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ターンテーブルの先に見えた、ドバイの現在地|DMC Middle East 2026現地レポート

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取材・文:Atsushi Harada/写真提供:Atsushi Harada

2026年9月6日、ドバイの中心地から離れた工業地区、Alserkal AvenueにあるThe Fridge Warehouseで、「DMC Middle East DJ Championships 2026」が開催された。DMC World DJ Championshipsは、1985年に始まった世界的なDJ大会だ。この日は中東地域を代表するDJを決めるため、ScratchとOpenの2つの公式カテゴリーにファイナリストが集結。今回、私は取材チームの一員として、その決勝大会を現地で撮影・取材した。

白い建物の間に色鮮やかな布状のアートが掲げられたAlserkal Avenueの屋外風景
大会会場The Fridge WarehouseがあるAlserkal Avenue。 写真提供:Atsushi Harada

まずは今回の主催である「DMC Middle East」から寄せられた言葉を、HIPHOPCs読者の皆さまへお伝えしたい。

「いま、中東のヒップホップシーンは大きく動き始めています。その中心のひとつが、ドバイです。ここには世界中からDJ、アーティスト、プロデューサー、ダンサーが集まり、それぞれの文化やバックグラウンドを持ち寄りながら、新しいヒップホップシーンを作っています。

私たちDMC Middle Eastが大切にしているのは、ヒップホップが築いてきたルーツを次の世代へつなぎながら、中東から新しい才能が世界へ羽ばたける場所を作ることです。

ドバイには、国籍や世代を越えて人と人がつながるエネルギーがあります。新しい才能が生まれ、イベントが増え、世界との交流も広がっています。中東のヒップホップはいま、新しい時代に入ろうとしています。

日本の皆さんにも、ぜひこの地域から生まれている新しい動きに注目してほしいと思います。」

DMC Middle East主催者からHIPHOPCs読者へのメッセージ
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国籍も世代も越えた、フラットな会場

16時30分に開場し、17時にイベントがスタートした。会場に足を踏み入れて最初に感じたのは、その空気のフラットさだった。フィリピンをはじめとするアジア系、アフリカ系、ヨーロッパ系、インド系、そして中東の人々。若いDJファンだけではなく、小さな子どもを連れた家族やカップル、女性同士のグループもいる。国籍や年齢、性別を越えた観客が、同じフロアで大会を待っていた。

私は、そのオープニングでDJ SHOCKと図太いMCの声を聞きながら、なぜか涙腺が緩んでしまった。異なる背景を持つ人々が一つの音を待ち、自然に同じ場所へ集まっている。その光景に、ヒップホップが持つ自由さと懐の深さを感じたからだと思う。

倉庫型の会場でステージに向かって集まる観客と子どもたち
国籍も世代も越え、同じ音を待つドバイのフロア。 写真提供:Atsushi Harada
帽子をかぶり、ヘッドホンを首に掛けてDJブースでプレイするDJ SHOCK
オープニングDJとしてフロアを温めるDJ SHOCK。 写真提供:Atsushi Harada

ホストMC・BIG HASSがつくり出したBボーイの空気

17時30分、公式のウェルカムパーティーが始まった。

MCを務めたBIG HASSは、開始前から会場を力強く温めていく。取材に入った私の肩を叩きながら、「俺はお前の国が好きだよ。今回、よく来てくれたな。いい取材を頼むよ」と声をかけてくれた。その振る舞いから感じたのは、まさに“大きなBボーイイズム”だった。国籍も年齢も関係なく、その場へやって来た人間を仲間として受け入れる。ヒップホップという文化が持つ懐の深さと裾野の広さを、彼の言葉と振る舞いがそのまま表していた。

DMC Middle Eastのロゴが映るステージで、マイクを持って話すBIG HASS
ホストMCとして会場を盛り上げるBIG HASS。 写真提供:Atsushi Harada

DJ文化を支えるパートナー企業

DMC Middle East DJ Championships 2026には、DJ・オーディオ業界に関わる複数の企業がパートナーとして参加した。会場では、SENNHEISER製品を取り扱うモスクワ発祥のオーディオ専門店「Dr.Head」がブースを展開。ヘッドホンやイヤホンを紹介し、来場者が実際に製品を手に取って体験できる、DJ大会ならではの展示となっていた。

競技では、ターンテーブル文化を長年支えてきたTechnicsに加え、AlphaThetaの機材も使用された。出演者によって機材やセッティングが異なる中、現場の機材スタッフは一つずつ技術的な課題を瞬時に調整しながら大会を進行していた。

こうしたオーディオ・DJ機器関連企業の参加は、競技環境を技術面から支えると同時に、DJ、音楽制作者、来場者が新しい機材や製品に触れる交流を生み出している。

DMC Middle Eastは、企業との連携について、展示ブース、製品紹介、カテゴリー協賛、コンテスト、ネットワーキングなど、目的に応じた幅広い形式を用意していた。世界的なDMCの歴史と、中東で成長を続けるDJコミュニティを結ぶ存在として、パートナー企業もまた大会文化の一部を担っていた。

