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北海道・札幌のラッパーとシーンの記録──THA BLUE HERBを軸にたどる北の回路【Rap Atlas】

Rap Atlas16 min read

本稿では、ILL-BOSSTINO(Rap)とO.N.O(Track Maker)が1997年に札幌で結成したTHA BLUE HERB(音楽ナタリー)を軸に、北海道の日本語ラップの記録をたどる。

彼らは上京せず、札幌を拠点に自ら運営するレーベルからリリースを続けてきた(Billboard JAPAN(2017年・公式プロフィール引用))。2枚目のアナログシングル「知恵の輪」をDJ KRUSHがクラブでいち早くかけていたことで、その名は東京へ届いた(音楽ナタリー 2026年8月の対談)。流通・制作を自前で回すという選択は、地元愛の表明ではなく実務の記録である。

本稿はRap Atlasシリーズの一篇として、北海道のヒップホップを記録する。実態としては、その大半が札幌圏の記録になる。掲載基準はシリーズ共通である。網羅を謳うものではない。確認できた範囲と、確認できなかった範囲を、文末に分けて書いた。


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同じ札幌から出た、二つの回路

北海道のシーンには、性格の異なる二つの回路が並走してきた。

一つはTHA BLUE HERBの回路。自主レーベルTHA BLUE HERB RECORDINGS(TBHR)を軸に、インディペンデントのまま活動を続ける型である。東京初公演(1999年・六本木CORE)やFUJI ROCK 2000への出演が記録されている(FNMNL 2023年10月23日)。もう一つはN.C.B.B(NORTH COAST BAD BOYZ)の回路。HOKT、YOUNG DAIS、DAI-HARD、1-KYU、SPOCK、恵庭のシュウからなる6人編成で、2004年にエイベックスからメジャーデビューし、結成から一貫して拠点を札幌に置いた(DIG DA GOOD IMC公式・TuneCore Japan)。二つの回路の交差は、本稿の資料では確認できていない。

厳密には、回路は二つで尽きない。MIC JACK PRODUCTIONのB.I.G.JOEのように、独自の接続で全国流通を築いた札幌の系譜もある(タワーレコード 2009年5月7日)。そのB.I.G.JOEは2025年、2枚のアルバムをもってラッパーを引退すると宣言し(音楽ナタリー 2025年5月30日)、12月12日のZepp Sapporoワンマン『THE LAST DOPE』でラッパーとしてのラスト公演を行った(公式ストアの公演映像の商品ページ。「2025年12月12日に地元札幌でのラストギグを大成功させた」との事後記述がある)。

構造の問題もある。2025年3月公表の北海道の人口ビジョン(2024年度改訂版)は「全道人口の3分の1以上を占める札幌市」を記し(北海道『人口ビジョン(2024年度改訂版)概要版』(PDF))、道内の主要都市は広域に分散している。本稿の掲載組も札幌圏に寄っており、道内他都市の現行シーンは信頼できる資料が少ない。この偏りは文末の限界にも記す。

