BREATHが渋谷ミヤシタパークに出店BADHOP,YZERRが築く「FORCE経済圏」の一手

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BAD HOPはもう存在しない。だが、彼らが遺したブランド「BREATH」は、いま渋谷の一等地に店を構えている。

2026年6月6日、ミヤシタパーク NORTH 1Fにオープンした期間限定ストア。これを単なるアーティストグッズのポップアップとして処理すると、本質を見誤る。本稿の結論を先に示す。このストアは、YZERRがBAD HOP解散後に築いてきた「アパレル=BREATH/メディア=FORCE MAGAZINE/興行=FORCE Festival」という、音楽の外側に広がる「自前の街」への入口である。

HIPHOPCsは、この「街」が立ち上がっていく過程を、2025年9月から継続的に追跡してきた。本稿は、その文脈の上にミヤシタパークのストアを置き直す試みである。


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渋谷ミヤシタパークの期間限定ストア、概要

まずは公式が発表した基本情報を確認しておく。

  • 名称:BREATH LIMITED STORE at MIYASHITA PARK(Produced by NUBIAN)
  • 会期:2026年6月6日(土)〜8月中旬予定
  • 営業時間:11:00〜21:00
  • 会場:MIYASHITA PARK NORTH 1F(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10)

本ストアでは、最新コレクションとなる26SSアイテムを中心に、ここでしか手に入らない店舗限定アイテムを随時投入していく。期間中の購入者にはトートバッグとステッカーパックを、2万円以上の購入者にはハンドタオルをノベルティとして用意。いずれも数量限定で、なくなり次第終了となる。

会期中はその他のイベントも予定されており、詳細は随時アナウンスされる見込みだ。

初日の主役は「BREATH × STUDIO33」

オープン初日に投下された限定アイテム第1弾は、東京の刺繍スタジオ「STUDIO33」との初タッグによるコラボレーションである。

  • BREATH × STUDIO33 6 PANEL SNAPBACK CAP/¥15,400
  • 発売日:2026年6月6日(土)

キャップは、BREATHのシグネチャーであるオールドイングリッシュロゴの頭文字「B」をベースに、本企画のためだけに制作されたスペシャルグラフィックを高品質な刺繍で落とし込んだ一点だ。

さらに6月6日(土)・7日(日)の2日間限定で、購入した商品や来場者の持ち込みアイテムに刺繍を施せる有料イベントも実施された。

ここに、このストアの設計思想が透けて見える。STUDIO33は、これまでもNUBIANのポップアップで「その場で刺繍を入れる」体験型イベントを担ってきた実績を持つ。完成品を売るだけでなく、糸と針による「ものづくり」の現場を可視化し、購買を体験へと変換する──。BREATH公式が告知ビジュアルに刺繍機の映像を据えていたのは、まさにこの文脈を強調するためだった。

単発の出店ではない「FORCE経済圏」というレンズ

ここで視点を一段引き上げたい。BREATHのストアは、それ単体では「ブランドの好調な出店」にしか見えない。だが、仕掛け人であるYZERRの全体像に重ねると、まったく違う絵が立ち上がる。

YZERRは2024年、ラッパーとしては異例の「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に選出された。彼は同年のインタビューで「日本にはヒップホップを専門に扱う巨大メディアが存在しない」という問題意識を表明し、総合ヒップホップメディア『FORCE MAGAZINE』のローンチを宣言。そのメディアから派生する大型興行として立ち上げたのが、2025年10月に横浜アリーナで延べ3万人を動員した『FORCE MAGAZINE PRESENTS FORCE Festival』だった。

HIPHOPCsは、このFORCE Festival 2025の企画構造を開催前から分析し(FORCE FESTIVAL 2025が示す日本ヒップホップの新時代)、フェス直後にはアーティスト主導メディアとしての『FORCE MAGAZINE』本格始動を速報してきた(FORCE MAGAZINEが近日公開/POLO G × YZERR)。アーティスト自身がメディアとフェスティバルの両方を設計する形式は、日本のヒップホップシーンでは前例がほとんどない。

つまりYZERRの手元には、いま三つの装置が揃っている。

  • アパレル=BREATH:物販・実店舗を通じた日常的な接点と収益
  • メディア=FORCE:「語られる側」が「語る側」に回る、アーティスト主導の発信基盤
  • 興行=FORCE Festival:年に一度、国内外トップを束ねる象徴的な祝祭の場

この三つは、別々のプロジェクトではない。BREATHで服を買った人が、FORCE Festivalでその世界を体感する。逆に、フェスで熱を浴びた人が、BREATHの服を着て街に出る。つまりYZERRは、音楽の外側に「回り続ける導線」を作っているのだ。本誌が別稿で「アーティスト、経営者、メディアのトップ、フェスの主催。どの肩書きから見ても、現代日本のヒップホップ・カルチャー全体を動かしている立場」と評したのは、この円環のことである。三つの装置が客と熱を送り合うこの円環を、本稿は「FORCE経済圏」と呼ぶ。言い換えれば、YZERRが音楽の外側に築こうとしている「自前の街」だ。

