tonosama wasabii、やばい。『wasabii yabaii』に辿り着くまでと、掴もうとするたびに違う顔を見せる彼女の行き先【独占インタビュー】
アイキャッチ・記事内画像:tonosama wasabii側より提供。画像の権利は撮影者および各権利者に帰属します。
山葵(ワサビ)は春が終わりを迎える頃、真っ白で小さい花を咲かせる。
ちんまりとした姿は実に可愛らしく、さもか弱い存在であるかのように振る舞う。そして、その佇まいに釣られた者は「取るに足らないだろう」として、愚かにも近づいてしまう。
だが、彼らは気づいていないのだ。
花は本質を示していないことに。地中に隠れる力強い根に。そして、根には男泣かせな”やばさ”が含まれていることに。
この記事の要点
- tonosama wasabiiは2024年に活動を始め、2年足らずで1stアルバム『wasabii yabaii』を完成させた。
- ラップの始まりは、NillNicoとの大喧嘩でラップによるアンサーを返したことだった。
- 全7曲にLoopyとBrynが客演。トラップ、レイジ、ハイパーポップ、ダンスホールを行き来する。
- 強気な自分と孤独な自分、日本語・英語・韓国語を音で選ぶ制作感覚を本人の言葉で語る。
- 次に狙うのは、オートチューンに頼りすぎないラップでさらに強く存在を示すこと。
tonosama wasabiiとは──可愛さと攻撃性を行き来する新鋭
tonosama wasabii(トノサマ ワサビ)。彼女も最近目覚めたばかりの可憐なアーティストだ。
しかし、愛らしい見た目とは相反してラップは速く、鋭い。また、「ウチ、めっちゃアホなんですよ」と笑ったかと思えば、時に大阪人らしい負けん気な一面が顔を出す。
なんとも掴みどころがなく、多面的。故に魅力的なのである。

1stアルバム『wasabii yabaii』──LoopyとBrynを迎えた7曲
1stアルバム『wasabii yabaii』は、そんな彼女の”やばさ”を丸ごと7曲に閉じ込めた作品。

