DJ KANJIインタビュー|自身の全てを受け入れた先に見えたもの
中延駅から出ると、ビルの群れを押し分けるように続く国道1号が姿を見せ、絶えず人と自動車と時間が忙しなく流れているようだった。
国道に沿って待ち合わせ場所の方向へ。目的地に到着し、少し手狭なエレベーターに運ばれた後、スタジオへと足を踏み入れる。
数多のラッパー、プロデューサーが音と遊んでいた痕跡が残るスタジオで暫く待っていると、1人のDJ兼プロデューサーが現れた。
ヒップホップという音楽の性質上、楽曲において語り部を担うのは、主にラッパーである。よって、プロデューサーはリリックに参加しない限り、自らの思想や感情を直接言葉にする機会は多くない。
しかし、ビートメイカーでありながらも、彼の感情やメッセージが楽曲から透けて見えてしまうのが、DJ KANJIという男の性質なのである。
何故、語らずして彼という人間を楽曲に反映させることができるのか。
それは、彼が単なる”ビートメイカー”という意味でのプロデューサーではなく、プロジェクト全体の方向性を包括して支える”総合プロデューサー”としての手腕を振るっているからに他ならない。
これまでリリースされてきた3つのアルバム『THE LIFE』『THE VOICE』『THE SOUL』において、彼はプロデューサーとしてクレジットに表記されている。
が、使用されているビートは彼の手掛けたビートだけではない。名の知られた実力者から、まだ表に出る前のニューカマーまで様々なビートメイカーを起用。そして、それぞれのビートの波長に共鳴できるラッパーを正確に選び抜く。
だからこそなのか、DJ KANJIが携わった楽曲の中でラッパーたちは伸び伸びと、歯に衣着せぬ言葉を乗せる。ラッパーたちはビートに乗っているのではなく、ビートに”応えている”。
結果として、彼のアルバムは物語を紡ぐ。紡ぐべくして紡がれる。つまり”シングルの寄せ集め”となることは不可能という訳だ。
過去、DJ KANJIと共に物語の輪郭を形成してきたアーティストを挙げればキリがない。
LEX、HIYADAM、Y’S、Jin Dogg、Young Coco、Yo-Sea、Elle Teresa、 Masato Hayashi、Kaneee、Kohjiya、MIKADO、Gottz等々…ここらで留めておこう。
このつながりの広さは、DJ KANJIの軌跡そのものを指す。キャリア初期から全国のクラブを渡り歩き、直接顔と顔とを合わせる瞬間を大切にしてきた彼だからこそ残る、美しい轍なのである。
今回は、DJ KANJIの過去やキャリアを振り返るとともに、感情と同期する作品たちについて、そして今のシーンに対する思いなどに迫っていく。
例によって、YTG Samも同席。近況を交わした後、自然とインタビューは始まった。
数々のラッパーたちと共に歩んできたDJ KANJIの轍を辿る、自身の全てを受け入れた先に見えているモノとは
Lucie:本日はよろしくお願い致します。まず、改めて自己紹介をお願いします。
KANJI:DJ KANJIです。静岡県浜松市出身で、DJ兼プロデューサーをやらせて頂いてます。
Lucie:よろしくお願いします。少し前の話にはなりますが、ひとまず『THE SOUL』のワンマンお疲れ様でした!
その後の反響はいかがでしょうか?
KANJI:反響は今もめちゃめちゃ感じてますね。そのワンマンはZEPPでやらせて頂いて、お客さんとの距離があったんで…1人1人との対話というよりかは、とにかくみんなの声を聞くっていう感じだったんです。
で、今はツアーで全国を回らせて頂いてるんですけど、その時来てくれたお客さんから「私ワンマン行きました!」とか嬉しい声を聞けて、本当にやってよかったなって。モチベーションになってます。
Lucie:ですよね。まだ熱冷めやらぬ時期だと思います。
では、KANJIさんのルーツ的な部分に迫っていきたいのですが、どんな幼少期を過ごされていたのでしょうか?
KANJI:そうですね。幼少期は割とそんな良くも悪くもない家庭で、普通に育ちました。
でも、僕が3歳の頃に親が離婚して….その喧嘩の様子とかも目の前で見てたりしてたんですけど。それからばあちゃんの家に住むことになって、兄貴と僕と母親とばあちゃんで暮らしてました。
Lucie:なるほど。ヒップホップにはいつ出会ったのでしょうか?
