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Moment Joon「WAR」原爆の日の0時に配信──作詞もラップも、公式クレジットは「VIKTOR KIM」

広島に原子爆弾が投下されてから81年の2026年8月6日、Moment Joonが新曲「WAR」を配信リリースした。韓国出身・大阪拠点のラッパーである。

ミュージックビデオが公式YouTubeに上がったのは、日本時間8月6日の午前0時0分。日付が変わった瞬間に落としている。

ただ、クレジットを開くと妙なことになっている。配信元TuneCore Japanの公式ページで、作詞も、ラップも、ボーカルも、ソングライターも、名前はすべて「VIKTOR KIM」。

Moment Joonの名前は、演奏・執筆のクレジットに一つも入っていない。

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0時0分ちょうどのMV、3分41秒のExplicit

Apple Musicの登録情報では、アーティスト表記は「Moment Joon & VIKTOR KIM」。収録時間は3分41秒、Explicit指定。

原盤権表記は℗ 2026 HOPE MACHINE FACTORY / GROW UP UNDERGROUND。HOPE MACHINE FACTORYは、Moment Joonが2023年に立ち上げた自身のレーベルにあたる。

音楽ナタリーによれば、「WAR」は広島、長崎、そして来たる戦争について歌った曲だという。日本が過去の戦争をどう記憶するか。そして「殺される前に殺せ」という戦争の心理。

本稿が確認した公開資料で、曲の内容を具体的に説明していたのは音楽ナタリーだった。配信ページに載る歌詞の抜粋は「Kill before you get killed」。訳せばそのまま「殺される前に殺せ」になる。

制作陣も公式に出ている。ビートはTAMDAO。レコーディング、ミックス、マスタリングはNOTYPE 9が一人で担当。バックグラウンドボーカルにFisong、you geek、シラフの3人。このうちFisongは、2023年12月にMoment Joonがコラボアルバム『Only Built 4 Human Links』を一緒に作った相手である。

クレジットに本人の名前がない

引っかかるのはここだ。

リリースは「Moment Joon & VIKTOR KIM」の連名。それなのに、TuneCore Japanの公式配信ページに並ぶ制作クレジットは、Lyricist、Vocals、Rap、Songwriterの4つとも「VIKTOR KIM」単独だ。

Moment Joon公式YouTubeに上がったMVの概要欄も同じで、ハッシュタグは「#VIKTORKIM」ひとつだけ。曲を出しているチャンネルの持ち主の名前が、そこにない。

VIKTOR KIMがMoment Joon本人の別名義なのかどうかは、現時点で本人からの説明が確認できていない。断定はしない。

ただ、この人が名義に無頓着ではないことは、記録に残っている。TuneCore Japanの本人プロフィールにはこう書かれている――2011年から日本語で楽曲を発表し、2019年から「Moment Joon」の名前で活動、と。

「Moment Joon」は、2011年からの発表歴を持つ本人が、2019年から使い始めた名前だということだ。それ以前にどの名義を使っていたかは、このプロフィールには書かれていない。

9か月ぶり、そして2026年最初の本人名義

Apple Musicに登録された全リリースを1件ずつ見ていくと、この曲の位置がはっきりする。

Moment Joon名義の直近作は2025年10月24日の「We Don’t Trust」。そこから「WAR」まで、9か月以上が空いている。2026年に入ってからの音源は、客演が1件あるだけだ。6月10日配信のダースレイダー『壁掛け』に入った「移民の歌 (feat. Moment Joon)」。自分名義の楽曲は、「WAR」が今年最初になる。

沈黙していたわけではない。音楽の外に、もう一本の線が走っている。

自伝的小説『三代 兵役、逃亡、夢』は、河出書房新社の文芸誌『文藝』2019年秋季号に抄録が載った。特集は「韓国・フェミニズム・日本」。完全版はi-D Japanで公開され、2020年のblock.fmインタビューも同ページを参照しているが、現在はi-D側の元URLへ直接アクセスできない。

2021年には岩波書店からエッセイ集『日本移民日記』。現在はweb岩波で、本名の金範俊との連名で「外人放浪記」を連載中だ。

ラップと日本語の散文を同じ強度で並行させている書き手は、日本語ラップにそう多くない。

ここ数年、アルバムの断片は出していない

過去2年の単独名義の音源を並べると、出し方の癖が見える。

2025年4月12日の「入管Freestyle」。入管の窓口と駅のホームを行き来しながら、この国で働き、愛し、眠るためにビザが要る人たちへ向けて書かれた曲だ。TuneCoreのニュース欄は「ビザが必要な全ての人へ捧げる」曲と紹介している。

