Yeジャカルタ公演現地レポート|地球の頂に立つ一人と、赤く染まるGBK
現地取材・レポート:JohnAira/構成:Rei Kamiya
写真提供:RAW VISION COLLECTIVE
地球の上にYe(イェ/カニエ・ウェスト)が立っている。2026年10月24日、インドネシア・ジャカルタのGelora Bung Karno Main Stadium(GBK)で開かれた「YE LIVE IN JAKARTA 2026」をHIPHOPCsのJohnAiraが現地で観た。正直に言うと半端じゃなかった。
スタジアムの真ん中に巨大な地球がある。その頂にYeが立ち、マイクを握る。ライブを観たというより、巨大な舞台と照明に包まれた会場全体を体験したという感覚に近かった。細部まで作り込まれているのが客席からでも分かった。
この夜の迫力をつくっていたのは、地球の大きさと、その上に立つ一人の身体の対比だ。曲面いっぱいに広がる海と陸地を見ていると、頂のYeは驚くほど小さい。それでも視線は、マイクを持つその姿へ集まる。巨大な装置が、一人のラッパーの存在をさらに際立たせていた。
HIPHOPCsにとってこの公演は当日だけの取材ではない。10月9日には、主催者が用意した日本向けプロモーションコードと券種、渋谷のプレイベントを記事で紹介した。告知から2週間あまり。その公演を今度は客席から観ることになった。
目次
地球の頂に立つYe。Globe Stageが生んだ構図
主催者が「Globe Stage」と呼ぶ半球状の舞台は、インドネシア創造経済省の9月14日付発表で360度どの方向からも楽しめる構成と説明されていた。前方に舞台を置く通常のスタジアム公演と違い、客席が舞台をぐるりと囲む。表面には青い海と緑の陸地、白い雲が映る。人の姿は小さいのに、目は自然と頂のYeへ向かう。
公演中には、Yeがおなじみのマスクで顔を覆う場面もあった。地球の上で顔の見えない人物が歌う。筆者には、宇宙服のような防護服を着た誰かが地球に降り立ってパフォーマンスしている設定に見えた。
Yeの姿を追うと、その足元で地球の曲面も同時に目に入る。両腕を広げる、マイクを握って体を傾ける。公式写真に残されたその動きはどれもシンプルだが、背後の光と足元の地球が、身体の輪郭を大きな景色の中へ浮かび上がらせる。
スタジアムの中央に舞台を置くことで、その向こう側にも客席が続く。Yeと舞台を見る視野の中に、同じ公演を観ている人々まで入ってくる。Globe Stageの形は、映像のインパクトと同時に、観客が取り囲む空間の大きさを伝えていた。
赤く染まるGBK。舞台から客席へ広がった景色
客席はほぼ満員だった。照明が切り替わるとスタジアム全体が赤一色になる瞬間もあった。屋根の骨組みまで赤く染まり、あちこちでスマートフォンの画面が光る。
赤い客席の写真を見返すと、中央の舞台から屋根の骨組みまでが同じ色でつながっている。手前の観客は黒いシルエットになり、その間にスマートフォンの光が点々と浮かぶ。ステージを照らす色が会場全体の景色になっていることが、この一枚からも分かる。
ANTARAの10月25日付記事によると、主催者は海外から2万人以上、国内から3万人の来場を確認したと説明している。Bandwagonの公演評は、来場者を推計約5万人としている。今回のツアーで東南アジア唯一の公演だったこともあり、ANTARAはオーストラリア・パースから飛んできたファンの声も伝えた。
白い光線が何本も交差して地球の背後を埋め、その中でYeが体を傾ける。照明と設備の規模は、筆者が日本の会場で体験してきたものとはまるで違った。
青が海と陸地を見せる場面、赤が客席まで広がる場面、白い光線がYeの輪郭を切り取る場面。色と光の方向が変わるたびに、同じ半球の舞台が違う表情を見せる。一つの舞台装置を軸に、人物へ目を向けさせる景色と、スタジアム全体を見渡したくなる景色をつくっていた。
『Yeezus』から『Graduation』へ、代表曲がつないだ20年
ANTARAは「King」を含む約30曲が披露されたと報じている。Bandwagonは公演時間を2時間近くと伝え、Yeが曲間のトークを短くして音楽と舞台に目を向けさせたと書いている。
同評によれば序盤には「Father Stretch My Hands, Pt. 1」「Can’t Tell Me Nothing」が置かれ、「Black Skinhead」「On Sight」「Blood on the Leaves」と『Yeezus』の曲がまとまって続いた。「POWER」「Bound 2」、さらに「Jesus Walks」「All Falls Down」「Through the Wire」といった初期の曲も並ぶ。「Good Life」「Flashing Lights」「Homecoming」「Stronger」と、『Graduation』からも多くの曲が演奏された。
この曲目から見えてくるのは、Yeが何度も自分の音楽を作り替えてきたことだ。『Yeezus』の荒い電子音、初期曲のソウルの感触、『Graduation』の大きく開いたメロディー。音の手触りが異なる曲を、一人のラッパーが同じ舞台へ持ち込める。代表曲が並ぶ喜びには、その振れ幅をまとめて受け取れる面白さもある。
長く聴いてきた人なら、それぞれの曲に別々の時期のYeを思い浮かべるだろう。アルバムごとに変わってきた作風が、一夜の中で隣り合う。巨大な地球の舞台に負けないだけの楽曲が蓄積されていることも、この公演の大きな強みだった。
Bandwagonが印象的な場面として挙げたのは「Heartless」だ。Yeがサビを繰り返すよう促すと、何千もの観客が伴奏なしで歌い続けたという。
