【HIHOPCs独占インタビュー】D.C.T「他人の正解とズレていても、自分の答えに誇りを持つ」
2026年8月7日、現在注目の若手である愛知県知多市出身・20歳のラッパーD.C.T(ドクター)が、新作EP『FROM302』を各種サブスクリプションサービスでリリースした。
前日8月6日20時には、収録曲「興味ない(feat. BATY)」のオフィシャルMVが自身のYouTubeチャンネルで公開されている。
タイトルの「302」は、実在した部屋番号である。
D.C.Tが世話になっていた先輩の自宅にあったレコーディングスタジオ——その部屋番号が302だった。後輩も先輩も集まり、音楽を作り、遊び、新しい人間と出会う場所だった。だが2026年7月、先輩が大阪へ移ることになり、302スタジオはなくなった。
D.C.Tは、その名前を作品のタイトルとして残すことを選んだ。
『FROM302』が記録しているのは、失われた場所への追悼ではない。場所がなくなっても、そこで生まれた関係と記憶までは消えない——という彼なりの確認である。そしてその考え方は、「他人の正解ではなく、自分が出した答えに胸を張る」という、MV曲「興味ない(feat. BATY)」のメッセージと地続きになっている。
中学2年生でひとりフリースタイルを始めた少年が、なぜいま「コミュニティ」を作品として残そうとしているのか。
HIPHOPCsはD.C.Tに、『FROM302』の背景、ANARCHYやAK-69から受けた影響、自分の答えを信じること、そして地元に生まれ始めた新しい流れについて聞いた。
「何かやってみようと思って」——中学2年生で始めたフリースタイル
──まず、ラップを始めたきっかけから聞かせてください。
中学2年生の頃にTikTokで「高校生RAP選手権」を見て、興味を持ったのがきっかけです。
当時は本気になれているものがなくて、「何かやってみよう」と思って、衝動でフリースタイルをしてみたのが最初でした。
──始めた当時、特に影響を受けていたラッパーは?
ANARCHYさんとAK-69さんの音楽には、ものすごく心を揺さぶられていました。
自分の生き様から出てきたメッセージで、立場の弱い人だったり、何かと戦っている人の背中を押しているのが本当にカッコいいと思っていました。
あとはANARCHYさんの、自信満々で自由に生きている姿ですね。
当時、地元の田舎町で窮屈さを感じていた自分には、それがすごくカッコよく見えました。
D.C.Tは2006年生まれ。16歳から名古屋のクラブ/ライブハウスでライブ活動を始め、現在はサブスクに約20曲を配信している。
部屋番号「302」を、なくならない名前にする
──今回のEP『FROM302』というタイトルには、どんな意味があるのでしょうか。
「302」は、自分がお世話になっている先輩のレコーディングスタジオの部屋番号から来ています。
先輩の自宅にあるスタジオで、自分だけじゃなくて、自分の後輩だったり仲間だったり、いろいろな人が集まっていました。
みんなで音楽をやったり、普通に遊んだり。そこで新しく出会った人もいて、自分にとって本当に大切な場所になっていました。
でも今年の7月、先輩が大阪へ行くことになって、302スタジオ自体がなくなったんです。
だったら作品の名前として残すことで、思い出だったり、自分たちのルーツの一つとして刻めるんじゃないかと思って、『FROM302』というタイトルにしました。
──作品そのものにも、302で生まれた時間が入っている。
そうですね。
302スタジオで一緒に遊んでいた後輩だったり、縁のある先輩との楽曲も入っていますし、スタジオで録り溜めていた未公開曲も収録しています。
「知らない場所に、こんなコミュニティがあったんだ」と思ってもらえたら
──『FROM302』を知らない人が聴いた時、どういう作品として受け取ってほしいですか。
「自分の知らない場所で、こんなコミュニティがあったんだな」くらいでも思ってもらえたら嬉しいです。
302スタジオは、外に向けて大々的に売り出していた場所ではなくて、本当に身内が集まる場所みたいな感じだったので。
だからこそ、この作品を通していろいろな人の記憶に残ったらいいなと思っています。
──スタジオがなくなったからこそ、作品がその場所の記録になる。
そうですね。
自分としては、ルーツの一つとして残しておきたいという気持ちがあります。
Drum’n’Bassの上で交わる二人——「興味ない(feat. BATY)」
MVとして公開された「興味ない(feat. BATY)」について、D.C.Tから寄せられたコメントをもとに、楽曲の輪郭を整理しておきたい。
客演のBATYは、D.C.Tが音楽面で普段から世話になっているという先輩ラッパーだ。トラックもBATY自身が手掛けており、楽曲の雰囲気から音の質感まで、こだわりを持って制作できた一曲だという。
Drum’n’Bassの疾走感あるトラックの上で、D.C.TとBATY双方のファストかつハードなラップが絡み合う構成になっている。
