東京都23区最北端、足立区。
埼玉との境界線に面し、四方を河川に囲まれたこの土地は、かつてより「治安の悪い街」としての印象が強かった土地である。
そのため、自治体は悪印象を払拭すべく、イメージアップキャンペーンを実施している他、再開発を進め、過去に落とされた影の清算を実行。大学誘致や大型商業施設などが建設され、繁華街は盛り上がりを見せるようになった。
しかし少し道を外れると、いわゆる煌びやかな”Tokyo”の雰囲気は少しずつ薄れていく。
子供たちの声や学校のチャイムがどこからともなく響き、自転車がキリキリと音を立てながら通り過ぎていく。誰かの当たり前のためにある、来たことないはずなのにある種のノスタルジアを感じさせるような街が”ぬるり”と現れる。
そして、その街はNytureとKazuki Itoという2人の芸術家を、とある同じ地点に誘った。
足立区を拠点とするNytureは、2021年に1stアルバム『PLAYGROUND MIXTAPE』をリリースすると共に活動を本格化。同アルバムはShowyの2人が参加していたことや、癖になるデリバリーを生かしたラップスタイルにより注目を集めた。
そして2025年、話題のクルーSpider WebのIvyとのコラボアルバム『マケナイ』『マケナイ裏』では、同じくSpider WebからHarmm、杉並区出身のJumadibaが参加。どこか懐かしさを感じるビートの上に程よく力が抜けたキャッチーなラップを披露している。
Nytureのラップを感覚で例えるとするなら、「固体であり液体でもある」という表現が筆者自身一番しっくりくる。
日本語のカクカクとしたソリッドな質感は確かに残っているのに、どこか英語に触れた時に感じる滑らかな感触があるのだ。その圧倒的なバランスの上で繰り出されるフリースタイル。この掴みどころのない感覚こそ、彼の楽曲が人々を魅了する所以なのだろう。
同じく足立区出身のKazuki Ito(旧名IK)は、映像監督を務める他、絵本作家やグラフィックデザインなど、表現の手法に限りがない鬼才である。
彼が手掛けてきたアーティストを挙げてしまえば枚挙に暇がない程。
Nytureはもちろんのこと、MONYPETZJNKMNやRalph、LEXにOZworld、Showy等々。出てくる名前の全てが第一線で活躍しているアーティストばかりであるということからも、シーンにおいて彼が如何に強い信頼を得ているかがわかるだろう。
そして、彼の映像は千葉雄喜の名前を世界に轟かせる足がかりとなったことを忘れてはいけない。
「ハート絵文字」「チェーンが歌う」「商売繁盛」「重てぇ」といった楽曲たちを彩り、アイコニックなコンテンツへと変化させたMVのクレジットにおいて、度々「Kazuki Ito」の名前を目にしているはずだ。
さらに前述の通り、彼は映像に留まることなく、エナジードリンク「ZONe」のパッケージデザインを務めるなど、その手腕を振るい続けている。
NytureとKazuki Ito。聴覚と視覚。
それぞれ別の感覚に対して芸術を創造する2人はどのように出会い、親睦を深めたのか。彼らにとっての足立区とは。彼らの創作における根源的な要素とは。
今回もYTG Samと共にKazuki Itoの実家にお邪魔し、2人が共に過ごしていた当時の空気感を存分に感じながら話を伺った。
Nyture & Kazuki Ito、絶妙なバランスを保ちながら「ADC」をばら撒いていく2人の目に映る景色に迫る
Lucie:それでは、始めさせて頂きます!
ではまず、改めてお2人の自己紹介をお願いできればと思うのですが…。
Kazuki:ええと、そうですね。Kazuki Itoです。
Lucie:よろしくお願い致します。Itoさんに関しては、元々IKっていう名前で活動されていましたが…。
Kazuki:そうですね、元々はIKだったんですけど。今はKazuki Itoでやってます。
Lucie:そして…。
Kazuki:で、コイツは****(Nytureの本名)です。
Nyture:もうお前はしゃべんな。
Sam:え!?そんな名前なんだ!?
Lucie:(笑笑笑)。もう、仲が良いことは見ていれば伝わってくるんですけど、改めてお2人の関係性について教えてほしいですね。
Kazuki:友達です。小3までは学童保育だったから遊んでなくて、全然仲良いってわけじゃなかったんですけど。小4から仲良くなったって感じでしたね。
Lucie:何をきっかけにしてそんなに仲良くなったんですかね?