KANJI:12歳くらいまで、音楽にはそんなに触れてなかったんです。母親の車でマライア・キャリーが流れてたり…っていうぐらいで、のめり込んでるわけではなかった。
なんですけど、13歳頃にテレビを見てたらiPodのCMが放送されてて。ダンサーが踊る映像と一緒にEminemの「Lose Yourself」が流れてて「めちゃめちゃかっこいいな、これがヒップホップっていうのか」みたいな。ヒップホップを認識したのは、それくらいの時ですね。
で、当時僕の家から50メートルぐらいの近所に、後に僕の師匠となるDJ RYO-TA君が住んでたんです。
中学校ぐらいの時にRYO-TA君の妹さん、ちょっと不良っぽいお姉さんだったんですけど「あんた何やってんの?一緒に学校行く?」みたいな感じで話しかけてくれて、一緒に学校行ったりしてて。
そんなこんなで話してるうちに「私のお兄ちゃん、DJやってんだよね」なんていう話になって。その時の僕は「DJって何?」くらいの感じ…何も知らない状態だったんですけど(笑)。「今度紹介してあげるから、ウチおいでよ」って言ってくれて。
で、RYO-TA君ちに行ったら、僕の思い描いてたヒップホップがそのままあったみたいな。ヒップホップが爆音でラジカセから流れてる中、ちょっとダボッとしたオーバーサイズの洋服に、New Eraを合わせたRYO-TA君が出てきて「何、ヒップホップ興味あんの?」みたいな(笑)。キャップとか洋服とか頂いて。
それからは”ヒップホップを知る”ことに注力してました。まだサブスクとか無かったので、ビデオ屋のCDコーナーに行って「ごじゅっせんと(50 Cent)って誰だ?」とか思いながら借りて、家で聴いて、MDにダビングして返して、また借りて…っていうのをひたすら繰り返してましたね。
RYO-TA君に出会った数年後…僕が高校に上がる頃くらいですかね。ターンテーブルを買って、それからはずっとRYO-TA君にDJを教えて頂いた…っていうより、ひたすらRYO-TA君の背中を見て学んでました。
師匠の背中を追う下積み時代
Lucie:DJを始めた当時、現在の自身の姿って想像してましたか?
KANJI:当時はバイクにどっぷりハマってたんで、DJは趣味の1つみたいな感じだったんです。
ヒップホップ流して、周りの友達に「カッコいいね、これ何?」って言われたら、ちょっとイキりながら教える小僧だったんですけど(笑)。
15,16歳辺りで、本格的にRYO-TA君がクラブに誘ってくれるようになって。もう….爆音じゃないですか。心臓の方まで低音が響く感じにめっちゃ食らっちゃって。
ステージ上でRYO-TA君が回してる姿もカッコよかったから「あんな風になりたい」って思い始めたんです。で、RYO-TA君に教えてもらうようになってからは一気に音楽の熱が増して、クラブでDJデビューしたのは18歳でした。
Lucie:じゃあ、もう今の状況は全く想像できなかったですよね。過去のKANJIさんが見たら驚くでしょうね(笑)。
KANJI:全く(笑)。
その頃はヒップホップで飯食えてる人は中々いなかったし、営利的な考えはあまりなかったので。それよりも初めましての人と「あの曲知ってんの?ヤバいね」って話をして、コミュニティを広げていくのが楽しくて。
だから、18歳の時はひたすら聴いてる音楽をシェアして、友達づくりみたいな。共感し合えるのが本当に楽しかった。
Lucie:なるほど。純粋に人との繋がりとか、音楽を楽しんでいたわけですね。そのようにして18歳からDJとしての活動を本格化させると。
KANJIさんのアーティスト情報や過去のインタビューを拝見すると「キャリア初期にはHARLEMやAbemaに自ら売り込んでいった」と、あったのですが…。
KANJI:ですね。少し前までAbemaのライブスペースが原宿駅前にあったんですよ。僕はまだ上京したばっかだったんですけど、あそこに立ちたいって思って。
自分からAbemaのメールに「僕こういうのやってます」ってプロフィールとか、ミックステープのリンクとかアー写とか送ったり。そしたら返信が来て、立たせて頂ける運びになりましたね。
その後はDJ YANATAKEさんが声をかけてくれて、WREPのDJをさせて頂いたり。そういう所から東京で回せる回数が増えたのかなと思いますね。
プロデューサー”DJ KANJI”の誕生
Lucie:僕の中では、KANJIさんはDJというよりも”ビートメーカー”、”プロデューサー”っていうイメージの方が強いんですけど。
DJとして活動していたKANJIさんが、プロデュースを始めた経緯を知りたいなって。
KANJI:はいはい。一口にDJと言っても種類がすごく多くて。バトルDJもいますし、クラブDJ、ラジオDJだったり、技術を競い合う大会に出るDJもいたりとか。
有難いことに、僕は周りに本当に恵まれてて。世界チャンピオンのDJ SHINTARO君とかもいますし。それこそバトルDJだったらTIGU君もスクラッチ上手いし、YANATAKEさんもそうですよね。
正直…今挙げた人達と技術で戦おうと思ったら、結構難しいと思ってて。みんなすごい実力派だし、
彼らには勝てないなって。「どの部分なら勝てるんだろう」って考えてた時に、やっぱUSではDJ KHALEDは曲をリリースして、オンリーワンの作品を作っていたんです。
で、23歳くらいの時に初めてニューヨークとか、ロサンゼルスに行ったんですけど、DJのプロフィールとして渡せるモノが僕に無かったりして。
よりオンリーワンの作品を作りたいと思うようになって、プロデューサーとしてビートを作るようになりました。
Lucie:ふむふむ。DJだけだった頃と比べて、プロデューサー側に回ると見える景色が異なったりするのでしょうか?
