖母の家でのiPhone録音」とする流布情報は一次ソースで確認できないため、本稿では記載しない。

二人に共通するのは、配信とオーディションを経由して全国へ出た経路だ。本稿の掲載組では、LUNCH TIME SPEAXは東京の人脈を、DOTAMAはバトルとテレビを経由した。県内に在住し続けているかどうかは各人の現住所を確認していないため、本稿は居住の断定をしない。

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場所と装置

  • club SONIC mito(水戸市)——ジャンル・プロアマ不問の茨城のライブハウス。2026年9月5日確認時点で、9〜11月のスケジュールが公式サイトに掲載されている
  • club FLEEZ——2004年に高崎へ移転し、2022年6月に高崎での営業を終了した(club FLEEZ公式の2022年6月26日付告知・アーカイブ)。前橋への回帰を伝える前橋市の資料は現行URLが失効しており、回帰の実施は本稿では未確認。創業年(1994年とされる)も未確認
  • HEAVEN’S ROCK宇都宮——栃木のライブハウス。2026年9月5日確認時点で、9月のスケジュールが公式サイトに掲載されている
  • Utsunomiya Stella——UMB公式に2018年と2024年(7月14日)の栃木予選会場として記録がある(UMB公式2018年UMB公式2024年)。現状の稼働は本稿では未確認
  • UMB栃木予選・群馬予選——NAIKA MC、舟平/SAMらが経由した県バトル回路。2016年(群馬@CLUB ROC TAKASAKI・栃木@SOUND BASE A NEST)、2018年(栃木@STELLA)、2024年(栃木@Utsunomiya Stella)の記録が公式に残る(2016年2018年2024年)。UMB2026の予選日程は、本稿では公式から確認できていない

確認できた記録と調査の限界

東京に近い三県の回路を、本稿は確認できた資料で記録した。共通の音が存在しないことも、各県の活動の絶対量も、本稿は主張しない。記述が確認可能な情報の絶対量に比例するため、栃木・群馬については実際のローカル活動量より記述が薄い可能性がある。

本稿は確認できた資料をまとめた記録であり、追補・訂正を受け付ける。情報の追加・訂正は、シリーズ共通の窓口から連絡してほしい。

あわせて読む: Rap Atlas入口 / 掲載基準


確認範囲・参照

最終事実確認日: 2026年9月8日(参照先の再照合。会場スケジュールとUMB公式一覧は2026年9月5日時点の確認)。以下、本文の主張ごとに対応する参照先を示す。

未確認・限界

  • LUNCH TIME SPEAXの結成年(1993年とされる)と「止マッテタマッカ!!!」での1998年デビューは、一次ソースで確認できなかったため確定年表に入れていない。
  • t-AceがLUNCH TIME SPEAXのDJ DENKAにミックステープを持ち込んだとする逸話、および同クルーを動機にラップを始めたとする証言は一次ソースで確認できず、本稿は「水戸から水戸への継承」という構図を採っていない。
  • NAIKA MCの活動開始年(2002年とされる)、舟平/SAMの出生地(埼玉県所沢市とされる)と10代での移住、LOMの2024年のEP2枚、Fuji Taitoの「2016年のクルー結成」「15歳でラップ開始」、Pxrge Trxxxperの祖母宅でのiPhone録音は、いずれも一次ソースで確認できていない。
  • LOM & S-Liam「LV」のTikTok週間音楽チャート1位(2025年4月)は、自主レーベルの発表(PR TIMES)のみに基づく。独立した報道では、2025年5月5日〜11日集計のBillboard JAPAN Heatseekers Songsで4位を確認した(Billboard JAPAN 2025年5月14日)。
  • ゆるふわギャングのアジアツアー(2019年)とPxrge TrxxxperのPOP YOURS OSAKA 2025出演は、公式の告知・掲載の確認であり、実施後の一次レポートは本稿では確認していない。
  • Utsunomiya Stellaの現状の稼働、UMB2026の予選日程は、公式から確認できていない。
  • 有頂天MCバトル(宇都宮)は、信頼できる報道での確認が取れず掲載を見送った。
  • 栃木・群馬は確認可能な情報の絶対量が少なく、実際のローカル活動量より記述が薄い可能性がある。「最初」「唯一」等の表現は本稿の調査範囲での観測であり、網羅的比較調査に基づくものではない。
  • 群馬出身とする二次記述と公式プロフィールの出身地表記が一致しない人物が1名おり、帰属を一次ソースで確定できないため掲載を見送った。

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