Kazuiki:この5軒、6軒くらい隣がコイツの家だったんですよ。
今は違うアパートになっちゃったんですけど。めっちゃサグいアパート、タケシの映画に出てくるようなサグアパートが元々あって。ここの並びほとんど一軒家しかないのに、そこだけ集合住宅で、すごい雰囲気を醸し出してましたね。
Lucie:なるほど、もう近いが故にって感じですね。
2人とも足立区出身ということですが、ここはどんな土地ですか?
Nyture:…どんな土地かな。うん、良い土地です。
Lucie:良い土地、どんな風に?
Nyture:埼玉みたいな東京です。
Lucie:なるほど?
Nyture:助かってます。ほぼ埼玉みたいな感じなのに、東京って名乗れるんで。
Lucie:そういう意味か(笑)。確かにガッツリ隣ですもんね。
Kazuki:普通に「ギリギリ原宿とか行ったことないんだよね」みたいなヤツいると思う。わかんない、さすがにないかもしれない。
Nyture:ギリいるよ、多分。
Lucie:え、ほんとに?え、どっち?え―――――
学級を騒がせる問題児との邂逅
Lucie:ところで、お2人はどんな幼少期を過ごしてたのでしょうか。
Nytureさんに関してはアーティスト情報に「ハードな幼少期を過ごしていた」などと記載されていたり、多少は情報が出ていましたが…。詳しいことまでは分からずじまいでしたので、話せる範囲でお聞かせ願えたらなと。
Nyture:あれ、俺どこかで話してたっけ?覚えてないや。
でも、全然ハードなことはないですよ。俺よりもっと荒んだ少年時代を送ってる友達はいるし。まぁKazukiからはハードそうに見えてたかもしれないけど。
Lucie:ふむふむ。自分ではどんな少年だったなと振り返りますか?
Nyture:とりあえず、学校では机の上に立ってました。向き合わないで。
Lucie:わお(笑)。
Kazuki:コイツ、小3の頃に学級崩壊させてるんですよ。
コイツのクラスだけ9月、10月ぐらいになっても4月頃の授業が終わってなかったりとか、狂っちゃう。
Lucie:あら、だいぶ先生泣かせな感じですね。
Nyture:そう、俺がふざけてたら皆に伝染してって、皆ふざける感じになっちゃって。
Kazuki:学校だとそんな感じだったから、最初はちょっと「嫌だな」って思ってましたね。
でも家が一番近かったり、家の前を通ってるのもよく見てたし。何だかんだでたまに一緒に学校行ったりとかしてて。
仲良くなってからは、ここ(Kazuki家)でコイツと一緒に朝飯食って、みたいな。俺の中で「面白いヤツ」に変わってたっすね。
Nyture:うん、面白いだけですよ。
Lucie:無いはずの記憶が浮かんでくるくらいに、とても素敵な思い出というか、なんか良いですね。言葉にし難い清らかさが伝わってきます。
僕自身、もう少し荒んだ少年期を過ごしていたなんて勝手に想像していて….。「名字が結構変わった」というお話を耳にしていたものですから…。
Nyture:ああ、2回ぐらい変わったすね。**から**に。
Kazuki:俺、最初コイツふざけてるんだと思ったんですよ(笑)。全然変わってないじゃないですか。
*実際、1文字しか変わっていなかった。
「またふざけてるよ」なんて思ってたら、マジで普通に変わってました。「本当だったんかい」ってなりましたね。
Lucie:実際、幼い時期に「名字変わる」とか言われてもね(笑)。「何言ってんだ」とはなりますよね(笑)。
病弱な少年期より構築されてきた美の感覚
Lucie:では、今まで全然語られる事の無かったItoさんの幼少期について、今度はお伺いしたいですね。どんな少年でしたか?
Kazuki:結構、僕は特殊でしたね。
Lucie:ふむふむ。
今はMVのディレクションをやりつつ、アートカバーを描いたり、商品のパッケージをデザインしたり、活動は多岐にわたると思うんですけど。
やっぱり昔から絵とかデザインとかに興味があったのでしょうか?
Kazuki:僕はもう、ひたすら絵描いてたっすね。あそこにある絵、あれも中2の時の絵なんですけど。
Lucie:え、すっご!
