HIPHOPCs Global Hip-Hop, JP.

BADSAIKUSHとは──「契」からLIFE STASH、FLOATIN’へ。ビートで言葉を変えたラッパー

Japanese Rap News28 min read

BADSAIKUSH(バダサイクッシュ)は、埼玉県深谷を地元とし、熊谷を拠点に活動してきた舐達麻/APHRODITE GANGの中心人物である。

個人の地元は深谷。クルーが掲げてきた街は熊谷。この二つを一つの「熊谷出身」にまとめると、BADSAIKUSHの出発点と、舐達麻が作った活動圏の両方を見失う。本人は2024年の取材で深谷に生まれたことを語り、GQも深谷を「BADSAIKUSHの埼玉の地元」と補足している。一方、舐達麻の公式配信プロフィールとAPHRODITE GANG HOLDINGSは、熊谷を“HOT TOWN”として前面に出してきた。[GQ JAPAN「ヒップホップ・ジャパンの時代 Vol.3 BADSAIKUSH」Apple Music 舐達麻プロフィールAPHRODITE GANG HOLDINGS公式ストア

BADSAIKUSHを説明するとき、低い声、大麻をめぐる表象、逮捕報道だけを先に置くのは簡単だ。しかし、それでは曲がなぜ長く聴かれ、舐達麻の音像がなぜ一聴して分かるのかを説明できない。

この人物の核心は、ビートを選び、ビートに言葉を書かされ、その経験をクルーの制作方法へ変えてきたことにある。

2015年の「契」で、本人は初めてビートにリリックを引き出される感覚を得た。2017年の逮捕後、服役を前にした保釈中に「LIFE STASH」を書き、話すように力を抜く録音を覚えた。出所後にGREEN ASSASSIN DOLLARと出会い、最初に作った「FLOATIN’」で、その言葉と声を別の段階へ進めた。三曲は代表曲の羅列ではない。BADSAIKUSHの書き方が変わった順序である。[GQ JAPAN本人インタビュー

30秒でわかるBADSAIKUSHのプロフィール

項目 確認できる内容
現在の標準名義 BADSAIKUSH(バダサイクッシュ)
確認できる別表記 賽 a.k.a. BADSAIKUSH/旧クレジットの「賽」。分かち書きの「BAD SAI KUSH」は公式資料で確認できない
地理 個人の地元は埼玉県深谷。舐達麻の活動拠点・レペゼンは熊谷
舐達麻での役割 中心MCの一人。Apple Musicはビート選びを担う「リーダー的な役割」と説明するが、正式役職としてのリーダーとは断定しない
舐達麻の主なアルバム 『NORTHERNBLUE1.0.4.』(2015年)/『GODBREATH BUDDHACESS』(2019年)/『GODBREATH BUDDHACESS (THE RE-UP EDITION)』(2025年)
BADSAIKUSH名義を含む共同作品 RYKEY × BADSAIKUSH『MARY JANE』(2019年)/ANARCHY & BADSAIKUSH『GOLD DISC』(2020年)
2026年8月の状態 G PLANTSは舐達麻を離れたと本人取材で明言。舐達麻の解散、新編成、次作時期は公式未発表
公式・配信 Apple MusicXInstagramAPHRODITE GANG HOLDINGS

Apple MusicはBADSAIKUSHを、G-PLANTS、DELTA9KIDとともに舐達麻の中心となった人物として扱い、ビート選びを担う「リーダー的な役割」と説明している。だが「リーダー的」と、団体が正式に定めた「リーダー」は同じではない。本稿では、外部プロフィールが付けた役職を強めず、「中心人物」「ビート選定を担う」と記す。[Apple Music「BADSAIKUSHについて」

SNSは、BARKSがXとInstagramをBADSAIKUSHの公式アカウントとして案内しているものを掲載した。Xのハンドルはグループ名のように見えるが、表示だけから別アカウントと推測しない。[BARKS舐達麻インタビュー

深谷で生まれ、熊谷をクルーの地図にした

深谷と熊谷は、どちらも埼玉県北部にある隣接地域だ。近いからこそ、外からは一つにまとめられやすい。しかしBADSAIKUSH本人が語る生の感覚と、舐達麻が音楽・イベント・服で掲げてきた都市名は別に記録した方がいい。

