$till.J.Cark「WORK」インタビュー「自分の人生を変えられるのは自分しかいない」
片道1時間の通勤、「手取り50万」に込めた価値観、赤と黄色で描く欲望と怠惰。働く日常から生まれた一曲を、本人の言葉でたどる。
片道約1時間の通勤中にリリックを書き、仕事をして、空いた時間に音楽を作る。韓国のオーディションに挑んだときも、$till.J.Carkの生活には、仕事と制作の日々が続いていた。
2026年9月23日にリリースされた「WORK」は、本人によれば『SHOW ME THE MONEY 12』の三次選考に落ちたあと、初めて制作した楽曲だ。悔しさとともに持ち帰ったのは、音楽を続けた先にある暮らしを、初めて現実のものとして感じられた経験だった。
歌詞に置いた「手取り50万」という目標には、自分の生活を保ち、その先に得たものを周囲やカルチャーへ返したいという考えがある。同時に彼は、欲望や怠惰、自分の中にある矛盾も言葉ににしていくスタイルだ。「寝ずに頑張る」という綺麗な話に収まるつもりはない。
KiDDと重ねた制作、仲間の名前に忍ばせた言葉遊び、MVに込めた赤と黄色の意味。そして、「凡人」だという自分が、それでも動き続ける理由。「WORK」の背景を、インタビューさせてもらった。
三次選考のあと、日本に戻って作った最初の曲
──「WORK」を作ろうと思った直接のきっかけを教えてください。
$till.J.Cark:「WORK」は、Show Me the Money 12のオーディションで三次選考に落ちた後、初めて制作した楽曲です。
オーディション期間中は、1ヶ月の大半を韓国と日本の間を往復していました。初めて韓国に行って、いろんなアーティストやプレイヤーを見て、韓国の音楽シーンのクオリティの高さは感じました。
一方で、そこで見た人たちの多くは、このオーディションのために準備して、ここに懸けてきたんだなという印象もありました。
自分にとってオーディションは、あくまで日々の中の一部分でした。仕事をして、音楽を作って、生活して、その中にオーディションがある。だからこそ、そこで結果を出せなかったことに悔しさはあったけど、「ここまでやってきたなら、俺はもっといけるんじゃないか」とも思いました。
韓国で、実際に音楽をやりながら生活している人たちを見て、「こういう生活があるなら、やり続けた先に自分も行けるかもしれない」と初めてリアルに思えた。
日本に戻れば、また仕事をして、空いた時間に音楽を作る生活に戻る。それでも、変に先のことを考えるより、とにかくやる。とにかくかます。
「WORK」は、そんな時期の自分の生活と気持ちを、そのまま曲にしたものです。
「手取り50万」の先は、周りへ
──お仕事と音楽制作を続ける普段の一日は、どのような流れでしょうか。
$till.J.Cark:職場まで片道1時間くらいあるので、その時間にリリックを書いたり、ラッパーの制作風景やインタビューを見たりしていました。映画も好きなので、俳優や女優の生い立ちやインタビュー、ドキュメンタリーを見ることも多かったです。
いろんな人を見ていると、売れてお金を稼げるようになっても、結局ずっと走り続けるんだなと思いました。
「まぁ俺の中のゴールは手取り50万、頭出た分周りへpass」というのも、別に金持ちになりたいわけじゃなくて、自分が普通に生活するならそのくらいでいいと思っているからです。
1000万稼げるようになったとしても、自分の手元に50万くらい残ればいい。余った分は、周りだったりカルチャーだったり、自分が面白いと思うことに使いたい。
自分も裕福な生活をしてきたわけじゃないし、ペヤングを食べて普通に美味いと思える感覚は、売れてもなくしたくない。たぶん自分の音楽を聴いてくれるのも、今の自分みたいに働きながら生活している人たちだと思うから、そこから離れたくないんです。
ヒップホップがどんどん商業化されていくことに対して、正直アンチテーゼみたいな気持ちはあります。でも、大きくなろうと思ったら、今のシステムを使わなきゃいけない部分もある。それはしょうがない。
だったら、そこで得たものを使って、今のシステムの中で感じている違和感を、根本から変えることにも使いたいと思っています。
「常自らmy self、静かに俺戦ってる」も、自分だけが戦ってるって話じゃなくて、みんなそれぞれ自分の生活の中でやってると思う。だから、あんまり言葉で言わずに、やることやって結果で見せればいいと思っています。
「普通の人間」は、平凡なままでいなければならないのか
──「WORK」の歌詞で、ご自身にとって特に大切な一節を教えてください。その言葉を書いたときに、何を思い浮かべていたのでしょうか。
$till.J.Cark:特に大事なのが、「ただ耽ってった制作つまらね愚痴吐くだけなら積み重ねるma pain」から「天才じゃね分後天的伸ばしてきたセンスで向こうside it」までのリリックです。
国が悪いとか、環境が悪いとか、とにかく自分じゃなくて何かのせいにしてる人って本当に多いと思うし、昔の自分もそうでした。だから、そういう人たちの気持ちもわかってるつもりです。
でも、ずっと愚痴を吐いてるだけじゃ何も変わらない。結局、自分で動くしかないと思った。
俺は別にサグでもないし、天才でもない。最初から何か特別なものを持っていたわけでもないです。特別な才能があるわけでもないし、かといって何かが悪いわけでもない。貧乏でもない。じゃあ、そういう普通の人間は、ずっと平凡なまま生きていかなきゃいけないのかっていうと、俺はそうじゃないと思っています。
プッシャーだろうがサラリーマンだろうが、まずアスリートみたいに打ち込んでみてから、次の話になると思う。何もやってない段階で、才能がないとか環境が悪いとか言ってても何も始まらない。
