2026年5月29日、ABEMAで新番組『Kamui’s HYPE THE HOPE』が始まる。Kamui(ラッパー)、ピーナッツくん(VTuber/ラッパー)、ポーザー白石(TikToker/ストリーマー)の3人が、HIPHOPシーンの最新ミュージックビデオを実況リアクション形式で語り尽くす、MV特化型のHIPHOP番組である。番組内でKamui本人が「ラップスタア誕生を越えたい」と語った事実は、本番組の輪郭を最も正確に示している。発掘のための舞台から、言説のための舞台へ——ABEMAのHIPHOP番組編成は、本番組をもって明確に次の段階へ踏み出した。
初回ラインナップとして、YZERR「MONEY RAIN(feat. YTG)」、JAYCORPSE「I ♡ WAKA(feat. TOFU, HARKA, 7, ENEL, T.i.G skysea & MIKADO)」、Mall Boyz「MとBを(feat. Tohji & gummyboy)」が発表されている。番組公式情報はABEMAの番組ページで確認できる。
本記事では、新番組『Kamui’s HYPE THE HOPE』を単なる番組開始のニュースとしてではなく、ABEMAのHIPHOP番組が「ラッパーを発掘する場所」から「シーンを語る場所」へ広がった出来事として読み解く。Kamui本人が口にした「ラップスタア越え」発言の意味、ピーナッツくん起用が示す座組、初回ラインナップ3曲がシーン上で持つ座標——番組紹介の一歩奥にある編成史としての射程を整理する。
番組の輪郭:サーカス団の楽屋裏で語られるMV
番組の舞台は「とあるサーカス団の楽屋裏」。サーカスをモチーフにした世界観の中で、3人がMVを鑑賞しながら、気になったポイントで映像を止めて語り合う構成である。リアクション形式のMV番組は、海外ではYouTubeを中心に確立されてきたフォーマットであり、MVを止めて語り合う構造そのものが、現代のHIPHOPメディアの基本様式として機能してきた。本番組はその様式を、ABEMAの編成上に正式に持ち込む試みと位置づけられる。
RAF Studioで明かされた立ち上げの経緯
Kamuiとポーザー白石が運営するYouTubeチャンネル「RAF Studio」では、番組立ち上げの経緯がKamui本人によって語られている。Kamuiによれば、ある日、藤田晋氏(当時サイバーエージェント代表取締役社長、現代表取締役会長/AbemaTV代表取締役)からABEMAの新番組オファーがDMで届いたという。藤田氏は2025年12月12日付でサイバーエージェント代表取締役社長を退任しているため、企画提案の時点は社長在任中、すなわち2025年内のオファーだったと整理できる。
注目すべきは、出演者の確定プロセスである。視聴者から「ピーナッツくんはKamuiさんがオファーしたのですか?」という質問が寄せられた際、Kamuiは次のように答えている。
何も決まっていません。Kamuiさんだけがメイン確定しています、だけ言われてホンマあああ?って感じで。実は向こうが用意した企画書の中にこの布陣どうですか?っていう感じであったの。でも全否定して。俺がもしやりやすいようにしてもらえるなら、ピーナッツくんとポーザー白石で固めたいです。
Kamui/RAF Studio番組内発言より
先方が提示した布陣を全否定し、自ら共演者を指名する——番組編成の初期段階でKamuiに与えられた裁量の大きさは、本番組がKamuiという個を中心に設計されていることを示している。
『ウサギとカメ』は主題歌ではない——Kamuiの並行展開
2026年5月25日、Kamuiは新曲『ウサギとカメ』をリリースした。RAF Studioで本人が語ったところによれば、この楽曲は前年に完成していた1曲であり、番組主題歌は別曲として用意されている。『ウサギとカメ』はKamui自身の歩みと「自分のタイミングでちゃんと間に合った」という感覚を込めた1曲であり、リリックには「全盛期はこれからだって 諦めてないよ幕張メッセ」というラインが置かれている。番組始動と新曲リリースを並行配置する設計は、Kamuiにとっての2026年5月が、複数の地点へ同時に投じられる節目であることを示している。
「ラップスタア越え」発言が示すABEMAの編成拡張
Kamuiは番組への意気込みを次のように語っている。「この番組をなんならラップスタアを越えるくらい、盛り上げたいと思っているんで。ある種ライバルっすよ」。この発言は、本番組がABEMAの既存HIPHOP編成の中でどこに位置するかを、出演者本人が自覚的に示した宣言として読める。
『ラップスタア誕生』はオーディション形式で新人ラッパーを発掘し、シーンに才能を供給してきた番組である。一方、『Kamui’s HYPE THE HOPE』は既に発表されたMVを取り上げ、リアクション形式で語り直す番組である。発掘から言説へ、一次コンテンツから二次的批評へ——ABEMAのHIPHOP番組がカバーする領域は、シーンの成熟と歩調を合わせる形で拡張している。「越える」と語ったKamuiが見据えているのは、再生数やフォロワー数だけではなく、ABEMAのHIPHOPコンテンツの中で「言説の場」がどこまでの面積を獲得するかという射程である。
3人体制が示す座組の意図
Kamui(ラッパー)、ピーナッツくん(VTuber/ラッパー)、ポーザー白石(TikToker/ストリーマー)。この3人体制は、HIPHOPシーンの内と外を横断する設計として読める。特にピーナッツくんの起用が示す射程は大きい。本誌がPOP YOURS 2026完全レポートで記録した通り、VTuberであるピーナッツくんは2026年4月、幕張メッセのヒップホップフェスメインステージに何の注釈もなく登壇し、PUNPEEと絡みながらモッシュを起こしている。「VTuberがメインステージに立つ」ことが既に制度化された2026年のシーンにおいて、本番組の座組はその制度化を踏まえて選ばれている。例外を呼んできた番組ではなく、制度を反映した番組——これが本番組の出発点である。
初回ラインナップが示す射程
初回で取り上げられる3曲は、いずれも2026年のシーンを語る上で外せない座標に置かれている。YZERR「MONEY RAIN(feat. YTG)」は、BAD HOP解散後のYZERRが走る独立章を象徴する1曲であり、Haneda→ATLという地理的射程を歌詞に刻んだ作品である。Mall Boyz「MとBを(feat. Tohji & gummyboy)」は、引退を表明したTohjiがPOP YOURS 2026のステージを新曲「MとB」で締めた、その時間軸上にある楽曲である。JAYCORPSE「I ♡ WAKA」はTOFU、HARKA、7、ENEL、T.i.G skysea、MIKADOら多数を巻き込んだ集合体的なトラックであり、シーンの横の繋がりを画面に持ち込む役割を担う。MV特化型リアクションという形式が日本のHIPHOPメディアにどう根付くかは、まずこの初回放送の中で輪郭が出揃う。
「全盛期はこれから」を、媒体としても見届ける
RAF StudioでKamuiは、ポーザー白石と初めて食事に行った時の会話を引いて、「ABEMAで番組持ちたい」というポーザー白石の発言を覚えていたから自分が共演者として名前を挙げた、と語っている。番組の輪郭は、こうした個人の記憶と、ABEMAというプラットフォームの編成判断の交点で立ち上がった。『ウサギとカメ』のリリックに置かれた「全盛期はこれから」という宣言は、本人の歩みについての言葉であると同時に、本番組がABEMAのHIPHOP編成史にどう刻まれるかを左右する宣言でもある。本誌はこの番組を、ABEMAのHIPHOP編成の現在地を測る座標として、放送後も継続的に観測していく。