2024年のGQ取材で、BADSAIKUSHは深谷に生まれた人間の人生感覚を例に、自分が音楽や服を通じて、それまで想像しなかった場所へ進んだことを話した。これは「地方から成り上がった」という一方向の成功譚ではない。本人は有名になった後も、埼玉で仲間と育った感覚を、自分の判断基準として語っている。[GQ JAPAN本人インタビュー

一方、舐達麻の公式配信プロフィールは、賽 a.k.a. BADSAIKUSH、DELTA9KID、G-PLANTSを中心に、“HOT TOWN”こと熊谷で結成されたと説明する。APHRODITE GANG HOLDINGSの販売ページにも、熊谷をレペゼンする言葉が残る。個人の出身地点と、クルーが共同で作った拠点を分けることで、深谷から熊谷へ人と音が結ばれた北埼玉の動線が見える。[Apple Music 舐達麻プロフィールAPHRODITE GANG HOLDINGS

この地理は、HIPHOPCsの埼玉Rap Atlasでも、BADSAIKUSH個人を深谷、舐達麻の拠点を熊谷として読む。東京との距離だけで埼玉のラップを測らず、県北の街同士がどう一つの活動圏になったかを見るためである。

「賽」とBADSAIKUSH──名前の由来より、クレジットの変化を見る

現在の標準表記はBADSAIKUSHである。Apple Musicの個人ページ、2024年のGQ、2026年のBLUEPRINT関連資料はいずれもこの表記を前面に置く。読みはバダサイクッシュ。[Apple Music BADSAIKUSHGQ JAPANQetic『BLUEPRINT THE RECORDS』紹介

ただし「賽」は消えた過去ではない。2015年の1stアルバム公式配信ページに残るメンバー表記は「賽」。2023年のBARKSでは発言者名に「賽 a.k.a. BADSAIKUSH」と「BADSAIKUSH」の両方が使われている。したがって、プロフィール名はBADSAIKUSH、歴史的クレジットを説明するときは「賽」「賽 a.k.a. BADSAIKUSH」と分けるのが正確だ。[TuneCore Japan『NORTHERNBLUE1.0.4.』BARKS本人インタビュー

一方、分かち書きの「BAD SAI KUSH」や一部メタデータに見られる「BADASAIKUSH」は、今回確認した本人・公式資料の標準表記ではない。検索語を増やすために別名義欄へ積み上げると、かえって作品クレジットの精度を落とす。

2009年──結成と喪失を、神話にしない

舐達麻の結成年は2009年で、Apple Musicと複数の取材記事が一致している。ただし、結成時の全メンバーと、その後の3MC編成へ至る順序を一文で固定するのは難しい。2015年作品の公式配信ページには、賽のほかにも複数のラッパー、DJを含む初期のメンバー構成が残っている。後年のBADSAIKUSH、G-PLANTS、DELTA9KIDによる3MC像を、そのまま2009年へ遡らせない方がよい。[Apple Music 舐達麻プロフィールTuneCore Japan公式配信ページ

KAI-YOU Premiumの舐達麻本人取材は、2009年6月3日に仲間の1.0.4が死亡し、BADSAIとDELTA9KIDが逮捕されたと整理する。同記事によれば、BADSAIKUSHはその後1年間を少年院で過ごした。GQと音楽ナタリーは、二人が金庫破りで捕まった年に舐達麻が結成されたと紹介している。[KAI-YOU Premium「舐達麻の結成前夜」GQ JAPAN舐達麻インタビュー音楽ナタリー

ここで確認できるのは、日付、仲間の死、二人の逮捕、KAI-YOUが報じた少年院での期間までである。警察の追跡状況、誰が運転していたか、具体的な罪名や処分を、後年のまとめ記事から補わない。事件を「リアルなラッパーになるための通過儀礼」にもしない。

2015年のアルバム名には「1.0.4.」という表記が残った。それは喪失がカタログに残っているという事実であり、犯罪歴を作品価値の証明に変える理由ではない。BADSAIKUSHの音楽を理解するうえで重要なのは、その後、言葉とビートへどう向き合ったかである。[TuneCore Japan『NORTHERNBLUE1.0.4.』

