JP THE WAVYとは何者か──踊れるラップを、映像・共同制作・美術まで運んだ人
JP THE WAVYのラップは、耳だけで完結しない。フックを聴けば身体が先に動き、ミュージックビデオのポーズが曲の記憶になり、客演が入ると別の声の動き方まで変わる。映画のサウンドトラックでは物語の速度へ入り、村上隆とのMNNK Bro.では音源を美術館、レコード、カード、映像へ運んだ。
その起点にはダンスがある。本人は、ダンサーとして活動していた頃に「自分でラップをしたらもっと踊りやすい曲を作れる」と考えたと話している。JP THE WAVYは踊れる曲を作っただけではない。ラップが届く場所を、画面、共同制作、映画、現代美術まで広げた。本稿はこの一本の軸から、作品と人物関係を読み直す。
30秒でわかるJP THE WAVYプロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名義 | JP THE WAVY |
| 出身 | 神奈川県湘南出身 |
| 役割 | ラッパー。ダンサーとしての経験を持つ |
| 転機 | 2017年「Cho Wavy De Gomenne」とSALU参加のRemix |
| 主要作 | 『LIFE IS WAVY』『WAVY TAPE 2』『Hit Different』『WAVY TAPE 3』 |
| 主な共同制作 | JIGG、Spikey John、LEX、Awich、OZworld、LANA、MNNK Bro. |
| 映画との接点 | 『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』サウンドトラック、「F&F」日本版イメージソング |
| 美術との接点 | 村上隆とのMNNK Bro.、「Mononoke Kyoto」「SHUTOKO TOKYO」 |
| ソロ主名義の最新確認作 | 『WAVY TAPE 3』(2025年7月1日) |
| 共同名義の最新確認作 | MNNK Bro.「SHUTOKO TOKYO」(2026年5月22日)。客演参加作は別に扱う |
先に結論──JP THE WAVYは「踊れる」を、音楽の外まで運んだ
「踊れるラップ」は、テンポが速い曲という意味ではない。言葉の区切り、声の抑揚、身体で真似できる合図、服と色、カメラの動きまでが同じタイミングで届く状態である。JP THE WAVYは、曲と振付と映像を別工程にしなかった。
その方法は規模が大きくなっても変わらない。『LIFE IS WAVY』では異なる国と世代の声を一枚に置き、『ワイルド・スピード』では映画が要求する速度へラップを合わせ、MNNK Bro.では音を展示の記憶へ変えた。中心にあるのは「海外進出」という曖昧な肩書きではなく、相手の形式に入っても身体性を失わない共同制作である。
ダンサーからラッパーへ──曲を聴く前に、身体で理解する
J-WAVEの本人インタビューで、JP THE WAVYは中学生頃からダンスを続け、センターに立ちたい気持ちと、自分ならもっと踊りやすい曲を作れるという発想からラップへ進んだと説明している。名前の「WAVY」も、当時のスラング、髪、湘南の波を重ねたものだと本人が話している。
この来歴は、プロフィール欄の前職ではない。フロウを意味だけで組まず、どこで肩が動き、どこで口が追いつき、どの短い言葉が合図になるかを考える基礎になった。JP THE WAVYの曲が映像と一緒に広がるのは、後から宣伝映像を付けたからではなく、最初から身体の動きを含んでいるからだ。
「Cho Wavy De Gomenne」──曲、振付、服、カメラが一度に届いた
2017年5月17日、本人の公式YouTubeで「Cho Wavy De Gomenne」のMVが公開された。6月にはSALUを迎えたRemixの公式MVが続いた。監督はSpikey John。再生数だけを成功理由にすると、この二本が起こした変化を見落とす。
フックは短く、身振りは真似でき、服装と画角は一目で識別できる。視聴者は「曲を聴いた後で踊る」のではなく、曲を知る行為と動きを覚える行為を同時に経験した。GQのSpikey John取材でも、このMVが二人にとって大きな転機だったことが語られている。ヒットは一人の設計ではなく、ラッパーと映像作家の若い共同制作が同時に届いた結果だった。
『LIFE IS WAVY』──一曲の動きを、18曲の世界へ広げる
2020年4月8日、初のフルアルバム『LIFE IS WAVY』を発表した。Apple Musicの作品ページでは18曲、49分という構成と、VERBAL、AKLO、OZworld、JIGG、Jay Park、Nasty Cら国内外の参加者を確認できる。
ここでの拡張は、客演国籍の多さを競うことではない。「BLIND」のメロウな動き、「CHOTANOSHI」の跳ね、「OK, COOL」の硬い輪郭のように、曲ごとに身体の速度を変える。アルバム名は人生そのものをWAVYと捉える宣言だが、実際の作品では同じフロウを18回反復せず、相手とトラックに応じて重心を動かした。
