エミネム参加の新曲「MADARA」を読む。EZ MILがHideyoshiと“英語版うちはマダラ”を呼んだ理由
エミネムの2026年最初のヴァースは、自分のレーベルに所属するフィリピン出身のラッパー、EZ MILの新曲に置かれた。10月9日に配信された「MADARA」だ(ePro)。
クレジットにはさらに2人の名前が並ぶ。東京のラッパーHideyoshiと、『NARUTO -ナルト-』英語吹き替え版でうちはマダラを演じる声優ニール・カプラン(Neil Kaplan)だ。
EZ MILは1998年、フィリピン・オロンガポ市生まれのラッパー。2023年7月、エミネムのShady Records、ドクター・ドレーのAftermath、Interscopeの3社と契約した。エミネムと同じ曲に名前を連ねるのは、これで3度目になる。
日本の読者が引っかかるのは、曲名だけではないはずだ。この曲のマダラは、日本語版の内田直哉ではなく英語で語る。一方でフックは東京のラッパーが日本語で担い、EZ MILもそこに日本語で声を重ねる。
海外で育った『NARUTO』の記憶と、東京のラップが、エミネムの名前の下で交わった。この曲を、日本の側から読んでいく。
「MADARA」はどんな曲か
配信は10月9日に始まった。EZ MILは10月3日にXで配信日を予告しており、その日程どおりに出た(Eminem News)。
曲名は『NARUTO』の宿敵、うちはマダラから取られている。uDiscover Musicによれば、EZ MILはNARUTOを見て育った長年のファンで、Hideyoshiを「いちばん好きな日本のアーティスト」だと語っている。
曲は沈んだピアノで始まり、硬いキックと細かく刻むハイハットへ切り替わる。EZ MILは英語で3連符を刻み、『呪術廻戦』の五条悟の名前まで出してアニメへの言及を織り込む。フックではHideyoshiに日本語で声を重ねる(Complex、BroadwayWorld)。
Hideyoshiはフックに加えて、曲間のパートも受け持つ(ePro)。カプランはマダラの声色で1パートを担う。
エミネムは客演だけでなく、共同プロデューサーとしてもクレジットされている。公式のリリックビデオも、アニメ調で作られている。
本作は、EZ MILが7月に出したEP『3RD WRLD VOL. 1』に続く、『3RD WRLD VOL. 2』のリードシングルにあたる(Eminem News)。
マダラが英語で語るということ
日本でマダラの声といえば、内田直哉だ。だが「MADARA」に呼ばれたのは、英語吹き替え版でマダラを演じたニール・カプランだった。
小さな違いに見えて、ここに曲の立ち位置がはっきり出ている。英語吹き替え版で『NARUTO』を観てきたファンにとっては、カプランの声こそがマダラの声だ。この曲に招かれたのは、英語で語るほうのマダラだった。
エミネムもこの遊びに乗っている。ヴァースには、ごく普通の英語の言い回しを「アニメ」と同じ音に聞かせる言葉遊びが仕込まれている(Complexの歌詞紹介による)。
つまりこの曲のNARUTOは、日本から輸出され、英語に吹き替えられ、世界中の子どもたちに届いたNARUTOだ。その曲が、フックでは日本語を呼び込む。日本の作品が海外のファンの手を通り、ラップになって日本に戻ってくる。
HIPHOPCsは、この往復こそが「MADARA」のいちばん面白いところだと考える。海外で受け取った日本の作品への敬意を、日本のラッパーを招くことで形にした曲だからだ。
日本語は、2020年から鳴っていた
EZ MILは、英語ともう一つの言語を行き来するラッパーだ。エミネムのアルバム『The Death of Slim Shady (Coup de Grâce)』収録の「Head Honcho」では、英語とタガログ語でヴァースを書いた。BroadwayWorldによれば、この曲はBillboard Hot 100に72位で初登場し、タガログ語の歌詞を含む曲として初めて同チャートに入った。
7月31日に出たEP『3RD WRLD VOL. 1』は3曲入り。リード曲「2200」はドクター・ドレーがミックスし、タイトルは故郷オロンガポ市の郵便番号から取った。「SINDAK」はタガログ語で「威圧」を意味し、メタルコア寄りのトラックにタガログ語のリリックを乗せている(uDiscover Music、BroadwayWorld)。