『NORTHERNBLUE1.0.4.』──「契」でビートが主語になった

2015年12月3日、舐達麻は1stフルアルバム『NORTHERNBLUE1.0.4.』を発表した。公式配信ページで確認できるのは全12曲。最終曲が「契」で、作詞は舐達麻、作曲はTAPPOと記録されている。[TuneCore Japan『NORTHERNBLUE1.0.4.』

GQは「契」を9分半を超える曲として取り上げた。BADSAIKUSHは、この曲で初めて、ビートにリリックを書かされるような経験をしたと振り返る。長い文章が自然に出てきたことで、良いビートが言葉を連れてくることをはっきり理解したという。[GQ JAPAN本人インタビュー

この説明は、ビートをラップの背景と考える見方を逆転させる。

先に完成した文章があり、それに似合う伴奏を探すのではない。音の反復、間、質感が、まだ存在しない文章の長さや方向を決める。BADSAIKUSHにとってビート選びは、完成後の装飾ではなく、何を書くかを決める最初の編集だった。

Apple Musicが彼を舐達麻のビート選びを担う人物として紹介するのも、この制作観とつながる。すべての曲を自分で作曲するプロデューサーという意味ではない。外部のビートメイカーが作る音の中から、三人の言葉を最も深く引き出す土台を選ぶ。その判断が、クルー全体の音楽的輪郭を作る。[Apple Music BADSAIKUSHプロフィール

2017年の本人申告──「LIFE STASH」は服役前に書かれた

BADSAIKUSHは2024年のGQ取材で、2017年に逮捕され、1年間刑務所へ行くことが決まっていた保釈中に「LIFE STASH」を書き、録音したと説明している。罪名や裁判記録を示す記事ではなく、制作時期を語る本人の回想である。本稿も、その範囲を超えない。[GQ JAPAN本人インタビュー

当時の本人が考えたのは、一曲だけを時間をかけて完全なクラシックにすることではなく、外に残る仲間や家族へ、できるだけ多くの言葉を残すことだった。質を軽視したという話ではない。未来の評価より、限られた時間の中で現在の思考を複数の曲へ保存することを優先したのである。[GQ JAPAN「仲間や家族に言葉を残す」

録音ではDJ BUNから、力を抜き、もっと話すように歌うよう繰り返し言われたと本人は語る。その経験以後、自分のラップが変わったとも説明した。低い声そのものが突然生まれたのではない。声を押し出す力を減らし、言葉を会話に近い温度で置く方法が見つかった。[GQ JAPAN本人インタビュー

ここからは本稿の分析になる。「LIFE STASH」の重要性は、法的トラブルを作品の勲章にしたことではない。時間が限られた状況で、誰へ、どの密度で言葉を残すかを決め、録音時の声の出し方まで変えたことにある。

「FLOATIN’」──GREEN ASSASSIN DOLLARとの最初の一曲

「契」で良いビートの重要性に気づいたBADSAIKUSHは、出所後にGREEN ASSASSIN DOLLARのビートを聴き、探していたビートメイカーを見つけたと感じたという。二人が最初に作った曲が「FLOATIN’」。その後、7、8カ月ほどを経て「GOOD DAY」を発表したと本人が説明している。[GQ JAPAN本人インタビュー

「LIFE STASH」のミュージックビデオは2018年10月に公開され、「FLOATIN’」は2019年1月に続いた。BARKSの取材でBADSAIKUSHは、「LIFE STASH」がそれまでと違う速度で再生され、その数カ月後の「FLOATIN’」はさらに大きく伸びたと振り返った。収入の変化が一時的なものではないと分かるまで、半年ほど様子を見たとも話している。[BARKS本人インタビュー

だが、再生数だけで転機を説明すると制作の中身が抜ける。「契」で、ビートが言葉を引き出すことを知った。「LIFE STASH」で、声を話す位置まで下げた。「FLOATIN’」で、その書き方と声をGREEN ASSASSIN DOLLARのビートへ接続した。広く届いたのは、この三段階の後だった。

さらに本人は、発表した曲と曲の間にも、世に出した数を上回るボツ曲があると語っている。公開された一曲だけを成長の単位にせず、選ばれなかった曲まで含めて書き続ける。その蓄積が、ゆっくりしたフロウを「簡単そう」に聞かせる。[GQ JAPAN本人インタビュー

