ヒップホップ用語・スラング辞典|意味・由来・日本語ラップでの使い方
HIPHOPCsが記事の中で毎週使っている言葉を、1ページで引ける形に整理した辞典です。ラップの構造にかかわる語(バース、フック、韻、フロウ)、シーンの態度を示す語(レペゼン、リアル、ドープ)、US発で日本語ラップにも入ってきたスラング(flex、drip、no cap、opp、trap、drill、lean、snitch、hustle、thug)を、同じ書式で並べています。
この辞典の書き方 — 各項目は「1文の定義」「由来と使われ方」「日本語ラップでの用例(曲名とアーティスト名)」「関連語」「HIPHOPCsの関連記事」の順に書いています。歌詞は権利の都合で転載せず、曲名の言及に留めます。定義の根拠は末尾の出典一覧に番号で示します。
追加と訂正の方針 — 初版は30語でした。記事で使った語、読者から質問の多い語、検索で調べられている語を優先して追加します。誤りや、シーンでの実際の使われ方と違う説明があれば、お問い合わせから具体的な語と根拠を添えてお知らせください。確認のうえ本文を直し、ページ末尾の更新ログに記録します。
最終確認日:2026年9月9日(34語)
索引
あ〜わ(カナ見出し)
カ行:キャップ/ノーキャップ
サ行:サイファー / サンプリング / サグ / スニッチ / サグ
タ行:ディス / ドープ / トラップ / ドリップ / ドリル
ハ行:ハスリング/ハスラー / バー/バーズ(8バー・16バー) / バース / バイブス / パンチライン / ビート/トラック / ビーフ / ヒップホップ四大要素 / フィーチャリング(feat.) / フック / フリースタイル / フレックス / フロウ / ヘッズ / ポッセカット
マ行:ミックステープ
A–Z/数字(英語見出し)
808 / ad-lib / answer / bars / beat / track / beef / cap / no cap / cypher / diss / dope / drill / drip / feat. / flex / flow / four elements / freestyle / heads / hook / hustle / hustler / mixtape / opp / opps / posse cut / punchline / real / represent / rhyme / sampling / snitch / thug / trap / lean / verse / vibes
ラップの構造にかかわる語
バー/バーズ(bars)・8バー・16バー
定義 — ラップの1小節、転じてラッパーが書き、吐き出すリリックの行そのもの。
由来・使われ方 — 音楽用語の「小節(bar)」がそのままラップに持ち込まれた。2000年代には「spit bars」「drop bars」のように、「よく書けた行」「手数の多いリリック」を褒める言い方として定着した[出典1]。日本語ラップでは「バー」より「小節」と言うことが多く、MCバトルの持ち時間を「8バー(8小節)」「16バー」と呼ぶ。1バースは16小節が標準の長さで、フィーチャリングの依頼も「16バー頼む」のように小節数で語られる。
日本語ラップでの用例 — 『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)は8小節2ターンの3本勝負を基本形式とした[出典20・21]。BATTLE SUMMIT IIIのような大会レポートでも、ターン数と小節数が試合の見方の前提になる。
関連記事 — BATTLE SUMMIT III 現地レポート
バース(verse)
定義 — 曲のうち、フック(サビ)ではないラップの本体部分。1曲は通常2〜3バースで構成される。
由来・使われ方 — 英語の verse は「導入の後、コーラスの前に来る部分」を指す一般的な音楽用語[出典2]。ラップでは各ラッパーが担当する16小節前後の塊を指し、「1バース目」「客演バース」のように数える。誰がどのバースを取ったか、そのバースが曲全体を持っていったか、という聴き方がヒップホップ特有の楽しみになっている。
日本語ラップでの用例 — 田中雄士「GAME CHANGER feat. Zeebra」のように、客演が1バースを担う形は日本語ラップでも標準。CHICO CARLITO「ユガフ feat. OZworld, 柊人 & CHOUJI」は4人がバースを回す形式で、ポッセカットの構造がそのまま聴ける。
