Text by HIPHOPCs編集部
YZERRの新曲「THE GAME」は、ただの新譜ではない。
2025年秋からアニメ「モンスターストライク デッドバースリローデッド」のエンディングで鳴っていた曲が、2026年6月10日、一曲のシングルとして配信の盤面に出てきた。
BAD HOP後のYZERRが、どこに自分の声を置こうとしているのか。その答えが、この”遅れてきた新曲”には出ている。
「新曲」と呼ぶには、少し長い助走がある
まず、ここを正確に置いておきたい。
YZERRがこのアニメのEDテーマを担当することが発表されたのは、2025年9月末。本編は2025年10月21日から放送されている。「THE GAME」は、その枠のための曲だ。
つまり、6月10日に起きたのは「曲が初めて世に出た」ことではない。アニメのエンドロールという場所で先に鳴っていた曲が、単独の配信曲として独立した、ということだ。アニメの外でも、一曲として聴ける状態になった。
この順番が、今週この曲を拾う意味を作っている。タイアップの発表を追うのではなく、その曲がアニメの文脈から切り離されて自走を始めた瞬間を、配信日という一次情報で押さえられる。Weekly J-RAPが見たいのは、まさにこの「独立の瞬間」のほうだ。
「THE GAME」というタイトルが宣言していること
タイトルは、あまりにもYZERRらしい。
勝つか負けるか。攻略するか、落ちるか。BAD HOP時代から、YZERRはラップを感情表現としてだけでなく、戦略、事業、チーム運営、都市の物語として扱ってきた。川崎から東京ドームまで行く過程は、ただのサクセスストーリーではなかった。誰を巻き込み、どこに賭け、どのタイミングで次の盤面へ進むか。その判断の連続だ。
だからこのタイトルは、強いワードの選択というより、ポジション宣言として読める。BAD HOPが東京ドームで一区切りを迎えたあと、YZERRがソロでもう一度盤面に立つ。「THE GAME」はその一手の置き場所を示している。
アニメEDという「外側」──ただし、Da-iCEの隣で
置かれた場所が面白い。
クラブでも、YouTubeのバイラルだけでも、ヒップホップ専門メディアの内側だけでもない。ゲームIP、アニメ視聴者、SNSでクリップを見た層、プレイリストで流れてきた層。そういう入口に、YZERRの声が差し込まれている。しかも、ソロ名義でアニメのテーマ曲を本格的に手がけるのは、YZERRにとって初めてと見られる。
同じアニメのオープニングを担当しているのは、Da-iCE。4オクターブのツインボーカルを持つJ-POPの中心グループである。一つの作品のなかで、OPにJ-POP、EDにストリート由来のラップという対置が起きている。「THE GAME」は、その対置の片側として置かれた。
日本語ラップが大きく広がる瞬間は、しばしばジャンルの外側にある。Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」は、アニメOP・ダンス・TikTokという三つの入口が重なって、ヒップホップを探していない層にまで届いた。ちゃんみながJ-POPの中心へ押し出された動きにも、同じ構図がある。
「THE GAME」も「外側」への置き方をしている。ただし方向が違う。ポップ化して角を丸めるのではなく、ストリートの重さを保ったままマスIPに接続する。この一点が、今回のYZERRの選択をほかの「アニメタイアップ曲」と分けている。
曲そのもの──高い声で、軽くない話をする
プロデュースはJIGG。BAD HOP以降の日本語ラップを語るうえで外せない名前で、声を前に出しながら曲全体のスケールを広げる設計がうまい。
「THE GAME」もその設計だ。トラックはトラップを基調に、アニメEDとして画面を締める広がりを持つ。そのうえに乗るYZERRの声は、かなり高い位置で張られている。低く構えて押すのではなく、上から声を抜く。広いビートと高く張った声が噛み合って、タイアップらしい開放感が出る。それでいて薄くならないのは、声の出どころがYZERRのままだからだ。
その高い声で、軽い話をしているわけではない。才能ゼロから霧のなかを駆け抜けてきたこと、気の合う仲間とだけ朝まで何かを探すこと、ひどい環境を抜けてどこまで行けるか。そのうえで、自分に憧れるな・真似は見た目より厳しいぞ、と追ってくる相手に釘を刺す。赤裸々でリアルな手触りは、BAD HOP以来のYZERRそのものだ。声の高さと、言葉の重さ。この落差が一曲の体温を作っている。
そして曲の芯には、人生をゲームに見立て、ルールや設定は自分で組む、他人の視線や意見でプレイは変えない、というモチーフが置かれている。タイトル「THE GAME」は飾りではない。冒頭で触れた「ポジション宣言」が、曲のなかでもう一度、本人の言葉で言い直されている。
アニメタイアップは、ラッパーの曲を「作品のための曲」に回収してしまうことがある。「THE GAME」は、モンストの世界に接続しながらも、YZERR本人のゲームとして聴ける。広いが、軽くない。そこにWeekly J-RAPで拾う価値がある。