Nyture:俺視点でも言うと、マジでずっと絵描いてたやつですね。
Lucie:なるほど、もうそういうタイプの少年だ。ひたすら描きつづけるタイプの、友達からの「これ描いてあれ描いて」リクエストが止め処なく来るタイプの少年だ。
Kazuki:そう、さっきも家の中整理してたら昔の絵が出てきたんですよね。
多分ここら辺の絵は小学生のときとかに描いてたやつかな。ほら、昔も今もあまりやることは変わってない(笑)。ちょうど今ロボット作ってるんですよ。
Sam:この頃から結構Kazukiの感じは出てきてるよね。
Nyture:世界観できてる。
Kazuki:できてるね。で、影響を受けたモノはいっぱいあるんですけど…。
特に影響を受けたんだろうなっていうのは、安野光雅っていう絵本作家ですね。ここら辺の本とか。
Lucie:なるほど、確かに。空間の捉え方がすごい、この作家さん。
Kazuki:とにかく絵はずっと描いてた。めちゃくちゃ身体が弱かったんで。
Lucie:なるほど…。と、いうと?
Kazuki:1歳の時に、特殊な肝臓の病気に罹って死にかけたことがあります。
Lucie:えええ、それは大変だ(汗)。
Kazuki:その病気の治療の過程で、また別のウイルスに感染しちゃったりなんだりで、結構入院してたみたいですね。
Lucie:生まれたそばから多難すぎます(汗)。
Kazuki:まぁ色々あったんですけど、奇跡的な確率でなんとか回復したって感じです。
アレルギーも多かったですね。卵、小麦、牛乳….とか。幼稚園とかでも僕だけ飯違うみたいなことは当たり前だったし。今思えば、身体が弱かったお陰でずっと絵描いてたんだと思います。
リビングで起きていたカルチャーの原体験
Lucie:現在は2人ともヒップホップに関わっているということですが、当時はどんな音楽を聴いていたのでしょうか。
Nyture:昔は全然ヒップホップとかじゃなくて、その時流行ってるような…ギャルが聴いてるような音楽聴いてたっすね。上に兄貴がいるんで、その影響もあったかな。
Kazuki:僕の家は親がビートルズとかクイーンとか好きだったり、キングギドラのCD持ってたり色んな音楽に触れる機会があった気がします。僕は忌野清志郎にめちゃくちゃハマってたっすね。
Lucie:忌野清志郎!中々にOGですね。結構バラバラなジャンルで音楽に触れていたということですが、どんなきっかけでヒップホップに入ることになったんでしょう。
Nyture:お母さんがMichal Jacksonとか昔のR&Bは色々聴いてましたけど…。
多分、最初は中学校の頃…、兄貴たちが聴いてたEminemとかAK-69とかを聴いてて、そこから入ったっすね、多分最初は。
Lucie:なるほどなるほど。
Kazuki:僕がヒップホップを聴くようになったきっかけがコイツなんすよね。
ここら辺でパソコンがあるのがウチだけだったんですけど、ここに皆集まって。マジで黎明期だったYouTubeで動画とか映像を見まくるっていう時があったんです。
Lucie:まだレーティング機能が星の時ですよね(笑)。
Kazuki:そうそう。で、その時にヒップホップとかも聴いてて「ラップいいな」みたいな。
Nyture:何だっけ…俺はEminemを聴かせた記憶あるんだよな。違うっけ?
Kazuki:Emはね、中学行かなくなった時期に馬鹿ハマったんだよな。でも、AKがめっちゃ流行ってたっすね。AKの存在は大きかった気がする。
Nyture:で、何を最初に聴かせたか覚えてないですけど、何かを聴かせて…。
で、多分彼はそこからハマって、気づいたら俺が逆に教えてもらうくらい色んなアーティストを知ってたって感じ。知らない間にヘッズになってたっすね。
Kazuki:マジで一瞬でヘッズになりました。中1で。
偶然の再会と「ラップしてみれば?」
Lucie:そして、以前Nytureさん曰く、ある日Kazukiさんから「MV撮ることになった」と言われたと…。いきなりそんなこと言われるってめっちゃ面白いっていうか、ちょっと感動しますよね。
Nyture:中学生はお互い違う中学校行ってたものの、家近いからちょいちょい遊んでたりしてたんですけど、…まぁ、高校で僕が少しグレだしたりして、会わなくなった。
Kazuki:そうね。中学生くらいから徐々に会わなくなった。
Nyture:高校3年間は全く会わなくて…。
で、久しく会ったのが俺が現場仕事してる頃で、Kazukiは大学生の頃?竹ノ塚の居酒屋でお互い違う友達と飲んでる時に会って。
Kazuki:本当に久々だった。高校3年間は僕が地元を出てたので。
Nyture:Kazukiはその頃にはMVとかアートワークをやりだしてて、クラブとかにも行ってる頃で。
んで、その居酒屋で会った時に「ラップしてみたら?」みたいな、本当に会話の流れで。
Lucie:え、その「ラップしてみたら?」で始まったんですか?
