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Kanye West、AIボーカル制作で提訴──『VULTURES 2』は発売2日前に仕上げられた

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Ye(Kanye West)が、また訴えられた。

今度の原告はモデルでも元アシスタントでもない。彼のアルバムを実際に作った側の人間だ。

氏名を伏せて「John Doe」名義で提訴したフリーランスのプロデューサー。『VULTURES 2』と『BULLY』でAIボーカルを作った、と主張している。

報酬も、契約書も、配信サービスのクレジットも受け取っていない。請求額は11万ドルだ。

以下はすべて訴状の主張で、裁判所が認定した事実ではない。

それでも読む価値はある。AIをめぐる論争の焦点が、「使ったかどうか」から「作った人間をどう扱うか」へ動いているからだ。

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48時間で13のボイスモデル──訴状が書いている作業量

まず出所を確認しておく。Rolling Stoneは「訴状を入手した」と書き、Complexも「reviewed by Complex」と明記している。訴状を自分で読んだ媒体が2つある。

TMZは8月4日、RSにない請求額の内訳まで書いた。

いっぽうNME(8月6日)はRolling Stoneを出典として引く後追いだ。ここは数に入れない。

その訴状によれば、YeとYeezy側がこのプロデューサーを雇ったのは2024年8月1日。「緊急の依頼(an emergency basis)」だったとされる。

その2日後の8月3日、『VULTURES 2』は配信された。Apple Musicで確認できるリリース日は2024年8月3日、収録16曲、℗表記は YZY

つまり彼は、16曲入りのアルバムが世に出る48時間前に呼ばれたことになる。

訴状によれば、この48時間ほどで彼がやったのは次の作業だ。

  • 少なくとも13種類のカスタムAIボイスモデルを作成
  • 400を超えるボーカルを生成
  • 素材として自分自身の声を録音して提供

「極度の時間的プレッシャーの下で(under extreme time pressure)」行われたこれらの作業は、『VULTURES 2』の5曲に反映されていると彼は主張する。

16曲中5曲。訴状の言うとおりなら、収録曲のおよそ3分の1に、その48時間で作られたAIボーカルが入っている。

作業はそこで終わらなかった。2024年10月からは『BULLY』にも関わったとされる。AIボーカル制作に加えて、商業リリースされた2曲ではライティングにも参加したという。

ただし『BULLY』のほうは、AIボーカルが何曲に入ったのかが報道からは読めない。Complexも曲数を書いていない。数が出ているのは『VULTURES 2』の5曲と、『BULLY』のライティング2曲だけだ。

『BULLY』が実際に出たのは2026年3月28日(18曲)。デラックス版は同年6月19日で32曲になった。最初の依頼から数えると、1年半以上の距離がある。

そして訴状の核心は、この一文だ。

despite nearly two years of demands, defendants have refused to compensate plaintiff for plaintiff’s services, have failed to provide any written contracts as required by law, and have failed to credit plaintiff on digital streaming platforms for his creative contributions.

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(2年近くにわたる要求にもかかわらず、被告らは原告の役務に対する報酬支払いを拒み、法が求める書面契約を交わさず、創作上の貢献について配信プラットフォーム上で原告をクレジットしなかった)

訴状によれば、Ye側はいったん彼の作業を認め、配信プラットフォームのクレジットを更新すると伝えたという。その後に提示されたのが「master buyout(マスター買い取り)」だった。

請求は11万ドル、根拠はAI法ではなく労働条例

請求額は11万ドル。Complexは「7曲分の役務に対して11万ドル($110,000 for services rendered on seven released tracks)」と書いている。

ここにロサンゼルス市フリーランス労働者保護条例(Los Angeles Freelance Worker Protections Ordinance)に基づく倍額賠償が乗る。Rolling Stoneは合計で「少なくとも22万ドル」と表記している。

TMZは内訳まで書いた。『VULTURES 2』分が8万ドル、『BULLY』分が3万ドル。リリースされなかった曲の作業については別途請求しているという。

この2つの数字を並べると、単価が見える。

訴状が『VULTURES 2』の5曲を挙げ、『BULLY』でライティングに関わった商業リリース曲を2曲としているなら、7曲の内訳は5+2になる。

8万ドルを5で割れば1曲1万6000ドル。3万ドルを2で割れば1万5000ドル。2枚のアルバムをまたいで、ほぼ同じ単価が立つ。

(この割り算は本誌によるもので、訴状が単価を示しているわけではない)