年表──確認できる北海道ヒップホップ史

各行の括弧内が出典である。一次ソースで確認できなかった項目(初の全国ツアー2000年とされる記述など)は、確定年表には入れず文末の未確認リストに記した。

年 出来事
1990 札幌・南3条東1丁目にCLUB GHETTOが開業(会場自身のCAMPFIREプロジェクト)。のちにBOSSが「GHETTOでO.N.Oがプレイするってことで、マイクを持たせてもらったのが最初」と証言する場となる(FNMNL 2023年10月23日)
1997 ILL-BOSSTINOとO.N.OがTHA BLUE HERBを札幌で結成(音楽ナタリー)
1997-99 「知恵の輪」をDJ KRUSHがクラブでプレイし、札幌の名が東京へ届く(音楽ナタリー・Real Sound 2015年10月)。1st『STILLING, STILL DREAMING』はTBHRから1998年(公式英語版・OTOTOY)。全国流通CDは1999年9月15日(オリコン)
1999-08 石狩湾新港でRISING SUN ROCK FESTIVAL in EZOが第1回を開催(公式サイト)
2000-07 THA BLUE HERBがFUJI ROCK FESTIVALに出演(FNMNL・公式ヒストリー)
2003-01 コンピレーション『NORTH COAST BAD BOYZ』リリース(所属事務所公式ディスコグラフィ)
2004-08 N.C.B.Bが1stフルアルバム『NORTH COAST BAD BOYZ』でエイベックス/cutting edgeからメジャーデビュー(所属事務所公式)
2006 UMB北海道大会でかくてるが優勝(UMB2006公式ブログ。本稿で確認できた最古の北海道予選記録)
2009 MC松島がUMB北海道代表として本戦に初出場(OTOTOY)
2012-09 YOUNG DAISがソロ1st『PLAYLIST』をリリース(オリコン)。2014年8月には園子温監督『TOKYO TRIBE』に主演(音楽ナタリー 2014年6月17日)
2019-07 THA BLUE HERB、約7年ぶりのセルフタイトル作がオリコン週間16位(オリコン・音楽ナタリー)
2022 平野歩夢がテレビ番組で、大会時に聴いていた曲としてTHA BLUE HERBを挙げる(音楽ナタリー 2023年11月1日)
2023 4月、tha BOSS「Starting Over feat. Mummy-D」でRHYMESTERとTHA BLUE HERBの確執に区切り。5月、Mummy-D「同じ月を見ていた feat. ILL-BOSSTINO」リリース(Spincoaster 2023年5月31日・RHYMESTER公式)
2025 5月、B.I.G.JOEが2枚のアルバムでの引退を宣言(音楽ナタリー)。8月27日、HOKTが「Any Other Way (feat. TWO-J & Kidella)」を配信。同月の公式告知は、約9年ぶりのソロ『Slow Burning Life』を11月発売予定として紹介(アルバム本体は本稿では未確認)。12月7日、UMB2025北海道予選がMORROW ZONEで開催(UMB公式チャンネルの全試合動画。決勝はゐLL AuguSt. vs 芽存で、優勝者の明示は本稿では未確認)。12月12日、B.I.G.JOEがZepp Sapporoで『THE LAST DOPE』を開催(公式ストアの公演映像の商品ページ。事後記述あり)
2026-08-05 ILL-BOSSTINO × DJ KRUSHの共作『XO』(TBHR・全15曲)リリース。DJ KRUSHが一人のラッパーとアルバムを作るのはキャリア初(音楽ナタリー 2026年6月10日・ウルトラ・ヴァイヴ 2026年7月1日(全15曲のトラックリスト)・DJ KRUSH公式)
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本稿で取り上げる7主項目

THA BLUE HERB(札幌)

ILL-BOSSTINOとO.N.Oが1997年に札幌で結成(音楽ナタリー)。上京せず、自ら運営するレーベルTBHRからリリースを続け(Billboard JAPAN)、「知恵の輪」をDJ KRUSHがクラブでプレイしたことで東京へ知られた(音楽ナタリー)。1st『STILLING, STILL DREAMING』はTBHRから1998年に、全国流通CDは1999年に出た(公式英語版・オリコン)。

ILL-BOSSTINO(tha BOSS / BOSS THE MC)

1971年10月27日生まれ、北海道亀田郡七飯町出身のヒップホップMC(タワーレコード・CDジャーナル)。DJ KRUSHの「Candle Chant(A Tribute)」への客演歴がある(Real Sound 2015年10月)。2026年8月5日、DJ KRUSHとの共作アルバム『XO』(TBHR・全15曲)がリリースされた。DJ KRUSHが一人のラッパーとアルバムを作るのはキャリア初で(音楽ナタリー・ウルトラ・ヴァイヴ・DJ KRUSH公式)、「知恵の輪」をかけて札幌を東京に知らせた男と、四半世紀以上を経てフルアルバムで組んだことになる。

O.N.O

THA BLUE HERBのトラックメイカー(音楽ナタリー)。BOSSは、GHETTOでO.N.Oがプレイするのに乗せてマイクを持ったのが最初だったと語っている(FNMNL)。ソロ作品の発表については、本稿では一次ソースの確認を取れていない。

MC松島(札幌)

