ULTRA-VYBE 40周年「FORTH FROM FORTY」──漢、DO、THA BLUE HERB、DJ KRUSHらが集う“日本語ラップ地下史”の2日間

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日本語ラップがメジャーの表通りだけで育ったわけではないことを、この2日間は改めて証明することになる。

1986年2月3日、渋谷でSFC音楽出版株式会社として産声を上げた一社が、日本のインディペンデント音楽の血管を40年にわたり支え続けてきた。株式会社ウルトラ・ヴァイヴ──通称ULTRA-VYBEである。その40周年記念ライブ「ULTRA-VYBE 40th Anniversary Event “FORTH FROM FORTY”」が、2026年5月10日(日)と6月20日(土)の2日間、いずれも恵比寿LIQUIDROOMで開催される。音楽ナタリーが4月20日に報じたところによれば、Day 1はLIBRO、漢 a.k.a. GAMI & D.O、DJ KRUSH、田我流。Day 2はTHA BLUE HERB、SHINGO★西成、TOKYO世界、GADORO。各40分ずつ、計8組という構成である。

単発の「懐古フェス」ではない。年間2,000タイトル超をリリースし、約1,500レーベルの流通を回す会社(CDJournalがウルトラ・ヴァイヴの35周年告知で公表した事業規模)が、日本語ラップの「自主独立でやり続ける」という生き方を体現してきた8組を、一つの会場に揃える──その事実自体がこのイベントの重心である。

日本語ラップの現場にある”熱”

日本語ラップの歴史は、リリース情報やチャートだけでは測れない。実際の現場には、ステージへ向かって無数の手が伸び、声が飛び、スマートフォンの光が揺れる瞬間がある。HIPHOPCsはこれまで、日本語ラップのライブ会場に実際に足を運び、その熱量を繰り返し確認してきた。その経験を踏まえると、ULTRA-VYBEの40周年イベントは単なる周年ライブではなく、作品を作る人間、届ける人間、受け取るリスナーがつないできた日本語ラップの現場史を再確認する場として見えてくる。

開催概要

ULTRA-VYBE 40th Anniversary Event “FORTH FROM FORTY” DAY1
日時:2026年5月10日(日) OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京・恵比寿LIQUIDROOM
料金:ADV. ¥5,000(1D代別途)
出演:LIBRO / 漢 a.k.a. GAMI & D.O / DJ KRUSH / 田我流

ULTRA-VYBE 40th Anniversary Event “FORTH FROM FORTY” DAY2
日時:2026年6月20日(土) OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京・恵比寿LIQUIDROOM
出演:THA BLUE HERB / SHINGO★西成 / TOKYO世界 / GADORO
チケット:イープラス最速受付~5月17日(日)23:59まで
主催・企画・制作:株式会社ウルトラ・ヴァイヴ

※Day 2の料金および一般販売は、イープラスの公式チケットページを参照。

ULTRA-VYBEとは何者か──数字で見る「血管」

リスナーにとってULTRA-VYBEは、CDの背ラベルにさりげなく刻まれた流通元として触れる名前だろう。それもそのはず、ウルトラ・ヴァイヴがiFlyer掲載の自社インフォメーションおよびCDJournalの35周年告知(2021年2月)で開示している事業規模は以下の通りである。取扱タイトル約10,000、取扱レーベル約1,500、年間リリース2,000タイトル以上。取引先はタワーレコード、HMV、TSUTAYA、ディスクユニオン、山野楽器、Amazon、星光堂、ハピネットといった主要CDショップに加え、Apple Music、Spotify、Amazon Music、レコチョクを含む配信プラットフォームを網羅する。

つまり、メジャー資本に接続せずに作品を出したいアーティストやレーベルが、全国のCDショップとDSPに同時に作品を届けたいと思ったとき、現実的な選択肢の一つがULTRA-VYBEである、という構造が40年かけて組み上がってきた。日本語ラップのストリーミング市場の構造については、HIPHOPCs Intelligence Series Vol.1で詳細に分析している通り、現在のラップ市場は配信・フィジカル・ライブの三層で成立しており、その基盤を支える中間インフラの重要性はむしろ増している。

創業者の高護(こう・まもる)は『季刊リメンバー』『HOTWAX』といったカルチャー誌の編集・発行も手がけてきた書き手でもあり、初期の自社レーベル「ソリッドレコード」では、はっぴいえんど/はちみつぱい/頭脳警察の未発表音源のリイシュー、1989年には近田春夫&ビブラストーンの1st『Vibra is Back』を発表している(Wikipedia『ウルトラ・ヴァイヴ』項の年表に詳しい)。レコード会社であると同時に音楽史のアーカイバーでもある、という二重性が創業時から一貫している。

日本語ラップとの関わりは、その延長線上にある。2017年に始動した自社レーベルUltrax(ウルトラックス)の第1弾リリースは、Musicmanが2017年8月に報じたとおり、日本を代表するヒップホップ・プロデューサーI-DeAのアルバム『SWEET HELL』、ラッパー輪入道の「コンクリート・ブルース feat. 伊集院幸希」、エマーソン北村「窓から / 雨の坂の足許」の3作品だった。ULTRA-VYBE公式サイトの最近のニュース欄を眺めれば、EVISBEATS & Nagipan、韻踏合組合、ZORN、神門、DOGMA、なみちえ、どんぐりず、hnt.、BOMB WALKER──世代もスタイルも横断するラップ作品が日々動いている。

