Tohji「Amelie」──引退宣言後はじめての単独名義曲が、ラストライブ4日前に落ちた
8月5日、Tohjiが「Amelie」を配信した。2分28秒、1曲だけのシングル。
4日後の8月9日、千葉のLaLa arena TOKYO-BAYで彼はラストライブをやる。本人が2025年10月に告げたのは「2026年をもって音楽活動を引退する」ということで、9日以降にリリースがないとまでは本人も関係者も言っていない。
各媒体はこれを「新曲リリース」として流した。だがリリース履歴を並べると、もう少し面倒な事実が出てくる。2025年10月に引退を宣言してから今日まで、Tohjiが自分の名前だけで出した曲は、これが最初なのだ。
「Amelie」まで、引退の年に単独名義曲はなかった
Apple Musicに残るクレジットを時系列で追うと、こうなる。
2026年にTohjiの名前が付いて配信された曲は、Amelie以前は全部で4曲ある。4月1日「246」、4月8日「M to B Wo」、4月29日「U My Energy」、6月3日「Mutant Ninja Turtles」。名義はすべて Mall Boyz ―― gummyboyとの二人組だ。6月10日には『Mall Tape 3』も出ている。
つまり引退を予告してからの10か月弱、彼が音源で立っていた場所は、全部「二人以上」の側だった。
単独名義に遡ると、直近は2025年5月30日の『Zero-Two』。「Amelie」までおよそ14か月空いている。その間にある2025年7月22日の「200」も、クレジットは Mechatok & Tohji の連名で、彼ひとりの作品ではない。
引退を控えた1年、彼はソロを止めてクルーで動いていた。そして終わりの4日前に、ひとりに戻った。
レーベル名のない「℗ 2026 Tohji」
「Amelie」の作詞はTohji。作曲とプロデュースは Tohji、Le Makeup、RY0N4 の3人。TuneCore Japanの公式クレジットページに、そう書いてある。
権利表記は「℗ 2026 Tohji」。レーベル名の記載はない。配信もTuneCore Japan経由だ。1万人の箱を埋めるアーティストの引退直前の一曲に、レーベル名が出てこない。配信経路はTuneCore Japanだ。
呼んだ2人も、外から連れてきた名前ではない。
Le Makeupは大阪出身のシンガーソングライター/プロデューサーで、自主レーベルPURE VOYAGEを回している。2023年2月15日のアルバム『Odorata』には「Play」でTohjiとgummyboyが参加した。翌3月17日に出たLootaの「Freesia (feat. Tohji & Le Makeup)」は、Le Makeupがトラックを作りTohjiが乗った曲だ。
RY0N4も同じ圏内にいる。2か月前の『Mall Tape 3』収録「winter soldier」に、gummyboyと並んで名前がある。
ラストライブ前に単独名義で戻るとき、彼が横に置いたのは、はじめの頃から同じ場所にいた2人だった。
「引退」を看板にしていない
ここが「Amelie」のいちばん奇妙なところで、いちばんTohjiらしいところでもある。
この曲に、引退にまつわる装飾がひとつもない。タイトルも、2分28秒という尺も、告知の作り方も、「ラストシングル」として売る形をしていない。ミュージックビデオはTuneCoreが8月6日公開としているが、それも含めて、ふつうのリリースの手つきのままだ。
ヒップホップには、引退を作品や公演の告知に組み込んだ例がある。Jay-Zは『The Black Album』を引退作として出して3年後に戻ってきた。Logicは『No Pressure』で辞めると言い、その11か月後の2021年6月16日に「I’m back」と表明した。「最後」が作品の読まれ方に組み込まれた事例だ。
日本語ラップにも型がある。KOHHは2020年1月16日のLINE CUBE SHIBUYA公演で、次作をもって引退すると宣言した。その次作が4月29日の『worst』だ。
ライブ活動を終えたのが2021年12月。そして2024年2月13日、本名の千葉雄喜として「チーム友達」で戻ってきた。