『GODBREATH BUDDHACESS』──一枚の成功より、選曲の完成

2019年8月31日、舐達麻は2ndアルバム『GODBREATH BUDDHACESS』を発表した。GQは「LIFE STASH」と「FLOATIN’」に続く作品として、Apple Musicは舐達麻がより大きなインパクトを与えたアルバムとして紹介している。[GQ JAPANApple Music 舐達麻プロフィール

収録曲には「GOOD DAY」「LIFE STASH」「ENDLESS ROLL」「ROCK THA BOAT」「DABS CHEESE」「100MILLION」のリミックス、「MOOD APHRODITEGANG」「FLOATIN’」などが並ぶ。2025年版の公式配信クレジットでは、GREEN ASSASSIN DOLLARと7SEEDSが曲ごとに制作を担い、BADSAIKUSH、G-PLANTS、DELTA9KIDが作詞・ラップに記録されている。[TuneCore Japan『GODBREATH BUDDHACESS (THE RE-UP EDITION)』

この作品を「ブーンバップへの回帰」と一語で閉じると、BADSAIKUSHの選択を過去志向にしてしまう。反復するビート、長いヴァース、抑制された声は、古い様式を再現するためだけに置かれたのではない。三人の言葉が急がずに残る速度を選んだ結果として、一枚の統一感が生まれたと見る方が、本人のビート観に近い。

ここは作品と本人発言をもとにした本稿の評価であり、本人がアルバムを「回帰」と定義したわけではない。確認できるのは、BADSAIKUSHがビートの重要性を繰り返し語り、舐達麻でビート選びを担い、GREEN ASSASSIN DOLLARとの最初の制作を「FLOATIN’」と説明したことだ。[GQ JAPANApple Music

舐達麻、共同名義、客演を混ぜない

配信サービスでは、一つの曲が舐達麻、BADSAIKUSH、各メンバーの個人ページへ重複して表示される場合がある。個人ページに載ることと、BADSAIKUSHのソロ曲であることは同じではない。作品を正確に読むには、名義と作詞クレジットを分ける必要がある。

舐達麻としての主要作品

  • 『NORTHERNBLUE1.0.4.』(2015年12月3日) — 12曲入りの1stフルアルバム。終曲「契」がBADSAIKUSHのビート観を変えた。[TuneCore JapanGQ JAPAN
  • 『GODBREATH BUDDHACESS』(2019年8月31日) — 「LIFE STASH」「FLOATIN’」「GOOD DAY」などを収めた2ndアルバム。[GQ JAPANApple Music「GOOD DAY」
  • 「100MILLION (REMIX)」(2019年) — 正式表記は単数のMILLION。作詞はBADSAIKUSH、G-PLANTS、DELTA9KID、制作はGREEN ASSASSIN DOLLAR。[TuneCore Japan
  • 「BUDS MONTAGE」(2020年7月30日) — 三人の作詞クレジットとGREEN ASSASSIN DOLLARの制作で発表されたシングル。[TuneCore JapanSpotify
  • 「BLUE IN BEATS」(2022年12月) — 作詞は三人、制作はINGENIOUS DJ MAKINO。BADSAIKUSHは完成まで2年かかったと説明した。[TuneCore JapanBARKS
  • 「ALLDAY」(2023年1月16日) — 一語表記。作詞は三人、制作はGREEN ASSASSIN DOLLAR。BADSAIKUSHは自分の長い冒頭ヴァースに半年ほどかけたと語る。[Apple MusicTuneCore JapanBARKS
  • 「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」(2023年12月1日) — 作詞は三人、制作はGREEN ASSASSIN DOLLARと7SEEDS。BADSAIKUSHは後の取材で、書きたい、出したい種類の曲ではなかったが、沈黙できない状況で発表したと振り返った。[Apple MusicTuneCore JapanGQ JAPAN

BADSAIKUSH名義を含むコラボレーション

  • RYKEY × BADSAIKUSH『MARY JANE』(2019年) — 「Birthday Cake」「Roots My Roots」「Mary Jane」など6曲。各曲でRYKEYとBADSAIKUSHが作詞者として記録され、曲ごとにGREEN ASSASSIN DOLLAR、SIBA、FEZBEATZ、7SEEDSらが制作している。[TuneCore Japan『MARY JANE』
  • ANARCHY & BADSAIKUSH『GOLD DISC』(2020年11月8日) — 4曲入りEPで、全曲をGREEN ASSASSIN DOLLARが制作。「ANGELA」には舐達麻が参加する。[Apple Music『GOLD DISC』TuneCore Japan