KANJI:それはありますね。DJってとにかく色んな音楽を耳にするんで。
ヒップホップだけじゃなくてR&B、ポップス、ロック、レゲエも聴く。ジャンルによって乗り方も音も全然違うので、それらのサウンドをプロデュースに活かすことができるっていうのが、DJとビートメイカーを両立してることの良い面ですね。
Lucie:確かに、自然に数多くの音楽を聴きますからね。クラブが音を勉強する場にもなっているということですよね。
才能たちとの出会い方、総合プロデュースの妙味
Lucie:KANJIさんといえば、数えきれない程多くのアーティストとコラボされていますよね。そうした横の繋がりはどのように築いてきたのでしょうか?
KANJI:それも、ほとんど出会いがきっかけですね。
あと、僕が惚れ込んだアーティストにはメール飛ばしたり。本当に好きなラッパーには、告白じゃないですけど「マジカッコいいんで、曲やりたいです」って声かけたりしてますね。
Lucie:本当に、今を輝くアーティストの方がいっぱい参加されていますよね。
たくさんのアーティストをプロデュースしてきた中で、プロデュースした楽曲をきっかけとして名前が広く知られることになったりとか…多くのアーティストの節目に立ち会ってきたと思うんです。
売れる前と売れた後を見てきたKANJIさんだからわかる、「この人来るな」っていう人に共通する要素ってあったり?
KANJI:うーん、どこなんですかね…。でも、やっぱりみんな目がヤバい。それこそオーラが出てたりする人もいますけど…。
結果、人間性じゃないですかね。音楽性はもちろん、フィーリングがすごい合うと一緒に良い曲が作れると思うんで。人間性が共鳴し合わないと、良い曲は生まれないかもしれないですね。
Lucie:なるほど、なんだかんだで重要なのは人間性だと。そして、フィールできた人たちをアルバムに大集結させているわけなんですけど…。
アルバムのクレジットを見るとKANJIさんのビートだけではなく、別のプロデューサーのビートも採用していることも多々ありますね。
つまり、KANJIさんにおける”プロデュース”の意味はビートメイクだけに留まらない、「作品全体の方向性とか世界観を指揮する」ということだと思うんです。それこそ、DJ KHALEDのように。
そういう手法でアルバムを作る面白さって、どんな点に感じますか?
KANJI:確かに、自分のビートだけで作品を完結させることは可能ではあるんです。
でも、それってただの自己満になってしまうし、第三者の意見を取り入れることもできないんですよね。たとえ個人で出した作品がヒットしても、なんだか…すごく寂しい気持ちにもなるんです。
だから、DJ KANJI名義の時は僕のビートだけじゃなくて、プロデューサーのビートを借りて、ラッパーの組み合わせも深く考えながら進めていくことが多いですね。そうすればプロデューサーをフックアップすることもできるじゃないですか。
アルバムに反映される心情
Lucie:『THE LIFE』『THE VOICE』『THE SOUL』と、プロジェクトをリリースするにつれて、KANJIさん自身にも変化があったと思いますし、その変化はタイトルやジャケットにも現れていると個人的に思っていて。
『THE LIFE』の時は、巣に座している卵の周りを細い枝が囲っていて、枝には鍵が下がってる…みたいな。
でも『THE SOUL』に向けて、どんどん変化していきますよね。その変化を1つずつ紐解いていきたいと思っていて…どんな変化があったか聞かせて頂きたいです。
KANJI:そりゃもう…めっちゃありますよ。まず1作目の『THE LIFE』ですかね。
ジャケットの左下の岩場を見ると、男の人の片足が出てるんですよ。
Lucie:本当だ!気づいてなかった(汗)。
KANJI:この作品のジャケット作る時、「これからの自分の未来と今までの生い立ちをジャケットにしよう」って思ったんです。
実は、その片足は幼少期に離婚した親父を表してるんです。右上には枝を光で照らしてくれる人がいて。光が当たることで樹木が育って、その栄養が卵に行ってるっていう意味なんですけど。
Lucie:そういうことかあぁ…。ちなみに卵は?