引退作を出し、空白を置き、名前を変えて再始動する。引退という言葉が、そのまま次のキャリアの助走になった(KOHHとTohjiの引退の違いは以前も書いた)。
現時点で、Tohjiには「引退作」と明示された作品がない。2026年に彼の名前が入るアルバムはMall Boyzの『Mall Tape 3』。単独名義で出したのは、2分28秒の「Amelie」1曲だ。
出し方も逆を向いている。引退宣言は2025年10月18日の『POP YOURS OSAKA』のマイクで。ラストライブの日程は2026年4月4日の『POP YOURS 2026』のマイクで。どちらもプレスリリースではなく、その場にいる客に直接投げている。少なくとも「Amelie」の告知では引退を前面に出さず、ラストライブ前にもう1曲を置いている。
8月9日は無料で全部見られる
『Volcanic Summer 頂上 Dimension』は全4公演だ。6月16日Zepp Osaka Bayside、18日Zepp Nagoya、23日Zepp Haneda。そして8月9日の千葉が最後になる。
開場17時・開演18時。会場のLaLa arena TOKYO-BAYは、三井不動産とMIXIが2024年に開業させた1万人規模の箱だ。千葉ジェッツのホームでもある。
8月3日、この公演がYouTubeで全編無料生配信されることが発表された。主催側は「この歴史的な一夜を少しでも多くの人へ届けたいという思いから、YouTubeでの全編無料生配信が緊急決定」と説明している(Tohji本人の言葉ではない)。チケットは即完売しプレミア化した、とSpincoasterは書いている。
アリーナ規模のラストライブを全編無料で開く判断は、それ自体が告知の核になる。有料配信という選択肢もある公演を、主催側はYouTubeで無料に開いている。
9日を過ぎないと分からないこと
「Amelie」が彼の最後のリリースになるとは、本人も関係者も言っていない。引退の撤回や延期の発表も、現時点では確認できていない。断定できるのはここまでだ。分かっているのは、引退宣言以降はじめての単独名義曲が、ラストライブの4日前に出た、という順番だけだ。
当日までに答えが出るのは、TuneCoreが8月6日公開としているミュージックビデオの中身。そして9日のセットリストに「Amelie」が入るかどうか。
もう一つは、もっと後になってから分かる。℗ 2026 Tohji ——レーベル名のないこの表記が、9日以降も何かに使われるのか。ここで止まるのか。KOHHの場合、その答えが出るまでに引退宣言から4年かかった。急いで結論を出す種類の話ではない。
14か月ぶりに自分ひとりの名前で出した曲を、彼は終わりの4日前に置いた。その置き方自体が、たぶん今のところ一番はっきりしたメッセージになっている。
訂正(2026年8月6日)
公開当初、リード文で「それが終われば、Tohji名義の音楽活動は止まる」と書いていました。本人の発表は2025年10月18日の「2026年をもって音楽活動を引退する」であり、8月9日のラストライブ以降のリリースがないことまでは示されていません。本文後半の「『Amelie』が最後のリリースになるとは本人も関係者も言っていない」との整合を取るため、当該箇所を発表内容に沿う記述へ改めました。あわせて℗表記のみを根拠とした「レーベルを通さずに出ている」という断定を、表記の事実の記載へ後退させました。
主要参照リンク
- Tohji、新曲「Amelie」リリース ラストライブのYouTube生配信も決定 – TuneCore Japan
- Amelie by Tohji(公式クレジット) – TuneCore Japan / linkco.re
- Amelie – Single – Apple Music
- Tohji最後のアリーナ公演、YouTubeで全編無料生配信 – 音楽ナタリー
- TohjiのラストライブがYouTubeにて生配信決定 – Spincoaster
- 元KOHH、引退から2年ぶりの新名義デビュー曲がトレンド入りへ – ねとらぼ
- 千葉雄喜、KOHH時代の曲はもうやらないと宣言「KOHHさんはもういません」 – 音楽ナタリー