Day 1:1990年代アンダーグラウンドの「生き残り方」を見せる4組

Day 1の4組は、日本語ラップが「売れ線のJ-POP」として語られる前の時代、アンダーグラウンドで言葉と音の設計を更新してきた面々である。

LIBROは、自らトラックも組むMC/プロデューサーとして1990年代末からキャリアを重ねてきた。叙情派と呼ばれる詩的なリリックは、ストリートの声高なリアリティとは別の軸で日本語ラップの表現領域を広げてきた。

漢 a.k.a. GAMI & D.OはMSC/鎖グループの中核。Libra Records主宰として、インディ流通の実践そのものを作品で示してきた人物である。漢の自伝『ヒップホップ・ドリーム』(2015年、講談社)は日本語ラップ関連書籍として異例のロングセラーになった。

DJ KRUSHは、日本語ラップ・インストゥルメンタルおよびアブストラクト・ヒップホップを世界基準で定義したDJ/プロデューサー。Mo’Waxからの海外リリースを含め、海外クラブシーンで最も知名度の高い日本人ヒップホップ・アーティストの一人である。

田我流はstillichimiya所属、山梨県山梨市の現場感覚をそのまま全国に届けるMC。「東京を経由しなくても作品が届く」という2010年代以降の日本語ラップの地殻変動を、先んじて体現してきた。

Day 2:「自主レーベル」を成立させ続けてきた4組

Day 2の4組は、いずれも自主/インディの枠組みで長期間リリースを継続してきたアーティストである。

THA BLUE HERBは1997年、ラッパーILL-BOSSTINO(BOSS THE MC)とトラックメイカーO.N.Oによって札幌で結成された。ライブではDJ DYEが加わる。音楽ナタリーのアーティスト・プロフィールによれば、1998年の1stアルバム『STILLING, STILL DREAMING』、2002年『SELL OUR SOUL』、2007年『LIFE STORY』、2012年『TOTAL』、2019年セルフタイトル『THA BLUE HERB』──28年以上のキャリアにおいて、自身のレーベルTHA BLUE HERB RECORDINGSからすべての作品を送り出している。特に路上の楽曲に関しては生々しく、日本語ラップの一種の到達地点だと考えていたリスナーも多いはずだ。

2022年2月11日放送の日本テレビ『news zero』で、櫻井翔が平野歩夢選手にインタビューした際、北京五輪スノーボード男子ハーフパイプ決勝3本目の直前に聴いていた音楽として平野が挙げたのがTHA BLUE HERBだった。この放送をきっかけに、翌日のTwitter上では「#THABLUEHERB」関連の投稿が急増し、タワーレコード公式サイトでも特集ページが組まれるなど、アンダーグラウンドの外側にまで名が届いた事例は記憶に新しい。

SHINGO★西成は大阪・西成区発。ULTRA-VYBE公式サイトには2026年、「30周年YEARの幕開け」として新曲「じゃあ、やってみよう」のMV公開が告知されている。つまり彼のキャリアは1996年前後から30年を数える。地域のリアリティと祈りを同居させた言葉運びは、2026年4月1日にULTRA-VYBE経由で配信された「chotto dog」(SHINGO★西成とG.S.M a.k.a にゅらりひょんによるユニット)の新曲「生まれて来たからには」でも生きている。有名とは言えない楽曲だが、「頑張ってれば」こういった楽曲も制作できるのが彼の才能だろう。

TOKYO世界は若手MC。ULTRA-VYBE公式サイトとSpincoasterが報じたとおり、2026年3月にはゾンビ映画『ゾンビ1/2 〜Right Side of the Living Dead〜』の主題歌「Sprout」をULTRA-VYBE経由でリリースし、同4月にはMVも公開している。40年キャリアのDJ KRUSHと同じ2days座組みに並ぶ、次世代側のブッキングである。

GADOROは宮崎発。KING OF KINGS 2016・2017を史上初の2連覇で制した後、MCバトルを完全に引退して音源とライブに専念。2025年3月6日には日本武道館ワンマン「四畳半から武道館」を成功させている(HIPHOPCsでも、GADOROの四畳半から武道館へ至る軌跡はDeep Dive Columnで詳報した)。自身のレーベル「Four Mud Arrows」を宮崎県高鍋町から運営する、地方型自主独立モデルの代表例である。

「血管が可視化する」瞬間──DJ KRUSHとTHA BLUE HERBの史実

Day 1のDJ KRUSHとDay 2のTHA BLUE HERB。両者は別日程のため同じステージには立たないが、日本語ラップ史のある接点で強く結ばれている。

Wikipedia『ザ ブルーハーブ』項および関連資料によれば、THA BLUE HERBが1997年にアナログでリリースしたシングル「知恵の輪(THIRD HALLUCINATION CHAOS)」を、DJ KRUSHがクラブプレイで頻繁に回していた。『remix』誌掲載の自身のプレイリストにもこの曲を挙げていたことで、「札幌の無名MC」だったTHA BLUE HERBの存在は全国のDJ/リスナーに一気に伝播した。インターネットで作品が届く時代の前、1枚のアナログ盤と、ひとりのDJの耳が、地方のアーティストを全国に接続したという原体験である。