1987年12月23日生まれ、北海道札幌市出身・在住のラッパー/漫画家/映画監督。2014年にUMB札幌予選で優勝し、2015年4月にインディペンデントレーベル「トウキョウトガリネズミ」を設立(以上タワーレコード・CDジャーナル)。2009年にUMB北海道代表として本戦に初出場して以降、通算4度の北海道代表とされる(OTOTOY)。このうち本稿で出典を確認できた年は2009年(OTOTOY)、2014年(タワーレコード)、2018年(UMB公式チャンネル)で、2017年の出場を示す資料へのリンクはない。

HOKT(札幌拠点クルー)

2003年に「BACK IN DA 2 DAY」でシーンに登場し、N.C.B.BとHOOD SOUNDのフロントマンを務める(レーベル公式)。2025年8月27日には「Any Other Way (feat. TWO-J & Kidella)」を配信。同月の公式告知は、約9年ぶりのソロアルバム『Slow Burning Life』を11月発売予定として紹介した。アルバム本体のリリースは本稿では確認していない。

YOUNG DAIS(旭川)

1981年10月11日生まれ。2001年にアメリカの高校を卒業し、帰国と同時にラッパーとしてのキャリアを本格化させた(以上所属事務所公式)。N.C.B.Bの一員として2004年にメジャーデビュー(同事務所公式ディスコグラフィ)。2012年にソロ1st『PLAYLIST』、2014年に園子温監督『TOKYO TRIBE』で俳優デビュー(オリコン・音楽ナタリー)。旭川市出身で、令和3年1月から旭川観光大使を務める(旭川市・令和3年11月24日付報道資料(PDF))。「2003年のN.C.B.B結成への参加」は、一次ソースの明示文がないため本稿では年を書かない。

SALU(北海道生まれ/札幌・関東を往来)

1988年、北海道生まれのラッパー(音楽ナタリー)。生まれ故郷の札幌と関東を行き来して作品を制作している(OTOTOY)。現在の拠点の確定記載、および道内シーンへの関与の有無を、本稿は判断しない。札幌と関東を往来して制作するという、THA BLUE HERBとは別の経路の記録として掲載する。

一次情報で作品公開を確認できた若手2名

Dumbperson(札幌)——北海道札幌市出身のラッパー。中学生の頃から活動を始め(KAI-YOU)、「第17回高校生RAP選手権」に出場(ABEMA HIPHOP公式の対戦動画)。2025年5月19日に「かまくら」を配信リリースした(TuneCore公式リンク)。

NASKA(札幌)——ヒップホップのニュースと映像制作を扱うSLUM HOOD STARの2025年1月8日付記事は、札幌をHOODとするラッパーとして紹介した。「3verse3door」は2024年12月18日に配信され、同記事では2025年に予定するEPの先行曲と説明されている。EP本体のリリースは本稿では確認していない。

この2名は、直近24か月の配信作品と、メディア掲載または大会出演を確認して掲載した。人数は今回の調査範囲を示し、北海道の若手全体の人数を表すものではない。

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場所と装置

  • CLUB GHETTO(南3条東1丁目)——1990年オープン。会場自身のプロジェクトページは「札幌で最も古い老舗のクラブ」と記す(CAMPFIRE)。THA BLUE HERB前史の場としてBOSSの証言がある(FNMNL)。2026年時点の営業状況は本稿では未確認
  • MORROW ZONE(南7条西2丁目)——UMB北海道予選の会場(UMB公式2024年。2025年12月7日の予選はUMB公式チャンネルの全試合動画で開催を確認。日付・会場は主催者の発表による)
  • Sound Lab mole(狸小路2丁目)——オールジャンルのイベント会場(公式サイト)
  • PRECIOUS HALL——公式サイトは現存する(公式)。「聖地」とする評価はBRUTUS(2021年12月20日)にあり、本稿の基準では補助的な根拠として扱う
  • RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO(石狩湾新港)——1999年8月21日に第1回(公式サイト)
  • UMB北海道予選——開始年は本稿では未確認。確認できた最古の大会記録は2006年(かくてる優勝)。歴代優勝者(しろくま、S-SENCE、MC松島、NastyTEZ、KAI等)の年度別公式記録での逐一確認は未了である