歌詞のテーマは、何かを決断する過程で生まれる葛藤と不安。D.C.Tは、普段から優柔不断で臆病な自分だからこそ書けることがあると考えて作詞したと語る。小さな悩みごとをすべて吹っ切って進んでいくような内容と、トラックの雰囲気が噛み合っているという手応えがあるようだ。
「Drum’n’Bassの迫力に、自分のありのままを曝け出しフラストレーションを発散させるイメージで歌った」
シンプルで真っ直ぐなメッセージが、何かに迷っている人に届けば——という言葉に続けて、D.C.Tは自身とは相対する、BATYの挑発的で余裕のあるリリックにも注目してほしいと付け加えている。
サウンド面では、Bass Music/電子音楽に理解のあるLig.がMixと音抜きを担当。MasteringはAKILLY。MVは株式会社TIMINGの戸塚凌侑が撮影・編集を手掛けており、豊富な経験に裏打ちされた映像に仕上がっている。
「他人の正解とズレていても、自分が出した答えなら誇りを持つ」
──「興味ない(feat. BATY)」で、一番伝えたいことは何でしょう。
とにかく、自分が出した答えだったり、自分が決めたことに胸を張っていこう、というメッセージを込めています。
自分が歩いてきた境遇だったり、環境から生まれた見え方や感性って、どこまで行っても自分だけのものだと思うんです。
だからこそ、一番大切にした方がいい。
他人が出した正解とはズレていたとしても、自分が考えて出した答えなら、それに誇りを持つべきだと思っています。
──その言葉を、特にどんな人へ届けたいですか。
自分もそうなんですけど、何かを決断する時だったり、前に進もうとする時に、何が正しいのか分からなくなってしまう人に届いてほしいです。
すごくシンプルなことだからこそ、逆に見えなくなったり、忘れてしまったりする気がしていて。
この曲を聴いたことで少しでも視野が晴れたなら、それが一番嬉しいです。
一人で地元を出ていたからこそ、いまいる人を忘れたくない
──活動を続ける中で、一番大切にしていることは?
自分の理解者だったり、応援してくれている人への感謝を忘れないことです。
もともと地元にも周りの友達にも、ラップをやっている人がいない状態から活動を始めたんです。
一人で地元から名古屋へ顔を出したりしていた時期もありました。
だからこそ、今そばにいてくれている理解者だったり、応援してくれている人のことは忘れたくない。
簡単に言えば、自分のルーツを忘れたくないということですね。
──音楽そのものについて大切にしていることはありますか。
自分がやりたいことだったり、自分がカッコいいと思うものを曲げずにやり通すことです。
ただ、それと同じくらい、いろいろな音楽性を受け入れようとする姿勢も大事だと思っています。
タイトなラップの先へ——「感覚にしかない良さ」を取り入れたい
──これからラッパーとして挑戦したいことを教えてください。
今の自分は、Rapをタイトに乗せたり、早口で畳み掛けたりするやり方を主にやっています。
でも、もっと緩くて、間を大切にするRapだったり、抜け感が映えるようなRapもできるようになりたいと思っています。
制作方法についても、結構考え込んで作る癖があるんですけど、逆に瞬間的に思いついたフローだったり、フレーズをもっと大事にする作り方もしてみたいです。
感覚的な部分にしかない良さを、もっと取り入れたいと思っています。
302から始まった関係を、その先へ
──音楽以外の部分も含めて、今後やってみたい動きはありますか。
自分は縛られることだったり、自分にとって重要じゃない考え方や固定観念に押さえつけられるのが嫌いなんです。
人間的な部分だったり、音楽への向き合い方だったり、フィーリングが合う人間としか一緒に動きたくないと思ってしまうところもあって。
でも302スタジオを通して、少しずつ関わる人が増えてきました。
8月15日には、その仲間たちだけでPartyをやるという動きも出てきています。
この先、自分たちの活動が進んでいけば、もっと関わる人間が増えたり、もっと大きなこともできると思っています。
もちろん音楽が一番ですけど、その先で別の動きまでできたら楽しそうだなと思っています。
一人だった地元で、いまラッパーが増えている
──その先に描いているビジョンはありますか。
302スタジオの仲間だけじゃなくて、最近は自分の地元のラッパーで、定期的に名古屋でイベントを開いているやつもいます。
地元でラップを始めた人も増えてきたし、それを応援している地元の人たちもたくさんいる。
ここ最近、地元の方ですごくいい流れが来ている気がしています。
自分がラップを始めた当時は、周りでラップをやっている人を聞いたことがなくて、本当に地元で一人でラップをして過ごしていました。
だから、ずっと「地元の仲間たちと活動すること」に対する憧れみたいなものがあったんです。
今、地元でラップをやっている人が増えてきたのは純粋に嬉しいですね。
これからも地元のコミュニティを大切にしたいですし、そこでLinkした人たちと良い動きができればと思っています。
D.C.Tがいま見ている、Sp1kyという才能
──今、注目しているアーティストを一人挙げるなら?
