「I’m coming for my respect(俺は俺のリスペクトを取り戻しに来た)」と名言を放ち、6年ぶりに、あの漢(おとこ)が新アルバムを引っ提げて戻ってくる!
そう。コンプトンのベテランラッパーYGが、約4年ぶりとなるニューアルバム『The Gentlemen’s Club』を6月19日にリリースする。長年ウェストコースト・ヒップホップの第一線で活躍してきた彼にとって、本作は単なる新作ではない。失った評価を取り戻すための再出発とも言える重要な作品となる。
YGは先日、DJ Hedとのインタビューで自身のキャリアを振り返りながら、同じコンプトン出身のKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)から受けたアドバイスを明かした。「このアルバムの目標はリスペクトを取り戻すことだ」そう語ったYGは、自身がこれまで十分な評価を受けてこなかったことへの率直な思いを打ち明けている。
「BETアワードにまともにノミネートされたこともない。10年以上このゲームにいるのに、大きな賞レースで認められたことがないんだ。」その背景には、かつて所属していたDef Jamとの契約問題もあったという。YGは当時の契約内容に不満を抱えており、創作意欲よりも契約消化を優先してアルバムをリリースしていた時期があったことを認めた。
そんな過去をケンドリック・ラマーに打ち明けたところ、返ってきたのは厳しくも本質的な言葉だった。「そんなことは絶対にするべきじゃない。毎回、自分のすべてを注ぎ込まなきゃいけない」
YGはその言葉に素直に向き合ったそうだ。「俺は間違っていた」と。そして満を持して完成したのが『The Gentlemen’s Club』だ。
YGによれば、本作はコンセプトアルバムとして制作されており、自身の実体験やリアルな視点をもとにしたストーリーが描かれているという。アルバムタイトルを反映したアートワークも公開されており、スーツジャケットに黒い手袋を着用したYGが印象的なポーズを取る姿からは、これまでのストリート色とは異なる洗練された世界観が感じられる。
また、本作はDef Jamを離れ、10K Projectsへ移籍してから初めて発表するアルバムとなる。新たな環境での第一歩という意味でも、その重要性は大きい。すでにアルバムからは盟友Ty Dolla $ign(タイ・ダラ―・サイン)を迎えた『TEACH YUH HOW TO LOVE ME』、そして『State of Emergency』が先行公開されている。
前作となる2024年のミックステープ『Just Re’d Up 3』には、Lil Yachty、G Herbo、Mozzy、Babyface Ray、Tee Grizzley、Saweetie、Mustardら豪華ゲストが参加したが、今作ではYG自身の物語と表現により重きが置かれているそうだ。
2014年のデビューアルバム『My Krazy Life』で一躍シーンの中心へ躍り出て以降、『Still Brazy』『Stay Dangerous』『I Got Issues』など数々の作品を発表してきたYG。ウェストコーストのストリートを体現するラッパーとして確固たる地位を築いてきた一方で、本人の中には「まだ認められていない」という思いが残り続けていた。
現に、ラッパーとしてのYGにはいつも「ギャングスタ・ラッパー」というレッテルが付きまとっている。彼の代表作である『My Krazy Life』は、西海岸版『good kid, m.A.A.d city』とも評されるほど完成度の高いコンセプトアルバムだ。にもかかわらず、パーティー系、ブラッズ(ギャング)代表、クラブ向けのヒットメーカー等々の評価であった。その上、『My N***a』や『Who Do You Love?』のヒットが大きすぎて、「アルバムアーティスト」としての評価が十分に浸透しなかった。
また、同時代のコンプトン(ブラッズのYG的に言うBompton/ボンプトン)には既存の通りケンドリック・ラマーというモンスター級の存在がいたことも大きい。ケンドリックが芸術性や社会性で評価を集め、故Nipsey Hussle(ニプシー・ハッスル)がコミュニティへの貢献で称賛される中、YGはストリートやギャングカルチャー、クラブヒットを体現する存在として見られてきた。そのため、シーンにおける重要性に比べて、批評家からは「重要なアーティスト」よりも「人気アーティスト」として扱われることが多かった。
さらにYG自身が今回のインタビューで認めているように、キャリア中盤には契約上の問題から作品制作へのモチベーションが十分でなかった時期もあったという。『Still Brazy』が高い評価を獲得した一方で、その後の作品群は賛否が分かれ、アルバムごとの評価にばらつきが生じた。「常に傑作を作り続けるアーティスト」という評価を確立できなかったことも、賞レースや批評家から距離を置かれる要因になったのかもしれない。
それでもYGが2010年代以降のウェストコースト・ヒップホップに与えた影響は決して小さくない。彼はLAギャングスタラップの伝統を現代に継承し、ストリートのリアリティを武器に独自のポジションを築いてきた。だからこそ、『The Gentlemen’s Club』は単なる7作目のアルバムではないのだろう。契約に縛られていた過去と決別し、ケンドリック・ラマーの助言を胸に、自身のすべてを注ぎ込んだ作品となる。YGが語る「リスペクトを取り戻す戦い」は、このアルバムから本格的に始まろうとしている。いやあ、楽しみだ!
本記事の画像はYG公式Instagram(@yg)の投稿より、報道・批評を目的として引用しています。著作権は権利者に帰属します。
── HIPHOPCs編集部
Seiライターの筆が伝えるとおり、『The Gentlemen’s Club』は単なる7作目ではない。その「楽しみだ」という熱量に、編集部としても全面的に同意する。そのうえで、最後に一本だけ補助線を引いておきたい。YGが取り戻したがっているのは初動の数字ではなく、批評と賞レースでの評価だ。皮肉なことに、同じコンプトンのケンドリックはグラミーで頂点に立ったばかり。だとすれば、本作の真価が問われるのは発売初週のチャートではない。年末のベストリストであり、来年の賞ノミネートだ。前作『I Got Issues』はBillboard 200で18位スタートだったが、今回の“勝敗”は順位ではなく、誰がどう語るかで決まる。6月19日は、その答え合わせの始まりに過ぎない。