この公演評が伝える場面では、曲を知っている観客が歌を引き継いでいる。照明や映像の規模をいったん離れても、メロディーと声で時間をつなげられる。Globe Stageが目を引く夜を音楽のライブとして支えていたのは、こうして人の口から出てくる曲の強さでもある。
「Runaway」と花火。巨大な舞台が迎えた終幕
終盤まで会場は白熱したままで、最後には花火まで上がった。ひとりのラッパーのワンマン公演なのに、規模は巨大なフェスティバルそのものだった。
Bandwagonによると終盤は「Ghost Town」「Moon」を経て「Runaway」へ向かった。Yeはいったん地球の中へ消え、小さなピアノとともに戻ってきた。あのイントロに花火が重なり、また大合唱が起きたという。
終盤に置かれた曲名を読むだけでも、公演が大きな余韻へ向かっていく流れが見える。「Runaway」は、その数音で曲を待ち構える人々に届く。巨大な地球と花火に、聴き覚えのあるピアノが重なる。装置のスケールと、長く聴かれてきた曲の親しさが、同じ終幕に収まっている。
筆者にとって、これほどの規模のライブを目にするのは初めてだった。巨大な地球の舞台とその頂に立つYe。その光景に、ただ圧倒された夜だった。
日本からジャカルタへ。公演前につくられた入口
この公演では日本のファン向けの案内も用意されていた。主催者はチケット販売のLOKETに公式日本語ページを開設し、日本向けプロモーションコード「YEJAKARTA_JAPAN」を案内した。主催者発表では全カテゴリーのチケットが10%OFFになるというものだった。
HIPHOPCsは10月9日の記事「カニエ・ウェスト、ジャカルタで初のインドネシア公演 日本向け10%OFFと渋谷プレイベント」で、このコードを紹介した。あわせてLOKETの購入画面で確認した券種と価格、隣り合う席を取るには同じ取引でまとめて買う必要があること、入場にはアプリのQRコードが必要なことなど、日本から遠征する人が購入前に知っておきたい条件を整理した。
公演前には10月17日に渋谷のCÉ LA VI TOKYOで開催予定の公式プレイベント「Official Pre-Roll」も告知されていた。ジャカルタの公演を日本のファンにも届けようとする準備が告知の段階から見えていた。
この夜をつくったRAW VISION COLLECTIVE
この夜を実現させたのは、ジャカルタのプロモーターRAW VISION COLLECTIVE(ロー・ビジョン・コレクティブ)だ。
BandwagonはCEOのMicha NandaとCMOのKaren Tjahjaが率いるRAW VISION COLLECTIVEへのインタビューで、公演準備の経緯を紹介している。同社によると、Yeのマネジメントとの対話と関係づくりを重ね、米国ではミュージックビデオ制作中のYe本人と会った。そこでYeから投げかけられたのは「なぜ私がジャカルタに行くべきなのか」という問いだったという。
その問いに答えるところから制作、会場、物流、技術要件の具体的な話が進んだ。チームは海外公演にも足を運び、カザフスタン・アルマトイではGlobe Stageの最新の形を間近で見ている。同社はインドネシアの制作チームがYeの国際制作チームやGBKと組んで舞台をつくると説明し、この経験を将来の国際公演を支える力にしたいと語っていた。
同社は自らを単なるイベントプロモーターではなく、音楽、制作、ビジュアル、観客体験をまとめるクリエイティブ・コレクティブと位置づける。インタビューではアルバム『BULLY』の公式リスニングパーティーや、Jeff Millsのジャカルタ公演を手がけてきたことにも触れている。Yeとの関係を双方向の文化交流と捉え、Yeが参加したA$AP Rockyの「Jukebox Joints」がインドネシアのバンドRaselaの「Doa Untuk Kekasih」をサンプリングしていることを入口に、インドネシアの音楽や芸術を紹介する準備も進めていたという。
Metro TVの10月26日付報道によると、ジャカルタ州のPramono Anung知事はチケット販売や公演前後の経済活動を含むこの公演の経済効果を約4,500億ルピアと見積もった。
本稿の写真9点は、RAW VISION COLLECTIVEから報道向けに提供を受けた公式写真だ。公演の実現と本稿への写真提供に、心から感謝したい。
中央の巨大な舞台、全周の客席へ届く照明、そこに一人で立つYe。この形を公演として成立させるには、映像、照明、舞台、会場運営が同じ目標へ向かう必要がある。客席から見えた完成形の背後にも、多くの制作チームの仕事がある。公式写真は、その規模を後から確かめられる記録にもなっている。
YE LIVE IN JAKARTA 2026 公演概要
| 公演名 | YE LIVE IN JAKARTA 2026 |
|---|---|
| 開催日 | 2026年10月24日 |
| 会場 | Gelora Bung Karno Main Stadium(GBK)、ジャカルタ/インドネシア |
| 出演 | Ye(カニエ・ウェスト) |
| 主催 | RAW VISION COLLECTIVE |
写真提供:RAW VISION COLLECTIVE
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公演の印象を軸に、主な演奏曲・来場者数・制作の背景を現地報道と主催者資料で補足しています。補足部分には本文中で出典を明記しました。日本向けの割引・購入案内は、公演前の取り組みを振り返ったものです。