Nyture:そんな感じで。
Kazuki:僕はその頃に確信があったんすよ。
ラップは流行ってるけど、ヒップホップは流行ってないなと思ってたし「僕の地元のヤツらの方が、ラップはしてないけど目つきとかかっこいいかな」って思ってました。
Nyture:でも、その一言「ラップしてみたら?」って言われた時に「確かに」って思った。
昔から俺のこと知ってるKazukiから言われたってのもあるし「多分、俺絶対負けない」って、ふと思いましたね。
Kazuki:その居酒屋で偶然再会した時、「色々なモノを見てきた」っていう目をしてたし、絶対にラップしたほうが良いって感じた。
コイツが色々見てきた時期の話は、俺も会ってなかったんで全然知らないっす。
Lucie:その時期の話はあまり言及したくない…ですよね?
Nyture:そうっすね…いいかな(笑)。
「ADC」が示した制作活動への道
Lucie:その「MV撮るわ」とNytureさんに伝えたとのことですが、どのような経緯で映像の世界に足を踏み入れたのでしょうか。
Kazuki:最初は、親が新聞記者なんでジャーナリズムとかテレビとか、メディア放送に最初行こうとしてたんです。大学も政治経済学部入って、ゼミにも入って勉強してました。
多分、当時は真面目になろうとしてたんですよ。「もっと真面目になろう、もっと立派になろう」って堅い仕事に就こうとしてた感じ。中学とかでも結構いろいろあったし「この地元をでなきゃダメだ」っていうマインドだった。映画の『Good Will Hunting 』みたいな感じです。
でも、だんだんと「この活動にあんまり可能性を感じないな」って思ったり、違和感を感じ始めて、楽しくなくなってきちゃって。1回ちょっと好きなことしようと思って、久々に。
それをきっかけにクラブに行くようになって、映像もやってみたいと思ってたんで、自ずとMVを撮ることになったって感じですね。で、コイツに伝えたっていう。
歌の人と映像の人が同時に誕生することになった…ってことですね。
Lucie:すごいバランスですよね。2人のうちでMVまで制作が完結しちゃうっていう。
Nyture:良いっすよ。他にあまり居ないと思う。
Kazuki:これに関しては、この足立っていう地元だからこそ起きた事象だと思います。
もしこの地域で育ってなかったら、僕の親とか血筋的にヒップホップに交わることは無かっただろうなって思ってて。もっとお堅い立場、学者とか研究者とかを目指すような家庭だと思うんです。
でもここで育って、僕の母親は「個人で保育園やってるのか」くらいに誰でも家に入れちゃう人だったんで。不良っぽい?というか…まぁ不真面目なヤツらがこの家に集まってました。だから、今もヒップホップに関わってるんだろうなとは思います。
そこのベランダ。そこから皆入ってきてましたよ。
Nyture:今もこっから入ったりするし。
Lucie:へええめっちゃ面白い。足立ならではの化学変化が起こっていたって訳ですね。
ノスタルジック且つ等身大な「4some」スタイル
Lucie:現在、Nytureさんのまとまったプロジェクトは『Playground』から『マケナイ裏』までがリリースされているわけですけど、この4枚の間に何か自分の中で変化したことはありますか?
Nyture:変化した部分…いや、全部変わったっすよ。うん、全部変わりましたね。なんだろう、うん…わからないけど、全部変わったっすね。言葉にはし辛いですけど、曲で歌ってます。
Lucie:なるほど!曲で言ってるタイプだ(笑)。
Nyture:うん、気づいたら全部歌っちゃってる。
Lucie:個人的な感覚ですけど、最近だとUSっぽいフローとかデリバリーとかが結構主流になってるじゃないですか。
そんな中で、Nytureさんの歌い方って日本語の固さというか、日本語におけるソリッドな部分を大事にしてるイメージがあるんですよね。
Nyture:その部分、最初の頃はあまり何も思ってなくて。聞き心地良ければいいみたいな、自分も言葉が分からなくても海外の曲とかいっぱい聴いてたし。
でも、作ってるうちに面白いこと言ってるのに、あんま伝わってないなって思って、もっと分かりやすく言った方がいいかもって感じて、徐々にそうなっていった感じですね。
Kazuki:それこそ、僕の親に聴かせたりしてるよね。「何言ってるのか分からない」とか言われたりね(笑)。
Nyture:うん。「ナメんな」って思ってたけどね。
Lucie:(笑)
Nyture:でも、そこでみんなが湧いてくれたりすると、「良い曲ができたな」ってなれる。
知らない人に良いって言われるよりも、知ってる人に言われるほうがいいかも。なんだかんだそっちの方が自信になったりします。
Lucie:いいですねぇそのスタイル。
あと、独特だと思うのが「別です」とか「儚い」とか、楽曲のタイトルが日本語に振り切ってる感じがあって、この独特なタイトル覚えやすいしめっちゃ好きなんですよね。絶対こだわってますよね。
Nyture:こだわってます。めっちゃこだわってます。
Lucie:ですよね!