関連記事 — 田中雄士「GAME CHANGER feat. Zeebra」
フック(hook)
定義 — 曲の中で繰り返され、耳に引っかかる部分。日本のポップスでいう「サビ」にほぼ相当する。
由来・使われ方 — 英語の hook は「曲の商業的成功を左右する印象的なフレーズや繰り返し」を指す音楽用語[出典3]。「引っかける(hook)」という語感どおり、聴き手をつかむ役目を持つ。ラップではバースとフックを分けて語り、フックを歌モノにするか、ラップのままにするか、誰に任せるかが曲の設計になる。
日本語ラップでの用例 — 記事や批評では「フックが弱い」「フックを歌わせる」のように使う。日本語では「サビ」と言い換えても通じるが、ラッパー本人はフックと呼ぶことが多い。
フロウ(flow)
定義 — ラッパーがビートの上で言葉を乗せるリズム、区切り、抑揚の総体。声の「流れ方」。
由来・使われ方 — 英語の flow(流れ)から。辞書の一般的な語義にはラップの意味は載っておらず[出典4]、ヒップホップ内部で育った用法である。同じリリックでもフロウが変われば別の曲になるため、ラッパーの個性を語る際の中心語になっている。「フロウを変える」「フロウを真似る」のように使い、模倣の指摘はしばしば衝突の火種にもなる。
日本語ラップでの用例 — Ralphはインタビューで、ドリルのビートに合わせてフリースタイルを重ね、最適なフロウを選んだと語っている[出典22]。HIPHOPCsではTete「VERETTA FLOW」のように、曲名にこの語を含む作品も取り上げてきた。
関連記事 — Tete「VERETTA FLOW」
韻を踏む/ライム(rhyme)
定義 — 行末や行中で母音や音の並びを揃えること。ラップの言葉を音楽として成立させる基本技術。
由来・使われ方 — 英語の rhyme は詩の押韻を指す一般語で、ラップではリリックそのものを「ライム」と呼ぶこともある。日本語ラップでは母音を揃える「母音踏み」が主流で、何文字分の母音を合わせたかで「硬い韻」「長い韻」と評価される。テレビ番組『フリースタイルダンジョン』の放送は、韻を踏む技術を一般視聴者に見せる場になった[出典20]。
日本語ラップでの用例 — 『フリースタイルダンジョン』でT-PABLOWが「押韻主義」と名乗った一節は、韻を軸に戦う姿勢を示す例として紹介された[出典20]。RHYMESTERというグループ名自体が「ライム」を掲げている。
パンチライン(punchline)
定義 — 1曲や1ターンの中でいちばん刺さる一行。聴き手が思わず声を上げる決め台詞。
由来・使われ方 — 英語の punch line は「ジョークや演説の効果を決める締めの一文」を意味し、1920年代のアメリカ英語として記録されている[出典5]。ラップでは、比喩やダブルミーニングで「うまいことを言った」タイプと、内容の強さで殴るタイプの両方を指す。MCバトルでは、パンチラインが出た瞬間に会場の反応が変わるため、勝敗を左右する。
日本語ラップでの用例 — 呂布カルマは、相手を抉るパンチラインで築いたバトルの戦績によって全国区の知名度を得たラッパーとして紹介されることが多い[出典23]。
関連記事 — 天才R-指定が映す“切り抜き時代”のMCバトル
ビート/トラック(beat / track)
定義 — ラップが乗る伴奏。ドラムを中心にした楽曲の土台で、作り手をビートメイカーやプロデューサーと呼ぶ。
由来・使われ方 — ビートは「拍」、トラックは「録音の1本」という一般語だが、ヒップホップでは両方とも「ラップのない伴奏」を指す。ラッパーが「ビートを買う」「トラックを選ぶ」と言うのは、伴奏をプロデューサーから受け取る制作工程を指している。誰がビートを作ったかを追うことは、曲の系譜を読むことにつながる。
日本語ラップでの用例 — Masato Hayashi「暴走東京」のレビューでは、音を抜いたビートの設計そのものが批評の対象になっている。HIPHOPCsでは制作クレジットを4軸で読むHPCIという枠組みも用意している。
関連記事 — ヒップホップDTM・ビートメイキング入門ガイド、HPCIとは何か、Masato Hayashi「暴走東京」レビュー
フィーチャリング(feat.)