ジャケットやキャラクターの設計も作品の外装ではない。block.fmの本人取材では、VERDYへイメージを伝え、キャラクター化を依頼した制作過程が語られている。声、服、キャラクター、画面を同じ世界の入口にする発想が、フルアルバムで初めて長い形式になった。
『WAVY TAPE 2』とLEX──客演を飾りではなく、身体の違いとして置く
2021年3月31日発売の『WAVY TAPE 2』では、「WAVEBODY」にOZworldとLEXを迎え、Deluxeではさらに¥ellow Bucksが加わった。四人は同じ声へ揃わない。音節の置き方、声の高さ、前へ出る速度が異なるからこそ、同じ曲の中で身体が入れ替わる。
GQのJP THE WAVY×LEX対談は、音楽とファッションを別の話題として扱っていない。JP THE WAVYにとって、相手の服や見え方を考えることも共同制作の一部である。HIPHOPCsのLEXアーティストハブと読み比べると、声を固定しないLEXと、複数の声を画面の中で動かすJP THE WAVYの違いが見える。
映画へ入る──「BUSHIDO」と「F&F」は同じ仕事ではない
2021年、Good Gas & JP THE WAVY「BUSHIDO」は『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のオリジナル・サウンドトラックに収録された。映画公式は、同サウンドトラックでアジアから唯一の参加だったことと、収録曲一覧を示している。
2023年の「F&F (Family & Friends) feat. Awich」は役割が違う。こちらは『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』の日本版イメージソングで、JIGGがプロデュースし、Awichが参加した。映画公式発表は、吹替版エンドロールで使われたことを記している。
サウンドトラックへの収録と日本版イメージソングを混同してはいけない。共通するのは、車と速度の映画世界に、自分のフロウと人間関係を持ち込んだことだ。Awichとの接点はAwichアーティストハブから、彼女自身の沖縄、アメリカ、家族という別の軸へつながる。
JIGGとの『Hit Different』──共同名義で六曲の温度を統一する
2023年5月24日、JP THE WAVYとJIGGは6曲入りEP『Hit Different』を発表した。日付と共同名義はApple Musicで確認できる。TuneCoreの公式クレジットでは、6曲すべてでJIGGが作曲者の一人として記載されている。
「What’s Poppin feat. LANA」は、LANAの高い声をJP THE WAVYの横へ置き、同じフックの中で軽さと強さを往復させる。客演の名前を借りるのではなく、プロデューサーを固定することで六曲の床を揃え、その上で声の差を見せた。LANAをめぐるジャンルの境界は、HIPHOPCsの「LANAはなぜラッパーかどうかを問われ続けるのか」でも検証している。
MNNK Bro.──音源を、美術館で過ごした時間へ変える
2024年7月10日、村上隆とJP THE WAVYによるMNNK Bro.が「Mononoke Kyoto」を配信した。カイカイキキ公式によれば、曲は「村上隆 もののけ 京都」のテーマソングをJP THE WAVYが担当したことから生まれ、村上隆自身も作詞とレコーディングへ参加した。Spikey Johnが監督したMVは展示会場や京都の場所で撮影され、公式告知は、レコードにNiinaによる「Spoken Lyrics」が収録されることも記している。
ここでは音楽が美術の広告になったのでも、美術家がラッパーのジャケットを描いただけでもない。展示を歩いた記憶、映像、音源、レコード、カードが一つの入口を共有する。2026年5月22日の「SHUTOKO TOKYO」も、公式配信ページでMNNK Bro.の作品として確認できる。JP THE WAVYの身体性は、踊りから都市の見え方まで範囲を広げた。
『WAVY TAPE 3』──美術へ行った後、ラップの共同体へ戻る
2025年7月1日、『WAVY TAPE 3』を発表した。TuneCoreの公式配信ページは、10曲の作品とAwich、LEX、Sik-K、Benjazzy、Kaneeeらの参加を記録している。
MNNK Bro.で美術へ移ったから、ラップから離れたわけではない。『WAVY TAPE 3』は、自分が長く作ってきた客演の場へ戻り、現在の声を並べ直した作品である。外へ広がることと、ホームへ戻ることを対立させない。その往復こそ「WAVY」という名義の実践になっている。
作品で見る方法の変化
| 作品 | 何を動かしたか | 聴く/見る点 |
|---|---|---|
| 「Cho Wavy De Gomenne」 | 曲と振付 | フック、身振り、画角が同時に記憶される |
