Awich、アジア初の「Red Bull Symphonic」に出演──11月に4都市、ただし東京はない
レッドブル・ジャパンが8月5日正午、「Red Bull Symphonic」日本公演の出演者を発表した。Awichである。
自分の曲をオーケストラで演奏し直す企画で、アジアでは初開催になる。公演は11月、大阪・福岡・仙台・横浜の4本。東京はない。
7月31日の段階では、日程と都市だけが出ていて出演者は「詳細後日発表」だった。空いていた枠に入ったのが、那覇出身のラッパーだった。
4都市4公演、S席9,000円
公演は11月に4本。
- 11月17日(火)ザ・シンフォニーホール(大阪)
- 11月19日(木)福岡シンフォニーホール(福岡)
- 11月25日(水)仙台銀行ホール イズミティ21(仙台)
- 11月27日(金)横浜みなとみらいホール(横浜)
指揮はMika Takayama、演奏はTokyo Secret Orchestra。チケットはS席9,000円、A席7,500円で、先着先行が8月7日(金)18時に始まる。
Red Bull Symphonicは2020年にオーストリアで始まり、これまで22カ国で39公演を行っている。ヒップホップ側の出演者はこうなっている。
- 2022年 アトランタ/Rick Ross
- 2023年 ロサンゼルス/Metro Boomin(ゲスト:John Legend)
- 2024年 エジプト/Marwan Pablo
- 2025年 Asake(ゲスト:Wizkid、Central Cee)
エジプト公演は約10,000人を集め、シリーズ最大の規模になった。
なお、日本語の先行記事にはAsake公演をナイジェリア開催と書いているものがある。現地報道では2025年11月8日、ブルックリンのKings Theatreでのソールドアウト公演だ。
Awichはリリースでこうコメントしている。
ヒップホップは、楽器を手にすることが難しかった環境の中で、サンプリングやビートを使って生まれた音楽です。自分の楽曲をオーケストラで再構築できることは、一つの到達点であり、大きな意味があると感じています。当日は、まるで壮大な映画を一本観たような、シネマティックな音楽体験を届けられたらと思っています
このコメントは、思ったより踏み込んでいる
オーケストラとラッパーの共演は、日本でも珍しくなくなった。だいたいは「ヒップホップがついにここまで来た」という語られ方をする。格上げの物語である。
Awichのコメントは、その語り口を使っていない。彼女はまず、ヒップホップが「楽器を手にすることが難しかった環境」から生まれたと言っている。
Awichは、サンプリングとビートを、「楽器を手にすることが難しかった環境」から生まれた技術と位置づけている。本稿は、その本人コメントの範囲を超えて、ヒップホップ全体の起源を単一の説明に固定はしない。
そのうえで「一つの到達点」と続く。ただし到達点とされているのは、オーケストラと共演できたことではない。自分の曲がオーケストラで再構築できることだ。
主語が曲の側にある。オーケストラと同じ舞台に立つことではなく、自分の曲を別の編成で再構築できることを到達点としている。
順番が逆だ。
短いコメントだが、権威に迎え入れられる話を、権威の側が自分の音楽を演奏できるかという話に裏返している。
「一夜限り」を売りにしてきたシリーズが、4公演やる
引っかかるのは公演数だ。
7月31日の日本告知は、この企画を「一夜限りのシンフォニックアレンジで披露する」「その日、その場所だけの音楽体験」と紹介していた。日本側のコピーだけの話ではない。2025年のAsake公演も、現地報道は「For one night only」と書いている。
1回しかやらないことが売りのフォーマットなのだ。
その日本初開催が、4都市4公演になっている。
会場は、ザ・シンフォニーホール、福岡シンフォニーホール、イズミティ21、横浜みなとみらいホール。いずれもクラシック演奏を主用途にしたホールだ。ライブハウスでもアリーナでもフェスの特設ステージでもない。
ただし、これはシリーズの標準でもある。Asakeが立ったのもブルックリンの歴史的な劇場Kings Theatreだった。座って聴くホールを選ぶこと自体は、日本版だけの判断ではない。
日本版が違うのは、回数と、規模だ。