KANJI:卵は僕です。まだ俺は未完成だと思っていて、生まれていない方が面白いんじゃないかと思って。
Lucie:でも『THE VOICE』だと、卵が無くなってしまうじゃないですか。そして、目線が下がるというか。そして、枝に下がっていた鍵が雲になってしまって、寂しそうに伸びる右手があると。
KANJI:『THE VOICE』は…そうですね。このアルバムを作った時は、本当に鬱に食らってる時でした。そんな時に作った作品なんですけど。
僕、ふとした時に空に手を掲げるんです。手の平にあたる太陽の光がじんわりと暖かくて、気持ちが良くて。その手をそのままジャケットにしようと思って、デザインしてくれたKAMIOKAさんに頼んで。「卵は、もう生まれてるから要らないか」ってことで無くなりましたね。
樹木も少し育って大きくなってて。『THE LIFE』の時も葉っぱが付いてたじゃないですか。あの葉っぱたちは自分の作品に参加してくれたアーティストたち、みたいなイメージで。みんなも順調にキャリアを伸ばしていたので、葉っぱも成長してるんです。
当時はエモーショナルな気持ちだったので、夕暮れみたいなピンクがかった背景になりましたね。
Lucie:鍵が雲に変化したのは…。
KANJI:鍵は、実はもう持ってるモノだったみたいな話です。
Lucie:あぁっ(感嘆)。確かに…『THE VOICE』は寂しげなイントロから始まって、Masato Hayashiが歌い始めるという…。
KANJI:超鬱っすよね(笑)。
Lucie:いやぁ、もうホントに…。なんか、引っ張られてしまうくらいに寂しさが伝わってくるというか…。
KANJI:食らってる時、久石譲さんの曲しか聴いてなかったくらいなんです。
人に会いたくなかったし、連絡も取らなかった。ヒップホップ聴いたら、余計に勘ぐりが増しちゃったりして。大変な時期だったんで、イントロも少し悲しそうなメロディーになったし、感傷的な作品になりましたね。
Lucie:しかし、『THE SOUL』では一変しますよね。
視点が上がるどころか、雲の上に達する。朝日の眩い光の前に構える樹木はハートの形を模していて。そして、樹木には2人の手が触れている…ついに1人ではなくなるのですよね。
前作の2枚を経た後、特に前作がエモーショナルな『THE VOICE』だっただけに「LoveMyself」から入る始まり方が良すぎて。「また距離だけが離れちまうね」って…そうだよねぇぇみたいな(笑)。
KANJI:確かに…言われてみるとそうですね。全部、繋がるんです。「LoveMyself」を作ったことで自分の過去の生い立ちとか、辛い過去を克服できたのかなって思いますね。
それまでは鬱だったことが恥ずかしかったし、人に言うこともできなかったんです。「誰かに心配をかけてるんじゃないか」とか、勘ぐったり。
でも、今思い返すと自分を見失ってただけだし、結果てめぇのせいなんですよ。だから、自分が自分を愛せるようになれて、今はその経験に救われてます。
Lucie:もう…最高ですね。ハッピーだ…。
KANJI:もちろん『THE SOUL』の中にはハッピーな部分だけじゃなくて、「Bad Trip」っていう曲も入ってて。やっぱり緩急があるからこそ波を楽しめるし、喜びも辛さもしっかり感じることができると思うんです。
Lucie:DEXUS OGAWA(旧名 GOKU GREEN)さんとMyskinteriyakiさんが参加された楽曲ですよね。個人的にDEXUS OGAWAさん聴いていたので、やっぱりあの人ヤベェって思いましたね。
KANJI:本当は『THE SOUL』に入る予定じゃなかったんです。第2作目の『THE VOICE』に入る予定だったんだけど…僕が勘繰りすぎて、入れることができなかったんです。で、今作でやっと入れることができました。
Lucie:いや、今だからこそ逆に良かったんじゃないでしょうか…。アンダーグラウンドシーンの土壌が育ってきた今、あの楽曲の質感はまさにドンピシャだったと思います。
KANJI流”内なる葛藤との向き合い方”
