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¥ellow Bucksとは何者か──東京を目的地にしなかった「ヤングトウカイテイオー」

Japanese Rap News24 min read

¥ellow Bucks(イエローバックス)は、1996年に岐阜県高山市で生まれ、名古屋・東海を拠点に活動してきたラッパーだ。

16歳でラップを始め、19歳で単身渡米。2019年に『ラップスタア誕生!』シーズン3で優勝し、全国へ名前を広げた。2026年には4thアルバム『Wataru』を発表した。公式が「キャリア14年目」と告知した年に、初の東京ワンマンも開いている。(公式プロフィール公式公演告知)

ここまでなら、地方から全国へ上がった成功譚に見える。

ただし、彼が実際に選んだ順番は少し違う。大規模な初ワンマンは愛知。次に故郷の飛騨高山へ戻り、そのあと東京のアリーナへ進んだ。(SPICE)

東京公演の最後にも、高山、岐阜、日本という出発点を言葉にしている。(Rolling Stone Japan東京公演レポート)

¥ellow Bucksは、東京へ移ることを成功の物語にしなかった。自分の名前を先に全国へ運び、その先で東京を一つの会場として選んだ。

そして現在は、「東海の王」を名乗る側から、世代の違う東海のラッパーへマイクを渡す側へ回っている。

このページでは、その変化を楽曲、作品、ライブ、本人の発言から追う。

30秒でわかるプロフィール

項目 内容
名義 ¥ellow Bucks(イエローバックス)
本名 坂口和(さかぐち・わたる)
生年月日 1996年8月5日
出身 岐阜県高山市(飛騨高山)
活動圏 名古屋・東海を軸に全国へ展開
活動開始 16歳。Young Bustaで活動後、¥ellow Bucksへ改名(構成人数は公開資料間に相違)
主な異名 ヤングトウカイテイオー/Young Tokai Teio
主な作品 『Jungle』『Ride 4 Life』『Jungle 2』『Wataru』
2026年の企画 『¥ellow Bucks Presents: Player’s Tuesday』/Garage Cypher
公式 公式サイトApple Music

生年月日はApple Music米国版、1996年生まれと出身地は現行の公式プロフィールで照合した。(Apple Music公式プロフィール)

本名は、公式『Wataru』の「Wataru Sakaguchi」表記と、愛知県警発表を伝えたORICON NEWSの「坂口和」を照合している。(公式『Wataru』告知ORICON NEWS)

先に結論──「東海」は出身欄ではなく、活動の設計図になった

飛騨高山はラップを始めた場所。東海は先達の音楽と制作仲間に出会い、自分の看板を作った範囲。『ラップスタア誕生!』は、その看板を全国へ持ち出した場だった。「出身」「優勝」「異名」を別々の経歴として読むと、この接続が見えなくなる。

2022年のAichi Sky Expo、2024年の飛騨凱旋、2026年のTOYOTA ARENA TOKYO。会場が大きくなっても、出発地を消して東京仕様へ作り替えるのではなく、東海から来た人物として入っていく。

2026年の『Player’s Tuesday』では、名古屋のガレージへラッパーを集め、その名前を作品に残した。「ヤングトウカイテイオー」は自己紹介から、誰を同じ部屋へ呼ぶかまで含む役割へ変わりつつある。

飛騨高山に「何もなかった」わけではない

地方出身の物語は、ときどき「音楽のない町から一人で脱出した」と単純化される。

本人の記憶はそうではない。

2024年のLIFTED取材で、¥ellow Bucksは高山にもラッパーやDJがいて、ヒップホップに関わる人が多い高校を選んだと話している。そこでスタジオを紹介され、16歳でラップを始めた。本人はYoung Bustaを「4MC」と回想したが、TuneCore Japanと音楽ナタリーの現行プロフィールは「3MC」と記す。公開資料が食い違うため、本稿はグループ名と16歳での活動開始だけを確定し、構成人数は固定しない。(LIFTED本人インタビューTuneCore Japan音楽ナタリー)

最初に作った曲は「Break On Busta Heart」。本人によれば、恐れや不安を壊すという発想から名づけた曲だった。

後年のアリーナや国外客演と比べれば、小さな始まりだ。しかし、¥ellow Bucksの地理を読むうえでは欠かせない。

高山は「離れるべき田舎」だけではなかった。最初の仲間と録音場所を得た土地だったから、全国で知られたあとにも戻る理由が残った。

19歳の単身渡米も、東京を経由して業界へ入る動きとは違う。現行公式プロフィールは、グループ解散後に¥ellow Bucksへ改名し、その後一人で米国へ渡った流れを記している。(公式プロフィール)