ソロ作品と参加作品の扱い

Apple MusicのBADSAIKUSH個人ページには、舐達麻の曲、共同EP、阿修羅MIC「365DAYS」、JNKMNの参加曲などが同じ入口に並ぶ。これはBADSAIKUSHの声を追うには便利だが、すべてを「ソロ作品」と呼ぶ根拠にはならない。[Apple Music BADSAIKUSH

今回確認した公式カタログの範囲では、BADSAIKUSH単独名義のフルアルバムは確認できない。したがって、プロフィールでは舐達麻のグループ作品、二者の共同名義、客演を分ける。共同EPを「ソロアルバム」、舐達麻のシングルを「BADSAIKUSHのソロ曲」と書かない。

「ALLDAY」に半年、「BLUE IN BEATS」に2年

BADSAIKUSHのラップは、声量を抑えているため、書く行為まで即興的で軽いように誤解されることがある。本人の説明は反対だ。

2023年のBARKS取材で、「ALLDAY」の冒頭ヴァースは一度に書いたのではなく、半年ほどかかったと話している。「BLUE IN BEATS」には2年を要した。ほかの曲と並行しながら、未完成の曲を常に考え続けるという。[BARKS本人インタビュー

2024年のGQでも、「BLUE IN BEATS」は納得して出すまで2年かかったと説明した。販売するためだけに音楽を作っているわけではなく、仕事である前に、自分と向き合って生む芸術だという考えを示している。[GQ JAPAN「仕事の前に芸術」

ここで「文学」という2026年の言葉が、宣伝用の比喩ではなくなる。

「契」でビートから長い文章を引き出された。「LIFE STASH」で外に残る人へ言葉を保存しようとした。「ALLDAY」と「BLUE IN BEATS」では、数カ月から数年をかけて文章を削った。BADSAIKUSHがヒップホップを文学として語る背景には、曲を短い消費単位ではなく、時間をかけて残す文章として扱ってきた工程がある。[Qetic『BLUEPRINT THE RECORDS』

2022年の法的記録──逮捕と不起訴を一続きで書く

2022年10月4日、BADSAIKUSHとG-PLANTSを含む4人が、大麻取締法違反、乾燥大麻の共同所持容疑で現行犯逮捕されたと報じられた。ここでの法的段階は「容疑による逮捕」である。[ORICON NEWS、2022年10月5日

静岡地検沼津支部は、BADSAIKUSHを10月14日付で不起訴処分とした。報道日は10月17日。不起訴理由は明らかにされていない。逮捕から不起訴までは10日であり、「約2週間」と丸める必要はない。[静岡朝日テレビ、2022年10月17日

したがって、「大麻所持で有罪になった」「無罪になった」「嫌疑が完全に晴れた」とは書かない。安全な記述は、共同所持容疑で逮捕され、10日後に不起訴となり、理由は非公表、までである。

なお、2021年4月に逮捕された舐達麻のメンバーはG-PLANTSとDELTA9KIDで、BADSAIKUSHはその件の逮捕対象ではない。グループの事件歴を、そのまま個人の逮捕歴へ加算しない。[KAI-YOU、2021年4月16日

2009年、本人が語った2017年、報道と処分を確認できる2022年は、根拠の種類も法的段階も異なる。「逮捕3回」と一行にまとめると、その差が消える。本稿では、2009年はKAI-YOUの取材報道、2017年は本人の制作回想、2022年は逮捕報道と検察処分として分けた。

2025年のRE-UP──追加ではなく、差し替えだった

2025年6月1日、配信停止となっていた『GODBREATH BUDDHACESS』が、『GODBREATH BUDDHACESS (THE RE-UP EDITION)』として再配信された。全10曲。オリジナル版の「SPACE BALL」に代わって、未発表曲「THE SEQUEL」が収録された。曲が一つ増えたのではなく、一曲を差し替えた再構成である。[音楽ナタリー、2025年6月1日TuneCore Japan公式配信ページ