定義 — 曲に別のアーティストを客演として招くこと。曲名の「feat.」「ft.」表記で示される。
由来・使われ方 — 英語の featuring(〜を出演させて)の略。ヒップホップでは客演が1バースを担当する形が基本で、誰と組んだかが曲の話題性を決める。日本語では「客演」「フィーチャリング」「フィーチャー」と言い、「feat.に呼ばれる」「feat.を切る」のように使う。契約や表記の順序をめぐる交渉も、この語の周辺で起きる。
日本語ラップでの用例 — PUNPEE, BIM, C6ix, Bonbero, ani schadaraparr「MUSEIGEN (feat. C6ix, Bonbero, ani schadaraparr)」のように、日本語ラップでも複数客演の表記はそのまま英語で書かれる。
関連記事 — PUNPEE, BIM ほか「MUSEIGEN」
ポッセカット(posse cut)
定義 — 4人以上のラッパーが次々にバースを回す曲。仲間(posse)を紹介し、腕を競う場でもある。
由来・使われ方 — posse はラテン語由来で、本来は「保安官が組織する武装集団」を指し、口語では「仲間の集まり」を意味する[出典6]。ヒップホップでは1980年代に仲間へ露出を与える形式として広まり、Marley Marl「The Symphony」(1988年)やA Tribe Called Quest「Scenario」(1991年)が代表例に挙げられる[出典7]。各ラッパーが「自分のバースで場を持っていく」競争心が形式の核にある。
日本語ラップでの用例 — CHICO CARLITO「ユガフ feat. OZworld, 柊人 & CHOUJI」は、HIPHOPCsのレビューで沖縄のポッセカットとして読まれた。
関連記事 — CHICO CARLITO「ユガフ」
サンプリング(sampling)
定義 — 既存の録音の一部を切り出し、別の曲の素材として組み込む制作技法。
由来・使われ方 — 辞書では「レコードから短い断片を取り、別のバッキングトラックに混ぜる工程」と定義される[出典8]。ヒップホップの初期はDJがレコードのブレイク部分をつなぐことから始まり、サンプラーの普及で制作の中心技法になった。何をサンプリングしたかを当てる楽しみ、権利処理の問題、原曲への敬意の示し方など、話題が多い語である。
日本語ラップでの用例 — CNG SquadがCANDY TUNE「倍倍FIGHT!」をサンプリングした曲を発表した例、斧琴菊による和楽器サンプルのビートなど、日本のシーンでも元ネタの選び方が作品の顔になる。
関連記事 — CNG Squad × CANDY TUNE「倍倍FIGHT!」サンプリング、斧琴菊 G.CUE×DJ RYOW×Space Dust Club
808(エイトオーエイト)
定義 — ローランドのリズムマシンTR-808、およびその低く長く伸びるキック(ベース)の音。
由来・使われ方 — TR-808は1980年から1982年まで生産され、約12,000台が作られた。発売時は商業的に振るわなかったが、中古機が若い作り手に届いたことでエレクトロ、マイアミベース、そしてヒップホップとトラップの土台になった[出典9]。今では機械そのものより「808」という音の呼び名として使われ、「808を鳴らす」「808が重い」のように言う。Kanye West『808s & Heartbreak』(2008年)のようにアルバム名にもなった。
日本語ラップでの用例 — HIPHOPCsの「スーパートラップとは何か」では、地面が揺れるレベルの808を最初の軸として定義に使っている。
関連記事 — スーパートラップとは何か
アドリブ(ad-lib)
定義 — ラップの本線の後ろや行間で入れる合いの手、掛け声、効果音のような短い声。
由来・使われ方 — ラテン語 ad libitum(好きなように)から来た語で、「即興で入れるもの」を意味する[出典10]。ヒップホップでは初期のハイプマンが担った掛け声が起源とされ、Public EnemyのFlavor Flavの「Yeah boyeee」が有名[出典11]。2010年代にはMigosが行末ごとに「skrrt」などを入れる手法を広げ、アドリブがラッパーの署名になった。
日本語ラップでの用例 — 日本語で「アドリブ」は即興演奏の意味で通るが、ラップの文脈では「本線の後ろで鳴る声」のことを指す。トラップ以降の日本語ラップでは英語のアドリブがそのまま入ることが多い。
フリースタイル(freestyle)
定義 — 題材、韻、リズムを即興で組み立てるラップ。書いたリリックを使わないことが前提。
由来・使われ方 — 辞書では「題材・韻・リズムが即興で作られるラップのスタイル」と定義される[出典12]。英語圏では「書いたが未発表のバース」をフリースタイルと呼ぶ古い用法もあり、J. Coleのように過去のフリースタイルを削除・公開する話題が記事になる。日本では2015年放送開始の『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日、MCはZeebra)が語を広げ、MCバトルと同義に近い使われ方になった[出典21]。