Lucie:僕を含め僕の周りも、そういう…メンタル面での戦いを経験している人が多くて。「なんでこうなったんだろう」みたいな感じだと思うんです。
KANJI:ホントそうですよね(笑)。「なんで?」ってなりますよね。
Lucie:僕の場合、やっぱり比較対象が多すぎたのがあったのかなって思って。SNSを見れば誰かの成功が見えてしまう…そんな時代だからこその要因だったと思っていて。
今はそんな人たちがごまんといると思うんです。どうすれば乗り越えることができるのか、指南して頂けたらなと思いまして。
KANJI:…そうですね。確かに、鬱だった時は連絡も取りたくなかったし、誰とも会いたくなかったですよ。真っ暗い部屋で1日中、何もする訳でもなくマイナスなことばかり考えて…。
でも、しつこく連絡してくれたり、しつこく外に連れ出そうとしてくれる友達がいて。そういう小さい事が積み重なって今の自分がいるので。本当にありがたいことだなって。あの頃、みんなが連絡くれてなかったら、僕は今頃まだこもってるかもしれないくらい。
小さいことでも、幸せってマジで身近にあるんだなって。それに気づく必要があるし、ちゃんと自分を鏡で見る必要があるって思いますね。
KANJI流の制作スタイル
Lucie:ちょっと深くなりすぎてしまったので、制作に関する話をお伺いしたいと思います!
ちなみに、普段使用しているDAWは?お気に入りのプラグインなどもあれば知りたいです。
KANJI:Ableton Liveですね。お気に入りのプラグイン…Pro-Qぐらいじゃないですかね。
ローをカットしたりとか、なんでもできるイコライザーなんで。基本ボーカルの低域を削ったり、ビートでも要らない部分を削ったり、使いやすいと思います。
Lucie:へえぇ、トラップを作る方々は大体fl studioを使ってるイメージがありました。Abletonも結構何でも作れるんですね。
ビート制作はどこから始めます?メロディなのかドラムなのか、はたまたベースから?
KANJI:あまり、定まってないかもしれませんね。結構他のプロデューサーと作ることが多いので。
僕はメロディーにあまり強くないんですよ。コードも未だによくわかってないので…単音で作るとかだったら全然作れるんですけど。
だから、メロディーを上手く作ってくれる仲間にお願いして、僕はドラムだけ組み立てるとか。そうすればコラボになってフックアップにも繋がりますし、そういう手法で作ることが多いですかね。
『THE SOUL』でいえば「LoveMyself」「Celebrate」みたいなメロディアスな曲だと、コードとかは特に重要になってくるので、LEGOFACTORYっていう子に頼みました。今、そこにいる子なんですけど。
Lucie:あぁ…うぇっ!?いた!いらっしゃった(笑)。ど、どうも。
*実はインタビュ―現場にはDJ KANJIとSam、Lucieの他に、青年2人が同席していた。
LEGO:((*_ _))ペコリ
Lucie:「LoveMyself」のクレジットで見た名前だなと思っていたら、まさかご本人が目の前にいらっしゃるとは…驚きです。
やはりLEGOさん然り、KANJIさんは直接会った上で制作を進めることが多いのですね。今や楽曲制作はオンライン上で完結してしまいますが…。
KANJI:そうですね、割と会いに行くことが多いです。デモまではオンライン上で済むこともありますけど、いざ本録ってなると直接会ってします。
ラッパーとレコーディングする前に、電話とかミーティングすることもあるし…コミュニケーション取って、相手を理解してからの方が曲に思い入れが入りますね。
Lucie:やはり、アナログな方法だからこそ生まれる価値っていうのは…。
KANJI:ありますあります。今の時代だからこそ余計ですよね。
Lucie:間違いないです。曲1つ1つに記憶が乗りますもんね。
ただ、ラッパーはリリックを落とし込むが故、伝えたいことやメッセージがわかりやすくできる一方で、プロデューサーはメッセージを言葉として伝えることができない…音で伝えるしかないわけですよね。
プロデュースする中で、KANJIさんはどのようにメッセージをビートに落とし込んでるのでしょうか?