ただ、彼の音楽に入ってくるのはタガログ語だけではない。2020年のアルバム『Act 1』に収められた「Omoshiroi!(feat. Anji)」は、曲名からして日本語だ。FlipTop掲載の歌詞では、フックも日本語で書かれ、イントロにはNARUTOの九尾「九喇嘛(クラマ)」の名前まで出てくる。
日本語もNARUTOも、Shady Recordsと契約する前から、EZ MILの音楽の中にあったことになる。
だから「MADARA」で新しいのは、日本語そのものではない。6年前の曲にも日本語のフックはあった。今回は、そのフックを日本のラッパー本人と分け合った。タガログ語がルーツの言葉なら、日本語は憧れの言葉であり、その憧れの相手がついに隣に立った。
その曲が、Shady RecordsとAftermath、Interscopeから出た。
Hideyoshiとは誰か
フックを担うHideyoshiは、東京のヒップホップクルーTokyo Young Visionのフロントマンだ。
HIPHOPCsが確認したところ、Spotify上の「MADARA」にクレジットされたHideyoshiは、TuneCore Japanで「Tokyo Young Visionのフロントマン」と紹介されているHideyoshiと、同じアーティストページにつながっている。
2018年に1st EP『Never Be the Same』を発表。2020年のミックステープ『Dead End Adventure』収録曲「Majinahanashi」のMVは再生1000万回を超え、海外でも聴かれた。「Jitsuryoku feat. Leon Fanourakis & ralph」も1000万回規模のヒットになっている。
2022年のアルバム『Resurrection』の後は全国20カ所以上を回り、初ワンマンを渋谷Spotify O-EASTで完売させた。カタログにはAKLOを迎えた「Shinpainai」、YZERRを迎えた「Rich」もあり、今年3月にはシングル「GYAKUTEN」を出している。
ラップの持ち味にも触れておきたい。渡辺志保は2018年のReal Soundで、Hideyoshiを内省的な感情をラップする「エモラップ」の流れに置き、フックのメロディアスなフロウにエモロックに通じる空気を聴き取っていた。MCバトルの出身でもある。2025年のクルー曲「TOKYO」でも、彼が担ったのは憂いを帯びたブリッジだった(LiFTED)。
EZ MILもまた、スケートボードのシーンで、メタルコアのバンドに在籍しながら頭角を現したラッパーだ。いまもメタルコア寄りのトラックを作り続けている(BroadwayWorld)。ロックを通ってきた二人が、同じフックに並んだことになる。HIPHOPCsは、アニメの縁とは別に、この音楽的な相性も組み合わせを支えていると見る。
Tokyo Young Visionは代々木公園のサイファーから生まれたクルーで、2021年にEP『Chawalit』で本格的に動き出した。お台場のNormcore Boyzをクルーに誘ったのもHideyoshiで、そこからDALUらが加わっている。東京の中でのクルーの位置は、本誌の東京Rap Atlasにまとめた。
クルーは2025年1月に1stアルバム『Tokyo Young Vision』を出し、同年8月に渋谷Spotify O-EASTで初のワンマン「BIG WAVE」を完売させた。2026年2月には2ndアルバム『EDOTENSEI』を発表している(TuneCore Japan)。
『EDOTENSEI』のテーマは「江戸から東京」と「祭り」だと紹介されている。ただNARUTOを知る耳には、マダラを現世に呼び戻した「穢土転生」と同じ響きにも聞こえる(NARUTO公式サイト)。両者に関係があるのかは分からない。それでも、マダラの名を冠した曲に呼ばれたのが『EDOTENSEI』を掲げたクルーの顔だったのは、出来すぎた符合だ。
EZ MILがどこでHideyoshiを知ったのかは、まだ明かされていない。ただ、Hideyoshiの曲が以前から海外で再生を重ねていたことは、この起用を考えるうえで外せない。
「MADARA」でHideyoshiは何を歌っているか
歌詞を読むと、Hideyoshiの役割は二つに分かれている(歌詞は転載せず、内容を要約する)。
一つはフックだ。EZ MILとエミネムが威圧と自慢を重ねる曲のなかで、Hideyoshiのフックは助けを求め、これが現実なのか、この苦しみが何なのか分からないと繰り返す。強さを誇る曲の真ん中に、弱さを打ち明ける声が置かれている。2018年にReal Soundが書いた内省的なフックの持ち味が、そのまま曲の中心に入った形だ。