「出ない」と「出る」の両方を記録する

THA BLUE HERBは札幌に残った。SALUは札幌と関東を行き来している。HOKTは札幌拠点のクルーのフロントマンを務め、YOUNG DAISは旭川の観光大使を務め、MC松島はバトルの回路を回し、B.I.G.JOEは2025年に自らの手で幕を引いた。

どちらか一方だけを美談にすると、この土地の実態を見誤る。本稿は確認できた資料をまとめた記録であり、追補・訂正を受け付ける。情報の追加・訂正は、シリーズ共通の窓口から連絡してほしい。

あわせて読む: Rap Atlas入口 / 掲載基準


確認範囲・参照

基礎調査日: 2026年9月8日(参照先の再照合。「2026年9月5日確認」と記した更新型ページはその時点の確認)。2026年9月21日追補:HOKTの先行曲と告知時期、NASKAの配信と媒体表記、B.I.G.JOEの公演映像、人口ビジョンの公表年月を再照合した。紹介文の7主項目と若手2名を区別し、追跡先を示せない除外件数の説明を外した。以下、主張ごとの参照先を示す。

未確認・限界

  • THA BLUE HERBの「初の全国ツアー(2000年)」は、A級ソースの本文で確認できなかったため年表に入れていない(FUJI ROCK 2000年出演は確認済み)。
  • 平野歩夢の聴取時期は、A級ソースでは「大会時」まで。「決勝前」とする記述は採用しない。
  • HOKTの生年・出身地(1975年・北見市とされる)は、レーベル公式ページに記載がなく未確認。
  • N.C.B.Bの結成年(2003年とされる)の明示文はA級ソースにない。2003年1月のコンピレーションと2004年8月のavexデビューは所属事務所公式で確認できる。
  • UMB北海道予選の開始年は本稿では未確認(確認できた最古の大会記録は2006年)。歴代優勝者のうちNastyTEZ(2011年)とKAI(2012年)は準一次の記録で、公式年度別記録では逐一確認できていない。2025年12月7日の予選(MORROW ZONE)は、UMB公式チャンネルの全試合動画で開催を確認した。優勝者の明示は確認できていない。
  • HOKTの『Slow Burning Life』は「2025年11月発売予定」の告知と先行シングルまでで、アルバム本体は2026年9月5日時点でも未確認。NASKAのEPも、本体のリリースは本稿では未確認。
  • CLUB GHETTOの2026年時点の営業状況は未確認。
  • N.C.B.BのDAI-HARD、1-KYU、SPOCK、恵庭のシュウは、独立した裏取りソースが確認できなかったため個別項を立てていない。
  • 道内他都市(旭川・函館・帯広・釧路・北見等)の現行シーンは、信頼できるソースがほとんど見つからず、本稿は札幌圏の記録が中心となる。この欠落は明確な調査限界である。

よくある質問

北海道・札幌のヒップホップシーンとは?
北海道の日本語ラップの記録を、本稿はTHA BLUE HERBを軸にたどる(北海道全体の歴史的始点を断定するものではない)。南3条東1丁目のCLUB GHETTOは1990年開業という会場自身の記録があり、BOSSがO.N.Oのプレイで最初にマイクを持った場としての証言が残る。
北海道・札幌を代表するアーティストは誰?
THA BLUE HERB、ILL-BOSSTINO(tha BOSS / BOSS THE MC)、O.N.O、MC松島、HOKT、YOUNG DAIS、SALU。詳細は記事内の代表的アーティスト欄に出典とともに掲載している。
北海道・札幌シーンを支える主要レーベル・クルーは?
THA BLUE HERB RECORDINGS (TBHR)、N.C.B.B(NORTH COAST BAD BOYZ)、DIG DA GOOD IMC、トウキョウトガリネズミ。記事ではそれぞれの役割と根拠を示している。
この記事の年表はいつから始まる?
記事の年表は1990年の「札幌・南3条東1丁目にCLUB GHETTOが開業(会場自身のCAMPFIREプロジェクト)」から始まる。
この記事の情報はどう検証されている?
公式発表、本人インタビュー、自治体資料、音楽メディアなどを照合し、確認できない点は未確定として明記している。