出発地を捨てるより、外へ出て戻る。その往復が、後のキャリアにも繰り返される。

「ヤングトウカイテイオー」は名刺であり、公開した企画書だった

2019年のEP『To The Top』には「ヤングトウカイテイオー」が収録されている。4曲入りで、配信日は4月24日。(Apple Music)

本人はABEMAのリリック取材で、この曲を自分の「挨拶」や名刺にあたる曲として振り返った。歌詞の背景を説明するなかで、AK-69、M.O.S.A.D.、Phobia Of Thug、DJ RYOW、TOKONA-Xら東海の先達を挙げている。(ABEMA TIMES本人インタビュー)

日本語ラップへ入ったきっかけの一つは、2007年に聴いたAK-69「Ding Ding Dong」だったとも話した。

ここでTOKONA-Xとの関係を「正式な後継者」と書くのは行きすぎる。誰かが任命した称号だと示す一次資料は確認できないからだ。

確実に言えるのは、先達の名前がすでにある地域で、若い自分が次の中心になると公に宣言したこと。その宣言を、楽曲名と異名に固定したことだ。

HIPHOPCsの名古屋・東海Rap Atlasは、この継承を名古屋弁の模倣ではなく、東京へ吸収されず地域名を背負う姿勢の継承として整理している。

つまり「ヤングトウカイテイオー」は、過去の王へ似せるための衣装ではなかった。これから東海の中心として何をするかを、仕事より先に出した企画書だった。

『ラップスタア誕生!』優勝──勝利を作品とチームへ変えた

2019年1月30日放送の『ラップスタア誕生!』シーズン3最終回で、¥ellow Bucksは優勝した。翌31日のTV LIFEが最終結果と賞金を報じ、2020年のABEMA TIMES記事は、高山出身でPlayssonとの『CITY VIEW』を持つラッパーとして紹介している。放送日、報道日、後年の紹介記事を同じ日付として扱わない。(TV LIFEABEMA TIMES)

優勝は全国区への入口になった。ただし、優勝後の一手にも本人の作り方が出ている。

TV LIFEの決勝レポートは、優勝賞金300万円の授与を記録している。約2か月半後の4月11日には、同じシーズンのファイナリストだったJua、Joseph Blackwell、Flight-A、SANTAWORLDVIEWとの「Grow Up」を発表した。(Apple Music)

今回確認できた公開資料だけでは、賞金が同曲の制作費になったという因果までは確定しない。確認できるのは、個人戦の勝者が、その直後に競争相手との共同名義を作品として残したことだ。

番組の賞金と育成制度がその後どう変わったかは、HIPHOPCsの『ラップスタア誕生』賞金論で追っている。¥ellow Bucksの場合は、優勝後の勢いを共同曲、EP、制作チームへ立て続けに変えた。

優勝発表から約3か月後の4月24日には『To The Top』を発表し、5月には独立チームTo The Top Gangを始動した。(音楽ナタリー)

優勝をゴールにせず、作品と制作チームへすぐ変換する。この速度が、その後の継続を支えた。

TTTG──独立は肩書きではなく、制作を続けるための分業だった

To The Top Gang(TTTG)は2019年に始まった。

2024年のLIFTED取材で、本人はTTTGを完全にインディペンデントなチームと説明している。プロデューサーのTEE、バックDJのDJ SID、K-DOGら、制作と現場を分担する人がいた。(LIFTED本人インタビュー)

この体制を「セルフプロデュース」の一言に縮めると、周囲の仕事が消える。

¥ellow Bucksが担ったのはラップだけではない。看板と方向を決め、誰と作るかを選ぶこと。一方で、音源とステージは複数の専門家が支えた。独立とは一人で全部やることではなく、決定権を持つチームを自分たちで組むことだった。

TTTGは2025年4月末で解散した。ただし、発表は人間関係と制作まで一斉に終わるという内容ではない。解散時には、DJ SIDがバックDJを続け、TEEとも制作を続ける予定だと報じられた。(音楽ナタリー)