もう一つは間奏だ。ここでHideyoshiは、戦えると思っている相手を嘲り、どんな努力も無駄だと突き放す。敵を見下ろす悪役の口調で、日本語のセリフを言い切っている。
その間奏のあとに、カプランが英語でマダラとして語り出す。この現実の中で皆が眠っていると告げ、力に選ばれた自分に従えと命じる語りだ。悪役の声が、日本語と英語で二度鳴ることになる。英語のマダラを招いたこの曲で、日本語の側で悪役の声を引き受けたのはHideyoshiだった、と本誌は読む。
曲は冒頭から「夢」と「現実」の言葉で始まり、Hideyoshiのフックもカプランの語りも「現実」に触れる。『NARUTO』のマダラが最後に目指したのは、すべての人を幻術の中に眠らせる「夢の世界」だった(NARUTO公式サイト)。夢と現実の境目というマダラの主題が、日本語と英語の両方のパートを貫いている。
「2200」のMVには、日本とAwichがいた
「MADARA」の日本は、思いつきの寄り道ではない。7月のEPのリード曲「2200」のディレクターズカット版MVは、故郷オロンガポ、日本、アメリカ、そしてマニラのアリーナ公演の映像を行き来する。日本のパートでは、富士山のふもとにあるFUJI BerriQs Skate Plazaのオープニングで、EZ MILがスケートの技を決めている(BroadwayWorld)。
そこにはスケートボーダーのエリック・コストン、フィリピンのR&BシンガーDionelaと並んで、沖縄出身のラッパーAwichも登場している(uDiscover Music)。
自分の出自を語るEPの映像に、日本の景色と日本のラッパーが入っている。EZ MILの地図の上で、日本はフィリピンとアメリカの間にある、もう一つの拠り所として描かれているように見える。
「MADARA」は、その地図を音の上で一歩進めた曲だ。映像に映る日本から、フックで歌われる日本語へ。
エミネムは何を差し出したか
エミネムにとって、これは今年最初のヴァースになった(ePro)。
関わり方は客演の範囲にとどまらない。共同プロデューサーとしてクレジットされ、作詞作曲にはエミネム作品の常連であるルイス・レスト、ミックスには長年のエンジニアであるマイク・ストレンジが入っている(Eminem News)。エミネム本人の制作チームが、後輩の曲を仕上げた形だ。
ヴァースでは検閲、白人である自分が受けてきた特権、過去のビーフに触れている(Complex)。声は往年のSlim Shadyを思わせる鼻にかかったトーンに戻り、近年の高速フロウと重ねられている(ePro)。
ヴァースの後半でエミネムは、ドクター・ドレーに見出された頃を振り返る。そのあとでEZ MILの本名エゼキエルを持ち出し、彼の手強さをたたえる。自分を引き上げてくれた人の話をしてから、自分が引き上げている後輩の名を呼ぶ順番になっている。
EZ MILとエミネムの共演は、2023年の「Realest」から始まった。この曲はBillboardのラップ・デジタルソング・セールスなど2チャートで初登場3位を記録している(uDiscover Music)。2024年には「Head Honcho」で、EZ MILがエミネムのアルバムに招かれた。
この布陣は今回が初めてではない。「Realest」でもエミネムは追加プロデューサーとして名を連ね、ルイス・レストが作曲と鍵盤、マイク・ストレンジがミックスを担っていた(Shazam)。3曲目の「MADARA」は、エミネムがヴァースと制作の両面でEZ MILに関わり続けていることを示している。
なお、エミネムの次の客演は、キッド・ロックの新作に収録される「7 Sins」になると報じられている(Complex)。
「海外進出」とは逆向きの道
「MADARA」の作詞作曲の欄には、Ezekiel Miller、Marshall Mathersと並んでHideyoshiの名前がある(Eminem News)。Shady、Aftermath、Interscopeのリリースに、東京のラッパーが書き手として名を残したことになる。
注目したいのは、そこに至った道筋だ。公表されている説明は、NARUTOを見て育ったEZ MILが、いちばん好きな日本のアーティストとしてHideyoshiを迎えた、というものだ。少なくとも発表の説明に、日本市場向けの狙いは書かれていない。2020年の曲に日本語のフックを入れていたラッパーが、6年後、日本のラッパー本人をフックに迎えた形だ。