いわゆるアンダーグラウンドシーンにおける主流なスタイル…なんというか「SWAG‼」バイブスっていうんですかね。Rick (Owens)とかタイトに着こなして..あくまでも一例にはなりますが…。
そんな感じのスタイルが増えてきている中、そういうバイブスとはまた別方向の立ち振る舞いというか。
Nyture:日本っぽいっていうか、地元での感覚を大事にしてるんだと思います。
俺らからすれば、さっき言ってた「SWAG」なスタイルは「無理してんな」ってなっちゃう。この街で育ってきたから、Rick着るとかそういうのは…あんまり魅力感じてないし、子供の時からそういう雰囲気は無かったんで。
Kazuki:そもそもRickとかもさ、大人になってから知ったブランドだよね。
Nyture:うん。普通に、この辺にいる子供たちが真似できるような格好とかの方がいいかな。プレゼントされたら全然貰うし…嫌いとかじゃないけど、そんな感じです。
Lucie:こう、背伸びせず自然体な感じ…言葉にできない良さがあるっすね。
例えば、和歌山とかだったら「WAKA」って言ったり、なんか地域特有の共通言語みたいなものがあったりするじゃないですか。ADC、足立ならではだったり、Nytureさんたちのオリジナルな言葉とかってあったりするんです?
Nyture:俺らがよく言うのは「4some」ですね。
Lucie:あ、その名前でイベントやってますよね?
Kazuki:そうそう。僕が20歳か21歳くらいの時に開いた『OSAM』ってイベントが元になってますね。
Nyture:俺の初ライブもKazukiの『OSAM』でした。
Kazuki:ちなみに、『OSAM』は手塚治虫のオサムから来てます。
Lucie:っっっそれ!
僕思ってたのが、ビートもなんか懐かしく感じるようなサウンドが多くて、哀愁があるというか「手塚治虫」バイブスを個人的に感じてて!「トキワ荘」を思わせるというか…。
Kazuki:Jumadibaも『OSAM』出てくれたりしたんですけど、アイツも手塚治虫の話してましたね。
Lucie:そう、Jumadibaさんも懐かしさを感じるし、それこそリリックに手塚治虫が出てきたりもしてましたよね。
だから、「儚い」でのコラボは「こんなにハマるか」っていうくらいにマッチしてました。このノスタルジック感も意識してるのかなって思ったんですけど…。
Nyture:うん….個人的に好きなんです。
ネオいのが好きな時もあったり、結局は気分ですけど、ちょっと懐かしい感じが好きっすね。
曲に昇華されるネガティブや口癖
Lucie:過去に少しグレたりとか、それこそ名字が変わるとか…。
さっきNytureさん自身「大したことはない」と言ったものの、絶対に相対的に見たらハードだった人生の側面もあると思うんです。第三者から見た時に。
だけど、リリックが生い立ちに引っ張られていなさすぎるというか、ネガティブなワードが全然出てこないですよね。何でなんだろうって思って。
Nyture:いや、もう俺は普段こうやって喋ってる口癖を曲にしてるだけなんですよね。歌詞書かないんで。
Lucie:あ、書かないんですね!
Nyture:書かないっす。もう口癖を曲にしないと、その口癖が終わんないんですよ。
Lucie:負けないっ負けないっ。
Nyture:そう、絶対負けない。そんな感じで曲にしてるんで。
Kazuki:Nytureあまりネガティブだったことないっすね、子供の頃から。元気、とにかく元気みたいな。
Nyture:まあ、でも俺も流石に人間なんで、ネガティブが生まれることもあるし、どっかに吐き出さないといけないんですけど。
だから…音楽は天職かも。誰にもあんまり迷惑かけず、ネガティブを終わらせられるから。
王子と足立、スタイルの類似性を紐解く
Lucie:なんだろうな…本当に独特でオリジナルなスタイルだなって思うっすね。
Nytureさん自身、自分の独自性ってどの部分にあると思いますか?