会場内ではアルコールの提供はなく、若者や家族連れも安心して楽しめる開かれた空間がつくられていた。多国籍の観客が世代を超えて音楽を共有する中東らしいヒップホップ・コミュニティの広がりが感じられた。

赤い照明に照らされた2台のターンテーブルとミキサーが並ぶDMC Middle EastのDJブース
DMC Middle East DJ Championships 2026の競技を支えるTechnicsのターンテーブル。 写真提供:Atsushi Harada
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6名の挑戦者がぶつかるScratch部門

18時、最初の競技となるScratch Categoryが始まった。

第1ラウンドに登場したのは、David Krec、FUNKMEISTA、James Kelly、Madbelieve、Mystery Mike、Tito Bundyの6名だ。

6名は3名ずつの2グループに分かれ、各DJが1分間のターンを2回披露する。審査員はスクリーンに映し出される手元の動きと、実際にフロアへ放たれる音の両方から判定していく。

レコードに触れる指、フェーダーを切る瞬間、次の音へ移る一瞬の判断。大型スクリーンに手元が映し出されるため、わずかな迷いや遅れも観客の目から隠すことはできない。問われるのは、スクラッチの正確さだけではない。選曲、構成、展開、リズム、そして限られた時間のなかで、いかに自分のスタイルを刻み込むか。それぞれのDJが持つ個性が、短いルーティンへ凝縮されていた。

音を細かく刻み、無音の間や観客の声援を交差させながら、自分のビートとして組み直していく。その所作には、緊張感と、針先を扱う繊細さが同居していた。

第1ラウンドを勝ち上がった3名に、2025年度王者のDJ Michelleが加わり、4名による第2ラウンドへ進む。そこから審査員によって2名が選ばれ、最終ラウンドでは1分間のターンを2回ずつ披露してタイトルを争った。同点の場合には、審査員の判断によってタイブレークが行われるルールだ。プレイヤーによって使用する機材やセッティングは異なる。途中には技術的な調整も発生したが、スタッフは一つずつ問題を解決しながら、イベントを前へ進めていった。完全に整えられた舞台を見せるのではなく、その場にいる人間たちが互いに支えながら成立させていく。そこにも、ヒップホップらしい現場の強さがあった。

Mystery Mikeのロゴが付いた機材の前でプレイするMystery Mike
Scratch CategoryでプレイするMystery Mike。 写真提供:Atsushi Harada

前年度王者DJ Michelleがタイトルを防衛

激しいラウンドを経てScratch Categoryを制したのは、前年度チャンピオンの若き女性DJ、DJ Michelleだった。決勝は、どちらが勝っても不思議ではないほど甲乙つけがたいバトルだった。しかし最後にタイトルを手にしたのは、再びDJ Michelle。若きクイーンが王座を守り、2年連続となるDMC Middle East Scratch Championに輝いた。年齢や性別ではなく、ターンテーブルから放たれる音と技術で勝敗が決まる。その厳しい場所で、彼女は自分の実力をもう一度証明した。

2年連続優勝を果たしたDJ Michelleは、タイトル防衛の喜びをこう語った。

「Winning the DMC Championship for the first time was absolutely amazing and a big dream come true. But winning it again and defending my title feels completely different. This time, everyone was watching and expecting me to come back and prove myself again. Being able to do it for the second time makes it even more special to me.」

DJ Michelle(英語原文)

「初めてDMC・中東でチャンピオンになったときは、本当にうれしくて、ずっと夢見ていたことが叶った瞬間でした。でも、もう一度優勝してタイトルを守れた今回は、また違う特別な気持ちです。たくさんの人が私に注目し、もう一度結果を出すことを期待していたと思います。そんな中で2度目の優勝を果たせたことが、本当にうれしく、私にとってすごく大切な経験になりました。」

DJ Michelle(日本語訳/提供原稿より)
ステージ上で優勝の盾を両手で高く掲げるDJ Michelle
Scratch Categoryで2年連続優勝を果たしたDJ Michelle。 写真提供:Atsushi Harada

DJ RAFIKのショーケース

Scratch Category終了後の19時、ゲスト/審査員を務めるDJ RAFIKが約6分間のショーケースを披露した。競技として張り詰めていたフロアの空気が、世界レベルのプレイによって別の熱へ変わっていく。バトルを見守っていた観客は、今度は純粋に一人のDJがつくり出す流れへ身体を預けていた。

ターンテーブルとミキサーの映像を背に、ステージでプレイするDJ RAFIK
Scratch Categoryの後、ゲスト/審査員のDJ RAFIKがショーケースを披露。 写真提供:Atsushi Harada

9名が12分間の世界をつくるOpen部門

19時20分からは、Open Categoryがスタートした。

出場したのは、DJ BASS、DJ Q-YU、DJ GIMZ、DJ SADCAT、David Krec、KRAZY LEE、ET、DJ PHYZ、そして前年度王者DJ KIDYの9名。