KANJI:ビートのタイトル…結構、タイトル重要ですね。
例えば、作った日付が名前のビートとかだと、ビート自体がめちゃめちゃ良くても「トピックがないな、じゃあどうしようかな」ってなってしまって。そのビートを送られたラッパーも同じように感じると思うんです。
だから、僕は自分のビートには何でもいいからタイトルをつけます。本当にめちゃくちゃなタイトルになることもあるし(笑)。
誰かが作ったビートに付いてた名前が、そのまま曲のタイトルになることもあります。
シーンの風向きを読む、KANJIとSamが語る様相
Lucie:『THE SOUL』だと、最近リバイバルしたフューチャリスティックグローの楽曲があったりとか、新しいサウンドも入ってますよね。
だけど、音の流行り廃りってバカみたいに早いじゃないですか。「この間まで流行ってたのに、もう古い」みたいな。今の「イケてる」をキャッチするためにやってることとかありますか?
KANJI:洋楽と邦楽にかかわらず、常に新譜はチェックしてます。あと、例えばアジアの曲とかも。
それこそこの間、スリランカの方がやってるカレー屋さんでご飯食べた時、「この人たちって地元にヒップホップとかあるのかな」って気になって、聞いてみたんです。やっぱりカルチャーがちゃんとあって「こんな音が流行ってるんだよ」なんて教えてくれたりして。
そんな感じで、何でも自らキャッチしに行ってます。それに関してはヒップホップ以外にも、レゲエとか色々なジャンルにおいてもそうですね。
Lucie:面白い情報の捕まえ方!(笑)
では、今のシーンのことについて伺いたいのですが、KANJIさんのキャリアが始まったのは、恐らくトラップ全盛期の少し前あたり…ですよね。かなり長い間にわたって、日本のシーンの流行り廃りを見てきたと思うんです。
今のシーンってどんな感じ…どう見てますか?
KANJI:良いんじゃないですか。良く言えば、めちゃめちゃ恵まれてる時代だなって思いますね。SNSのおかげですぐに曲が広まったりするし…。
ただ、これがずっと続くとは思えないですね。
Sam:2週間前、Y’S君も同じこと言ってた(笑)。なるべく物事を良いように捉えようと解釈して、ネガティブなことはあんまり言わない人なんだけどね。
KANJI:ホントですか(笑)。あの方もOGですから、ちゃんとシーンを見てきてますね。
Sam:うん、ちゃんと見てるね。この前は「俺らが若かった頃の上下関係は無くなったよね」って。俺らが若かった時って、”クラブ行ったらとりあえず挨拶して回る”が絶対だったじゃない。
でも今の子達ってさ、自分でトラック作れてレコーディングできて、リリースまで1人で完結するからさ。変な話、1人だけで売れちゃう。ってなると、先輩のラッパーたちと付き合いとかも無いからね。良い意味でも悪い意味でも、少し生意気みたいな。
KANJI:ですねぇ…。僕らが見てきたヒップホップとは、少し違うかもしれないですね。
幼馴染とか友達とか先輩とか、みんなで一緒に上がるためにやる感じではないというか。そういう繋がりが無いのは寂しいです。
シーンが大きくなって、お金が生まれるようになったのは嬉しい成長ですけど、得るモノとは別に失われるモノも絶対にあると思います。
僕はやっぱり仲間に救われて、環境に救われて、今も音楽やれてるんで。だから、今の子たちがこの先も長くやっていけるのか、っていうのはわからないですね。
Lucie:やっぱり、上下関係は重要になってくるんでしょうか?
KANJI:今思うと、「あの時ぶん殴られててよかったな」とか全然あります(笑)。
だから、今でも地元の先輩には「あの時殴ってくれて、ありがとうございます」とかお礼言うんです。「やっとわかったかぁお前」とか言われるんですけど。
Lucie:なるほどー。結局、礼儀とか”しきたり”って馬鹿にできないですね。
今の話の通り、”母数が増えること=質が上がる”ではないじゃないですか。自分もシーンの成長とは裏腹に、衰退してしまうのではないかという懸念も抱いているんです。僕、マジで、ホントに続いてほしいんです。終わってほしくない…。
KANJI:もちろん、僕も同じですよ。
Lucie:でも、一抹の不安が頭をよぎるというか。「なんかヤバいかも」って思うことがあるんです。どうすればいいのかなって、シーンが続くためには。
Sam:多分、大丈夫だと思うよ。KANJI君がクオリティコントロールしてくれる(笑)。
KANJI:してません(笑)。
そうですね…色んな人たちがいる今のシーンも別にいいとは思ってます。新しい芽が出てくる事に関しては良い点も悪い点もどっちもあるし、何が正しいのかなんてはっきりわかることじゃないので。
ただ、”他所は他所”みたいな感じになっちゃうんですけど、とりあえず僕たちは僕たちのことをやろうかなって。仲間たちと一緒にやっていくだけです。
良い意味でも悪い意味でも”素直”が1番
Lucie:そんなシーンの中で、KANJIさんが思う”良いラッパー”ってどんなラッパーでしょうか?