Nyture:んん……。自分ではわかってないかもしれない…すね。
Kazuki:多分コイツはそんなに考えてやってない。ラベルをつけずにこのまんまで行って、気づいたらオリジナルになっちゃってたってタイプ。
Lucie:他の人から伝えられてやっと認識してるくらいなんですね。じゃあ天性のスタイルなんだ..。なおさらヤバいと思ったす。
Sam:多分、俺の感覚的にNytureって、千葉(雄喜)に近くて。このタイプの人たちって音楽を細分化しないんですよ。音で捉えてるんですよね。
Nytureもラップやってるっていうより、俺音楽やってるっていう感覚に近いと思います。ラップやってる音楽家みたいな。
Lucie:なるほど、音楽家…ミュージシャンって感じなんですね。
Sam:王子と近いっていうのもあるんだろうなって…俺はめっちゃあると思う。
Nyture:すごいあると思うっす。だから…千葉君のせいっすね。
Kazuki:100%です。
Sam:地元近いからってのはあるな…王子の連中もちょっとそんな感じ(音で捉える)なんですよ…千葉がいる半径15キロ以内はそうなるみたいな(笑)。
Kazuki:東京の渋谷とか六本木とかに行くと、たくさん人いるじゃないですか。だから、人が多いが故に「あなたが火なら私は水」とか、たくさんの人の中で自分を細分化して「これが自分です」って役割を見つけなきゃってなっちゃう。
けど、足立っていう地元があるお陰で、そのままのコイツでいられてるんだろうなって。だからNyture、ありのままっていう意味の名前だし。その感覚を忘れないようにしてる所はあるんだろうなって。
Ito Kazukiの進化
Lucie:映像制作において、どのような作品に影響を受けてきたのかなっていうのが気になってて。アニメでも映画でも何でもいいですけど、知りたいですね。
Kazuki:さっき出した絵本(安野光雅)も影響を受けた1つではあるんですけど…。
最近、「なんで俺こんなに絵描いてるんだろうな」って忘れてた記憶をすごい掘ってた時があったんです。
その時に、母親から「『ウォレスとグルミット』をよく見てたよね」って言われて、その『ウォレスとグルミット』を作ってる会社っていうのは、今だと『ひつじのショーン』とかを手掛けてたりするんですけど。
Sam:ああ、『ひつじのショーン』ね。大好きよ。
Kazuki:もう20年間ぐらい、俺は一切『ウォレスとグルミット』のことを思い出したことは無かったし、完全に記憶の奥底に眠ってた状態にだった。
でも、それを見た時に20分の作品、その20分の作品の一挙手一投足、音とか動きとか色とかも全部覚えててたんです。「ここにオレの原点あったんだ…」ってことに最近気づいたりとかして。
どんどん正直になって根っこの部分を辿っていったら、現時点での原典は安野光雅と『ウォレスとグルミット』でした。まだもっと奥があるかもしれないですけどね。
Lucie:なるほどー。原点に立ち返ると意外な要員が見つかったりするんで興味深いっすよね。
また、足立で育ったことが映像制作に影響してることとかはありますか?
Kazuki:あると思いますよ。もし文京区とかで育ってたら、全然違う人生になってたと思います。
中学でみんながグレ始めて、僕も真っ先に学校行かなくなっちゃって。その時期に音楽を超聴き始めたし、自分の心の闇とめちゃくちゃ対峙してたんで。怒りとか反骨精神とか、ヒップホップに通ずる力を受け取ることができた。
決して怒りの感情だけじゃないけど、そういうマインドがないと負けちゃうし。だから、今この仕事ができてるんだろうなって。
「リファレンスで映像が死ぬ」縛られない撮影方法
Lucie:MV制作って、普段どんな流れで進めたりしてるんですか?