BAD HOP後のYZERRは、何を取りに行っているのか
解散後のメンバーそれぞれの動きは、もう「グループの余波」では片づけられない段階に入っている。
T-Pablow、Benjazzy、Bark、Vingo、G-k.i.d、Tiji Jojo、Yellow Pato。そしてYZERR。Tiji Jojoが武道館ワンマンへ進むように、それぞれが違う速度で違う場所へ向かっている。そのなかでYZERRは、音楽だけでなく、シーンの設計そのものに近い場所で動いてきた人物だ。FORCE FESTIVAL、FORCE MAGAZINE、AH1。本誌は彼を「フックアップが世代を超えて受け渡される瞬間を、ほぼリアルタイムで見せている人物」と書いてきた。
面白いのは、その「FORCE」的な発想が、「THE GAME」のリリックにもうっすら通っていることだ。曲が描くのは、ソロの孤独な勝ち上がりではない。一人では届かない場所も、隣に誰かがいれば踏み込める。気心の知れた相手と腹を括って前へ出る——集団で押していく力のほうだ。深読みすれば、ソロ名義の曲でありながら、声を立てているのは「個」より「束」の論理だと言える。FORCEという名のプロジェクトと、同じ向きを向いている。
その視点で見ると、「THE GAME」のリリース体制には読み筋がある。レーベルはNew Rich Entertainment、TOY’S FACTORYへの独占ライセンス。自分の名義の器を持ちながら、大手の配給網に乗せる構造だ。アニメEDという大きな入口を使い、各配信サービスで一気にアクセスできる状態を作る。これは、BAD HOPで築いたブランドをただ消費するのではなく、次の接点へ移し替える動きに見える。
同じ流れの上に、ソロ活動の実績も積み上がっている。2025年2月の初アルバム『Dark Hero』、2026年の『Rich or Die 3』、初のソロワンマン「ROD III Concert」、そしてその場で告知された10月24日・川崎でのForce Festival 2026。「THE GAME」は、その連なりの最新の一手だ。
Weekly J-RAPとしての選出理由
今週この曲を選ぶ理由を、三点に絞っておく。
- アニメEDで先に鳴っていた曲が、6月10日に配信曲として独立した
- OP=Da-iCE、ED=YZERRという、ジャンルの対置が一作品内で起きている
- JIGGプロデュースと大手配給網により、BAD HOP後のYZERRのソロ戦略が見える
YZERRは「THE GAME」で、もう一度ゲーム盤の上に立った。今回の盤面は、川崎やクルーの内側だけではない。アニメ、配信、公式プレイリスト、SNS、その全部を含んでいる。
勝負の場所は外側へ広がった。それでも声の重心は、内側に残したまま。そのバランスを取り切れるか——BAD HOP後のYZERRを測るうえで、「THE GAME」はかなり良い入口になる。
アニメの終わりに流れる曲が、YZERRにとっては次の始まりの合図になっている。エンドロールのための一曲が、BAD HOP後の盤面で「ゲーム開始」の音に変わった。そういう曲だ。
基本情報
- アーティスト:YZERR
- 楽曲名:「THE GAME」
- リリース日:2026年6月10日
- ISRC:JPTF02530201
- レーベル:New Rich Entertainment(TOY’S FACTORYへの独占ライセンス)
- 尺:約2分46秒
- プロデュース:JIGG
- タイアップ:アニメ「モンスターストライク デッドバースリローデッド」エンディングテーマ(2025年10月21日放送開始)
OTOTOYは6月10日付で、YZERRが同日にニューシングル「THE GAME」をリリースしたこと、プロデューサーにJIGGを迎えたこと、同曲が同アニメのEDテーマであることを報じている。アニメ公式サイトのMUSICページにも、OP=Da-iCE、ED=YZERR「THE GAME」として掲載されている。
主要参照(出典)
配信メタデータはSpotify Web API(トラックID 73XPHezRrn8krC3aafwxe9)に基づく。報道はOTOTOY(2026年6月10日付)。タイアップはアニメ「モンスターストライク デッドバースリローデッド」公式サイトのMUSICページ(OP=Da-iCE/ED=YZERR「THE GAME」)。配信告知はBAD HOP公式Instagram。いずれも報道・批評を目的とした参照であり、本稿では外部リンクを張らず出典名のみを記載する。
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本記事のSpotifyメタデータは、Spotify Web APIで取得した情報に基づきます。配信ジャケット画像はSpotify掲載アートワークを、報道・批評を目的として引用しています。著作権は権利者(New Rich Entertainment/TOY’S FACTORYほか)に帰属します。