組織名を閉じても分業を残す方針が示された。ただし、方針とその後の実績は同じではない。この区別は、2026年の作品を「解散後の再出発」とだけ呼ばないために要る。

『Jungle』──二曲がアルバムの外まで走った

1stアルバム『Jungle』は2020年8月21日に出た。(Apple Music)

この時期の広がりは、「My Resort」と「Yessir」の数字に残っている。

Billboard JAPANの2020年12月の記事では、「My Resort」がHeatseekers Songsで11位、「Yessir」が18位。同じ集計時期のStreaming Songsでは、それぞれ65位と100位に入った。(Billboard JAPAN)

突出した週間1位ではない。それでも、アルバムの中から二つの曲名が外へ出て、番組優勝者という説明を必要としない入口ができた。

『Jungle』のデジタルアルバム最高位はオリコン39位。後の作品も含め、¥ellow Bucksのアルバムは上位を独占してきたわけではない。(オリコン・デジタルアルバムランキング)

この事実は弱点ではなく、人気の伸び方を正確にする。少なくともデジタルアルバムチャートの頂点から会場を埋めたのではない。曲、ライブ、客演、地域での看板を重ね、アルバム順位だけでは測れない規模へ進んだ。

逮捕と判決を年表から消さない。作品との因果も作らない

¥ellow Bucksの経歴には、活動や出演予定が止まる出来事がある。

2021年11月、大麻所持の疑いで逮捕され、同年12月に不起訴処分となった。(音楽ナタリー音楽ナタリー)

2023年2月にも大麻所持の疑いで逮捕された。これを受け、出演予定だったPOP YOURS 2023はキャンセルを発表した。(ORICON NEWSHOT STUFF公式発表)

同年5月11日、朝日新聞の公式Xアカウントは、大麻取締法違反について執行猶予付きの有罪判決が出たと報じた。現存する公式投稿には刑期の記載がないため、本稿も確認できない数字は補わない。(朝日新聞公式X)

逮捕と有罪判決は同じ段階ではない。2021年は不起訴、2023年は執行猶予付き有罪判決として分けて記録する。

同年6月、EP『Survive』を発表した。(音楽ナタリー)

題名から更生や克服の物語を作ることもできる。しかし、本人の一次説明なしに判決と作品内容を一本の因果へ結ぶべきではない。確認できるのは、逮捕、出演キャンセル、執行猶予付き有罪判決、そして音源発表という順番までだ。

三つの会場を、この順番で選んだ

¥ellow Bucksの現在地は、三つの単独公演を並べると分かりやすい。

2022年11月6日、Aichi Sky Expo。 『Ride 4 Life』リリースツアーのファイナルで、自身初のワンマンだった。最初の大規模な単独公演を、東京ではなく愛知に置いた。事前告知だけでなく、2026年の東京公演レポートもこの公演を初ワンマンとして振り返っている。(SPICERolling Stone Japan公演レポート)

2024年11月29日、飛騨高山。 本人はこの凱旋公演を約1年半かけて準備したと話している。地元へ戻ることを後退ではなく、前進を見せる機会として捉えていた。後年の公演レポートでも、HIDA EARTH WISDOM CENTERで凱旋公演を実現した経歴として確認できる。(Rolling Stone Japan本人インタビュー同誌公演レポート)

2026年4月10日、TOYOTA ARENA TOKYO。 公式が「キャリア14年目」と位置づけた、初の東京ワンマンだった。(公式公演告知)

34曲を披露し、「Miss Luxury」では¥ellow Bucks本人とLANA、YZERR、JP THE WAVYの4人が初めて同じステージに揃った。(Rolling Stone Japan公演レポート)

東京公演の終盤、本人は「高山、岐阜、日本」と出自を口にし、「Where I’m From」へ入った。

だから本稿は、東京を「上京の完成」と呼ばない。¥ellow Bucksにとって東京は、キャリアを始める入口ではなく、東海から積み上げたものを持ち込む会場だった、と読む。

ONDO──飛騨への凱旋を、一夜の公演で終わらせない

飛騨との関係は、2024年11月29日の凱旋公演だけではない。

Rolling Stone Japanの取材で、¥ellow Bucksは、かつて地元で歌っていたクラブが使えなくなり、もう一度そうした場所を作りたいと考えた経緯を話している。

友人と物件を探し、飛騨高山の古い町並みに「ONDO」を開いた。取材時点では、友人が中心に運営し、カフェと酒を出す場に加え、蔵をレコードバーなどへ活用する構想があった。(Rolling Stone Japan本人インタビュー)

本人が口にした課題は、観光客の多さとは裏腹に、地域外の事業者が仕切り、地元へ収入が残りにくいことだった。地元の人が運営し、働き、音楽も置ける場所を作る。ライブの「凱旋」より時間のかかる仕事だ。

2026年の地域メディアは、ONDOを築150年の町家を改装した食とカルチャーの複合空間として紹介し、ライブやトークイベントも開かれると記している。少なくとも、取材時の構想だけで消えた場所ではない。(BLESS mag.)