Open Categoryでは、各DJが約12分間のソロショーケースを披露する。

Scratch Categoryが短い時間のなかで技術と瞬発力を競うバトルだとすれば、Open Categoryでは、DJとしての総合的な構成力が問われる。選曲、ミックス、スクラッチ、展開、時間の使い方。そしてセレクターとして、どの曲を、どの瞬間に差し込むのか。テクニックを並べるだけでは、フロアは動かない。12分という時間のなかで一つの物語をつくり、観客の感情と身体をどこまで動かせるか。その判断が、会場の空気を変えていく。

マイクが設置されたDJブースで、機材に手を伸ばすDJ BASS
オマーン代表としてOpen Categoryに出場したDJ BASS。 写真提供:Atsushi Harada
ターンテーブルを映す大型スクリーンの前でプレイするDJ SADCAT(左)とDavid Krec(右)
左はUAE・ドバイ出身のDJ SADCAT、右はレバノン出身のDavid Krec。 写真提供:Atsushi Harada

Open Categoryを制したのは、Scratch Categoryにも出場したDavid Krecだった。Scratchのバトルで見せた技術力に加え、Open Categoryでは選曲と構成を含むDJとしての総合力を発揮。チャンピオンの座をつかみ取ったDavid Krecは、優勝の喜びとロンドンへの決意をこう語った。

「Winning the DMC Middle East Championship is a deeply meaningful moment for me. It reflects years of dedication to DJ culture, countless hours of practice, and the belief that turntablism still has new stories to tell. I’m proud to represent the Middle East in London, and grateful to everyone who supported this journey.」

David Krec(英語原文)

「DMC Middle East Championshipで優勝できたことは、僕にとって本当に大きな意味があります。DJカルチャーに情熱を注いできた年月と、積み重ねてきた練習のすべてが、今回の結果につながったと感じています。ターンテーブリズムには、まだまだ新しい可能性や物語がある。そう信じています。中東代表としてロンドンの舞台に立てることを誇りに思います。そして、これまで支えてくれたすべての人に心から感謝しています。」

David Krec(日本語訳/提供原稿より)
金色のレコードをあしらった優勝の盾を持ち、笑顔を見せるDavid Krec
Open Categoryのタイトルを獲得したDavid Krec。 写真提供:Atsushi Harada
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DJ FLY、そして最後の結果発表へ

イベント終盤の22時には、複数回のDMC World Championとして知られるDJ FLYが、約15分間のショーケースを披露した。歴代王者による圧巻のプレイに、会場の熱気は最高潮へ達した。音の切れ味、展開の速さ、観客を離さない構成力。競技を終えたDJたちも、観客と同じように、その一挙手一投足を見つめていた。

撮影カメラの横でターンテーブルを操作するDJ FLY
イベント終盤、DMC World Championとして知られるDJ FLYがショーケースを披露。 写真提供:Atsushi Harada

Scratch CategoryではDJ Michelleが2年連続優勝。Open CategoryではDavid Krecがタイトルを獲得した。勝者たちは、中東地域の代表として世界の舞台、ロンドンへ進む。会場内は非常に暑かった。しかし、その暑ささえも、この日の記憶の一部になった。すべてのパフォーマンス後には、Bボーイによるフリースタイルのダンスも行われた。自然にダンスが始まり、観客の輪が広がっていく。DJ、ダンサー、観客の境界が一瞬薄くなり、会場全体が一つのビートへ引き寄せられていった。

観客の輪の中央で、両手を床につき脚を高く上げるダンサー
全パフォーマンス後に自然と始まったフリースタイルのダンス。 写真提供:Atsushi Harada

ターンテーブルの先に見えた、中東のヒップホップ・コミュニティ

ステージと観客の間に、過剰な壁はない。世界大会へ続く真剣な競技でありながら、誰もが同じ床に立ち、同じ音を聴き、DJの技術を見つめている。そこには、権威を振りかざすような空気ではなく、DJ文化を愛する人間同士の率直な敬意や優しさがあった。

DMC Middle Eastの会場で見えたのは、勝敗だけではない。

アラブ首長国連邦、レバノンをはじめとする中東、アジア、ヨーロッパ、インド、アフリカなど、異なる背景を持つ人々が、ターンテーブルを中心に自然に集まっていた。子どもも、大人も、家族も、DJも、ダンサーも、同じ場所で音を共有していた。ターンテーブルの先に見えたのは、多様な人々が混ざり合い、互いを受け入れながら育っていく、中東のヒップホップ・コミュニティの現在だった。

DMC Middle Eastのステージで、盾を持つDJ MichelleとDavid Krecらが並ぶ記念撮影
Scratch部門のDJ Michelle、Open部門のDavid Krecらがステージに並ぶ。 写真提供:Atsushi Harada

取材・公式情報

会場の描写、当日の進行、主催者・出演者のコメントはAtsushi Haradaの現地取材および提供原稿に基づく。時刻はドバイ現地時間。大会概要は以下の公式情報も参照した。