同アルバムにおいて、wasabiiはトラップやレイジ、ハイパーポップ、ダンスホールといった多様なビートを感覚的に乗りこなし、型にはまらない自身のスタイルを提示する。
また、韓国シーンの実力者Loopy(ルピー)や、オーディション番組『SHOW ME THE MONEY』で頭角を現したラッパーBryn(ブリン)が客演として参加。STEELOの総合プロデュースにより、綺麗にまとめられた”wasabii”ワールドを存分に楽しむことができるだろう。
彼女のラップから感じられる大阪・枚方(ひらかた)ならではの強気な一面だけでなく、ふとした時に垣間見える素の彼女を楽しんでほしい作品だ。
2024年に活動を始めて、2年足らずで初フルアルバム。”やばい”という、強さにも可愛さにも危うさにも転がる一語をそのままタイトルにした作品について、tonosama wasabiiが飾らない言葉で語る。
tonosama wasabiiインタビュー
名義とラップの始まり──NillNicoとの喧嘩が入口だった
── まず名義についてうかがいたくて。”tonosama(殿様)”と”wasabii”、この二つの言葉の組み合わせはどのように決めたんですか。
wasabii:最初、クイーン的な感じにしようと思ってたんです。
でも、日本っぽさを大事にしたかったから、”tonosama”にした。ちょっと男っぽくなるけど逆に可愛いし「まぁいいや」って。語呂もいい感じだし。
ニコ(NillNico)が付けてくれました。ウチが「クイーンとスパイシーっていう風にしたーい」って雰囲気を伝えて。
── “わさび”はスパイシーの象徴として選んだということですよね。ちなみに、食べ物のわさび自体はお好きなんでしょうか。
wasabii:元々は無理だったんですけど…最近イケるようになりました(笑)。
── ラップを始めたきっかけが、NillNicoさんとのちょっと特殊な出来事だったとうかがいました。
wasabii:ニコと大喧嘩になっちゃった時があって(笑)。
その時に、ニコがラップでめっちゃ攻撃してきたから、ウチもラップで言い返して。それのおかげで仲直りできたんですけど…「ラップしようかな」ってなったのは喧嘩がきっかけですね。
何時間も大喧嘩して、私も耐えれんくなって、ラップでアンサーしたのが始まり。
── 2024年からの活動開始で2年足らず、それでこのペース感はかなり異例だと思います。スキルの吸収はどう進めてきたんですか。
wasabii:ニコと一緒にいることが多くて。めっちゃラップ上手いので、彼のラップを常に聴いてるからできるっていうのもあります。一番影響を受けたアーティストは、ニコですね。
レコーディングも教えてもらって、今はもう1人でも作るようになりました。
ちっちゃい頃は、お母さんが送り迎えの時にいつもリル・ウェインとエミネムを流してたんです。それがめっちゃ好きで、ずっと聴いて育ってきました。その頃からラップライフが始まった感じ。
いろんな音楽聞きますけど、基本はずっとヒップホップが好きです。
── 攻撃的なトーンの曲もある一方で、こうしてお話していると印象がまったく違います。今回のリリース情報にあった”現在地と危険性”という言葉も、いわゆるDangerousの危険ではなく、もう少し違うニュアンスに感じました。
wasabii:多分…みんなと喋るときはめっっちゃ優しいんですよ。自分でも思うくらい(笑)。
だけど、性格がめっちゃ尖ってて。とりあえず一旦、周りは敵やと思ってます。仲間には優しいけど、知らないやつは一旦敵(笑)。いろいろ知りすぎたせいで、誰が本当の仲間か分からへんから。
でも結局、そういう人にも優しくしちゃうんですけどね。
── 可愛さと攻撃性が同居する世界観は、そういう経験から自然と滲んできたものなんですね。
wasabii:私は子供の頃のままで、ピュアっピュア。うち、めっちゃアホなんですよ(笑)。ほんとにアホで。塾に通わされてたんですけど、偏差値8です。
だけど、大人の中にはずるい人がいることを知って、そういう人をいっぱい見すぎたから、こうなっちゃったっていうか。その経験も、攻撃的なところと可愛いところ、両方に出てるのかもしれません。
