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東西抗争から30年:2Pacの「One Nation」を受け継ぐ『The Godbody』両海岸のOGらが集結

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1996年、Hip-HopはEast Coast(東海岸)とWest Coast(西海岸)の対立が最も激しかった。

しかし、意外にもその渦中にいた2Pacは、East Coastそのものを敵視していたわけではない。

Method Man(メソッド・マン)は後年、当時2Pacと初めて会った際、Pacから「East Coastで俺たちが付き合うならWu-Tang(ウータン)だ」という趣旨の言葉をかけられたと回想している。Method Man自身も、この言葉から「あれはEast Coast vs. West Coastではなく、Bad Boy(バッドボーイ) vs. Death Row(デス・ロウ)だった」と感じたという。

それ以外にもう一つ。彼が晩年に構想していたプロジェクトのひとつに『One Nation』がある。

そして30年の時を経た、2026年9月18日。

Rakim(ラキム)、Kurupt(クラプト)、Wu-Tang Clan(ウータンクラン)のMasta Killa(マスター・キラー)という3人のレジェンドが、共同アルバム『The Godbody』をリリースした。

KuruptがCaliforniaを、RakimとMasta KillaがNew Yorkを代表する形で制作された本作について、プロジェクト側は明確に2Pacの名前を挙げている

そのコンセプトは、かつて2Pacが描いた「EastとWestの優れたMCたちを一つの作品に集める」というヴィジョンを受け継ぎ、リスナーに「One Nation」を感じさせることだという。

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2Pacが残した未完成プロジェクト『One Nation』

2Pacといえば、「East Coast(東海岸) vs. West Coast(西海岸)」を象徴する人物として語られることが多い。

Notorious B.I.G.(ノートリアス・BIG)やBad Boy Records(バッドボーイ・レコーズ)との激しい対立。『Hit ’Em Up』に代表される攻撃的な楽曲。そしてDeath Row Records(デス・ロウ・レコーズ)の一員としてWest Coastを背負うようになった姿を、皆連想するだろう。

しかし、当時の2Pac自身の発言を振り返ると、話はそれほど単純ではない。

1996年4月19日にSway(スウェイ…MTV出身のカリスマ司会者)が行ったKMELのインタビューで2PacはEast Coastそのものと自分が対立しているという見方を否定し、自分を形作った場所としてEast Coast、Bay Area、Los Angeles、Baltimoreを挙げている。

さらに彼は、East Coastそのものを敵とみなしているわけではないと明確に説明していた。

「俺はEast Coastを愛している。俺自身East Coast出身なんだから」そう語った一方で、彼が問題視していたのは、BiggieやBad Boyを中心とした特定の対立だった。

そして同じインタビューで2Pacは、驚くほど現在につながる発言を残している。Death RowのEast Coast展開について語る中で、彼はWu-Tang Clanとも仕事をしようとしていると明かし、彼らについて「East Coastを代表する存在」と評価していた。

だがその数か月後、2Pacは25歳でこの世を去った

『One Nation』は完成することなく、彼が残した数多くの未完プロジェクトのひとつとなった。

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「East vs. West」の最中に、EastとWestをつなごうとしていた

『One Nation』の構想は単なるアイデアだけでは終わっていない。

Duck Down Records(ダックダウン・レコーズ)周辺のBuckshot(バックショット)、Smif-N-Wessun(スミス・ン・ウェッスン)らは実際にCaliforniaへ渡り、2Pacとレコーディングを行っている。

Duck Down共同創設者Dru Ha(ドゥルー・ハー)は後年、Buckshot、Smif-N-WessunとともにWest Coastで数週間を過ごし、『One Nation』を制作したと振り返っている。さらに2Pacは、プロジェクトを一作だけで終わらせず、複数の『One Nation』を展開する構想を持っていたという。

Buckshotもまた、2Pacが各地域のアーティストを集めようとしていたと証言している。

つまり『One Nation』は、「EastとWestが仲良くしよう」という抽象的なスローガンではなかった。

地域によって分断されつつあったHip-Hopを、音楽そのものによって再び一つにつなげようとする具体的なプロジェクトだった。

しかも2PacはWu-Tangとの共演にも関心を示していた。それは上記の通り、Method Manも回想している。そして30年後、そのWu-Tang ClanからMasta Killaが『The Godbody』に参加している。

Buckshotは後年、2Pacについて「PacはWuを愛していた」と振り返り、『One Nation』ではEast Coastの優れたアーティストたちを集め、一つになることを示そうとしていたと語っている。

さらに興味深いのが、『One Nation』の制作に実際に参加していたBuckshot本人も、『The Godbody』収録曲『Thelonius』に客演していることだ。

つまり『The Godbody』と『One Nation』をつないでいるのは、コンセプトや2Pacへのオマージュだけではない。

1996年、実際に2PacとともにEastとWestをつなごうとしたMCが、30年後の2026年、そのヴィジョンを受け継ぐ作品にも再び参加しているのだ。

DPGとWu-Tangが同じ作品にいる2026年

『The Godbody』の中心にいるのは、Rakim(ラキム)、Kurupt(クラプト)、Masta Killa(マスター・キラー)。

さらにSnoop Dogg(スヌープ・ドッグ)、Daz Dillinger(ダズ・ディリンジャ―)、Ghostface Killah(ゴーストフェイス・キラー)、Raekwon(レイクウォン)、KRS-One(ケーアールエス・ワン)、Kool G Rap(クール・ジー・ラップ)、Buckshot(バックショット)、Eminem(エミネム)、JAY-Z(ジェイ・Z)Kokane(コケイン)、Killa Sin(キラー・シン)らが参加する。