「THE SEQUEL」の作詞・ラップはBADSAIKUSH、G-PLANTS、DELTA9KID。共同プロデュースはGREEN ASSASSIN DOLLARと7SEEDSと記録されている。新曲を個人曲として切り離すのではなく、三人と二人のビートメイカーによる舐達麻作品として扱う。[TuneCore Japan「THE SEQUEL」クレジット

2LPはAPHRODITE GANG HOLDINGSの公式商品ページで1000枚限定と確認できる。ただし、商品ページに発売日が明記されていないため、デジタル再配信と同日の物理発売とは断定しない。[APHRODITE GANG HOLDINGS公式2LPページ

Apple Musicが掲げる舐達麻の最新配信も、2026年8月25日確認時点では2025年6月1日のRE-UP版である。2026年にBADSAIKUSHの新しい音源は映像内で公開されたが、商業配信された舐達麻の新アルバムとして数えない。[Apple Music 舐達麻

2026年3月の無題曲──「天国東京」は確定タイトルではない

2026年3月24日付のTimberland × WACKO MARIA公式キャンペーンページで、BADSAIKUSHが登場するムービーと新しい楽曲が公開された。クレジットにはBADSAIKUSHとGREEN ASSASSIN DOLLARの名が記されている。KAI-YOUは翌25日にこれを報じた。[Timberland公式、2026年3月24日KAI-YOU、2026年3月25日

KAI-YOUは曲名が明らかになっていないと記し、BADSAIKUSHのX投稿に「天国東京」という文字が添えられていたことを分けている。投稿の言葉を曲名へ昇格させず、「タイトル未発表のキャンペーン曲」と記録する。[KAI-YOU「舐達麻のBADSAIKUSHが新曲公開」

この短い公開でも、「FLOATIN’」以来の重要な制作相手であるGREEN ASSASSIN DOLLARとの線は続いた。ただし、音源の配信日、正式タイトル、舐達麻の次作への収録は発表されていない。映像で聴けることと、正式なシングル発売は別である。

2026年のBLUEPRINT──「文学」、家族、舐達麻の未来

2026年6月11日、『BLUEPRINT THE RECORDS 001』の先行予約が始まり、BADSAIKUSHのロングインタビュー映像の第1弾が公開された。書籍は7月7日発売と発表され、巻頭には28ページ、2万字を超えるインタビューを掲載。舐達麻の現在、ヒップホップ、家族、自身の心境を扱った。[KAI-YOU、2026年6月11日Qetic

公式映像は、6月11日の「俺のヒップホップは文学」、16日の「子供ができて、全部変わった」、18日の「舐達麻の現在地、そして未来」、20日の「大麻を語る」と続いた。子供の存在と、それによる本人の変化は公式映像の範囲で採用できるが、結婚、交際相手、家族の身元へ広げない。[BLUEPRINT公式「俺のヒップホップは文学」公式「子供ができて、全部変わった」公式「舐達麻の現在地、そして未来」公式「大麻を語る」

Qeticが掲載した本人の言葉は、ヒップホップを自分にとっての文学として捉えるものだった。長い直接引用を使わなくても、意味は作品の工程から確認できる。彼は、ビートに導かれて書き、仲間へ言葉を残し、一つのヴァースへ半年、一曲へ2年を費やしてきた。文学という語は、ラップを音楽より上に置くためではなく、言葉と時間をどう残すかという制作観を示す。[Qetic『BLUEPRINT THE RECORDS』刊行記事BARKS本人インタビュー

ただし、BLUEPRINTの6月時点の「舐達麻の未来」を、8月時点の確定したグループ計画として読まない。その後、G PLANTSが自らの離脱を明かしたからである。現在地を書くときは、後から出た情報を反映する必要がある。

G PLANTS離脱後──「3MC」と「解散」の間にある未発表

舐達麻は長く、BADSAIKUSH、G-PLANTS、DELTA9KIDの三人を中心に活動してきた。2019年から2025年の主要配信クレジットにも、三人の名が並ぶ。これは歴史として確定できる。[Apple Music 舐達麻TuneCore Japan RE-UP版クレジット

2026年8月14日、G PLANTSはマイナビニュースの本人インタビューで、自分が辞めたこと、舐達麻を離れたことを明言した。現在は一緒に活動していないとし、三人で制作していた時期には20曲以上のストックがあったとも話している。[マイナビニュース独占インタビュー、2026年8月14日

