「Rap Atlas US:ニュージャージー」──ニューアークからトレントンへ、11組と聴き始める作品
ニューアークのQueen LatifahとRedman、イーストオレンジのNaughty by Nature、パターソンのFetty Wap。ニュージャージーのラップは、ひとつの町やひとつの音だけではたどれない。ここでは7つの町につながる11組を、作品とともに紹介する。
対象はニュージャージー州。ニューアークとジャージーシティも本編で扱う。下の地理表から人物へ進み、各項目の最後にある配信リンクで作品を聴ける。
地域とアーティスト
| 地域との関係 | アクト |
|---|---|
| Newark | Artifacts、Lords of the Underground、Queen Latifah、Redman |
| East Orange | Naughty by Nature |
| South Orange | Lauryn Hill、Fugees(Hillの育ちを通した関係) |
| Jersey City | Joe Budden |
| Paterson | Fetty Wap |
| Hackensack | Coi Leray |
| Trenton | Poor Righteous Teachers |
11組と、聴き始める作品
Artifacts
ニューアークを拠点としたTame OneとEl Da Sensei、DJ Kaosのグループ。El Da Senseiのアーティスト紹介は、Stretch & Bobbitoの番組への出演からBig Beat/Atlanticとの契約に至る経緯を記す。1994年のデビュー作『Between a Rock and a Hard Place』には「Wrong Side of da Tracks」を収録。Tame Oneのグラフィティとの関わりは、Pitchforkの追悼記事でもたどられている。
まず聴く:『Between a Rock and a Hard Place』。同じ1994年のニューアークの作品として、Redman『Dare Iz a Darkside』と続けて聴ける。
Coi Leray
XXLの2019年の紹介が地元と記すのはハッケンサック。「Players」ではGrandmaster Flash & the Furious Fiveの「The Message」をサンプリングし、Hot Rap Songsで1位、Hot 100で自身初のトップ10となる9位へ進んだ(XXL、2023年)。古いレコードのフレーズを、次の世代のヒットへつないだ曲である。
2024年のグラミー賞では「Players」がBest Rap Performance、David Guetta、Anne-Marieとの「Baby Don’t Hurt Me」がBest Pop Dance Recordingの候補となった(Recording Academy)。ハッケンサックという地元情報は上記XXLの単独資料に基づく。
まず聴く:「Players」。サンプリングとチャートでの躍進を一曲からたどれる。
Fetty Wap
Pitchforkの2015年評とXXLの2023年インタビューは、ともにパターソンとのつながりを記す。2015年に広く届いた「Trap Queen」は、2016年のグラミー賞でBest Rap PerformanceとBest Rap Songの候補となった(Recording Academy)。
セルフタイトルのデビュー作について、Pitchforkは大物客演や有名プロデューサーに頼らず、地元のRGF Productionsの仲間と作った感触が残ると評した。Rolling Stoneの評が注目したのは、加工された歌声と、逆境を越えていく人物の魅力だった。
まず聴く:「Trap Queen」。デビュー作と全国的なブレイクをつないだシングル。
Fugees
本稿でサウスオレンジとFugeesを結ぶのは、メンバーLauryn Hillの育った場所である。Rolling Stoneの1996年の現地取材は、同地の実家で過ごすHillと、ヒット作『The Score』をめぐるグループの活動を描く。
同記事がたどる音楽の背景は、ニュージャージーだけでなくハイチ、ジャマイカ、ブルックリンにも及ぶ。『The Score』は1997年のグラミー賞でBest Rap Albumを受賞し、「Killing Me Softly with His Song」もBest R&B Performance by a Duo or Group with Vocalを受賞した(Recording Academy)。
まず聴く:『The Score』。グループの作品からHillのソロ作へ進むと、同じ人物の二つの活動を聴き比べられる。
Joe Budden
ジャージーシティ出身と紹介するBillboardの2003年評は、デビュー作での気の利いた一行と鋭い比喩、昔のラップを思わせる作りを評価している。XXLの2007年インタビューも同地とのつながりを記し、『Mood Muzik』シリーズを続ける彼を、クラブとミックステープの両方の聴き手に届くMCとして描いた。
「Pump It Up」は2004年のグラミー賞Best Male Rap Solo Performanceの候補曲。2011年にはEminem『Recovery』への参加に伴うAlbum of the Year候補歴もある(Recording Academy)。
まず聴く:「Pump It Up」。2003年のデビュー期を知る入口になる。
Lauryn Hill
Rolling Stoneの2003年取材が記すのは、サウスオレンジでの育ち。ソロ作『The Miseducation of Lauryn Hill』(1998年)の制作では、1997年秋にジャマイカのTuff Gongスタジオで録音した時期がある(Rolling Stone、1999年)。
アルバムはBillboard 200で1位を獲得し、1999年のグラミー賞でHillは一晩に5部門を受賞した。Recording Academyは同作を、Album of the Yearを初めて獲得したヒップホップ・アルバムと位置づけている(Recording Academy)。
まず聴く:『The Miseducation of Lauryn Hill』。Fugeesと個人名義、それぞれの作品を続けて聴くための一枚。
Lords of the Underground
DoItAll、Mr. Funke、DJ Lord Jazzの3人組。『Here Come the Lords』(1993年)のApple Musicの解説は、ニューアークのグループとして紹介し、Marley MarlとK-Defによる制作、二人のMCの掛け合いに触れている。「Chief Rocka」と「Funky Child」が収録された一枚だ。