プロデュースは基本的にRakimとNick Wiz(ニック・ウィズ)が担当している。

参加者の名前を眺めるだけでも、この作品のコンセプトが見えてくる。

KuruptとDaz Dillinger、Snoop DoggというWest Coast/Death Rowの歴史につながるMCたち。

Masta Killa、Ghostface Killah、RaekwonというWu-Tang Clan。

さらにRakim、KRS-One、Kool G Rapという、East Coast Hip-Hopのさらに前の世代を代表する神MCたち。

『DPG-Wu-Tang, Wu-Tang-DPG』という曲では、名前の時点でTha Dogg Pound(ザ・ドッグパウンド)とWu-Tangが接続されている。

『Rock Ya Body』ではKuruptとMasta Killaに、Daz Dillinger、Ghostface Killah、Raekwon。

『Still Ill!』では3人にKRS-OneとKool G Rap。

そして『Rabbit (Remix)』にはSnoop Doggが加わる。

30年前なら「EastとWestの共演」そのものがニュースになった組み合わせが、2026年にはなんとまあ贅沢に集められ、一枚のアルバムの中で自然に共存している。そこが『The Godbody』の面白さなのかもしれない。

<トラックリスト>

  • Goin Down feat. Kokane
  • DPG – WU TANG, WU TANG – DPG
  • Rock Ya Body feat. Daz Dillinger, Ghostface Killah & Raekwon
  • Push The Button
  • Rabbit feat. Mac Shawn 100
  • God Speak (Interlude) — Eminem, JAY-Z & Rakim
  • A Different Kind — Rakim Solo
  • Is It Love feat. Jamall Ray
  • Thelonius feat. Buckshot, Rim & Trigga
  • Nights Over Brooklyn — Masta Killa Solo
  • I’m Good (Remix)
  • Upstate Introspective (Interlude) — Killa Sin
  • Still Ill! feat. KRS-One & Kool G Rap
  • Nine & Chrome Fiend — Kurupt Solo
  • Rabbit (Remix) feat. Snoop Dogg
  • Hallelujah (Remix) feat. Mic King
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Rakimは「過去のレジェンド」として参加しているわけではない

もうひとつ見逃せないのがRakimだ。

本作に収録されたソロ曲『A Different Kind』は、Rakimにとって約15年ぶりとなるセルフプロデュースのソロトラックだという。

『The Godbody』も、RakimとNick Wizが中心となってプロデュースしている。

ちなみにタイトルの『The Godbody』に使われる「God」という言葉も、RakimやWu-Tang Clanを語るうえでは興味深い。

New York Hip-Hopに大きな影響を与えたFive Percent Nation(ファイブパーセントネイション)(Nation of Gods and Earths…ネイションオブゴッズアンドアースズ)の思想では、「God」は重要な意味を持つ言葉であり、その影響はRakimやWu-Tang周辺のリリックや言語感覚にも深く入り込んでいる。もちろん「God MC」と称されてきたRakim自身を想起させる。

その存在感を象徴するかの如く、Rakimの次曲『A Different Kind』への導入として、『God Speak (Interlude)』でEminemとJAY-ZがRakimの影響力を語る構造になってるのが面白い。

つまりこれは、90年代を知るレジェンドたちを集めた「懐古企画」だけではなく、彼ら自身が現在進行形のクリエイターとして、新しい作品を作っているのだ。

そして、その作品の背景にあるのが、30年前に2Pacが実現しようとしていたアイデアだ。

『One Nation』は30年後に完成したのか

もちろん、『The Godbody』を「2Pacの『One Nation』が完成した作品」と呼ぶのは正確ではない。

『One Nation』と『The Godbody』は別のプロジェクトであり、2Pacが残した録音を復元したアルバムでもない。

受け継いでいるのは、作品そのものではなく、そのヴィジョンだ。

1996年。

East CoastとWest Coastの対立がHip-Hopを覆う中、2Pacは一方で激しい言葉を投げながら、もう一方ではEastとWestのアーティストを一つの作品に集めようとしていた。

その矛盾もまた、2Pacという人物らしいのかもしれない。

敵と認識した相手には容赦なく噛みつく。その一方で、Hip-Hopそのものを東西に分断したかったわけではない。むしろ、その境界を越えてアーティストを集めようとしていた。

2Pacという人は、こういう一見すると矛盾する顔をいくつも持っていた。

彼自身がEast Coastにルーツを持ち、Bay Areaで育ち、Los Angelesから世界的スターになった。もともと2Pac自身が、一つの地域だけでは説明できないHip-Hopアーティストだった。

そして30年後。

KuruptとMasta Killaが同じ作品でマイクを握り、Rakimがその音を作る。

Snoop DoggとGhostface Killahが同じトラックリストに並び、KRS-OneとKool G Rap、Daz DillingerとRaekwonが一枚の作品の中にいる。

さらにラップではないものの、『God Speak (Interlude)』には、EastでもWestでもないDetroit出身のEminemも名を連ね参加している。

もはや本作は単なる「EastとWestの融合」にとどまらず、地域を越えてHip-Hopの世代と歴史が交差する作品になっている。

2Pacが完成させることのできなかった『One Nation』は、今も未完成のままだ。しかし、彼が思い描いた「EastかWestかではなく、Hip-Hopとして一つになる」という未来は、30年前よりずっと当たり前の光景になった。

もしかすると『The Godbody』が受け継いだ「One Nation」とは、ひとつの未発表アルバムではなく、2Pacが1996年に思い描ていた、そんなHip-Hopの未来なのかもしれない。

とりあえず、東西のOGらの苦み走った神MCを聴いてくれ!

<Sources>

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