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OMB Bloodbath有罪評決──1月は評決不成立、契約の3か月前に起訴されていた

ヒップホップニュース10 min read

ヒューストンのラッパー、OMB Bloodbath(本名 Alexandra Nicks)に有罪評決が出た。現地時間8月3日、連邦陪審の判断。共同被告の Shaquille Richards も同じく有罪だった。

罪名は2つ。murder in aid of racketeering——「組織的犯罪活動を助けるための殺人」——と、その殺人で銃器を使ったこと。どちらも最高刑は終身刑だ。司法省の発表では2人とも32歳と記されている。

そして、この評決には半年前の前提がある。同じ事件の1回目の公判は、2026年1月に評決不成立(mistrial)で終わっていた。これは無罪評決ではなく、陪審が有罪・無罪の結論に至らなかったことを意味する。

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サードワードの午後2時、9年前

2017年10月16日の午後2時ごろ、ヒューストン・サードワードのLondon Street 6833番地。盗まれた青いマツダが家の前に停まったとき、乗っていた4人はすでに車内から撃っていた。市警が公開した防犯カメラの映像にそう映っている。

検察の説明によれば、車に乗っていた103のメンバー4人は複数の銃で武装しており、その中には50連および100連のドラムマガジンを装着したものが含まれていた。報復として、YSBの縄張りへ入っている。

前庭には男が2人いた。うち1人が走り出す。司法省の発表では、狙われた側は撃たれたが生き延びて逃げた。市警がこの負傷者として名前を出しているのが Walter Fields(当時22歳)で、傷は命に別状はなかった。

死んだのはもう1人のほうだ。Sam Johnson。ギャングとは無関係で、ただ家の前庭に立っていた。胴体を撃たれ、その場で死亡している。

撃った4人は逃走中に車を側溝へ突っ込ませた。そのあと乳児を乗せた女性の車を奪って現場を離れている。ここまでが司法省の記述だ。

Johnson の年齢は53歳。ヒューストン市警の2020年の発表も、今回の司法省の発表も53歳で一致している。XXLなど一部の音楽媒体は52歳と書いているが、そちらは採らない。

対立していたのは、100% Third Ward(103)と Young Scott Block(YSB)。Nicks は実行役ではない。連邦検察が主張したのは、彼女が Richards とともに、この襲撃を命じた側だという構図である。

Richards は当時、この事件とは別の罪でテキサス州の刑務所に服役中だった。ヒューストン市警の発表にそう記されている。

検察の主張はこうだ。2017年10月11日以降の通話記録に、Nicks が獄中の Richards へ、YSBを攻撃するための「銃・車・人員」を用意できると伝えたやり取りが残っていた。立証に使われたのは、刑務所内の通話記録、テキストメッセージ、SNS上の証拠、そして証人証言である。

実行役とされる Deandre Watson、Marcus Christopher、Marquis Erskin、Mertroy Harris の4人は、連邦事件ではいずれも有罪を認めている。量刑言い渡しは9月2日。4人とも最高刑は終身刑だ。

Watson だけは州の裁判が先に決着している。2022年8月、ハリス郡の裁判で殺人罪の終身刑が言い渡された。

1月に一度、陪審は割れている

ここが今回の評決を読むうえで外せない部分だ。

連邦刑事事件の評決は、陪審全員一致でなければ成立しない。1回目の公判は2026年1月13日に始まり、同月28日の夜に判事が評決不成立を宣言したと報じられている。同じ報道によれば、陪審は3日間で計約20時間議論して、結論を出せなかった。

つまり1回目の公判で、検察は陪審12人全員を有罪で一致させられなかった。再審で同じ証拠だけが使われたとは確認できない。

再審で何が変わったのか。XXLは、1回目には提示されなかった Bloodbath 側の携帯端末データが新たに法廷に出されたと報じている。ただしこれは実質的に単独ソースで、公判記録での裏取りはできていない。

それでも、同じ事件・同じ被告で、6か月のあいだに評決不能から有罪へ振れた。何が足されたのかは、量刑と控訴を見るうえで効いてくる。

審理を担当したのは連邦地裁の George Hanks 判事。量刑期日を設定するのもこの判事だ。

その量刑の期日は、司法省の発表時点でまだ決まっていない。XXLなど一部の音楽媒体は11月4日と書いているが、司法省は「Hanks判事が後日設定する」としている。日付は独り歩きしやすい。ここは司法省の側を採る。

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契約書に署名した3か月前に、彼女は起訴されていた

本稿が確認した主要記事では、2020年の州起訴とメジャー契約の時系列がまとめて並べられていなかった。

2020年5月4日、Billboardが独占で報じた。OMB Bloodbath が 10:22PM と LVRN のジョイントベンチャー契約に署名し、Interscope Records のバックアップを得る。当時26歳。