ミヤシタパークのストアは、その「街」の表通りに面した一軒の店だと考えればいい。単発のポップアップではなく、もっと大きな地図の一部なのだ。

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「解散後」の川崎勢が同時多発的に巨大化している

BREATHは、川崎発の8MCクルー・BAD HOPが手掛けるアパレルブランドとして2022年に本格始動した。そのBAD HOP自身は、2024年2月19日の『BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME』をもって解散している。日本のヒップホップアクトとして初の東京ドーム単独公演という、シーンの歴史を塗り替える一夜だった。

本誌はかつて、BAD HOPを「アメリカのヒップホップ文化の借り物ではなく、川崎という自分たちの街の経験を日本語で語り直し、ローカライズして昇華させた存在」として論じた(エミネムとBAD HOPの「リアル」──ヒップホップにおける文化の盗用とは何か?)。その「川崎を背負う」という出自は、解散後も各メンバーのソロ活動に色濃く受け継がれている。

だからこそ、BREATHを着ることは、ただ服を選ぶこととは違う。川崎という街の出自と、BAD HOPが日本語で語り直した「リアル」の物語を、そのまま身体にまとうことを意味する。フェスで浴びた熱や、メディアで読んだ言葉が、布の上で着られる形に変わる。BREATHは、YZERRが作ろうとしている「街」の、もっとも日常的な制服なのだ。

重要なのは、解散が「終わり」ではなく「分岐」だった点だ。YZERRはFORCE経済圏を構築し、Tiji Jojoは「White T-Shirt 2」で解散後の日常を描き直すなど、メンバーは個別に存在感を拡張させている。象徴的なのは時間軸だ。BREATHストアの会期が始まって2週間と経たない6月19日、Tiji Jojoは日本武道館でソロワンマン「LONG LIVE LOUD」を開催した。チケットは発売から24時間で完売している。

渋谷でブランドが店を開け、武道館で元メンバーが単独公演を打つ。会期中のわずかな期間に、川崎発の二つの動きが東京の中心で重なった。これは偶然ではなく、解散後の川崎勢が「クルー」という単位を解いて、それぞれの規模で街の中心へ進出していることの可視化である。

NUBIANという「補助線」

BREATHが個々のメンバーの活動から独立して自走できている理由を考えるうえで、今回のストアの「Produced by」に名を連ねるNUBIANの存在は欠かせない。

NUBIANは、原宿や名古屋などに店舗を展開する東京の有力ストリートセレクトショップであり、BREATHの主要な販路でもある。今回のストアは、BREATHが持つ世界観と、NUBIANが持つ小売・運営のノウハウを掛け合わせた合作と捉えるのが正確だろう。

FORCE Festivalが「興行のプロ」との座組みで成立しているのと同じ構造が、アパレルでも反復されている。YZERR/BAD HOP側が世界観とカルチャー資本を提供し、各領域のオペレーションは専門プレイヤーが担う。この分業こそが、解散後もエコシステムを止めずに回し続ける推進力になっている。

「NORTH 1F」という立地が物語ること

最後に、場所の意味に触れておきたい。

ミヤシタパークは、ハイラグジュアリーからストリートまでが同居する、現在の渋谷を象徴する商業施設だ。その NORTH 1F に、ストリートとヒップホップを出自とするブランドが、期間限定とはいえ路面級の露出を得る。

「川崎サウスサイド」という、東京の中心から見れば周縁の地名を背負って這い上がってきたBAD HOP。そのブランドが渋谷の一等地に旗を立てる構図は、出自を考えればきわめて象徴的だ。彼らが音楽で実現してきた「フッドから中心へ」という物語が、いまアパレルの文脈で反復されている。

そして2026年は、その物語がさらに地元へ折り返す年でもある。YZERRはFORCE Festival 2026を、横浜アリーナから地元・川崎へと移して開催すると宣言した(FORCE Festival 2026は10月24日・川崎で開催)。渋谷で世界観を提示し、川崎で凱旋する──BREATHのミヤシタパーク出店は、この「中心と地元を往復する2026年のYZERR」の前半を飾る一手として位置づけられる。

BAD HOPは解散した。だが、彼らが作った名前も、街も、服も、メディアも、フェスも、解散後のほうがむしろ広がっている。

BREATHのミヤシタパーク出店は、その象徴である。川崎から出てきた物語は、渋谷の一等地に店を構え、10月にはまた川崎へ帰っていく。

これは、ポップアップのニュースではない。YZERRが、音楽の外側に自分たちの「街」を作り始めた、という報せである。8月中旬までの会期、続報イベント、そして10月の川崎へ──このシークエンスを、本誌は引き続き追跡する。


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