日本語ラップでの用例 — 梅田サイファーは、出入り自由で輪になってフリースタイルをする集団として2007年に始まり、R-指定を全国区へ送り出した[出典19]。
関連記事 — J. Cole謎のフリースタイル
サイファー(cypher)
定義 — ラッパーが輪になり、順番に即興のラップを回す集まり。街頭や駅前で開かれることが多い。
由来・使われ方 — 英語では「ラッパーやダンサーが順に即興を披露する集団的なパフォーマンス」を指し、1995〜2000年に記録された比較的新しい語義とされる[出典13]。語自体はアラビア語の「ゼロ」に由来し、輪(円)のイメージが重なったと説明される。勝敗をつけるバトルと違い、サイファーは参加者が互いを聴き合う練習と交流の場である。
日本語ラップでの用例 — 梅田サイファーは大阪・梅田駅の歩道橋上を起点に、2007年から毎週土曜の夕方から夜にかけて行われ、のちにグループとしてメジャーデビューした[出典19]。Rap Atlasの各地域ページには、その土地のサイファーがシーンの入口になった例が繰り返し出てくる。
関連記事 — Rap Atlas 大阪、HIPHOPCs Rap Atlas
アンサー(MCバトル)
定義 — MCバトルで、相手が直前に言った内容を受けて返すこと。即興性と並ぶ採点の柱。
由来・使われ方 — 英語の answer(答え)から。MCバトルではDJが流すビートの上で8小節ずつ交互にラップし、韻、フロウ、ディスに加えて「相手の言葉にきちんとアンサーできているか」が判定で重視される[出典24]。1ターン目は後攻だけがアンサーでき、先攻は2ターン目から返せるため、先攻と後攻で有利不利が生まれる。ここから転じて、楽曲でのディスに曲で返すことを「アンサーソング」と呼ぶ。
日本語ラップでの用例 — BATTLE SUMMIT IIIのような賞金付き大会では、アンサーの切れ味が観客の反応を決めた。R-指定の切り抜き動画が広まる現象は、アンサーの一撃が短尺で消費される時代を示している。
関連記事 — BATTLE SUMMIT III 現地レポート、R-指定と“切り抜き時代”のMCバトル
ジャンルとリリースの形にかかわる語
トラップ(trap)
定義 — 米南部発のラップのスタイル。重く遅いキックと速いハイハット、ドラッグ取引の現場を描く歌詞を特徴とする。
由来・使われ方 — 辞書は「南部で生まれ、遅く重いベースドラムと速いハイハット、ドラッグ文化を描く生々しい歌詞を持つラップ」と定義し、trap house(取引拠点)の trap が語源としている[出典14]。2000年代のアトランタでT.I.、Jeezy、Gucci Maneらが確立し、2010年代に世界のポップスの標準的な音になった。日本語では音の様式を指すことが多く、歌詞の意味は薄れている。
日本語ラップでの用例 — ¥ellow Bucks「Kabukimono」は鋭利なトラップサウンドとして、SANTAWORLDVIEW「せっせ」は90年代風トラップの引用として、HIPHOPCsのレビューで扱われた。
関連記事 — スーパートラップとは何か、¥ellow Bucks「Kabukimono」、SANTAWORLDVIEW「せっせ」
ドリル(drill)
定義 — 2010年前後のシカゴで生まれ、ロンドン、ブルックリンへ広がったラップのスタイル。暴力的な内容を淡々と、硬いビートの上で語る。
由来・使われ方 — シカゴのChief Keef、Lil Reese、G Herboらの登場で成立し、ロンドンではグライムの影響を受けたUKドリルに変わり、2019年にはPop Smokeがブルックリンドリルを大ヒットさせた。UKのプロデューサーがブルックリンの音を作るという逆輸入の経路が特徴である[出典15]。スライドする808ベースと、2拍目と4拍目からずれたキックの置き方が音の目印になる。
日本語ラップでの用例 — Ralphはグライムの経験があったためドリルのキック位置に違和感がなかったと語っている[出典22]。X 1ark × Lion melo「Crap World」は、ドリルを軸にした日本のラッパーが見せた別の顔として記事になった。
関連記事 — X 1ark × Lion melo「Crap World」
ミックステープ(mixtape)
定義 — アーティスト本人が曲を選んでまとめた作品。正式なアルバムより自由で、無料や限定で出されることが多い。
由来・使われ方 — もとはカセットに好きな曲を集めたもので、1980年代にDJの道具になった。2000年代にヒップホップのラッパーが無料または非公式の作品をこの名で出すようになり、生の実験的な素材を見せる場になった[出典16]。今では配信されるアルバムとの線引きは曖昧で、「アルバムと呼ぶには気軽な作品」という温度の違いを示す語になっている。
日本語ラップでの用例 — KOHHは2012年のミックステープ『YELLOW T△PE』で登場し、新人としては異例の売上を記録した。同シリーズは『YELLOW TAPE 5』まで続いた[出典25]。Need a Flexは2024年にミックステープ『破壊と再生』を発表している[出典26]。
ヒップホップ四大要素(four elements)
定義 — DJ、MC(ラップ)、ブレイキン(ダンス)、グラフィティの4つ。ヒップホップを音楽ではなく文化として定義するときの枕詞。