この発言によって、2026年8月現在の紹介文を「BADSAIKUSH、G-PLANTS、DELTA9KIDからなる3MCクルー」と現在形で固定することはできなくなった。

同時に、G PLANTSの離脱だけから「舐達麻は解散した」「BADSAIKUSHとDELTA9KIDの二人組になった」とも言えない。舐達麻/APHRODITE GANG側から、解散、新編成、残る名義、三人で作ったストックの扱い、次作時期についての正式発表は確認できない。

したがって本稿の表現は、「長く三人のMCを中心に活動した。G PLANTSは2026年8月に離脱を明かしたが、新編成と解散は公式未発表」とする。未発表を空白のまま残すことも、更新型プロフィールの精度である。

サードアルバムは「制作中」から更新されていない

BADSAIKUSHは2024年6月のGQ取材で、舐達麻のサードアルバムを制作していると語った。Awichを迎えた「OUTLAW」のリミックスはサンプリング権利の問題で進行が遅れており、それが解決すれば制作が進むと説明していた。[GQ JAPAN、2024年7月8日公開

2023年のBARKS取材でも、本人はその年にアルバムを出せると思うと話していたが、同年中には発表されなかった。予定を実績へ書き換えてはいけない。[BARKS本人インタビュー

2025年にはRE-UP版と「THE SEQUEL」が届き、2026年にはBLUEPRINTで未来が語られた。しかし2026年8月25日現在、サードアルバムの発売日、タイトル、曲目、参加メンバーは発表されていない。さらにG PLANTSが離脱を明かしたため、2024年時点の制作計画と現在の形を同じものとして扱えない。

「待望の3rdアルバムが近日発売」と期待を事実に変えず、「2024年に制作中と本人が説明したが、現時点で発売詳細は未発表」とするのが正確である。

BADSAIKUSHを知るための5曲

再生数の順位ではなく、制作方法が変わった順に選ぶ。

  1. 「契」 — ビートが言葉を連れてくる感覚を、本人が初めて明確に経験した曲。まずここを聴くと、後のビート選定が趣味ではなく作詞の入口だと分かる。
  2. 「LIFE STASH」 — 服役前の保釈中に書いたと本人が説明する曲。仲間や家族へ言葉を残す目的と、話すように力を抜く声が重なった。
  3. 「FLOATIN’」 — GREEN ASSASSIN DOLLARとの最初の制作。書き方、声、ビートの三点が結びつき、舐達麻が広く届く転機になった。
  4. 「BUDS MONTAGE」 — 三人の声とフック、GREEN ASSASSIN DOLLARの反復が、2020年の舐達麻を最も短く示す入口。個人曲ではなく、三者の配置として聴く。
  5. 「BLUE IN BEATS」 — 完成まで2年を要したと本人が語る曲。「遅いフロウ」と「時間をかけて書くこと」が別ではないと分かる。

この五曲の外側に、共同名義の入口としてRYKEY × BADSAIKUSH『MARY JANE』、ANARCHY & BADSAIKUSH『GOLD DISC』がある。舐達麻の三者関係から離れたとき、BADSAIKUSHの声が別のラッパーとの対話でどう機能するかを確かめられる。[『MARY JANE』公式配信ページApple Music『GOLD DISC』

よくある誤解を8点だけ整理する

  • 個人の出身を熊谷としない。 本人の地元は深谷、舐達麻の拠点が熊谷。
  • 正式な「リーダー」と断定しない。 Apple Musicの表現は「リーダー的な役割」。本稿は中心人物、ビート選定を担う人物とする。
  • 現在の舐達麻を3MCと断定しない。 長く三人で活動したが、G PLANTSが2026年8月に離脱を明かした。
  • 解散や二人組化も断定しない。 舐達麻側の正式発表は確認できない。
  • 「100MILLIONS」ではない。 公式表記は「100MILLION (REMIX)」。
  • 2022年は逮捕で終わらせない。 10月4日の逮捕と、14日付の不起訴、不起訴理由非公表を一続きで書く。
  • 「天国東京」を2026年の新曲名としない。 キャンペーン曲はタイトル未発表。
  • 生年、誕生日、本名を音楽プロフィールの確定事項にしない。 本名は逮捕報道に出るが、作品理解に必要な基本情報として強調せず、生年月日は本人・公式で確認できない。