| 『LIFE IS WAVY』 | 一曲の身体性をアルバムへ | 18曲で重心と客演の置き方を変える |
| 「WAVEBODY」 | 異なる声の身体 | OZworld、LEX、¥ellow Bucksとの速度差 |
| 「BUSHIDO」 | 映画の速度 | 国際サウンドトラックの中で役割を持つ |
| 『Hit Different』 | 共同名義での統一 | 共同制作の床の上で客演がどう変わるか |
| 「F&F」 | 映画と日本版の観客 | Awichとの声を「ファミリー」の主題へ置く |
| 「Mononoke Kyoto」 | 展示の記憶 | 音、映像、場所、物販が一つの世界になる |
| 『WAVY TAPE 3』 | 現在のラップ共同体 | 外へ広げた後に、誰とホームを作るか |
| 「SHUTOKO TOKYO」 | 都市の移動と視覚 | MNNK Bro.が首都高の速度と景観をどう作品へ変えたか |
関係者地図──人脈の多さではなく、何を一緒に動かしたか
| 人物/組織 | 関係 | 役割 |
|---|---|---|
| Spikey John | 映像作家 | 初期のMVから、身体と画面を同時に届かせた |
| JIGG | プロデューサー | 『Hit Different』や「F&F」で曲の床を設計した |
| LEX | 複数作で共演 | 声と世代の違いを、同じ映像空間へ置いた |
| OZworld | 「WAVEBODY」などで共演 | 神奈川とは異なる地域と声の回路を作る |
| Awich | 「F&F」ほかで共演 | 映画の主題を、二人の声と経験へ変えた |
| LANA | 「What’s Poppin」に参加 | EPの中へ別の声域と世代を入れた |
| 村上隆 | MNNK Bro. | 音楽、美術館、記録物を共同制作へ変えた |
最初に聴く9作──「WAVY」が広がる順番で
- 「Cho Wavy De Gomenne」→SALU Remix:同じ核が、客演と映像でどう大きくなるか。
- 『LIFE IS WAVY』:一曲の印象ではなく、18曲の身体の変化を聴く。
- 「WAVEBODY」:声質の違うラッパーが同じ動きを共有する。
- 「BUSHIDO」:映画サウンドトラックの中での速度を確認する。
- 『Hit Different』:JIGGとの六曲で、統一と差を聴く。
- 「F&F feat. Awich」:映画の依頼を、人間関係の曲へ変える。
- 「Mononoke Kyoto」:曲が展示、映像、物へ広がる。
- 『WAVY TAPE 3』:2025年の共同体へ戻り、現在地を確かめる。
- MNNK Bro.「SHUTOKO TOKYO」:身体性が踊りから都市の速度と視覚へ広がる現在地を見る。
年表──音源と、音源が届く場所を一緒に見る
| 年 | 出来事 | 本稿での意味 |
|---|---|---|
| 2017年5〜6月 | 「Cho Wavy De Gomenne」とSALU RemixのMV公開 | 音、振付、服、映像が同時に届く |
| 2020年4月8日 | 『LIFE IS WAVY』発表 | 18曲へ世界設計を広げる |
| 2021 | 『WAVY TAPE 2』、「BUSHIDO」、GQ MEN OF THE YEAR 2021 ベスト・ラップ・アーティスト賞 | 共同制作と映画へ可動域を広げる |
| 2023年5月24日 | JP THE WAVY & JIGG『Hit Different』発表 | JIGGとの共同名義で六曲をまとめる |
| 2023年6月23日 | 「F&F feat. Awich」発表 | 映画の日本版観客へ向けた別の役割を担う |
| 2024年7月10日 | MNNK Bro.「Mononoke Kyoto」発表 | 現代美術と共同で展示の記憶を作る |
| 2025年7月1日 | 『WAVY TAPE 3』発表 | ラップの共同体へ戻り、現在の声を並べる |
| 2026年5月22日 | MNNK Bro.「SHUTOKO TOKYO」発表 | 都市の移動と視覚へ身体性を広げる |
資料上の重要な区別と、断定しなかったこと
- 出身地:公式・本人紹介で一致する神奈川県湘南出身までを記し、生年は本文で断定していない。
- 名義変更:初期名義の細かな年と所属期間は一次資料で固定せず、本人が説明したダンスからラップへの移行を中心にした。
- ヒット規模:再生数は変動するため評価の中心に置かず、公式公開日と制作関係を記した。
- 映画:「BUSHIDO」はF9のオリジナル・サウンドトラック収録、「F&F」は次作の日本版イメージソングと区別した。
- 海外評価:「世界を制した」「輸出の顔」と一般化せず、確認できる海外客演、映画、作品単位の接点だけを書いた。
- MNNK Bro.:村上隆をゲスト扱いせず、公式が示す共同ユニットと制作クレジットに沿った。
- アイキャッチ:HIPHOPCsが制作した、外部素材不使用のオリジナルカードを使用している。
よくある質問
JP THE WAVYは何者?