由来・使われ方 — 1970年代のブロンクスで、Afrika Bambaataaが率いるZulu NationがDJ、MC、ダンサー、グラフィティライターを一つの文化として束ねた。スミソニアン国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館の展示「Represent」も、この4要素を構成の軸にしている[出典17]。Zulu Nationは第5の要素として「知識(Knowledge)」を加えることを説いてきたとされる[出典18]。日本でも「四大要素」はヒップホップの入門的な説明として定着している。
日本語ラップでの用例 — 日本ではダンスとラップの受容が別々に進んだため、「ラップ=ヒップホップ」と受け取られがちである。四大要素の話は、その誤解を解くときに持ち出される。
関連記事 — オールドスクールとニュースクールの違い、ヒップホップを文化人類学視点で見る
態度と関係を示す語
レペゼン(represent)
定義 — 「〜を代表する」。ラッパーが出身地やクルーを名乗るときに使う言い方。
由来・使われ方 — 英語の represent(代表する、象徴する)を音のまま片仮名にした語で、「レペゼン東京」のように地名やグループ名を続ける[出典27]。英語圏では rep、reppin’ と略され、辞書には「仲間への帰属を身振りや合図で示す」という俗語の意味も載る[出典28]。片仮名の「レペゼン」は日本語の中で独自に育った語で、英語圏ではそのままでは通じない。
日本語ラップでの用例 — Awichは沖縄を背負う姿勢を繰り返し語り、地元愛を格好いいものとして掲げてきた[出典29]。HIPHOPCsのRap Atlasは、この「どこをレペゼンしているか」を地域ごとに記録する企画である。
関連記事 — HIPHOPCs Rap Atlas、沖縄のラッパー完全ガイド
リアル(real / keep it real)
定義 — 歌っている内容と生き方が一致していること。ヒップホップで最も重い褒め言葉であり、最も多い争点。
由来・使われ方 — 英語の keep it real(偽らずにいる)から。何が「リアル」かはシーンごとに違い、ストリートの経験を指す場合も、自分の言葉で語っているかを指す場合もある。「リアルじゃない」は最大級の否定になるため、文化の盗用や作られたキャラクターをめぐる議論は必ずこの語に行き着く。
日本語ラップでの用例 — REAL-T『SHIN SCAR』の読み解きでは、彼のリアルが武勇伝ではなく語彙に宿っていると論じた。PIZZA LOVE(加藤優太)は「Real」か「Fake」かという問いを自らキャラクターを脱ぐ形で受け止めている。
関連記事 — REAL-T『SHIN SCAR』とは何か|「脛の傷」をスラングから読む、エミネムとBAD HOPの「リアル」、PIZZA LOVE・加藤優太インタビュー
ドープ(dope)
定義 — 「最高にかっこいい」。音、ラップ、服、態度のどれにでも使う褒め言葉。
由来・使われ方 — オランダ語の doop(ソース)に由来し、英語では1840年代から「薬物」の俗語として使われ、のちに形容詞で「素晴らしい」の意味を持った[出典30]。ヒップホップでは1980年代から一般的な褒め言葉で、日本語ラップにも早くから入った。「ドープなトラック」「ドープなライム」のように名詞を修飾する形で使う。
日本語ラップでの用例 — 『フリースタイルダンジョン』のバトルではDragonOneが「Dope number」と韻に組み込む例が紹介された[出典20]。呂布カルマの楽曲もドープなトラックとライムで構成された高密度の作品として語られる[出典23]。
ヘッズ(heads)
定義 — ヒップホップを深く聴き、文化として理解しているファン。単なるリスナーより一段濃い層を指す。
由来・使われ方 — 英語の head(人)から。hip-hop heads、true heads のように使われ、演者でなくても文化の一員として扱われる。1980年代のニューヨークでDJやMCが客席へ「all the heads in the house」と呼びかけた用法が起源として語られる[出典31]。日本語では「ヘッズ」の一語で通じ、「ヘッズ向け」「ヘッズが唸る」のようにマニア層を指す形で使う。
日本語ラップでの用例 — ライブレポートやレビューで「会場はヘッズで埋まった」のように、客層の濃さを示す語として使われる。
バイブス(vibes)
定義 — 場や曲の雰囲気、ノリ。日本では「バイブス上がる」のように高揚を表す。
由来・使われ方 — 英語の vibes は vibration(振動)の短縮で、1965〜70年に「人や場所から受ける感覚」の意味で記録された[出典32]。レゲエの good vibes を経てヒップホップにも入り、日本では2010〜2015年頃に若者言葉として広がった[出典33]。ラップの文脈では「ノリ」に加えて演者の放つ気配を指すこともある。
日本語ラップでの用例 — ライブや曲を語る際の「バイブスが高い」「バイブス重視」のような言い方が定着している。曲名に使われる例も多い。
ビーフ(beef)
定義 — ラッパー同士の対立、いさかい。曲やSNSでの応酬として表に出るもの。
