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7年以上働いても契約は終わらない? Summer Walker、Interscopeから5000万ドル超の損害賠償を求められる

ヒップホップニュース10 min read

R&BシンガーのSummer Walker(サマー・ウォーカー)と、Universal Music Group傘下のInterscope Records(インタースコープ・レコーズ)が、レコーディング契約をめぐって法廷で争うことになった。

2026年10月9日、Interscopeはロサンゼルス郡上級裁判所に訴訟を提起。Walkerが契約上必要な作品を納品していないとして、5000万ドルを超える損害賠償を求めている。

一方のWalker側は、2017年に締結した契約について、カリフォルニア州の通称「7年ルール」を根拠に、契約に基づく業務を終了する権利があると主張している。

7年以上経過した契約から離れようとするアーティストと、未納品の作品に対する補償を求めるレーベル。

今回の争いは、音楽業界における「アーティストの自由」と「契約上の責任」という、長年続いてきた問題を改めて浮き彫りにしている。

楽曲を聴く:Summer Walker「Finally Over It」公式リリックビデオ

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2017年の契約と、残されたアルバム

Walkerは2017年、アトランタを拠点とするLVRN(Love Renaissance)とInterscopeとの共同契約を締結した。

その後、2019年の『Over It』、2021年の『Still Over It』、2025年の『Finally Over It』を発表。『Still Over It』はBillboard 200で首位を獲得するなど、現代R&Bを代表するアーティストの一人となった。

まるで天使の羽がそっと触れるような、柔らかく繊細な歌声。

感情を声高に訴えるのではなく、囁くような歌唱で恋愛の痛みや孤独、心の揺らぎを表現し、時にはリスナーの涙を誘う。その親密な歌声こそが、Summer Walkerの音楽を特別なものにしている。

しかし、Interscope側の訴状によれば、契約で求められていたスタジオアルバムは合計5枚。これまで納品されたと認めるのは上記の3枚で、さらに2枚のアルバムとEPが未納品だという。

ここで問題になるのが、アルバム以外の作品の扱いだ。

Walkerは2018年にミックステープ『Last Day of Summer』、2019年にEP『CLEAR』も発表している。しかし、Interscope側はこれらを契約上のスタジオアルバムには含めていない。

つまり、リスナーにとっては正式なリリース作品であっても、レーベルとの契約上は必ずしも「アルバム1枚」として数えられるわけではないのだ。

楽曲を聴く:Summer Walker「clear visual ep」ライブ映像

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カリフォルニア州の「7年ルール」とは?

今回Walker側が根拠としているのが、カリフォルニア州労働法第2855条に定められた、いわゆる「7年ルール」だ。

これは、個人の労務提供を求める契約について、原則として契約に基づく業務の開始から7年を超えて本人を拘束できないとする法律である。

その歴史を語るうえで知られているのが、1940年代に映画会社Warner Bros.と争った女優Olivia de Havilland(オリヴィア・デ・ハヴィランド)の裁判だ。

しかし、音楽業界には重要な事情がある。

1987年の法改正により、レコード会社はアーティストが7年経過後に契約上の業務を終了した場合でも、約束された録音作品が納品されていなければ、一定の条件下で損害賠償を請求できるようになった。

同法は、録音契約に関する未履行の損害賠償請求について、アーティストが通知した業務終了日から45日以内に訴訟を提起するよう定めている。

つまり、「7年が過ぎたから、契約上の責任もすべて消える」という仕組みではない。

アーティストが労務提供を終了する権利と、レーベルが未履行の契約について損害賠償を求める権利は、法律上、別の問題として扱われる。

今回の訴訟では、まさにこの規定が重要な意味を持つ。

編集部補足|「45日以内」の対象

同条(b)(1)は、録音契約について、将来の業務終了日を明記した書面通知を先に行うことを定めている。「45日以内」は、所定数の録音作品に必要な業務をその日までに終えていない場合の請求に関する(b)(3)の期限だ。契約期間中の違反に対する請求には(b)(2)の規定もあり、録音契約をめぐるすべての請求期限が一律45日という意味ではない。詳細はカリフォルニア州公式の第2855条で確認できる。

YGも経験した、長期契約が生む葛藤

こうしたレーベル契約をめぐる葛藤は、Summer Walkerだけの問題ではない。

コンプトン出身のラッパーYGも、かつてDef Jam Recordingsとの契約条件に苦しんでいたことを明かしている。

YGは『My Krazy Life』や『Still Brazy』などの作品を通じて、ウエストコーストを代表するラッパーへと成長した。

しかし、2026年6月に公開されたDJ Hedとのインタビューで、YGは過去に契約から抜け出すことを優先し、アルバムをリリースしていた時期があったと告白している。

