Alif Wolf(アリフ・ウルフ)の名は、もう一部のリスナーだけが知るものではない。埼玉でひとり曲を作り続けてきた彼女は、RAPSTAR(ラップスタア誕生)2025のサイファーで一夜にしてシーンに刻まれた。本稿は新曲「Countdown」を単独でレビューするのではなく、HIPHOPCsがこれまで二度の取材で記録してきた彼女の歩みのなかに、この一曲を置き直す試みである。
Alif Wolf「Countdown」を、彼女のこれまでに置き直す
一匹狼という出自──“余白”を残すペインラップ
アーティスト名の由来は、本人が語っている。Alifは彼女のイングリッシュネーム、Wolfは“一匹狼”。その名の通り、彼女は埼玉でずっとひとりで曲を作ってきた。
核にあるのは、痛みを音に変える“ペイン系”の表現である。HIPHOPCsの2025年12月の独占インタビューで、彼女は自身の流儀をこう語っていた。
「普段やっているpain系、痛みを歌う曲では、余白を残すスタイルを取っています。全部出してしまわないように」
HIPHOPCs独占インタビュー(2025年12月)より
全部は出さない。その抑制こそが、これまでの彼女のラップの質感を決めてきた。
RAPSTAR 2025──“余白を捨てた”一夜
転機はRAPSTAR 2025だった。SELECTION CYPHERでの一節が大きな反響を呼び、彼女の名は一夜で広く知られることとなる。最終的にはセミファイナルにあたる8名のHOOD STAGEまで駒を進めている。
そのステージで、彼女は普段の流儀をあえて手放した。同じインタビューで、本人はこう続けている。
「でもラップスターではその余白を捨てました。自分の中にある痛みも怒りも、そのまま音にした感じなんです」
HIPHOPCs独占インタビュー(2025年12月)より
審査員からは、声を聴けば実力は分かる、難しく考えず真っ直ぐ行け、と背中を押されたという。抑制を解いた一夜が、結果として彼女を広く知らしめた──この逆説が、Alif Wolfというラッパーの輪郭を理解する起点になる。
“ペイン系を越えた狼”──「What Did You Say?」が見せた別の輪郭
2026年に入り、彼女はもう一段、輪郭を更新した。「03- Performance」で披露された「What Did You Say?」は、公開から数日で再生数が14万を超え、フロウへの賛辞でコメント欄が埋まった。
“ペイン系”の印象が強かった彼女が、攻めたフロウとオールブラックの佇まいで、これまでとは別の表情を見せた瞬間だった。この変化の内側──制作背景や長く続いたスランプ、今後のフィーチャリングまで──は、HIPHOPCsの2026年4月の独占インタビュー「“ペイン系を越えた狼”」で本人が語っている。
「Countdown」──“新曲”であり、“あの一夜”の正式な記録でもある
「Countdown」は、2026年6月5日にリリースされたシングルである。重要なのは、これが単なる新曲ではなく、『RAPSTAR 2025』のSELECTION CYPHER GROUP Cで披露された、あの楽曲の正式な配信版だという点だ。Alif Wolfが一夜で名を広げた場面を、配信作品としてもう一度固定した一曲──そう位置づけられる。
ビートを手がけたのはChaki Zulu。TuneCore Japanの音楽メディア「THE MAGAZINE」も本作のリリースを報じ、「挑発的なラップの狭間で、バックボーンも赤裸々に綴っている」と評している。普段の彼女が“余白を残すペイン”の表現者だとすれば、その余白をいったん手放した一夜が、いまトラックの上に固定されたことになる。
しかも、このリリースは突然の新譜ではない。HIPHOPCsの2026年4月の取材で、彼女はラップスタア関連楽曲の配信時期と、その出どころをすでに明かしていた。
「予定だと6月くらい。Chaki Zuluさんのビートと、STUTSさんのビートです」
HIPHOPCs独占インタビュー(2026年4月)より
その「6月のChaki Zuluビート」が、まさに本作「Countdown」である。HIPHOPCsは、この一曲が形になる前から、その輪郭を本人の口から聞いていたことになる。残るSTUTSビートの一曲も、彼女いわく「バースを足して」仕上げる途中だという。「Countdown」は、その予告された二部作の片割れが、先に着地した一手でもある。
タイトルの「Countdown」は、単なる演出を超えた含みを持つようにも読める。何かへ向かう秒読みであり、過去を背負ったままステージへ出るための合図でもある──そう聴くこともできるだろう。痛みを美しく包むのではなく、怒りや反骨心ごとマイクに乗せる。その意味で本作は、「Prologue」で始まった物語の続編というより、Alif Wolfという名がシーンに刻まれた“決定的な場面”の音源化に近い。
だからこそ「Countdown」は、“ペイン系を越えた狼”という現在地を語るうえで外せない。彼女は痛みを捨てたわけではない。痛みを抱えたまま、それを勝つための言葉に変えた。その根にあるものを、彼女は2025年の取材でこう言い切っている。
「そもそもHIPHOPがなかったら、ここまで生きれてるかわからない。絶対的に今の私はいないと思ってます」
HIPHOPCs独占インタビュー(2025年12月)より
RAPSTAR以後のAlif Wolfの強さは、その一点にある。
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よくある質問
Alif Wolfとは誰ですか?
埼玉を拠点に活動するラッパーで、RAPSTAR(ラップスタア誕生)2025のSELECTION CYPHERで広く注目を集め、セミファイナルのHOOD STAGEまで進出しました。痛みを音に変える“ペイン系”の表現を出自としながら、2026年の楽曲ではより攻めたフロウへと表現を広げています。
「Countdown」はいつリリースされましたか?
「Countdown」は2026年6月5日にリリースされました。『RAPSTAR 2025』のSELECTION CYPHER GROUP Cで披露された楽曲の正式配信版で、ビートはChaki Zuluがプロデュースしています。収録時間は約1分37秒です。
HIPHOPCsはAlif Wolfを取材していますか?
はい。2025年12月(RAPSTAR 2025出演後)と2026年4月(「What Did You Say?」公開時)の二度、独占インタビューを掲載しています。本記事の人物像・発言の記述は、いずれもこの二本の取材にもとづいています。
本記事の楽曲解釈は編集部の見解であり、アーティストの公式見解を代表するものではありません。人物像および発言の記述はHIPHOPCsによる本人取材にもとづきます。