KANJI:良いラッパーか…。素直、素直な人が僕はめちゃめちゃ好きですね。
たとえクソなこと言ってても、それが成立するラッパーの人だったらOKなんですよ。「俺彼女いるけど、昨日違う女の子と遊んじゃった、イェイ」みたいなリリックでも、それが本当なら全然良いですし。
Sam:本当の話なら、しょうがないもんね(笑)。
KANJI:そうですね(笑)。正直なラッパーの方が、言葉に信憑性があるから好きです。プロデューサーもそんな感じですかね。
Lucie:なるほど、納得ですね。
ただ、プロデューサーは歌う訳ではないので、リリックっていう素直さを測る尺度がないわけですが…プロデューサーの人間性によって音は変わったりするのでしょうか。
KANJI:出ます。音にはしっかり出ると思いますね。
Lucie:マジか、やっぱり出るんですね。面白いなぁ。
では、最近注目している素直なラッパーを教えて欲しいです。
KANJI:友達のMIKADOとかですね。彼は素直なリリックで良いですね。
ラッパーって僕の中でシンガーとは違って、ちょっと生意気で自分を持ってるのがラッパーだと思っていて。MIKADOはそのイメージに当てはまっているし、大切なモノを持ってる子です。
Lucie:最近、すごいですよねMIKADOさん。彼はフリースタイルで制作するっていう話を聞いたことがあります。
KANJI:そうですそうです。本当にビート流したら、すぐにフリースタイルで作っちゃいますね。
Lucie:どれくらいで完成させてしまうのでしょうか。
KANJI:最短だったら数十分とかで完成します。
「Celebrate」の時なんて、ビート流した5秒後くらいに歌い始めて。「まだ2小節も聴いてないじゃん」みたいな(笑)。「もうこれです」って言われて、まだマイクつけてないのに。1時間弱でフックとバース全部できてましたね。
Sam:マジで!?すごいね。
Lucie:いやぁ噂には聞いていましたが、流石だなって感じです…。
では、プロデューサーは誰かいらっしゃいますか?
KANJI:彼ですね。LEGOFACTORYです。
LEGO:((*_ _))ペコリ
KANJI:彼も僕と同じ浜松の出身で、知り合って1年ぐらいなんですけど。
一度浜松に帰った時、スタジオ作ろうと思い立って。浜松のプロデューサーとか、誰かレコーディングしながら曲作れる子とかいないかなって探してたんですよね。
そんな時、僕の先輩が彼を紹介してくれたんです。元々、彼は大学に行ってたんですけど「やっぱり音楽の道に進みたい」って思ってたらしくて。そんなタイミングで出会ったんです。
初めて会った日からフィーリング合ったんで、一緒に曲作ってます。次世代の子の作る音楽にも興味があるし、彼の気持ちやスタンスが僕は好きなんで、すごい勉強になります。
Lucie:いやぁ素敵だし、最高じゃないですか。
Sam:そういえば、隣のもう1人の彼は?
KANJI:彼は「LoveYourself」で歌ってるWoodyです。
Woody:((*_ _))ペコリ
Lucie:あああ!アルバム聴いた時に「エロい声の人いるな」って思ってました!貴方様でしたか…。
KANJI:彼も若くて、まだ24歳とか。Yo-Seaとか3houseの次の世代のRnBシンガーなんですよ。
沖縄にNGONGっていうプロデューサーがいるんですけど、彼から「静岡に住んでるWoodyっていうシンガー知ってます?」って言われて。調べたら近かったんで、連絡して彼の地元でお茶して。
バイブス合ったんで、今は一緒に作ってるって感じです。
Sam:まず、地声が良いもんね。KANJI君とスタジオ入ってみて、どうでしたか?