枚方で育った強気と、「Lonely Girl」ににじむ孤独
── 関西、特に枚方というバックグラウンドも、その強気な部分に影響していますか。
wasabii:関西の枚方が実家なんですけど、枚方ってそういう街なんですよ。強い。
『BREAKING DOWN』って見てます?あのシェンロンみたいな感じの人がいっぱいいる街で。ウチはその女バージョンみたいな感じです(笑)。
ベースは強気やけど、恋愛面とかメンタル弱いところもあって…急にめっちゃ孤独に感じたり。そういうことも歌にしてます。
── アルバムを通して聴くと、強気な「tekken2」で幕を開けて、最後は「Lonely girl」とそのリミックスで閉じる流れになっています。攻めから内省へという順序には、意図があったんでしょうか。
wasabii:そうですね。普段は強気やけど、寂しい気持ちになることも全然あって。
最後にかけて素直なところが出てるかも。強い自分も寂しい自分も、どっちもウチなんで。
── 歌詞も含めて、ショート動画で抜かれることを前提に作られているかのような瞬発力があります。ショート動画で機能するような設計は、意識的にやっているのかどうか気になっていて。
wasabii:何も意識してないですね(笑)。「バズらせないと」とか、そういうことを意識し始めたら、何も分かんなくなっちゃう。多分作れないですね。全部直感。
その時に起きたこととか、悔しい気持ちとか、もうすぐ書く。それでやっと納得する感じ。作る時は先にフロウができて、言いたいことをそこに乗せてます。
── リリックから感じたのは、重さや暗さに着地せずにフラットに聴ける軽さ、です。深刻なテーマでも自分の言葉だけで処理している印象があって。
wasabii:難しい言葉を知らないっていうだけかもしれないですね(笑)。誰かの曲を聴いても、何言ってるのか理解できないことも多くて…。
普段使ってる言葉でそのまま。ウチは本読めないし、遠回しに言うことも苦手で。ストレートに、シンプルにありのままを出すって感じです。
日本語・英語・韓国語を「音」で選ぶ
── リリックの中で、日本語・英語・韓国語が自然に行き来する瞬間が印象的でした。あの使い分けはどんな基準で決めているんですか。
wasabii:音です。音がハマるかどうかで決めます。「絶対こういう音にしたいんだよな」っていうイメージが先にあって、フロウを作って、どんな言葉を当てはめるか決めてます。
もちろん意味も大事にしながら、その上でどの言葉がハマるかなって。ゲームみたいになってます、まじテトリス。しっかりハマった時はめっちゃ気持ちいい。
韓国語は、昔から韓国好きだったから自分で勉強して。ハングルは読めるけど意味はちょっとしか分からへんみたいな…多分普通と逆なんですけど(笑)。
韓国に住んでたこともあるし、ライブもしたことあるし。韓国にもリスナーさんがちょこちょこいるんで、“分かったらいいな”って思ってリリックに入れてます。
LoopyとBryn──韓国シーンとの接続
── 客演について。Loopyさんとは、今作のためだけのコラボというより、もっと地続きの関係から生まれたものなんですよね。
wasabii:ルピ(Loopy)は、もう世界一好きなラッパー。今年の1月くらいに出した「BITE」で初めて一緒に作りました。その時、ニコが『SHOW ME THE MONEY』に出てたので、私も一緒にお世話になってたんです。
初めて一緒に作った時は、めっちゃ緊張しました。「アドリブで」って言われて、隣でレックして…やばかったです(笑)。でも、その経験があるから、日本での曲作りもライブも全然緊張しないんです。
ルピもめっちゃ尖ってて、周りに優しくて。MBTIも一緒(INFP)だから似てるんですよ。友達だけど、ちゃんとリスペクトもしてます。
── Brynさんは今回が初めての共演とうかがいました。彼女のバースで印象的だったところはありますか。
wasabii:ブリン(Bryn)ちゃんは今回が初めましてでした。私の雰囲気とか、やりたいことをすごく理解してくれた上でバースを送ってくれたから、完璧だった。