Kazuki:コー(千葉雄喜)君と会ってから、Kazuki Itoって名義で撮影するようになったんですよ。
そのIKの時代の時は「しっかり撮ろう」みたいな感じで準備したりとか…そういう時も未だにありますけど。
例えば、「誰だ?」っていうMVはコー君と一緒にニューヨーク行って、ショルダーリグのシネマカメラとか、ポケシネとかを朝から晩までコー君に付いていきながら永遠に持ってて。で、面白い時に回すっていうことをしてたんですよね。
で、僕ニューヨークにYuma Shishidoっていう映像関係の友人がいて、その人が渡辺直美さんの友達だったんで「今コー君とニューヨーク来てるんで、直美さんと会わせたら面白そうじゃない?」って言って、そこで2人を合わせました。
Lucie:話はっや(笑)。
Kazuki:で、その日に2人が初めて会って「なんちゃらゴーゴー」みたいな中華料理食ってたんですけど。その中華料理屋でも俺はカメラ構えてて。で、外出てタバコ吸って話す時間があったんすよ。
その時、直美さんに前日レコーディングした曲を聞かせ始めて。俺はカメラ回して。で、コー君がラップし始めて、そしたら直美さんもラップし始めて(笑)。
その、2人の初めましての瞬間がそのままMVになったのが「誰だ?」です。
Lucie:凄いな(笑)。本当にそのままの映像が作品になってるんですね。
Kazuki:「商売繁盛」とかも結構楽しかったですね。
『赤羽馬鹿祭り』っていう祭りの中で実際に撮影したんですけど、「15分しか撮影できない」って言われてたんです。
だから、俺がカメラマンの友達とか商売繁盛してほしいなって思う友達にみんな連絡して。「商売繁盛っていう曲なんだけど、みんなに商売繁盛してほしいって思ってるから撮りに来てくれませんか」って連絡しまくって。「みんなで神輿担ぎましょう」みたいな感じで(笑)。
で、めちゃくちゃ集めて。15分でバーッと撮ったっていうノリの映像もあるし。
Lucie:へええ。結構とりあえずカメラを持って、ノリで撮るみたいな感じが多いんですか?
Kazuki:ノリのやつもある。「重てぇ」とかは結構ちゃんと撮りましたね。
「誰だ?」みたいな作品は、個人的に結構心が覚えてて「楽しかった」と思えます。「規模」っていうMVは16ミリフィルムをずっと回し続けたフリースタイルをそのまま映像にしただけだし。
コー君のラップの作り方と同じノリで作ってるモノも結構あります。
Lucie:俺のイメージだと、香盤作ってリファレンスめっちゃ出しまくって…みたいな。MV制作ってそんなイメージがあるんですけど。
Kazuki:俺は最近それをやってないですね。
Lucie:やってないんだ!その話めっちゃ面白いですね。
Kazuki:「リファレンスで映像が死ぬな」って思ってきちゃったんですよね。だから、俺は絵で描いて、浮かんだイメージをそのまま形にしたくて。
何個か前の仕事からそんな感じです。少し方法としてはイレギュラー。映像の業界にいる人たちとは若干距離があるかもしれないです。
Lucie:僕、勝手にMV制作はアーティスト側のビジョンと撮る側のビジョンをすり合わせるものだと想像してたんで…。でも、Itoさんのスタイルは僕のイメージとは全然違いました。
Kazuki:なんか「だんだんMVもういっかな」って、飽きちゃってたんだと思うんですよ。
香盤とかで自動化して、リファレンスをくっつけてとか…面白くないんですよ。決まりきっちゃってる感じ。方程式に従ってる感じがした。
何というか、強烈な違和感があったんです。「この道行きたかったっけな」みたいな。違うかもって思ったんで「いいや」って、1回離れたんですよ。
でも、絵は描き続けてたから、アニメーションとか作ろうみたいな感じになった後に、KOHH君に出会ったんですよね。そっからの出会いで色々変わって、今は絵本描いてます。
やっと自分がやりたいことの入り口に立てた、っていう感覚に今はなってます。絵本っていう自分の世界があるから、その世界を映像にするっていうことの方に今は興味がありますね。
Lucie:その「入り口に立てたな」っていうターニングポイントの作品は何ですか?
Kazuki:Yaffleさんの作品ですね。彼はFuji Kazeさんのプロデューサーだった人なんですけど。その人のMVで3分半くらいのアニメーションを作ったんです。
その時の制作過程が楽しすぎて「これのほうがいいじゃん」みたいな。自分の思いとか祈りとか、全てが作品に反映できて。
今までの俺がやってきたこと、蓄積してきたモノに素直になれたのかなって。
ーーーBreak Timeーーー
Sam:(ベランダに腰掛けながら)ここ、いいね。
Kazuki:そこ最高ですよね。この家建てる時に窓が広いほうがいいって伝えたらしくて。
Nyture:何回か割りましたけどね、この窓。
Kazuki:割ってたな。あと食器にボールぶつけたりな。ゲームキューブの上に立ったり。
Nyture:あったっけ?