由来・使われ方 — 英語の俗語で beef は「不満、口論」を意味し、1885〜90年に記録された[出典34]。ヒップホップでは個人間の確執がディス曲の往復に発展したものを指し、KRS-One対MC Shan、Jay-Z対Nas、Drake対Kendrick Lamarのように歴史の節目として語られる。日本語でも「ビーフ」のまま使い、「ビーフが勃発」「ビーフを収める」と言う。
日本語ラップでの用例 — キングギドラ「公開処刑 feat. BOY-KEN」(2002年、アルバム『最終兵器』)は、ZeebraがDragon AshのKjを名指しで批判した曲として、日本語ラップ史のビーフの代表例に挙げられる[出典35]。
関連記事 — ドレイク『アイスマン』ディス対象完全マップ
ディス(diss)
定義 — 相手を名指しや暗示で貶めること。disrespect の略。
由来・使われ方 — 20世紀のブラック・スラングとして「軽んじる、侮辱する」の意味で使われ始めた[出典36]。ヒップホップでは「ディス曲」「ディスる」という動詞形で日常語になり、日本語でも「ディスる」は一般の若者言葉に入った。MCバトルでは相手を貶める技として採点の要素でもある[出典24]。
日本語ラップでの用例 — 上記の「公開処刑」がディス曲の代表例。近年はKendrick Lamar「Not Like Us」(2024年)のように、ディス曲がチャートを制する事例が世界的な話題になった。
関連記事 — ドレイク『アイスマン』ディス対象完全マップ
US発で日本語ラップに入ったスラング
フレックス(flex)
定義 — 見せびらかすこと。金、服、車、体、実績を誇示する行為。
由来・使われ方 — 英語の flex(筋肉を曲げて見せる)から転じ、辞書は俗語として「自慢する、誇示する」を載せる[出典37]。ヒップホップでは成功を見せること自体が表現の一部であるため、flex は必ずしも否定語ではない。一方で「No flex」は背伸びしない姿勢の表明になる。
日本語ラップでの用例 — Ralphはインタビューで、稼げていないのにハイブランドを着るのはFlexであり、自分は等身大でいたいと語っている[出典22]。「フレックスする」「フレックスしない」のように動詞化して使う。
ドリップ(drip)
定義 — 服装や身なりが決まっていること。ジュエリーの輝きも含む。
由来・使われ方 — 本来は「滴」。ice(氷)がダイヤモンドを指す連想から、water や drip もジュエリーを表す語になったと説明される[出典38]。起源はアトランタのラップシーンなど諸説あり、2018年にCardi B「Drip」で広く知られた[出典39]。Gunnaは作品名に drip を多用し、Lil Baby & Gunna「Drip Too Hard」(2018年)も代表例。SNSではファッション投稿に添える語として使われる。
日本語ラップでの用例 — 日本語ラップでも「ドリップ」「Drip」は曲名や歌詞に英語のまま入る。トラップ以降の世代で服やジュエリーを語るときの標準語になっている。
キャップ/ノーキャップ(cap / no cap)
定義 — cap は「嘘、誇張」。no cap は「嘘じゃない、本当に」。
由来・使われ方 — ブラック・スラングの cap は20世紀初頭から記録があり、1940年代には「上回る」の意味で使われた。「上限(cap)」の語感から誇張を指すようになったと説明される[出典40]。2017年にアトランタのYoung ThugとFutureが曲名に使ったことで広く知られ、SNSでは帽子の絵文字だけで「嘘だ」を表す使い方も生まれた。
日本語ラップでの用例 — 名義そのものにこの語を掲げるラッパーもいる(NoCAP)。歌詞では「ノーキャップ」と片仮名で書かれることも、no cap と英語のままのこともある。
関連記事 — NoCAP『BAKUCHI』
オップ(opp / opps)
定義 — 敵、対立する相手。opposition の略。
由来・使われ方 — 2011年のChief Keef「John Madden」やLil Reese「Us」など、シカゴのドリルシーンで使われ始めた語とされる[出典41]。当初はギャング間の対立を指したが、SNSに広がるにつれ「嫌ってくる相手」「味方でない者」という緩い意味になった。ドリルの歌詞では opps が中心語で、標的をどう描くかが問題視されてきた。
日本語ラップでの用例 — 日本ではドリル寄りの楽曲で英語のまま使われる。HIPHOPCsではSexyy Redが「my opps」を掲げたCoachellaのステージを記事にした。
関連記事 — Sexyy Red、Coachella初出演
生き方・境遇を示す語
リーン(lean/パープルドランク)
定義 — コデイン入りの処方咳止めシロップを炭酸飲料などと混ぜて飲む、鎮静目的の乱用の呼び方。
由来・使われ方 — ヒューストンで1990年代に広まったとされ、紫色になることから「パープルドランク」「シズル(sizzurp)」とも呼ばれる。成分のコデインはオピオイド系で、他の中枢神経抑制薬と併用すると呼吸抑制のリスクが高まる[出典A1]。作り方や用量は健康被害につながるため本辞典では扱わない。