高山で場所を残すONDOと、名古屋で人を集めるPlayer’s Tuesday。規模も運営主体も同じではないが、どちらも公演が終わった翌日にも地域に残る。

中堅期──削るラップ、先達との共作、本名のアルバム

『Jungle 2』──増やすより引く

2024年9月の『Jungle 2』は、1stアルバムから4年後の続編だった。

本人はRolling Stone Japanの取材で、『Ride 4 Life』から『Jungle 2』までの間に苦しい時期や逮捕があり、自分がやるべきことへ焦点を合わせたと振り返る。

また、若手から中堅、ヘッドライナー側へ立場が変わったことを認識し、ラップでは足すより削る方向を語った。(Rolling Stone Japan本人インタビュー)

これは技術が簡単になったという話ではない。

若手の時期は、何者かを示すために言葉を重ねる。名前が知られた後は、少ない言葉でも本人だと分からせる必要がある。本人が言う「無駄のないラップ」は、知名度へ甘える省略ではなく、署名だけを残す編集だった。

同作にはCarz、eyden、Kaneeeらが参加した。本人はこの起用に、若い世代を押し上げる意図もあったと説明している。(LIFTED本人インタビュー)

「王」を名乗る仕事が、前へ出ることだけではなくなる。『Jungle 2』は、その変化が作品の客演欄へ出始めたアルバムだった。

AK¥B──先達との共演を「世代交代」で終わらせなかった

2024年2月、AK-69と¥ellow Bucksは、二人の企画を示す呼称として「AK¥B」を掲げ、7曲入りEP『Flying To The Top』を発表した。配信上のアーティスト表記は「AK-69 & ¥ellow Bucks」。全曲を東海勢で制作した作品と公式に説明されている。(AK-69公式配信ページ)

同月24日には日本ガイシホールで合同公演を開催し、映像作品も同年6月に発売された。(AK-69公式)

この共演を「AK-69から¥ellow Bucksへの王座継承」とだけ読むと、二人が同時に作った意味が薄くなる。

AK-69は、¥ellow Bucksが日本語ラップへ入ったきっかけとして名前を挙げる先達だ。その本人と後輩が、七曲と一公演を共同名義で作った。競争の決着ではなく、東海という看板が一世代では終わらないことを、制作物で示した。

先達の名を曲中で挙げた「ヤングトウカイテイオー」期から、先達と同じ名義で作品と会場を背負う段階へ進んだ、と言える。

『Wataru』──地域名を捨てず、本名と「日本」まで広げた

4thアルバム『Wataru』は2026年1月21日発表、全13曲。

公式説明では、題名に三つの意味が重ねられている。本人の名前「和」、日本的な調和を示す「和」、そして境界を越えていく「渡る」だ。

YG、Fabolous、LANA、Candee、eyden、Watson、Yvng Patra、CFN Malikらが参加し、Wataru “¥ellow Bucks” Sakaguchi自身がエグゼクティブプロデューサーを務めた。(公式『Wataru』告知)

本人は、日本の顔となり、日本文化とヒップホップを混ぜて世界で競いたいという趣旨を語っている。

公式説明が示すのは、東海との決別ではなく、名古屋を含む現在地から日本の顔を目指し、世界へ渡る方向だ。地域名で確立した輪郭を残したまま、本名、日本、国外という順に意味の範囲を広げた。

LIFTEDの2026年取材では、「Who I Am」について、声が入る前のビートだけでも自分だと分かる曲を目指したと説明している。「Moshimo」はアルバムで最も個人的な曲だと答えた。(LIFTED本人インタビュー)