302スタジオで一緒に音楽をやっていた、2つ下の後輩でSp1kyってやつがいるんですけど、最近かなり注目しています。
聴いている音楽だったり、やりたい音楽の幅だったり、純粋なセンスだったり。
自分にはないものを持っている気がして、すごく惹かれます。
Sp1ky自身は、今のところSoundCloudに2曲、サブスクでは自分の曲に客演で入ってもらった1曲くらいで、まだ表に出ている活動がたくさんあるわけではありません。
でも制作中の曲だったり、Producerの兄貴との動きだったり、この先いろいろ出してくると思うので、ぜひCheckしてほしいです。
『FROM302』は、なくなった場所についての作品ではない
302スタジオは、もうない。
けれど『FROM302』を聴いていると、この作品が単純な”場所への追悼”ではないことが分かる。
D.C.Tが残そうとしているのは、部屋そのものではなく、そこで生まれた関係と、自分がどこから来た人間なのかという記憶だ。
中学2年生。
周囲にラッパーはいなかった。
田舎町に窮屈さを感じ、ANARCHYの自由さに憧れ、一人でラップを始めた。
そこから一人で名古屋へ足を運び、少しずつ理解者と出会った。
そして302という部屋には、後輩が集まり、先輩が集まり、新しい人間が集まった。
いまでは地元にもラッパーが増え、イベントを開く人間が現れ、それを応援する人たちもいる。
「興味ない(feat. BATY)」でD.C.Tが吐き出しているのは、決断の手前で立ち止まる自分自身の葛藤である。だがその葛藤の答えとして提示されるのは、
「他人が出した正解とはズレていても、自分が考え出した答えなら、それに誇りを持つべき」
という、極めてシンプルな一文だ。
この言葉は、楽曲だけに向けられたものではないのかもしれない。
一人だった頃から、自分の感覚を信じて動いてきたこと。
302で生まれた関係を大切にすること。
自分の地元に生まれ始めた流れを信じること。
そのすべてが、D.C.T自身が選んできた「答え」でもある。
『FROM302』というタイトルに刻まれた3桁の数字は、一つの部屋番号だった。
これから先、それが一つの時代やコミュニティを指す名前になるかどうかは、D.C.Tたちがこれから何を作るかにかかっている。
ただ少なくとも、302という場所が存在したことは、もう消えない。
リリース情報
EP:D.C.T『FROM302』 2026年8月7日 各種サブスクリプションサービスにて配信開始
「興味ない(feat. BATY)」Official Music Video 2026年8月6日 20:00 YouTubeにて公開
クレジット(「興味ない(feat. BATY)」)
- Feat. / Track:BATY
- Mix:Lig.
- Mastering:AKILLY
- MV 撮影・編集:戸塚凌侑(株式会社TIMING)
D.C.T(ドクター)プロフィール
2006年生まれ、愛知県知多市出身のラッパー。中学2年生でフリースタイルを始め、16歳から名古屋のクラブ/ライブハウスでライブ活動をスタート。現在サブスクリプションサービスに約20曲を配信している。泥臭い日常や内省的な歌詞を扱いながら、内側の真っ直ぐな感情をSpitさせるラップが特徴。
Links
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