そんな彼に考え方を改めるきっかけを与えたのが、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)だった。

YGによれば、Kendrickは契約から抜けるためだけに作品を出すべきではなく、毎回全力を注ぐべきだと助言したという。

YG自身も、当時の制作姿勢を振り返り、自分は間違っていたと認めている。

このエピソードについては、HiphopCsでも6月6日公開の記事『YG、4年ぶりの新作「The Gentlemen’s Club」とKendrick Lamarの助言』で取り上げた。

YGの場合、Summer Walkerのように「7年ルール」を根拠としてレーベルと訴訟で争ったことが確認されているわけではない。それでも、両者の経験には共通する問題がある。

アーティストが契約から自由になるために、本来は創作活動の成果であるはずのアルバムが、契約上の義務を果たすための手段になってしまうことだ。

音楽を届けるための契約が、時として音楽を作る目的そのものに影響を及ぼす。

YGの経験は、Summer Walkerの訴訟が提起する問題を、創作する側の視点から考える手がかりにもなるだろう。

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なぜ5000万ドルなのか?

Walker側の弁護士は2026年8月、同月27日をもって契約に基づく業務を終了する意向をInterscopeに通知した。

これに対してInterscopeは10月9日に提訴。未納品と主張する録音作品について、将来得られたはずの利益などを根拠に損害賠償を求めている。

報道によれば、その請求額は5000万ドルを超える。

ただし、この金額はレーベル側が主張する損害額であり、Walkerに支払いが命じられたわけではない。最終的な金額は裁判で判断されることになる。

また、Interscope側が主張する納品義務の範囲や損害額についても、現時点で裁判所が結論を下したわけではない。

Interscope側は、協議による円満な解決を望みつつ、法律上の提訴期限があるため契約上の権利を保全する必要があったと説明している。

一方、Walker側の弁護士Keith Moten(キース・モーテン)は、レーベル側の請求に対して積極的に争う方針を表明。反訴を含む法的対応を検討する一方、建設的な解決に向けた協議には応じる姿勢も示している。

編集部補足|今後の決着について

Music Business Worldwideの2026年10月12日付報道では、双方が協議による解決にも言及している。今後は判決だけでなく、和解によって決着する可能性もある。5000万ドル超という請求額が、そのまま最終的な支払額になると決まったわけではない。

アーティストの自由は、誰が決める?

今回の事件で興味深いのは、Walkerが音楽活動を続けていく意思を失ったから契約を離れようとしている、という話ではないことだ。

争点は、アーティストが自分のキャリアをどの契約条件の下で続けるのか、そして過去に結んだ約束がいつまで効力を持つのかという問題にある。

レーベルは新人アーティストの発掘、制作、宣伝、流通などに資金を投入する。その投資を回収するために、一定数の作品を求める契約を結ぶこと自体にはビジネス上の理由がある。

一方で、アーティストの人気や市場価値、制作環境は年月とともに変化する。

デビュー前に結んだ条件が、世界的な成功を収めた後も長期間適用され続けることを、どう考えるべきなのだろうか。

YGの経験が示すように、契約上の義務を果たすことが優先されれば、作品制作への向き合い方にまで影響が及ぶ可能性がある。

さらにストリーミング時代には、アルバム、EP、ミックステープ、シングルといった作品形態の境界も、リスナーの視点では以前ほど明確ではなくなっている。

しかし、契約書の中ではその違いが数千万ドル規模の争いにつながることもある。

今回のSummer WalkerとInterscopeの訴訟は、単なるアーティストとレーベルの対立ではない。

音楽を作る側は、いつ、どのような条件で、自分のキャリアの主導権を取り戻せるのか。

そして、契約を守ることと、創作の自由を守ることは、どこまで両立できるのだろうか。

その問いを、音楽業界全体に投げかける事件といえるだろう。

楽曲を聴く:Summer Walker「Body」公式ミュージックビデオ

楽曲を聴く:Summer Walker「Girls Need Love」Jimmy Kimmel Live!でのパフォーマンス(2019年)

編集部の関連記事:レーベル契約をめぐる別の視点として、Kali Uchisがアーティストに語った契約と独立への助言も紹介している。

音楽の権利を持ち、自ら活動の仕組みを作るアーティストの視点は、Kiiiが音楽の所有と自主運営について語った本誌独占インタビューでも読める。

References:

画像引用元:Summer Walker公式Instagram(@summerwalkerの『Finally Over It』公式カバー投稿、2025年11月6日・日本時間)。本文で取り上げた2025年発表のアルバムを示すビジュアルで、訴訟についての告知画像ではない。