Woody:そうですね。自分も大学の時期に上京してて、その頃にKANJIさんのDJタイムを客として見てたんで…。会えるってなった時は「ドラマみたいだな」って思いました。
初めて会った日にKANJIさんがビートパック送ってくれて、自分の中で燃え上がる何かがあったので、その日のうちに一曲作って。
KANJI:そう。僕が浜松に帰る途中にはデモ送られてきてて、「あれ?早くね?」みたいな(笑)。
Woody:自分も東京にいる時、ある程度コミュニティに属していたんですけど。地元帰ると何もコミュニティーがなくて。ただ何となく仕事しながら、気分を昇華させたい時に1人で曲作りしてたんです。
でも、KANJIさんと音楽以前に人として繋がることができて、1人で作ってる時とは比べ物にならないくらい大きなコミュニティになって。元々サッカーやってたのもあって、誰かと何かを作り上げたり、何かを成し遂げることが好きなので、すごい良い環境でやらせてもらってます。
キャリアにおける意外な立役者
Sam:KANJI君あれですね、すぐに曲作って送ってくる人が好きなんですね。
KANJI:大好き(笑)。
俺もその場でビート作るんで、その日によってできるビートは全然違ったりするんですよね。良い曲になるかもわからない中で、ビート作ってるうちにフリースタイルでラップしてくれるラッパーは、やっぱりアガります。
その場で出る言葉って、一番リアルな言葉が出てると思うんですよ。本当にそれが好きですね。バカなこと言ってても全然良い(笑)。
Lucie:いや、フリースタイルできる人本当すごい。最近増えましたよね、パンチインのスタイルとか。
KANJI:そうですね。Travis(Scott)とか、Young Cocoも結構そのスタイルでやってましたね。
ちなみにビートを作り始めた頃、色々教えてくれたのはCocoでしたね。彼がAbletonだったので、僕も使い始めたみたいな感じだったので。
Sam:その話好きだわ。Cocoの話もう少し聞きたいかも(笑)。
Lucie:僕もCocoさんの話気になる。いつ頃から顔見知りなんですか?
KANJI:彼がまだ15、16歳くらいの頃に大阪で出会ってますね。
Lucie:すごい前から!なるほどですね。Cocoさんもずっと変化を続けていて、何か無敵って感じしますね、あの方は。
KANJI:いや、ホントに彼はすごいですよ。マジでストイック。僕が見てきたラッパーの中でも、1番と言っていいくらいストイックです。
最近出た「Warning」はiTunesで買っちゃいました。DJなんで、そういうことです(笑)。
ニュー・シングルは、デコボコフレンズREMIX ???
Lucie:最後に、最新の動きとしては…シングルをリリースされたということで。
KANJI:そうですね。8月末まで『The Soul』のツアーを回らせて頂いたんですけど、そのアルバムの楽曲「デコボコフレンズ」のリミックスが完成して、9月9日に公開しました。
リミックス版には、MIKADOとSKy NETが参加してくれています。
『デコボコフレンズ(REMIX)』をApple Musicで聴く
Sam:うおお、さっき話にも出てきた彼か。いいですねぇ。
「デコボコフレンズ」以外にリリースあったりするんですか?。
KANJI:ありますね。今年中に1曲、それこそLEGOのプロデュースで。
LEGO:((*_ _))ペコリ
KANJI:数日前にツルっと仕上がった曲があって。自分が食らっちゃう曲って結構ヒットしがちなんですけど、今回はだいぶ食らってるんで、乞うご期待って感じで。
Sam:年内ですね。楽しみだな。
Lucie:ですね。では、この度はありがとうございました!
Closing Note
過去、DJ KANJIは籠の中で鏡と見つめ合っていた。そこに映るのは、憂いを帯びた自分ばかり。そんな鏡に嫌気が差し、籠から抜け出そうとするものの、鍵は籠の外にある。
そう思い込んでいた。
実際、鏡には映しきれないほどの戦友が彼を囲んでいたし、右手には確かに鍵が握られていた。気づけば、自分を呼ぶ誰かの声が何度も、何度もこだましていた。
そして、日の当たる場所へ戻った彼は、過去の自分を振り返る。
「また距離だけが離れちまうね」
でも、大丈夫。いつかまた、音の中で相まみえる日が来るのだから。置いてけぼりになんて、するはずないのだから。
DJ KANJI|公式SNS・作品リンク
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アルバム・EP
『THE SOUL』
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『THE VOICE』
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『THE LIFE』
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シングル
「デコボコフレンズ(Remix)」feat. ENEL, MIKADO & SKy NET
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