異名を大きく掲げた2019年から七年。本名を題にした作品で問うたのは、名前を増やした先に何が残るかだった。

チャートだけで測ると、成長を取り違える

オリコンのデジタルアルバム記録では、『Jungle』39位、『Ride 4 Life』26位、『Survive』30位、『Jungle 2』25位、『Wataru』41位。いずれもトップ10作品ではない。(オリコン)

順位だけを並べれば、2020年から2026年のあいだに急上昇したとは言いにくい。

一方で、本人が担う役割は増えた。

  • 番組の優勝者から、アルバムを継続して出す独立アーティストへ
  • Aichi Sky Expoの初ワンマンから、飛騨凱旋と東京アリーナへ
  • AK-69ら先達を曲中で挙げる側から、共同名義で作品と公演を作る側へ
  • 若手を客演に呼ぶ側から、地域のコンピレーションを編む側へ

順位は一週間の購入を測る。上の四つは、制作を続けた年数、会場、共同制作、地域で引き受けた役割を測っている。

¥ellow Bucksの成長を大きく見せるために、チャートを盛る必要はない。むしろ控えめな順位と拡張した活動を一緒に置く方が、何を積み上げた人なのかが正確になる。

Player’s Tuesday──王を名乗った人が、マイクを並べる側へ回った

2026年5月13日、¥ellow Bucksは12曲入りのコンピレーション『¥ellow Bucks Presents: Player’s Tuesday』を発表した。

題名は、名古屋にある本人のガレージ兼スタジオへ、毎週火曜に仲間が集まっていたことに由来する。(LIFTED)

15人の若いラッパーと本人が参加。全12曲をDJ RYOWとSPACE DUST CLUBがプロデュースし、1、5、10、12曲目はUPNORTHとの共同制作である。(公式発表)

「Garage Cypher」には本人を含む16人のMCが入った。客演を一人ずつ招いたアルバムではなく、普段集まる場所そのものを音源の形式へ変えた作品だ。

ここで、2019年の宣言が反転する。

「ヤングトウカイテイオー」は、自分が東海の中心へ立つという曲だった。『Player’s Tuesday』では、中心に立った人が、自分の周りへ15本のマイクを置いた。

人を育てた、成功させた、とまではまだ言えない。2026年8月28日の基準日時点で発表から約3か月半であり、その結果を測るには早い。

それでも、若手の名前を自分のアルバムの客演欄へ添えるだけでなく、企画名に「Presents」を掲げ、同じ部屋の記録として一作にした。王という自己像が、席を独占する意味から、席を作る責任へ移ったことは読み取れる。

Garage Cypher 3──若手の部屋へ、今度は東海の先達を呼んだ

『Player’s Tuesday』で終わらなかった点が、この企画を一度きりの若手紹介から分ける。

2026年7月15日に配信された「Garage Cypher 3」には、Playsson、SOCKS、G.CUE、C.O.S.A.、YUKSTA-ILL、Mr.OZ、TWO-J、呂布カルマ、“E”qualらが参加した。映像は同じガレージで一発撮りされたと報じられている。(音楽ナタリー)

最初の「Garage Cypher」が若い世代を横に並べたとすれば、第3弾は東海の先達と同世代を同じ場所へ呼び戻した。

このガレージは、単なる私設スタジオではなくなっている。年齢もキャリアも違うラッパーが、同じカメラとマイクの前に立てる小さな地域インフラになり始めた。

7月15日には「Ma Boyz (Remix)」も公開され、7月17日には「Slide Up (WYFL Freestyle)」が続いた。本稿の情報基準日である2026年8月28日時点の公式サイトで、これらが最新リリースとして並んでいる。(公式サイト)

¥ellow Bucksの現在地は、東京アリーナだけでは測れない。大きな会場へ行った三か月後にも、名古屋のガレージへ戻って録っている。その往復にこそ、彼が東京を目的地にしなかった意味がある。

次の予定──Zepp四都市公演も、東京から始まらない

ABEMA TIMESが「自身初の全国Zeppツアー」と報じた四都市公演は、4月10日の東京ワンマン終演時に予告された。8月に日程とチケット情報が公開され、販売が始まった。日程は12月6日のZepp Osaka Bayside、11日のZepp Nagoya、13日のZepp Fukuoka、19日のZepp Haneda。大阪、名古屋、福岡を通り、最後に東京へ入る。(Rolling Stone Japan公式案内ABEMA TIMES)