日本のラッパーと海外の関係は、「海外進出」という言葉で語られることが多い。こちらから出ていく話だ。「MADARA」が見せたのは、その逆の向きだった。日本の作品と日本のラップがすでに海外の誰かの日常にあり、そこから声がかかる。
アニメを接点にした日米のラッパーの共作は、「MADARA」だけではない。7月にはMGKと千葉雄喜が、『呪術廻戦』を題材にした「JJK」を出している。本誌はその歌詞の考察で、アニメという共有財産の上での日米の共作として読んだ。EZ MILのヴァースに出てくる五条悟は、「JJK」でMGKが最初に名を挙げたキャラクターでもある。
『3RD WRLD VOL. 2』の全貌はまだ明かされていない。リードシングルが日本語のフックを抱えて始まった以上、その続きは日本からも追う価値がある。
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作品情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 曲名 | MADARA (with Eminem) |
| アーティスト | EZ MIL, Eminem, Neil Kaplan, Hideyoshi |
| 配信開始 | 2026年10月9日 |
| レーベル | FFP Records & Management / Shady / Aftermath / Interscope |
| プロデュース | EZ MIL(共同プロデュース:Eminem) |
| 作詞作曲 | Ezekiel Miller, Marshall Mathers, Luis Resto, Hideyoshi |
| ミックス/マスタリング | Mike Strange/Brian “Big Bass” Gardner |
| 収録時間 | 4分55秒 |
| 収録予定 | EP『3RD WRLD VOL. 2』 |
クレジットはShazamに掲載された配信クレジットと、Eminem Newsのまとめで照合した。アーティスト表記の順はSpotifyに準拠。
出典
- uDiscover Music「Hear EZ MIL Reunite With Eminem On ‘MADARA’」(2026年10月9日)
- Complex「Eminem and EZ Mil Team Up With ‘Naruto’ Star for New Track ‘MADARA’」(2026年10月9日)
- ePro「[New Music] EZ MIL & Eminem – “MADARA” is Out Now」(2026年10月9日)
- Eminem News「Ez Mil and Eminem’s “MADARA” Is Out Now」(2026年10月9日)
- BroadwayWorld「Ez Mil Releases MADARA with Eminem, Hideyoshi, and Neil Kaplan」(2026年10月9日)
- BroadwayWorld「EZ MIL Releases New EP 3RD WRLD VOL. 1」(2026年7月31日)
- Spotify「MADARA (with Eminem)」
- Shazam「MADARA (feat. Neil Kaplan & Hideyoshi)」(クレジット)
- Spotify「Omoshiroi!」
- FlipTop「Omoshiroi! (feat. Anji)」歌詞
- Shazam「Realest」(クレジット)
- TuneCore Japan「Hideyoshi」
- TuneCore Japan「EDOTENSEI」
- Real Sound「BAD HOPに続くスターは現れるか? 渡辺志保が注目の若手ヒップホップクルーを解説」(2018年10月12日)
- LiFTED「Tokyo Young Vision finds hope in the chaos On ‘TOKYO’」(2025年4月28日)
アイキャッチ:2014年11月11日、ワシントンD.C.「The Concert for Valor」でのエミネム。Photo: EJ Hersom / DoD News。Wikimedia Commons、CC BY 2.0(米国ではパブリックドメイン)。トリミング済み。
文:かなむらゆうさく