BADSAIKUSH年表──確認できる転機だけを分ける

時期 確認できる出来事
2009年 舐達麻の結成年。6月3日に1.0.4が死亡し、BADSAIとDELTA9KIDが逮捕されたとKAI-YOUが本人取材をもとに報道。BADSAIKUSHはその後1年間を少年院で過ごしたと同記事が伝える
2015年12月3日 舐達麻の1stフルアルバム『NORTHERNBLUE1.0.4.』を発表。終曲「契」で、本人がビートに言葉を引き出される経験を得る
2017年 本人によれば、逮捕後、1年間の服役を控えた保釈中に「LIFE STASH」を書き録音。罪名は本稿の確認資料で確定しない
2018年10月 「LIFE STASH」ミュージックビデオ公開。本人は、それまでの曲と違う伸びを感じたと後に説明
2019年1月 GREEN ASSASSIN DOLLARとの最初の制作「FLOATIN’」を発表
2019年8月 RYKEYとの共同EP『MARY JANE』、舐達麻の2ndアルバム『GODBREATH BUDDHACESS』を発表
2020年 舐達麻「BUDS MONTAGE」、ANARCHYとの共同EP『GOLD DISC』を発表
2022年10月 4日に共同所持容疑で逮捕され、14日付で不起訴。不起訴理由は非公表。12月には舐達麻「BLUE IN BEATS」を発表
2023年 1月16日に「ALLDAY」、12月1日に「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」を舐達麻として発表
2024年 GQの本人取材で、「契」から「LIFE STASH」「FLOATIN’」へ至る制作史と、サードアルバム制作中であることを説明
2025年6月1日 『GODBREATH BUDDHACESS (THE RE-UP EDITION)』を再配信。「SPACE BALL」を「THE SEQUEL」へ差し替え
2026年3月24日 Timberland × WACKO MARIAの公式キャンペーンページで、GREEN ASSASSIN DOLLARとのタイトル未発表曲を公開。KAI-YOUは翌25日に報道
2026年6月〜7月 『BLUEPRINT THE RECORDS 001』の表紙・巻頭インタビューに登場。公式映像で文学、家族、舐達麻の現在と未来を語る
2026年8月14日 G PLANTSが舐達麻を離れたと本人インタビューで明言。舐達麻の新編成と解散は公式未発表

BADSAIKUSHをどう評価するか

BADSAIKUSHは、事件をラップへ持ち込んだから重要なのではない。事件だけでは、「契」がなぜ9分半を超えたのか、「ALLDAY」に半年、「BLUE IN BEATS」に2年をかけたのか、GREEN ASSASSIN DOLLARのビートをなぜ選び続けたのかを説明できない。

彼が行ってきたのは、経験をそのまま告白することでも、違法性を商品にすることでもない。音を選び、その音が引き出す言葉を待ち、三人の声が同じ曲に残る順序を決めることだった。

「契」は、ビートが文章の主語になった曲。「LIFE STASH」は、言葉を誰へ残すかが変わった曲。「FLOATIN’」は、書き方と声を新しい制作相手へ接続した曲。『GODBREATH BUDDHACESS』は、その方法を一枚の選曲へ広げた作品である。

2026年、本人はヒップホップを文学として語った。同じ年、長く三人で活動したG PLANTSは離脱を明かした。いま必要なのは、過去の3MC像を固定して安心することでも、すぐに解散物語を作ることでもない。BADSAIKUSHが次に、どのビートを選び、誰の声と、どんな言葉を残すのかを、発表された作品から判断することである。

一行でまとめるなら、BADSAIKUSHは、ビートを背景ではなく文章の起点に変え、その選択を舐達麻の音へ広げたラッパーだ。

HIPHOPCsで続けて読む

主要参照と更新方針

本人発言、公式配信クレジット、レーベル/ブランドの公式ページ、独立報道を分け、主張の直後に置いた。以下は記事全体の骨格を支える資料である。

最終事実確認は2026年8月25日。生年月日と本名は基本プロフィールへ入れず、逮捕報道に現れる個人情報を作品理解の中心にしない。2009年、2017年、2022年は根拠と法的段階を分離した。舐達麻は歴史的な3MC活動と現在の未発表状態を分け、G PLANTS離脱後の編成、解散、サードアルバムの発売詳細が正式発表された時点で更新する。

コメントを残す