4公演を足しても、あの一夜より小さい
各ホールが公表している座席数を並べる。
- ザ・シンフォニーホール 1,704席
- 福岡シンフォニーホール 1,871席
- 仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール 1,450席
- 横浜みなとみらいホール 大ホール 2,020席
単純に足して7,045席。舞台の設営で潰れる席が出るので、実際に売られる数はこれを下回る。上限の数字だと思っておけばいい。
比較対象がある。Awichは2023年11月5日、Kアリーナ横浜で初のアリーナ公演「THE UNION」を行い、公式レポートによれば18,000人を集めている。
3年後の11月、同じ横浜で立つのは2,020席のホールになる。4公演を全部売り切っても、あの一夜の4割ほどにしかならない。
2024年エジプト公演が一晩で集めた約1万人にも、4本合わせて届かない。
そして東京がない。大阪、福岡、仙台、横浜。公式リリースには都市選定の理由が書かれていないため、東京不在の意図は推測しない。確認できるのは、4都市と座席数の並びだ。
数字で見ると、過去のKアリーナ公演とは動員規模が異なる。今回は、4つのクラシックホールで曲をオーケストラに再構築する企画として読むべきだ。
Red Bullは、Awichに一年かけて積んでいる
今回の起用は、突然出てきた話ではない。
Red Bullは6月29日に「Red Bull IN-YO!」を始動させ、その第1回でAwich、CHICO CARLITO、ONE OK ROCK、Paleduskを組ませてYAOというプロジェクトを作った。楽曲「777」が7月7日に出ている(Awich×ONE OK ROCK×Paledusk×CHICO CARLITOのYAOとは?)。
ジャンルの違う相手と組ませて、いままでと違う編成で鳴らす。IN-YO!でやったことと、Symphonicでやろうとしていることは同じ設計にある。相手がバンドからオーケストラに替わっただけだ。
アジア初開催の一発目を任せる相手として、すでに一度組んで結果を出している人間を選んだ、という順序で見たほうが自然だろう。
セットリストと、8月7日18時
まだ分からないことが多い。
「Queendom」がオーケストラでどう組み直されるのか。編曲を誰がやるのかは、現時点で発表されていない。
ゲストも同じだ。過去公演ではMetro BoominにJohn Legend、AsakeにWizkidとCentral Ceeが付いている。
Awich側にも材料はある。2020年のアルバム『孔雀』収録の「洗脳」は、DOGMAと鎮座DOPENESSを迎えた曲だ。このような客演曲をどう再構築するかも注目点になる。ただし、日本公演のゲストは現時点で発表されていない。
先に答えが出るのはチケットのほうだ。8月7日18時の先着先行。S席9,000円、A席7,500円で、1,450席から2,020席の枠を埋めにいく。
18,000人を動かした人が、その10分の1前後の客席に入る。売れる速さで、ひとつ分かることがある。日本のラップが、コンサートホールの客席を埋められるのかどうかだ。
主要参照リンク
- レッドブル・ジャパン株式会社 公式リリース(PR TIMES / 2026年8月5日)
- Awich、ヒップホップとオーケストラを融合 音楽ライブ「Red Bull Symphonic」出演(KAI-YOU)
- 豪華アーティストとオーケストラによるジャンルを超えた音楽体験 『Red Bull Symphonic』が日本初上陸(Spincoaster / 2026年7月31日)
- Red Bull Symphonic electrifies Brooklyn with historic Asake performance(amNewYork)
- Awich「THE UNION」at Kアリーナ横浜 オフィシャルレポート(Spincoaster / 2023年11月5日・18,000人)
- ザ・シンフォニーホール(大阪観光局 OSAKA-INFO / 1,704席)
- 福岡シンフォニーホール 座席図(アクロス福岡 / 1,871席)
- 大ホール概要(仙台銀行ホール イズミティ21 / 1,450席)
- 大ホール 施設案内(横浜みなとみらいホール / 2,020席)