日本語ラップでの用例 — 該当なし(英語のまま「lean」「シズル」と言及されることが多い)。
関連語 — トラップ、ドリップ
関連記事 — シュグ・ナイトが激白──2Pacの死後に起きていた「衝撃の事実」
スニッチ(snitch)
定義 — 密告者、警察や当局に仲間の情報を漏らす者を指す蔑称。
由来・使われ方 — 英語の俗語としては「盗む」「告げ口する」の意味で使われてきた語で、辞書では「法やルールを破った他者を当局に知らせる人物への侮蔑的な呼び方」と説明される[出典A2]。ヒップホップでは「stop snitching」という言い回しとともに、仲間を売らない態度を美徳とする規範と結びついてきた。
日本語ラップでの用例 — 該当なし
関連語 — サグ、オップ、ビーフ
関連記事 — 3人は終身刑、1人は出所:XXXTentacion事件で再燃するスニッチ論争、Young Thug『DBC』──スニッチ疑惑、UY SCUTIの失速、そしてKendrickの一撃
ハスリング/ハスラー(hustle/hustler)
定義 — 違法・非合法な手段も含め、生活のために身を粉にして稼ぐこと、またその人。
由来・使われ方 — 辞書では「成功のために積極的に動く人(go-getter)」という肯定的な語義と、「不正・詐欺的な手段で金を得る人」という否定的な語義の両方が載る[出典A3]。ヒップホップでは路上での稼ぎ方を指した語が、転じて「あらゆる手段で這い上がる姿勢」全般を称える言い方になった。
日本語ラップでの用例 — 該当なし
関連語 — サグ、OG、フッド
関連記事 — JAY-Z『Reasonable Doubt』30周年白ヴァイナルがTarget限定に
サグ(thug)
定義 — 荒くれ者、無法者。辞書上は「暴力的・無法な、あるいは凶悪な人物」を指す[出典A4]。
由来・使われ方 — 2Pacが1993年に結成したグループ名にもなった「THUG LIFE」は、「The Hate U Give Little Infants Fucks Everybody」の頭字語とされ、貧困から抜け出した者への蔑称だった thug を自己肯定の語へ読み替える試みだった[出典A5]。
日本語ラップでの用例 — 該当なし(日本語では「脛の傷」のような和訳的な言い回しで語られることもある)。
関連語 — OG、ハスリング、フッド
関連記事 — シュグ・ナイトが激白──2Pacの死後に起きていた「衝撃の事実」
読み方に迷う語
| 表記 | 読み | 補足 |
|---|---|---|
| feat. | フィーチャリング | 「フィート」とは読まない。ft. も同じ |
| 808 | エイトオーエイト | 「ハッピャクハチ」とは言わない |
| cypher | サイファー | cipher とも綴る |
| opps | オップス | 単数は opp |
| no cap | ノーキャップ | 帽子の絵文字で代用される |
| diss | ディス | dis とも綴る |
| bars | バーズ | 日本語では「小節」と言うことが多い |
| lean | リーン | 「シズル」とも呼ばれる |
| thug | サグ | 「サグい」と形容詞化されることもある |
更新ログ
- 2026年9月9日:初版公開に向けた下書き。30語を収録。
- 2026年9月9日:リーン、スニッチ、ハスリング/ハスラー、サグの4語を追加。34語。
出典
定義や年代の根拠として参照した資料です。ヒップホップ内部の用法は辞書に載っていないことも多いため、辞書とシーン内の発言を併記しています。
- Dictionary.com「bars」(slang)— dictionary.com/e/slang/bars/
- Dictionary.com「verse」— dictionary.com/browse/verse
- Dictionary.com「hook」— dictionary.com/browse/hook
- Dictionary.com「flow」— dictionary.com/browse/flow(ラップの語義は未収録であることを確認)
- Dictionary.com「punch line」— dictionary.com/browse/punch-line
- Dictionary.com「posse」— dictionary.com/browse/posse
- Complex「The 25 Best Rap Posse Cuts in Hip-Hop History」— complex.com
- Dictionary.com「sampling」— dictionary.com/browse/sampling
- Roland「TR-808」公式ページ — roland.com
- Dictionary.com「ad-lib」— dictionary.com/browse/ad-lib
- The Michigan Daily「A history lesson in hip hop’s hype men and ad-libs」— michigandaily.com
- Dictionary.com「freestyle」— dictionary.com/browse/freestyle
