Kanye Westを訴えたモデルがBBCで証言。Ye「これは芸術だ」はどこまで通るのか

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「これは芸術だ。俺はピカソみたいなものだ」

この言葉は、二度登場する。

一度目は、2010年9月のニューヨーク。ミュージックビデオの撮影現場で、Kanye West(Ye)本人がそう叫んだ──と、訴状は主張している。

二度目は、2026年1月の法廷。今度はWestの弁護団が、同じ論理を法律の言葉に翻訳して裁判所に提出した。あれは表現行為だった。だから保護される、と。

モデルのJennifer An(Jenn An)がWestらを相手に起こした民事裁判が、いま再び動いている。きっかけは、An本人がBBCのポッドキャスト『Fame Under Fire』で語った証言だ。

先に、この記事の立場を書いておく。ここで扱うのは、民事裁判での申し立てと、双方の言い分だ。Westの責任が裁判で認められた事実は、いまのところない。その線を最後まで守ったうえで、この一件がヒップホップに突きつけているものを読む。


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何が起きているのか

流れは4つの日付で追える。BBCの番組ページ、Rolling Stoneが報じた裁判資料、そしてPitchforkの提訴時報道をもとに整理する。

  • 2024年11月──Anがニューヨークで提訴。根拠はニューヨーク市のGender-Motivated Violence Protection Act。性差に基づく暴力について、時効が壁になる場合でも一定期間だけ民事で訴える道を開く法律だ。被告にはWestのほか、Universal Music Groupと制作会社Stink Digital USA LLCが含まれると報じられている(Pitchfork)
  • 2026年1月──West側が、訴えを退けるよう申し立て。「表現行為」の主張はここで出た
  • 2026年3月──An側が、主張を裏づけるとする書面を提出
  • 2026年6月──AnがBBCで証言。Rolling Stoneなど各社があらためて報じた

舞台とされているのは、La Rouxの曲「In for the Kill」リミックスのミュージックビデオ撮影現場。訴状では、2010年9月、マンハッタンのChelsea Hotelで行われた撮影とされる。

裁判はまだ続いている。申し立ての中身が、法廷で審理されたわけではない。


Anが語ったこと(申し立て)

Anは『America’s Next Top Model』2009年シーズンのファイナリスト。この撮影には、バックグラウンドの出演者として参加していた。

訴状とBBCの取材によれば、Anの主張はこうだ。

撮影の途中、現場に現れたWestが、台本にない形で彼女の首を両手で絞めた。顔のメイクを擦り、口の中に指を入れて出し入れした。

BBCには「突然、手を伸ばしてきて首を絞め始めた」と振り返っている。息ができず、何が起きているのか分からないまま、怖かった。その映像は、完成版には使われなかったとされる。

訴状には、もう一つ見過ごせない言葉がある。Westは現場で「あのアジア人の子を寄こせ」とAnを指名し、一連の行為の最中に、冒頭のあの言葉──「これは芸術だ。俺はピカソみたいなものだ」──を叫んだ、とされている。

繰り返すが、ここまではすべてAnの申し立てだ。裁判で事実と認められたわけではない。この区別は、最後まで崩さない。


裏づけとされているもの

An側が主張を補強するものとして提出した材料が、複数報じられている。

一つは、楽曲のアーティスト本人の言葉だ。Rolling Stoneが入手した裁判資料によれば、La Roux(本名Elly Jackson)はInstagramのメッセージで当時の出来事に触れ、忘れられない、「horrific(ぞっとするもの)」だったという趣旨を書いていたという。

もう一つは、現場にいた第三者の証言だ。Michelle An(原告とは無関係の同姓の人物)が書面を出している。内容は慎重で、自分のいた場所からは首や口への接触そのものは見えなかった。ただ、Westが原告の口元で親指を往復させているように見えた場面は覚えている。なかったと言っているのではなく、自分の位置からは見えなかったということだ──と、彼女は述べている。

全面的な裏づけではない。だが、An側は今年3月、こうした材料を含む書面を裁判所に出した。


Ye側の言い分(抗弁)

ここが、この裁判の核心だ。

報道によれば、West側の弁護団は今年1月の書面で、申し立てられた行為は「表現作品を作る過程で起きたもの」だと主張した。だから、合衆国憲法修正第1条──表現の自由を守る条文──によって保護されるべきだ、と。

弁護団はAnを「ステージ・パフォーマンスに同意して参加した者」と位置づけた。問題の場面は、映画『アメリカン・サイコ』の一場面のような演出になぞらえられている。そのうえで、行為が「結果的に原告の呼吸を苦しくさせた可能性はある」としつつ、法的な責任は否定し、訴えそのものを退けるよう求めている。