DJ KRUSHとTHA BLUE HERB、両者のキャリアの背後でCDとLPを全国のショップに送り続けてきた流通インフラの一つが、ULTRA-VYBEのディストリビューション網だった。「血管」という比喩が大げさに響かないのは、こうした具体的な史実の積み重なりがあるからだ。40周年ライブの2daysで両者が同じ会場(恵比寿LIQUIDROOM)に並ぶこと自体が、すでに一つの記録である。

地方という水脈──40年の血管が現在も通っている証拠

8組のなかで東京生まれ・東京在住のアーティストは実は少数派である。THA BLUE HERB(札幌)、SHINGO★西成(大阪)、田我流(山梨)、GADORO(宮崎)、そしてDJ KRUSHが世界中を旅して持ち帰るサウンド。日本語ラップが「東京のシーン」から「各都市に点在する現場の集合」へと重心を移してきたこの20年の動きを、Day 2のラインナップは特に濃く映している。

そしてこの地方発モデルは、2026年の現在も生きている。HIPHOPCsが2026年3月9日の徳島発ラッパーWatsonの初武道館ワンマンを詳報したとおり、徳島を拠点にストリーミング時代のフォーマットとは別の文体を積み上げた一人のラッパーが、東京や大阪を経由せずに武道館のステージに到達した。田我流(山梨)、GADORO(宮崎)、THA BLUE HERB(札幌)が切り拓いた「地方から全国へ」の水脈は、一度途切れたわけではなく、世代をまたいで太くなっている。

地方から作品を出し、東京の大型資本を経由せずに全国のリスナーに届けるには、流通・配信・プロモーションを共有してくれるパートナーが必要になる。ULTRA-VYBEは、そのパートナーの一つとして40年機能してきた。出演アーティストの所在地が一都市に偏っていないのは、偶然ではない。

「FORTH FROM FORTY」で確かめられること

THA BLUE HERBのライブは、その日その場の空気でILL-BOSSTINOの言葉選びが変わる。SHINGO★西成のステージは、会場と会話するように進む。DJ KRUSHのセットはヒップホップを「ターンテーブルと空間」の原点に戻す作業であり、2セットとして同じものが存在しない。40分×4組という尺は、各アーティストが自分の現在地をきちんと提示するのにちょうど良い。

2026年前半の日本語ラップは、POP YOURS 2026Tiji Jojoの武道館「LONG LIVE LOUD」YZERRの豊洲PIT初ソロワンマン「ROD III Concert」をはじめ、ソロアーティストが独立経路で大箱に到達する事例が連続している。FORTH FROM FORTYはその系譜を、40年という時間軸で逆方向から照らす場である。いま武道館やアリーナに立っているラッパーの背後には、40年ULTRA-VYBEが流通を回し続けてきた土壌がある。それは決して誇張ではない。

40年という節目は、40年ぶんの積み重ねを一度に見せるためにある。日本語ラップがメジャーの枠外で続けてきた「自主独立」の流儀が、いまも現役で鳴らされているという事実──それを肌で確かめるための2日間が、5月10日と6月20日に恵比寿LIQUIDROOMで用意されている。10,000タイトルと1,500レーベルを支え続けてきた血管が、舞台の上で人間の声として響く瞬間を、できるだけ多くの耳に届けたい。

チケットはイープラスで受付中。Day 1のみ、Day 2のみの参加も可能だが、ULTRA-VYBEというレンズで日本語ラップ40年を通しで眺めたいなら、2日間通しでの体験を勧めたい。

参考

・音楽ナタリー「ULTRA-VYBE 40th Anniversary Event “FORTH FROM FORTY”」関連記事
・Spincoaster「ULTRA-VYBE設立40周年記念イベント第1弾/第2弾」(2026年3月19日・4月20日)
・Musicman「ULTRA-VYBE(ウルトラ・ヴァイヴ)、設立40周年記念イベント第1弾」(2026年3月19日)
・ULTRA-VYBE公式サイト https://www.ultra-vybe.co.jp/
・CDJournal「ウルトラ・ヴァイヴ創立35周年」(2021年2月)
・iFlyer ULTRA-VYBEインフォメーション
・Musicman「ULTRA-VYBEが新レーベル『Ultrax』設立」(2017年8月)
・Wikipedia『ウルトラ・ヴァイヴ』『ザ ブルーハーブ』各項
・音楽ナタリー「THA BLUE HERB」アーティストプロフィール
・日本テレビ『news zero』2022年2月11日放送(櫻井翔×平野歩夢インタビュー)
・Number Web「平野歩夢『THA BLUE HERBが好き』は必然だった?」(2022年3月3日)
・タワーレコード「いま改めて注目を集めるTHA BLUE HERBの名作をご紹介!」(2022年2月14日)

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