これは本稿の基準日時点では将来の予定であり、開催実績ではない。ABEMA TIMESは正式なツアータイトルやコンセプトを今後明らかにすると報じているため、本稿も確定した会場と日程だけを記録する。

それでも、公演の順番はこの記事の主題と接続する。東京を避けるのではなく、東京だけを到達点にしない。Zepp四都市公演も、複数の地域を通る経路として設計されている。

客演を「豪華リスト」にしない──三つの方向がある

¥ellow Bucksの共演者を名前だけ並べると、YG、Fabolous、AK-69、JP THE WAVY、YZERR、LANA、Watson、C.O.S.A.らが同じ一列に入る。

実際には、役割の違う三つの方向がある。

東海の過去へ向く線。 AK-69、DJ RYOW、“E”qual、Mr.OZ、TWO-Jら。影響を受けた先達と、後年に共同制作する関係だ。AK¥Bと「Garage Cypher 3」がこの線をはっきり見せる。

現在の国内シーンを横断する線。 JP THE WAVY、YZERR、LANA、Watson、C.O.S.A.ら。アルバムとライブの規模を全国へ広げる同時代の接続である。

次の世代へ向く線。 Carz、eyden、Kaneee、Yvng Patra、CFN Malik、そして『Player’s Tuesday』に入った若い東海のMCたち。本人が客演先へ入るだけでなく、自分の企画へ場所を用意する線だ。

三方向を重ねると、¥ellow Bucksの位置が分かる。先達から名前と現場を受け取り、同世代と全国規模の作品を作り、次の世代へ録音場所と公開の機会を渡す。地域の中心とは、人気順の一位というより、この三つをつなぐ結節点を指す。

最初に聴く6曲──名義が役割へ変わる順番で

  • 「ヤングトウカイテイオー」:最初の名刺。東海の先達を踏まえ、自分が次へ進むという宣言を聴く。
  • 「Trust In Bucks」:『ラップスタア誕生!』期の勝負曲。地方名を消さず、全国の競技へ持ち込んだ入口になる。
  • 「My Resort」:『Jungle』から曲単位で広がった代表例。気負いすぎない声とメロディの置き方が分かる。
  • 「GIOTF feat. JP THE WAVY」:『Ride 4 Life』期。東海の看板を保ったまま、同世代の全国的な接続へ進んだ曲。
  • 「Who I Am」:『Wataru』の中心。異名を増やすのではなく、声が入る前から本人と分かる音を目指した段階を聴く。
  • 「Garage Cypher」:一人の代表曲ではなく、16人が並ぶ曲。¥ellow Bucksの変化を、本人のヴァースより参加者の数と配置が語る。