Kazuki:いや、俺らはしっかり見てる。被害者はしっかり覚えてんだよ。加害者は覚えてねぇんだ。これも記事にしてください。
Lucie:(笑笑笑)
自由気ままに爆弾を落とす最強の組織「ADC」
Lucie:では、Nytureさんにお伺いしたいんですけど。
今のシーンにおける足立はどんな立ち位置にいますか?
Nyture:最強。最強の組織っす。
Lucie:マジでそうなんだよな…。
俺、勝手にNytureさんは音で魅せてくれるラッパーだと思ってるんですけど。日本ってスキルで魅せるタイプのラップを好む人ってめっちゃ多いと思うんですよ。
そんな中で、空気感とか音で見せる難しさとかってどこにありますか?
Nyture:ん…わかんないっすね…。
Sam:個人的に、俺は歌に余裕がある所がNytureの好きな所なんだよな。
なんか…余裕がある雰囲気を作り出すというか、そもそも余裕がある人間性だからなのかもしれないけど、余裕がある。言葉選びとか歌い方とか、歌ってるときのテンション感が。
だから、もう感覚的なモノなのかもしれない。Nytureの魅力って。
Lucie:確かに、その空気感が千葉さんに似たものを感じるっていうのは、わかる気がしますね。
では、ADCの存在感が増してきていますが、これからどう広げていく予定でしょうか?
Nyture:とりあえず、足立区で俺らを知らない人がいなくなるくらいになればいいかなって思ってるくらいです。
ちょいちょいシングルを出してって。アルバムは結構できてはいます。でも、全部無くすかもしれないし。基本的には全部俺の気分で…俺の気分で動きたいです。たまに周りの人の意見を聞きながら。
Lucie:楽しみだなぁ。この間のTim Pepperoniさんとの曲もヤバかったし。
https://music.apple.com/jp/song/molly-flow-feat-tim-pepperoni/6769419398
プロデューサー陣も強いですよね。rxlさんとか、Pulp Kさんとはずっと一緒にやってますよね。
Nyture:それこそ、Pulp KもKazukiがここで「ビートを作れば?」って。
Lucie:え?それもItoさん?
Kazuki:俺っすね。
Lucie:すげえな(笑)。全部起点になってるんだ。
そして、これからもタッグで動いていく予定なんですね。
Kazuki:そうっすね、動いてくと思います。NBA一緒に見る予定をバックれられたりしながら。
Lucie:(笑)
そして、Itoさんのこれからの動きはどんな感じになりますでしょうか?
Kazuki:とりあえず、絵本を書いてます、こういうの。
で、6月に絵本の個展を開いて、13日がオープンで21日までやる予定になってます。
Lucie:そして、Nytureさんはいきなり動き始めると。
Nyture:いきなり仕掛けると思います。
Kazuki:コイツの映像はほとんど俺が担当するんで、全部いい感じになるはずです。
Nyture:俺のキャリア始まってから、基本MVとかやってくれてるんですけど。タイミング的にできなくて他の人に頼んでもらった時も、最終的にチェックとか全部させて…してもらってます。
Kazuki:させられてますね。ってか、コイツの曲にダサい映像載るのが許せないんすよ。
Nyture:俺より怒るんすよ。
Lucie:(笑)、良いタッグだなぁ。
では、これにてインタビューは終了させていただきます。ありがとうございました!
インタビューを終えて
一瞬一瞬の自分の感情に従い、全てを感覚で形にしてきたNyture。一方、自分を客観的に観察、徹底的に分解し、自分の使命を探し続けているIto Kazuki。こう言葉にしてみると、全く別のタイプに見える両者。
だが、ソファに並んで座り、相槌を交えながら過去を振り返る2人の姿は、いわゆる親友の「それ」である。言葉は必要なく、沈黙の時間があろうと問題がない。幼少期も今と同じように過ごしていたのだと考えると、私はある種の郷愁を感じざるを得なかった。
そして、この普遍的な民家のリビングから世界に通ずる道が生じていることが、不思議でたまらなくなった。エツコ様々である。
きっと、これからも2人は変わらない。
方法は違えど、それぞれが自分に正直に動き続ける。都合が合えば時間を共にし、NBAを一緒に見たり、見るはずだったのにバックれたり、を繰り返しながら知らぬ間に世間を騒がせていくのだ。
Estimated reading time: 45 分