まとめれば、こういう組み立てだ。あの場面は演出されたパフォーマンスであり、表現行為である。したがって、法的責任は認められない──。

An側はこれに反論している。撮影現場は、演出の名のもとに何でも許される場所ではない。あれは同意の範囲を超えていた、と。Anの代理人Jesse Weinstein弁護士はBBCに対し、行為を芸術的表現として位置づけるこの組み立てを「非常に危険な先例になる」と批判した。


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なぜ、ただの訴訟ニュースではないのか

まず、当事者が自分の言葉で語り始めた。提訴は2024年11月。書類の中の争いだった一件が、1年半を経て、本人の声で公共の議論に変わった。

そして、Yeをめぐる法的な問題は、もう単発ではない。HIPHOPCsが追ってきただけでも、元アシスタントによるセクシャルハラスメントの訴訟元従業員が差別的な扱いを訴えた裁判問題を報告した後に脅迫を受けたとする元側近の証言──と、職場や現場をめぐる申し立てが続いている。

いずれも申し立てや係争の段階で、結論が出たものではない。だが、並べたときに見えてくる輪郭はある。閉じた現場。強い権力。声を上げにくい立場の人たち。今回の訴訟も、その構図の上に置かれている。

HIPHOPCsは今年3月、アルバム『BULLY』を「社会的に失ったものを取り戻そうとするプロジェクト」として読んだ。その「失ったもの」には、こうした係争が積み上げてきた信用も含まれる。

だからこそ、読者に必要なのは一件ごとの真偽を決めつけることではない。申し立てが積み重なっている状態と、司法の判断がまだ出ていない状態が、同時にある。それを見失わないことだ。

そして最後の一つ──これが本題だ。「表現だった」という言葉が、法廷で責任を打ち消す盾として使われている。この論理は、ヒップホップにとって他人事ではない。


HIPHOPCsの視点──「これは芸術だ」が二度使われる

冒頭に書いた通り、「これは芸術だ」という言葉は二度現れる。だが、二度の重みは同じではない。

現場の宣言が、十数年後に法廷の防御として再登場する。一度目はあくまで申し立てで、本当にあったかどうかはまだ審理されていない。だが二度目は違う。「表現行為だから保護される」という書面は、現実に存在している。

ヒップホップは、過激な表現を「アート」として守ることで自由を勝ち取ってきた文化だ。歌詞も、ビジュアルも、パフォーマンスも、その過剰さが推進力だった。だからこそ、この言い分の行方は重い。もし「芸術のための演出だった」という主張が、撮影現場での身体への接触をめぐる責任を消す鍵として通用するなら、その扉は誰に対しても開く

しかも、法廷とアートの関係は一方向ではない。HIPHOPCsが追ってきたように、Lil Durkの裁判では歌詞そのものが証拠として出された

つまり、いまの米国の法廷で、ラッパーの表現は検察の武器にも、弁護の盾にもなっている。攻撃に使うときは「あれは現実だ」と言われ、防御に使うときは「あれは芸術だ」と言われる。この都合のよさをどう整理するかは、ヒップホップという文化全体に返ってくる問いだ。

線を引こうとしているのは、米国の法廷だけでもない。英国では今年4月、Wireless Festivalのヘッドライナーを務めるYeに対し、移民法に基づく入国阻止を求める動きが政治の場で起きた。Yeの表現と行動を、どの制度がどう裁くのか。その問いが、いま複数の場所で同時に動いている。

もう一つ。問われているのは、West一人ではない。被告にレーベルと制作会社が入っていると報じられている通り、争点は撮影現場という閉じた空間で、出演者の安全を誰が守るのかという、業界の仕組みそのものに及ぶ。

HIPHOPCsはこの件を、「Yeがまた訴えられた」という消費される速報では終わらせない。アートの自由と、現場の安全と、司法の判断。その三つが交差する場所として記録する。


これからの焦点

  • West側の棄却申立に対する裁判所の判断。「表現行為」の言い分がどこまで通るか
  • An側の書面とLa Roux(Elly Jackson)のメッセージが、審理でどう扱われるか
  • West本人またはチームからの公式声明の有無(現時点では、West側の広報は裁判資料を参照するよう述べるにとどまる)
  • Yeをめぐる他の係争・告発との関係

主要参照リンク

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画像:左=Ye公式Instagram(@ye)、右=Jenn An公式Instagram(@thejennan)より。報道・批評目的の引用として掲載。著作権・肖像権は各権利者に帰属します。権利者からの申し立てがあった場合は速やかに対応します。
Images: Left — Kanye West (Ye) via @ye on Instagram. Right — Jenn An via @thejennan on Instagram. Used for news reporting, criticism, and commentary. All rights belong to their respective owners.

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