順番に聴くと、「王」を名乗った若手が全国で自分の声を確立し、2026年には他人の声を並べる側へ移ったことが分かる。

ヒット曲集として聴くより、名義が役割へ変わる六曲として聴く方が、このキャリアには合っている。

年表──2012年から2026年8月まで

  • 2012年ごろ:16歳でラップを始め、Young Bustaで活動。構成人数は公開資料間に3MC/4MCの相違がある。(LIFTEDTuneCore Japan)
  • グループ解散後:¥ellow Bucksへ改名。19歳で単身渡米する。(公式プロフィール)
  • 2018年:PlayssonとのEP『CITY VIEW』を発表。(ABEMA TIMES)
  • 2019年1月30日:『ラップスタア誕生!』シーズン3最終回が放送され、優勝。TV LIFEは翌31日に結果を報じた。(TV LIFE)
  • 2019年4月24日:4曲入りEP『To The Top』を発表。(Apple Music)
  • 2019年5月:To The Top Gangを始動。(音楽ナタリー)
  • 2020年8月21日:1stアルバム『Jungle』を発表。「My Resort」「Yessir」がBillboard JAPANの複数チャートに入る。(Apple MusicBillboard JAPAN)
  • 2021年11〜12月:大麻所持の疑いで逮捕され、その後不起訴。(音楽ナタリー音楽ナタリー)
  • 2022年7月7日:2ndアルバム『Ride 4 Life』を配信。(Apple Music)
  • 2022年11月6日:Aichi Sky Expoで初ワンマン。『Ride 4 Life』リリースツアーのファイナル。(SPICE)
  • 2023年2月:大麻所持の疑いで逮捕。POP YOURS 2023への出演がキャンセルされる。(ORICON NEWS主催者発表)
  • 2023年5月11日:朝日新聞の公式Xが、大麻取締法違反で執行猶予付き有罪判決と報道。(朝日新聞公式X)
  • 2023年6月7日:EP『Survive』を発表。(音楽ナタリー)
  • 2024年2月9日:AK-69 & ¥ellow Bucks名義で『Flying To The Top』を発表。二人の企画は「AK¥B」と掲げられ、同月24日に日本ガイシホールで合同公演を行う。(AK-69公式)
  • 2024年9月13日:3rdアルバム『Jungle 2』を発表。(Apple Music)
  • 2024年:飛騨高山に複合空間ONDOを開く。11月29日に同地で凱旋公演。開業日は本稿では固定しない。(Rolling Stone JapanBLESS mag.)
  • 2025年4月末:To The Top Gangが解散。DJ SID、TEEとの関係は継続予定と発表された。(音楽ナタリー)
  • 2025年5月24日:2023年の出演キャンセルを経て、POP YOURS 2025のDAY 1ヘッドライナーを務める。(音楽ナタリー)
  • 2026年1月21日:4thアルバム『Wataru』を発表。(公式発表)
  • 2026年4月10日:TOYOTA ARENA TOKYOでキャリア初の東京ワンマン「Who I Am」を開催。終演時に12月のZeppツアーを予告する。(公式発表Rolling Stone Japan)
  • 2026年5月13日:12曲入り『¥ellow Bucks Presents: Player’s Tuesday』を発表。(公式発表)
  • 2026年7月15日:「Garage Cypher 3」「Ma Boyz (Remix)」を配信。(公式サイト音楽ナタリー)
  • 2026年7月17日:「Slide Up (WYFL Freestyle)」を配信。(公式サイト)
  • 2026年8月:4月に予告したZepp四都市公演の日程とチケット情報を公開。ABEMA TIMESは「自身初の全国Zeppツアー」と報道。12月6日大阪、11日名古屋、13日福岡、19日東京での開催を予定する。(公式案内ABEMA TIMES)

よくある質問

¥ellow Bucksはどこの出身?

岐阜県高山市、飛騨高山の出身。名古屋・東海を軸に活動し、自ら「ヤングトウカイテイオー」と名乗ってきた。

¥ellow Bucksは何歳?

1996年8月5日生まれ。2026年8月28日時点で30歳。

『ラップスタア誕生!』ではいつ優勝した?

2019年1月30日放送のシーズン3最終回で優勝した。結果を伝えるTV LIFE記事は翌31日公開。その約3か月後にEP『To The Top』を発表し、5月にTo The Top Gangを始動した。

「ヤングトウカイテイオー」はTOKONA-Xの後継者という意味?

本人が東海の先達を踏まえて掲げた異名だが、誰かが任命した正式な後継称号ではない。本稿では、地域を背負って次の中心へ進むという自己宣言として扱った。

To The Top Gangは現在も活動している?

TTTGは2025年4月末で解散した。ただし、解散時の発表ではDJ SIDがバックDJを続け、TEEもビートメイカーとして共同制作を続ける予定とされた。予定と、その後の個別公演への出演実績は分けて扱う。

最新作は?

アルバムは2026年1月21日の『Wataru』。企画作品は5月13日の『¥ellow Bucks Presents: Player’s Tuesday』。本稿の基準日である2026年8月28日時点の公式サイトでは、7月17日の「Slide Up (WYFL Freestyle)」が最新リリースとして掲載されている。次の公演企画として、12月の初全国Zeppツアーが発表済みだ。

HIPHOPCsで次に読む──東海、ラップスタア、その先へ

主要参照

検証範囲には境界を置いた。Young Bustaの構成人数は、本人取材の4MCと後年プロフィールの3MCが一致しないため固定しない。TOKONA-Xからの正式な継承、東京での居住歴、現存する朝日新聞公式投稿にない判決の刑期、ONDOの厳密な開業日、若手企画の将来成果も断定しない。チャート順位とライブ規模は別の指標として扱い、12月のZepp四公演は開催済みの実績ではなく予定として記した。

最終事実確認:2026年8月28日。 公式プロフィール、最新リリース、Zepp四公演の開催予定、本文中の主要な日付・役割・法的表現を同日に再確認した。

アイキャッチ:HIPHOPCs制作のオリジナル・テンプレートカード。外部素材不使用。

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