神奈川県湘南出身のラッパー。ダンサー経験を基礎に、曲、振付、映像、客演、映画、美術を横断する共同制作を続けている。
代表曲は?
最初の入口は「Cho Wavy De Gomenne」とSALU参加のRemix。人物像全体を見るなら『LIFE IS WAVY』、「WAVEBODY」、「F&F」、「Mononoke Kyoto」も続けて聴きたい。
なぜ「踊れるラップ」が重要?
本人がダンスからラップへ移る際、自分なら踊りやすい曲を作れると考えたからである。その発想がフロウだけでなくMVやライブの見え方まで一貫している。
「BUSHIDO」はワイルド・スピードの主題歌?
主題歌ではなく、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のオリジナル・サウンドトラック収録曲。「F&F」は次作『ファイヤーブースト』の日本版イメージソングで、役割が異なる。
MNNK Bro.とは?
村上隆とJP THE WAVYによる共同ユニット。「Mononoke Kyoto」は村上隆の京都個展のテーマソングを起点に生まれた。
『WAVY TAPE 3』はいつ出た?
2025年7月1日。Awich、LEX、Sik-K、Benjazzy、Kaneeeらが参加する10曲の作品である。
HIPHOPCsで次に読む
- 川崎・横浜のラッパー完全ガイド【Rap Atlas】──「神奈川」を一つの音にせず、湘南・横浜・川崎の違いから見る
- LEXとは何者か──「WAVEBODY」ほかで接続する、声を固定しない制作法
- Awichアーティストハブ──「F&F」で共演した人物を、沖縄と家族の軸から読む
- LANAはなぜ“ラッパーかどうか”を問われ続けるのか──「What’s Poppin」の客演をジャンル論へつなぐ
- 沖縄のラッパー完全ガイド【Rap Atlas】──OZworldとAwichの地域的な背景をたどる
- アーティストアーカイブ──人物別の記録へ戻る
資料と線引き
- 最終事実確認:2026年8月19日。
- 来歴:本人インタビューと公式プロフィールを優先し、二次資料だけにある細かな出生・初期所属情報は外した。
- 作品:本人公式YouTube、Apple Music、TuneCore、映画公式、カイカイキキ公式で発売日とクレジットを確認した。
- 本人発言:ダンスからラップへの移行と名義の由来はJ-WAVE取材を要約し、長い発言は転載していない。
- 編集部の解釈:「踊れるラップを、映像・共同制作・美術まで運んだ」は、作品と共同制作を横断したHIPHOPCsの評価である。
主要参照
- JP THE WAVY公式サイト
- J-WAVE:本人が語るダンス、名義、ブレイク前後
- 公式YouTube:「Cho Wavy De Gomenne」
- 公式YouTube:「Cho Wavy De Gomenne Remix feat. SALU」
- Apple Music:『LIFE IS WAVY』
- Apple Music:『WAVY TAPE 2』発売日・収録曲
- 映画『ワイルド・スピード』公式:「BUSHIDO」収録情報
- 映画『ワイルド・スピード』公式:「F&F」情報
- Apple Music:『Hit Different』
- カイカイキキ:MNNK Bro.「Mononoke Kyoto」
- GQ JAPAN:MEN OF THE YEAR 2021 ベスト・ラップ・アーティスト賞
- TuneCore:『WAVY TAPE 3』
- TuneCore:MNNK Bro.「SHUTOKO TOKYO」
JP THE WAVYをどう評価するか
JP THE WAVYの強みは、どこへ行っても同じスタイルを押し通すことではない。ダンスでは身体の合図を作り、Spikey JohnとのMVでは画面の記憶へ変え、JIGGとのEPでは六曲の床を揃え、映画では速度の物語へ入り、村上隆とのユニットでは展示の記憶を音にした。相手の形式に入るたび、自分の動き方を変えている。
それでも中心が消えないのは、ラップを耳だけのものにしないからだ。「Cho Wavy De Gomenne」で身体へ届いた方法は、美術館や都市の映像へ行っても残った。JP THE WAVYが広げたのは活動分野の数ではなく、踊れるラップが存在できる場所そのものだった。
アイキャッチ:HIPHOPCs制作のオリジナル・テンプレートカード。外部素材不使用。