だから俺は、とにかく動いた。口で言うより、行動で示そうと思った。仕事をしながら音楽を続けて、曲を作って、ライブをして、韓国にも行った。そうやって続けていく中で、後天的に少しずつ自分のセンスも伸ばしてきたと思っています。
結局、自分の人生を変えられるのは自分しかいない。愚痴を吐いて終わるんじゃなくて、自分で動いて、積み重ねて、その結果で見せる。
このリリックには、そういう自分への言い聞かせみたいな気持ちも入っています。
KiDDと作った、後半ほど勢いを増すフック
──KiDDさんとは、今回どのようなやり取りをしながら制作を進めましたか。ビートやラップの聴かせ方で、特にこだわった点も教えてください。
$till.J.Cark:最初にKiDDくんにビートの大枠を作ってもらいました。そこから、自分の中でももう少し特徴的な音が欲しいと思って、使いたい音を自分で選びました。
その音も入れながら制作を進めていく中で、KiDDくんが「ここはもっとこれを足したらいいんじゃない?」みたいに、いろんなアイデアを出してくれました。ガヤやバースが単調に感じるところは展開を変えたり、グルーヴが途切れないように調整したり、作りながら細かいところまで一緒に詰めていきました。
特にフックは、前半より後半の方がもっとグワングワンするようにして、曲が進むにつれて勢いが増していく感じにしたかった。そこもKiDDくんと作り込んでいく中で、今の形になっています。自分だけで作っていたら、たぶんここまで細かくは作り込めてなかったと思います。
歌詞の「アダルトなKiDDも待ってる/RAF BOYシリアスにediってる/甘くないMsDoeも歌詞書いてる」は、普段からお世話になっている3人を使った言葉遊びです。
KiDDくんは自分より年上なので「アダルト」。RAF BOYは普段から映像を撮ってもらっているフィルマーで、名前のイメージとは逆にシリアスにエディットしている。MsDoeはすごくストイックなビートメーカーなので、「甘くないミスド」というイメージで表現しました。
普段から一緒にやっている人たちへのリスペクトを入れつつ、ちょっとふざけた言葉遊びも入れたかった部分です。
赤い欲望と黄色い怠惰。終わらないMVの循環
──MVのテーマとしてご案内いただいた「欲望」と「怠惰」は、ご自身の中でどのようにつながっていますか。赤と黄色の使い方や、特に観てほしい場面についても伺えますと幸いです。
$till.J.Cark:MVでは、赤を「欲望」、黄色を「怠惰」として、その2つを描いています。
前半では赤い「欲望」と闘っているんですけど、最初は欲望って自分を苦しめるものだと思っていました。でも、進んでいく中でその欲望を受け入れて、むしろ自分の力にしていく。そうすると今度は、黄色の「怠惰」が出てくる。
欲望って悪いものだと思っていたんですけど、逆にその欲に貪欲になれないと、今度は怠惰に襲われる。じゃあ怠惰を断ち切ろうとすると、また欲望がどんどん膨らんでいって、最終的にはその欲望に飲み込まれてしまう。
どっちかを倒せば終わりっていう話でもなくて、片方をどうにかしようとすると、またもう片方が出てくる。そういう繰り返しみたいなものを表現しています。
ホラー映画って、最後に全部解決するというより、バッドエンドで終わったり、「結局まだ終わってないじゃん」みたいな感じで終わることもあるじゃないですか。今回はそういうノリも入れています。
赤=欲望、黄色=怠惰というのは自分の中では決めていますけど、そこから何を感じるかは、観る人それぞれでいいと思っています。
「そんなわがままを突き通したいなら、結果を出そうぜ」
──今回の「WORK」を通じて、初めてご自身を知る方に、いちばん伝えたいことは何でしょうか。
$till.J.Cark:知名度がないから寝ずに頑張るとか、そういう綺麗な話をしたいわけではないです。
あくまで俺らは人間だから、聖人でもないし、人間臭い部分や醜い部分、いろんな矛盾もあると思う。それがその時々で変わっていくことも、別に悪いことじゃないと思っています。
ただ、自分が「これは違う」と感じることや、自分が幸せだと思うことって、その人自身が感じたリアルだから、まずはそこを肯定していいと思うんです。時には周りを巻き込んで、自分の正義やエゴを押し通すくらいでもいい。
俺自身も別に特別な人間じゃないし、凡人だと思っています。でも、自分にだけは素直でいたいし、そんなわがままを突き通したいなら、結果を出そうぜっていうのが「WORK」にはあります。
今いる場所から少しでも変化して、自分が思っている自分の可能性を広げるために動く。それが自分にとっての「WORK」です。
リリース情報
$till.J.Cark「WORK」
2026年9月23日リリース
Prod:KiDD
ART WORK:Yuuki Matsuura
「WORK」MV
2026年10月2日19:00公開予定(本人告知)
「WORK」制作クレジット
- Prod:KiDD
- ART WORK:Yuuki Matsuura
- Stylist:Tsubasa Aikawa(@tsubasa__aikawa)
- MV Director:KOBE(@daizumonster)
- AD:Kouta Takamori(@koutaaa___)
- DOP:Naoto Nagatsuma(@naotonagatsuma)
- Gaffer:Sojiro Hirai(@sojiro_hirai)
- Project Staff:Shinfu Nico(@c.lazy_shinfu)
SPECIAL THANKS
TIVE、DaRiyo、Ryowitzki、RAFBOY、PADAWAN、DUNK11、BBG Shady Jay、Essosa Vee、Kee、Dai、KEN、ICHIRO、LAW、aoshi
取材資料:本人提供の書面回答・歌詞・制作クレジット。配信日確認:Apple Music「WORK – Single」。