Interscope の Joie Manda は「we’re excited to break her in a real way(本気で彼女をブレイクさせたい)」と語った。10:22PM 創設者の Celine Joshua は、彼女を「truth and culture を体現するアーティストに求めるすべて」と評した。

本人のコメントはこうだ。「I didn’t want to be made over and put in a box(作り替えられて、箱に入れられたくなかった)」

契約発表の4日後には、同じテキサスの Maxo Kream を客演に迎えた「Dropout」が控えていた。

その3か月前を見ておきたい。ヒューストン市警が2020年2月11日に出した発表によれば、Nicks と Richards は同年2月3日、この射殺事件をめぐって州の第338地区裁判所に「組織的犯罪活動への関与」で起訴されている。連邦の起訴は2023年だが、州の起訴はメジャー契約の署名より前だ。しかも警察が公表している。

順番を並べるとこうなる。2017年10月に事件。同年12月29日に実行役の Watson が殺人で起訴。2020年2月3日に Nicks と Richards が州で起訴。同年5月4日に契約発表。2022年8月に Watson が州で終身刑。2023年3月13日に連邦の起訴が発表。2026年1月に陪審が割れ、8月に有罪評決。

つまり、メジャーが「本気でブレイクさせたい」と言った時点で、彼女は殺人事件の被起訴人だった。

この裁判に、歌詞は出てこなかった

ここ数年、アメリカのラップと法廷の関係は「歌詞が証拠に使えるのか」という一点で議論されてきた。Young Thug と YSL の裁判が争点を全国区にし、いくつかの州で歌詞の証拠採用を制限する法案が動いた。日本語圏でこの手のニュースが紹介されるときも、たいてい入口はそこだ。

本稿が確認した報道で、検察の立証の柱として伝えられているのは、刑務所の通話記録、テキスト、SNSの投稿、証人の証言だ。歌詞を立証に使ったという記述は、確認した資料には出てこない。

そのぶん、話は地味で、重い。歌詞を法廷に持ち込むかどうかを議論しているあいだに、連邦検察は組織犯罪を扱う法律の枠組みで、10年近く前の事件まで遡って人を追っている。

この起訴が返された経緯も、そこに直結する。司法省刑事局は2022年9月、ヒューストンの南西部・南東部のギャング暴力に連邦の組織犯罪法を使う体制(Violent Crime Initiative)へ検察資源を投入すると発表した。翌2023年3月13日に出たこの6人の起訴について、司法省は「この取り組みで最初に返された起訴」だと自ら書いている。争点は「その曲は自白か」ではなく、「そのクルーは組織か」だ。歌詞の証拠採用を制限する州法は、ここには届かない。

連邦検事の Aaron Reitz は評決後にこう述べたと報じられている。「If you wage war on our streets, terrorize our communities, and put innocent Texans in the crosshairs, my office will come for you.」——司法省が前面に出したのは彼女の職業ではなく、組織犯罪の構図だった。

同じ日の同じ事件が、二つの語彙で書かれている

読み比べていて引っかかったことがある。司法省の発表に「ラッパー」という語は出てこない。地元テレビ局KPRCも、見出しでは触れていない。司法省の見出しは “Two Houston Gang Leaders Convicted at Trial for Ordering Drive-By Murder of Innocent Bystander”。彼女は Alexandra Nicks という名前と、103のリーダーという肩書きだけで処理されている。OMB Bloodbath も、Interscope も、発表には出てこない。

逆に、XXLやHotNewHipHopの記事には、Violent Crime Initiative の話が出てこない。

同じ日の同じ評決が、二つの語彙に分かれたまま流通している。片方だけを翻訳すると、片方が丸ごと落ちる。日本語でこの件を読むときに、それは効く。

この件で司法省が彼女に与えた肩書きは「rapper」ではなく「gang leader」だ。実行役ではなく、命令した側として認定されたことが、この評決の法的な核にある。

そして契約の話が残る。2020年5月にメジャーが署名した相手は、3か月前に同じ事件で州の起訴を受けていた人物だった。市警はそれを発表している。誰がどこまで把握していたのか、契約前にどこまで調べる責任があったのかは、ここでは分からない。分かるのは、その情報が非公開ではなかったということだ。Interscope・LVRN・10:22PM のいずれについても、この件をめぐる見解の公表は確認できていない。

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次に日付が動くのは9月2日

  • 9月2日、有罪を認めた実行役4人の連邦での量刑言い渡し。ここで出る年数が、2人の量刑の目安になる
  • Nicks と Richards の量刑期日の確定。Hanks判事が後日設定する。11月4日という報道はあるが、司法省は日程を出していない
  • 弁護側の控訴の有無と、再審で新たに提出されたとされる端末データの扱い
  • Interscope / LVRN / 10:22PM 側の対応。契約関係が現在どうなっているかは確認できていない

主要参照リンク

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