- Dictionary.com「cypher」— dictionary.com/browse/cypher
- Dictionary.com「trap music」— dictionary.com/browse/trap-music
- FNMNL「ブルックリンドリルの潮流はいかにして生まれたか?」2020年2月7日 — fnmnl.tv
- Dictionary.com「mixtape」— dictionary.com/browse/mixtape
- National Museum of African American History and Culture「Represent」— nmaahc.si.edu
- Wikipedia「Universal Zulu Nation」(補助資料)— en.wikipedia.org
- Cocotame(ソニーミュージックグループ)「メジャーデビューで大海原へと漕ぎ出した梅田サイファー【前編】」— cocotame.jp
- エキサイトニュース「『フリースタイルダンジョン』韻を踏むってこういうことだ、わかったか」— excite.co.jp
- Wikipedia「フリースタイルダンジョン」(番組形式の補助資料)— ja.wikipedia.org
- FNMNL「【インタビュー】Ralph | No Flexなラッパーの孤高」2020年8月27日 — fnmnl.tv
- KAI-YOU「ラッパー呂布カルマ インタビュー『名古屋でトップの自分が食えなきゃダメ』」— kai-you.net
- Wikipedia「MCバトル」およびヒプラガ「MCバトルのルール・用語を徹底解説」(補助資料)— ja.wikipedia.org / hipragga.com
- FNMNL「【独占】KOHHの最新作『YELLOW TAPE 5』が王子復興財団限定でリリースへ」2021年2月25日 — fnmnl.tv / ディスクユニオン「YELLOW T△PE シリーズ」— diskunion.net
- FNMNL「Need a Flexがミックステープ『破壊と再生』をリリース」2024年11月25日 — fnmnl.tv
- @DIME「ヒップホップ用語のスラング『レペゼン』とはどういう意味?」2024年7月1日 — dime.jp
- Dictionary.com「represent」(slang)— dictionary.com/browse/represent
- 琉球新報「地元愛は格好いい アーティスト・起業家 Awichさん」— ryukyushimpo.jp
- Dictionary.com「dope」— dictionary.com/browse/dope
- Playatuner「ヒップホップサウンドとは何なのか」および HIP HOP BASE「ヘッズとは?」(用法の補助資料)— playatuner.com / rude-alpha.com
- Dictionary.com「vibe」— dictionary.com/browse/vibe
- 言葉の意味辞典「『バイブス(vibes)』とは?」— word-dictionary.jp
- Dictionary.com「beef」— dictionary.com/browse/beef
- Wikipedia「最終兵器 (アルバム)」およびApple Music「公開処刑 (feat. BOY-KEN)」— ja.wikipedia.org / music.apple.com
- Dictionary.com「diss」— dictionary.com/browse/diss
- Dictionary.com「flex」(slang)— dictionary.com/browse/flex
- HIPHOP DNA「【スラング解説】滴るほどにイケてる?『Drip(ドリップ)』というスラングを解説」2020年11月13日 — hiphopdna.jp
- Dictionary.com「drip」(slang)— dictionary.com/e/slang/drip/
- Dictionary.com「no cap」(slang)— dictionary.com/e/slang/no-cap/
- Know Your Meme「Opp / Opps」— knowyourmeme.com
A1. Healthline「What Is Lean? Effects, Risks, and Treatment」— healthline.com/health/what-is-lean
A2. Dictionary.com「snitch」— dictionary.com/browse/snitch
A3. Dictionary.com「hustler」— dictionary.com/browse/hustler
A4. Dictionary.com「thug」— dictionary.com/browse/thug
A5. Dictionary.com「thug life」(Slang)— dictionary.com/culture/slang/thug-life
HIPHOPCs内の関連記事:コアなヒップホップのスラング集 Vol.1、[スラング解説]50 CentのTootsie Roll発言