ならば11万ドルは総額ではない。世に出た7曲を、1曲1万5000ドル台で数えた最低ラインだ。

ヒップホップの訴訟としては、地味すぎるほど地味な数字である。アルバム2枚のAIボーカルを全部やってこの額、という請求の立て方をしている。

訴因は、契約違反、不当利得、カリフォルニア州不正競争法違反、そして州・市のフリーランス労働者保護法違反。提訴先はロサンゼルス郡上位裁判所である。

注意して読んでほしいのは、この訴訟が「AIで音楽を作るのは是か非か」を争っていないことだ。

争点は、書面契約がなかったこと。支払いがなかったこと。クレジットがなかったこと。訴え方としては、あまりに古典的な労働と報酬の話である。

AI音声という新しい技術が、契約書という一番古い書類の不在で裁かれようとしている。

現時点でYe側の言い分は出ていない。

Rolling Stoneのコメント要請に、Ye側の広報は当日中に回答しなかった。NMEも「West側にコメントを求めた」と書いている(回答の有無は記載されていない)。

Complexのほうは原告側弁護士に問い合わせ、こちらも即答は得られていない。原告の氏名も公開されていない。

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初週10万7000ユニットのアルバムの、48時間前

『VULTURES 2』は2024年8月、Billboard 200で初登場2位に入っている。初週10万7000ユニット。1位を阻んだのは、通算14週目の首位に立ったTaylor Swift『The Tortured Poets Department』の14万2000ユニットだった。

10万ユニットを動かしたアルバムが、発売2日前に外部の人間を緊急招集して仕上げられていた。訴状の主張が事実なら、そういう話になる。

Yeのロールアウトが混乱するのは今に始まったことではない。ただ今回は、その混乱の穴を、名前の出ない誰かのAIモデルが埋めていたことになる。

そしてクレジット。配信サービスのクレジット欄は、いまや職歴の証明であり、次の仕事の入口だ。

訴状の主張の中でいちばん重いのは金額ではなく、「配信プラットフォーム上でクレジットされなかった」という部分だと私は読む。金は後から払える。載らなかった名前は、その曲が聴かれ続けるあいだずっと空白のままだ。

3か月前、Yeは「クリアされていない他人の仕事」で負けている

金額の相場を測るのに、ちょうどいい前例がある。

Yeは今年5月、『Hurricane』をめぐる著作権侵害訴訟で敗れている。

争点は配信中の音源ではない。2021年7月、アトランタのMercedes-Benz Stadiumで開いた『Donda』試聴イベントで流した初期バージョンだ。

そこに「MSD PT2」という未クリアのサンプルが入っていた。Khalil Abdul-Rahman、Sam Barsh、Dan Seeff、Josh Measeの4人が作った、1分ほどの未発表インストである。

動員は4万人。この一夜の稼ぎを、原告側の弁護団は公判で約560万ドルと主張した。チケット、マーチャンダイズ、Apple Musicとの配信契約を合わせた額だ。

陪審が命じた支払いは、Ye個人に17万6153ドル、Yeezy LLCに同額。Yeezy SupplyとMascotte Holdingsにも4万1625ドルと4万4627ドルが課された。4者合わせて40万ドルを超える。

原告側の見立てで560万ドルのイベント。そこで使われた未クリアのサンプル1つに、40万ドル強。

判決後、Yeezy側の広報はこれを勝利だと主張した。「6か月前、彼らはYeから3000万ドルを取ろうとしていた」と述べ、訴え自体を「failed shakedown(失敗した恐喝)」と呼んでいる。

ただし3000万ドルはYe側の言い分であって、原告側が認めた数字ではない。

原告側の団体Artists Revenue Advocatesは、控訴する意向を示している。対象は、配信中のアルバム版に関わるより大きな請求を退けた判断だ。行き先は第9巡回区控訴裁。

この件はまだ終わっていない。

いずれにせよ、Yeを相手にした権利の争いが数十万ドルで着地した例は、もう出ている。

40万ドル強のほうは、1分の未発表インスト1つの話だ。11万ドルのほうは、13のボイスモデルと400以上のボーカル生成の話である。

額の差には、片方が著作権侵害として争われ、もう片方が主に契約・報酬・クレジットの問題として請求されている違いもある。

効いてくるのは、この裁判で出た証言のほうだ。

Yeは、クリアランスがないと分かったあとで自分からそのサンプルを外した、と法廷で述べている。権利処理されていない他人の仕事が自分の曲に入っている状態を、彼は認識して手を打てる人間だ、ということになる。