その3週間後には「Cuz I Love (myself)」(2025年5月2日)。前年には「SAKURA AVALANCHE」(2024年3月30日)。どれもアルバムからの先行カットではなく、主題を一つ抱えた単発として出ている。「WAR」もその並びに置いて読める。

℗表記にあるHOPE MACHINE FACTORYは本人のレーベルで、配信はTuneCore Japan経由だ。誰が配信時刻を決めたかは公表されていない。確認できるのは、8月6日0時という設定が公式ページに残っていることだ。

そして音楽ナタリーは、Moment Joonが9月にニューアルバムをリリース予定だと伝えている。タイトルも日付も、現時点では出ていない。『Only Built 4 Human Links』から数えれば2年半以上ぶりだ。

「WAR」がその1曲目なのか、外伝なのか、それとも名義ごと切り替わった新しい何かの入口なのか。まだ分からない。

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8月6日に「殺される前に殺せ」と言える立場

ここで注目すべきは、反戦曲を出したことだけではない。韓国から来た移民ラッパーが、日本の戦争記憶を問う形で8月6日に発表したことだ。

日本の戦争記憶をめぐる語りは、加害と被害の位置取りが常に問題になる。広島と長崎は、日本が「被害者」として語れる数少ない場所で、だからこそ8月6日の言葉は毎年ひどく慎重になる。

そこに、韓国から来て大阪に住み、自分を「移民者」と、連載では「外人」と名乗ってきた書き手が、「WAR」というタイトルで割り込んでくる。しかも歌っているのは平和への祈りではなく、「殺される前に殺せ」という戦争の心理だと報じられている。

これは、被害の物語をなぞる立ち位置ではない。日本が過去の戦争をどう記憶するか、という問いの側に立っている。

同じことを日本人ラッパーがやれば「反省」の話として読まれる。外から言えば「口を出すな」で終わる。

日本語で書き、大阪に住み、それでも「外人」という語を自分から手放さないまま10年以上ラップしてきた人間だけが立てる、狭い足場がある。

TuneCoreの公式プロフィールは『Passport & Garçon』を「日本のコンシャスラップの新しい幕開け」と書く。その足場からしか出ない言葉があったからだろう。

もうひとつ、クレジットの空白のことだ。

作詞もラップも「VIKTOR KIM」に振り、Moment Joonの名前が制作クレジットに入っていない。

ただし、この名前は今回が初出ではない。TuneCore Japanの公式クレジットを遡ると、2025年8月15日「Blues In My Heart (feat. D-SETO, DJ cer0 & 9JACK)」ではSongwriterとして、2025年10月24日「We Don’t Trust (feat. KOHSHINOMIYA)」ではMoment Joon・KOHSHINOMIYAと並ぶ作詞者として、VIKTOR KIMの名前が既に記載されている(リミックス版も同じ)。今回の「WAR」で新しいのは、この名前が単独で全役割を占めている点であって、名前そのものの登場ではない。

したがって、これを「戦争の曲だから語り手の名前をずらした」と読むのは、今ある記録を超える。確認できるのは、既に1年近く制作クレジットに出ていた名前が、今回は単独で置かれた、という事実の範囲までだ。

答えが出るとすれば、9月以降

  • VIKTOR KIM名義の正体について、本人(X: @MOMENT_JOON、Instagram: @momentjoon)から説明が出るかどうか
  • 9月に予定されているニューアルバムのタイトル、リリース日、そして名義
  • 「WAR」のSpotify / Apple Musicでの初動と、MVの再生推移
  • 原爆の日というタイミングに対する国内メディア・リスナーの反応、および韓国側での受け止め

訂正(2026年8月6日)

公開当初、本記事は「VIKTOR KIM」名義を今回の新規のものとして扱い、「戦争を歌う曲で、語り手の名前をずらす。偶然にしては置き方が良すぎる」と書いていました。その後、TuneCore Japanの公式クレジットで同名義が2025年の2作(8月15日「Blues In My Heart」=Songwriter、10月24日「We Don’t Trust」=作詞者)に既出であることを確認したため、該当箇所を事実の記載に改め、根拠を超えた読みを撤回しました。本文の他の記述(配信日時・クレジット構成・9月のアルバム予定)に変更はありません。

主要参照リンク

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