「yabaii」と「adrenaline」──感覚とこだわりの制作
── 音の話だと「yabaii」、レイヤードされている声やガヤまで気持ちよくて。あの気持ちよさは、感覚で組んでいるのか、ある程度設計しているのか、どちらに近いですか。
wasabii:計算と言うよりは「いかに気持ちよく歌えるか、聴けるか」ですね。上手に言葉で説明できないけど…。
考えてやるより、全部感覚でやってるイメージです。この「yabaii」って曲はやばかった…色々やばかったです(笑)。元々のビートが送られてこない事件があったり、ルピのバースが1番最後にギリギリで上がってきたり。めっちゃ大変やったけど、こだわりました。

── 制作の過程で、1番手こずった1曲は。
wasabii:「adrenaline」が一番大変でした。
アルバムで1番長い曲で、歌詞自体はすぐ書けたんですけど…録りにめっちゃ時間かかって。元々のデモからビートもメロディも作り直して、もう完全に別物になったんですよ。それに合わせて録り直すのが大変でした。
しかも、そのレックの時はエアビー(AirBnB)してて、ニコにレックしてもらったんですけど。木造アパートで目の前がバス停だったから外の音が入ってきたりしちゃって(笑)。
でも、1番言いたいことが言えたのは「adrenaline」です。
── “言いたいことが言えた”というのは、どのあたりに表れていますか。
wasabii:「adrenaline」の歌詞の中で、ジャンルのことに触れてて。ウチ、ハイパーポップって言われることが多いんですけど。ハイパーポップに対して「オートチューンがどうたら」とか、言ってくる人もいるじゃないですか。
でも、ウチは「別に良くね」って思ってる(笑)。別にオートチューン無くても作れるけど好きでやってるし。そんな感じで、思ってることを全部言えてるのが「adrenaline」です。
── ジャンルでカテゴライズされること自体については、どう距離を取っているんですか。利用している感覚なのか、それとも括られたくないのか。
wasabii:利用…ですかね。ウチ自身はハイパーを作るのが1番得意で。ビート聴いたらすぐフロウ出てくるし、すぐ作れる。だからその意味では利用なのかな…。多分、自分に合ってるだけなのかも(笑)。
でも、やっぱりラップの方が好きなんですよ。
オートチューンの先で、ラップをぶちかます
── 少し前の曲ですが、「足」のラップは速いのに抜くところは抜いていて、可愛さもちゃんとある。あの独特の表現はどう作っているんですか。
wasabii:「足」は練習しました!速いですから(笑)。韓国では結構「足」が好評です。
── 活動を始めて2年足らずで初アルバム、というのはかなりのスピード感ですが、活動当初と比べて何か変化はありましたか。
wasabii:お金と生活が全然釣り合ってないです(笑)。今は住む場所も転々としながら、とにかく音楽に全部注いでる感じ。
でも、ありがたいことに仕事の連絡はすごい来ますね。「Erika Sawajiri」のMVは歌舞伎町やから…海外の人からは「めっちゃいい」って評判が良いです。
── これから踏み込みたい音楽性についてもうかがえますか。
wasabii:もっと、ラップでぶちかましたい。ラップでぶちかましてバァーンって、ハイパーじゃない、あんまりオートチューン使わへん方をやりたくて。
ここ数年間は女性ラッパーの勢いがすごいし、本当に時代が来てると思うけど…フィメールでめっちゃ尖ってて、ぶちかましてる人はあんまりおらんから。そこを狙いたいです。
── 最後に、この記事を読む人に向けて一言。
wasabii:ここまで実力あって、可愛い日本のラッパーいないでしょ?歴史上のスターになります。
Closing Note──tsuyoii、kawaii、yabaii、wasabii
何だかあどけなくて、どこまでも素直で飾らないwasabii。

インタビューの中で、強気な彼女は感じることはできたものの、彼女の言う「寂しい」面はあまり顔を見せなかったように思えた。しかし、幕が下ろされた後ろで静かに頬を濡らす日もきっとあるのだろう。でも、きっと大丈夫。
時にワサビは成長を止め、最も重要な根っこに養分をため込み、枝葉を伸ばし、再び溜めて…を繰り返す。そしてまた白く、綺麗で、愛らしい花を咲かせる。
wasabiiはまだ目覚めたばかり。彼女の”やばさ”が伝わった末には、ファンシーでスパイシーで、可愛らしい世界が広がっているはずだ。
ちなみに、ワサビの花言葉は「目覚め」。そして、もう1つは「嬉し涙」である。

『wasabii yabaii』作品情報

トラックリスト
- tekken2 feat. Bryn
Lyrics:tonosama wasabii & Bryn
Producer:Kid Luka, NGA - yabaii feat. Loopy
Lyrics:tonosama wasabii & Loopy
Producers:venexxi, ripazure - ByeBye
Lyrics:tonosama wasabii
Producer:Kid Luka, NGA - adrenaline
Lyrics:tonosama wasabii
Producer:Kid Luka, NGA - Gossip Gyal
Lyrics:tonosama wasabii
Producer:Kid Luka, NGA - Lonely Girl
Lyrics:tonosama wasabii
Producer:Kid Luka, NGA - Lonely Girl ♡ Remix 🙂
Lyrics:tonosama wasabii
Producer:Kid Luka, NGA
Mixing & Mastering Engineer:Foux
Creative Direction:STEEKNOWS
Executive Producer:STEELO
tonosama wasabiiと『wasabii yabaii』のFAQ
tonosama wasabiiとは?
大阪・枚方を背景に、トラップ、レイジ、ハイパーポップなどを行き来するラッパー。2024年に活動を始め、可愛らしさと鋭いフロウを併せ持つスタイルを打ち出している。
『wasabii yabaii』はいつリリースされた?
2026年6月4日にリリースされた全7曲、約18分の1stアルバム。Apple Musicではヒップホップ/ラップ作品として配信されている。
アルバムの客演は誰?
韓国シーンで活動するLoopyが「yabaii」、Brynが「tekken2」に参加している。