同じ法廷で彼は、自分は共作者に対して「very generous」だとも証言している。

「I pride myself when people [are] getting what they deserve(人がふさわしいものを受け取ることに誇りを持っている)」——そう述べたと報じられている。

サンプルは外した。今回訴状が言っているのは、外さずに使い続けたほうの話だ。

AIボーカルという仕事には、まだ職種の名前がない

この件は、AIが人間の仕事を奪うという分かりやすい話ではない。むしろ逆だ。AIを回すために、新しい人間の仕事が生まれている。

13のボイスモデルを設計し、400以上のボーカルを生成し、足りない部分に自分の声を入れる。訴状が言っているのはそういう作業だ。自動化ではなく、職能である。

ところが、その職能には名前がまだない。エンジニアなのか、プロデューサーなのか、ボーカリストなのか。呼び名が定まっていない仕事は、契約書の様式もなければ、クレジット欄の行もない。今回の訴えは、そこに突っ込んでいる。

業界の側が、この空白を放置してきたわけではない。

Recording Academyは2023年にルールを改めている。AIを使った楽曲もグラミー選考の対象にする。ただし受賞できるのは「human creators」だけで、その人間の貢献が「meaningful」であることを求める(Rolling Stone)。

だが、その「人間」が誰なのかを外から確かめる手がかりは、結局クレジットしかない。

名前が載らなければ、貢献した人間がいたこと自体を証明できない。ルールが人間を守ろうとしても、クレジット欄が空白なら空回りする。

ヒップホップは、他人の声と音を素材にして始まった音楽だ。サンプリングが権利処理の型を持つまでには何十年もかかり、その間に無名の演奏者が大量に取りこぼされた。

だが型はできた。だからこそ1分の未発表インストを作った4人は著作権で訴えて、陪審に侵害を認定させられた。名前を貸した側が金を取り返す道が、一応ある。

AIボイスモデルには、それがない。だから今回の原告は著作権ではなく、フリーランスの未払いを取り締まる市の条例に手を伸ばした。音楽の権利ではなく、労働の未払いとして戦うしかなかった、と読むこともできる。

素材にされているのが過去のレコードではなく、いま生きている人間の声だという点も違う。彼は自分の声を録って渡している。

本誌は6月、SZAがAI Watchdogで自身の238曲がAI開発者間で共有されるデータセットに含まれていたことを確認し、AI音楽をめぐって強く抗議した件を報じた。

そして同月、Tyler, The CreatorがAIブームとデータセンターに声を上げた件を扱った。

7月には、50 Cent、Eminem、2Pacの楽曲をめぐる「AIではない」という否定を取り上げている。

そして8月8日には、Tygaが新作『$TARFACE』の制作にAIを使ったと認めた件を本誌で検証した。TygaはAIをAuto-Tuneと同じ「道具」と位置づけた一方、IFPIがその1週間前に公表した新基準は、AIを使った録音物について「実質的に人間が制作していること」と、使用を消費者に適切に示すことを求めている。

どちらも、AIを使ったか使っていないかという入口の話だった。今回の訴状は、その先にある。すでに使われている。問題は、使った現場で誰が名前を持てるかだ。

日本語圏でこの件が流れるとき、たぶん「Yeのアルバムに実はAIが使われていた」という一行になる。そうなると話は、音楽が本物かどうかという議論に吸い込まれていく。

訴状が突きつけているのは、もっと即物的な問いだ。48時間で呼ばれて、モデルを13個作って、名前が載らなかった。

あなたの現場では、それはいくらの仕事なのか。

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答え合わせは、この4つで出る

  • Ye および Yeezy 側の応訴内容。 書面契約の不存在を争うのか、成果物の使用範囲を争うのか。ここでこの裁判の性格が決まる
  • 配信サービスのクレジットが実際に更新されるか。 訴状によれば、Ye側は一度これを約束したとされる
  • 市の条例に基づく倍額賠償が認められるか。 認められれば、AI制作の未払いにこの条例を使った前例になる
  • 原告の氏名が開示されるか。 John Doeのままなら、その理由自体がこの業界の力関係を示している

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