DoItAllことDupré L. Kellyについては、ニューアーク市の公式プロフィールがWest Wardで生まれ育った経歴とグループの創設メンバーであることを記す。メンバー全員が同じ町の生まれだという意味ではない。
まず聴く:『Here Come the Lords』。「Chief Rocka」から、二人の声のやり取りとDJの仕事を聴いてみてほしい。
Naughty by Nature
Billboardの2008年記事とPitchforkの2023年評が結びつける町はイーストオレンジ。Pitchforkは『19 Naughty III』(1993年)を振り返り、商業的な成功とラップとしての説得力を両立させたグループと評した。
続く『Poverty’s Paradise』は、1996年のグラミー賞Best Rap Albumを受賞した(Recording Academy)。
まず聴く:『Poverty’s Paradise』。『19 Naughty III』へ遡れば、二つのアルバムを通して活動を追える。
Poor Righteous Teachers
トレントンで結成されたWise Intelligent、Culture Freedom、Father Shaheedの3人組。Apple Musicの作品一覧は、『Holy Intellect』(1990年)、『Pure Poverty』(1991年)から『The New World Order』(1996年)までの作品を紹介している。
地元との関係は過去の出身地情報にとどまらない。Trenton Journalの2026年8月16日付記事は、街がPoor Righteous Teachers Dayとしてグループを顕彰したことを報じた。同記事は、顕彰に加え、Mercer County Community Collegeで若者向けの催しが行われたことも伝えている。
まず聴く:『Holy Intellect』収録の「Rock Dis Funky Joint」。このガイドをニューアーク周辺から州都トレントンへ広げる入口になる。
Queen Latifah
Billboardの2018年記事はニューアークを出生地とし、XXLの2016年特集は同地での育ちに触れている。XXLは、その背景が作品にもたらすストリートの感覚と、親しみやすさを併せて論じた。
「U.N.I.T.Y.」は1995年のグラミー賞Best Rap Solo Performanceを受賞。Recording Academyの記録は、ラップに加えてジャズ、トラディショナル・ポップ分野での候補歴も示す(Recording Academy)。
まず聴く:「U.N.I.T.Y.」。分野をまたぐ活動のうち、ラップでの受賞につながった一曲。
Redman
Billboardの2001年評とNPRの2014年インタビューは、Redmanをニューアーク出身と紹介する。『Dare Iz a Darkside』(1994年)は本人が制作の多くを担った一枚。Pitchforkの2026年評は、その閉じた、不穏な世界を東海岸のGファンクとして捉え直している。
グラミー候補となったのは、De La Soul「Oooh.」(2001年の授賞式)とChristina Aguilera「Dirrty」(2003年)への客演である(Recording Academy)。
まず聴く:『Dare Iz a Darkside』。本人のアルバムを聴いた後の客演なら、「Dirrty」へ。
年表:作品と活動の節目
- 1990 — Poor Righteous Teachersが『Holy Intellect』を発表。
- 1993 — Lords of the Undergroundが『Here Come the Lords』を発表。
- 1994 — Artifactsが『Between a Rock and a Hard Place』を発表。
- 1994 — 『Dare Iz a Darkside』をRedmanが発表。
- 1995 — Queen Latifah「U.N.I.T.Y.」がグラミー賞を受賞。
- 1996 — Naughty by Nature『Poverty’s Paradise』がBest Rap Albumを受賞。
- 1997 — Fugeesが『The Score』と「Killing Me Softly with His Song」で2部門を受賞。
- 1998–1999 — Lauryn Hillがソロ作を発表。翌年のグラミー賞で5部門を受賞。
- 2015–2016 — Fetty Wap「Trap Queen」がブレイクし、翌年のグラミー賞で2部門の候補となる。
- 2024 — Coi Lerayが2部門でグラミー候補に。
作品・受賞の出典は各アーティストの項目に掲載。
このガイドの範囲と出典
掲載順は名前のアルファベット順で、順位ではない。公式配信でのリリースに加え、全国・専門媒体による報道や公式の受賞記録を掲載の根拠とした。出生地、育った場所、地元という表現は区別し、出典が示す範囲で記している。
掲載は地域の全アーティストを網羅するものではなく、受賞歴も選んだ節目を示す。グループとメンバー個人の受賞件数は合算しない。掲載枠は販売せず、広告や協賛によって選出・順序を変えない。訂正は根拠資料とともに受け付け、確認後に日英の本文と地域データへ反映する。匿名での連絡も可能。
調査の基礎は2026年9月15日までの資料。9月21日にRedmanの配信、FugeesとHillに関するRolling Stoneの本文、Queen LatifahのBillboard記事を再照合した。Fugeesの地域表記はHillの育ちとの関係を示す。
2026年9月22日、Artifacts、Lords of the Underground、Poor Righteous Teachersの地域との関係と配信作品を追加照合し、3組とトレントンの項目を加えた。
よくある質問
- 最初にどの作品を聴けばよい?
- グループとソロを続けて聴くならFugees『The Score』からLauryn Hillへ。シングルから入るなら「U.N.I.T.Y.」「Trap Queen」「Players」が各項目から聴ける。
- 町の名前は全員の出生地?
- 出生地、育ち、報道上の地元は別の関係である。Fugeesのサウスオレンジとの関係はHillの育ちを指し、グループの結成地を示していない。
- ニューヨークとの関係は?
- 州境を越えた音楽的なつながりはあるが、このガイドはニュージャージーの町を起点に読む構成としている。
関連ガイド・訂正
州境を越えて読み進めるなら、ニューヨークのRap Atlasへ。Schoolly DやThe Rootsを入口にするフィラデルフィア編も、別の街から北東部のラップをたどるガイドになる。