MaRI(Instagram:@maa_queeen)、3Li¥en/エリイェン(Instagram:@3liyen_)の公式Instagram
本公演は、6月8日にZepp DiverCity (TOKYO)で開かれる。新しく加わったのは、4組のライブアクトだけではない。MC、DJ、ブレイキン、グラフィティという四大要素のショーケース。そして11名のプレゼンター陣。この三つが同時に発表された。
これは「人が増えた」発表ではない。本公演そのものの性格が変わった発表である。
第一弾はライブアクトの並びを示した。「誰がラップするのか」を提示した発表だった。
第二弾は、その手前にある問いを開いた。「ヒップホップとは何か」「ヒップホップ史を誰が語るのか」。この二つである。
本誌は5月8日、第一弾発表を扱った「THE SUCCESSORは何を継承し、何を継承しないのか──MAJが描く日本語ラップ40年の輪郭」で、本公演の継承の構造を批評的に読み解いた。
そこで指摘したのは、女性ラッパーが一人もいない点である。日本語ラップ40年の歴史を称えるセレモニーが、その歴史を担ってきた女性たちの存在を見えなくしているのではないか。そういう問いだった。
第二弾発表は、その問いに一部応えるものだった。同時に、より大きな問いを残している。
日本語ラップ40年の歴史は、誰によって、どこまで書き換えられるのか。
第二弾発表は、なぜ「ただの追加発表」ではないのか
第二弾発表で出された情報は、三つの層に分かれる。
一つ目の層は、追加ライブアクトの4組である。PUNPEE、Watson、MaRI、3Li¥en。第一弾の9組と合わせて、ライブアクト陣は計13組になった。
二つ目の層は、四大要素のショーケース出演者である。ヒップホップ文化を構成する四つの要素――ラップ、DJ、ブレイキン(ダンス)、グラフィティ。これらすべての担い手が舞台に上がる。
BBOY SHOWCASEにはDJ BEAT、CRAZY-A、HORIE、マシーン原田ら11名が並ぶ。DJ SHOWCASEにはDJ Ta-Shi、DJ Kentaro、DJ IZOH、DJ Rena。さらにNEW DANCE SHOWCASE、BEATBOXING SHOWCASE、Graffiti Art Galleryが展開される。
三つ目の層は、プレゼンター陣11名である。近田春夫、いとうせいこう、DJ YUTAKA、DJ KAORI、COMA-CHI、KEN THE 390、サイプレス上野、ZEN-LA-ROCK、GDX aka SHU、MC-HULK、漢 a.k.a. GAMI。
彼らは舞台でラップするのではない。「語る役」として呼ばれている。
この三層には共通点がある。ショーケース出演者とプレゼンター陣は、どちらも舞台で「ラップする人」ではない。ショーケースはDJやダンサーやライターたち。プレゼンターは語り手である。
つまり第二弾発表は、人を増やしただけではない。本公演の枠組みそのものを、二つの方向に広げた。
一つは「ヒップホップとは何か」という文化の定義。もう一つは「ヒップホップの歴史を誰が語るか」という語り手の配置。
第一弾が「演奏する側の発表」だったのに対して、第二弾は「演奏されない領域」までを継承の対象に組み込んだ宣言である。
ここに今回の発表の本質がある。
MaRI追加と新世代の配置──「女性ラッパー不在」はどう変わったか
第一弾発表のとき、本誌は本公演のライブアクトに女性ラッパーが一人もいないことを構造的な問題として指摘した。
日本語ラップ40年の歴史を称えるセレモニーが、その歴史を担ってきた女性たちの存在を見えなくしているのではないか。そういう問いだった。
第二弾発表は、この問いに部分的に応えた。
MaRIは岐阜出身、ブラジルにルーツを持つ女性ラッパーである。TuneCore Japan上のプロフィールでは、AK-69、¥ellow Bucks、DJ RYOWらとの音源での接点が確認できる。MaRIの追加によって、第一弾時点の女性ラッパー不在は少なくとも一部更新された。
さらに3Li¥enは、日本、ナイジェリア、アメリカにまたがる複数の文化的背景を持つアーティストである。ハイパーポップとオルタナティブヒップホップを横断する、新しい世代の感覚を持つラッパーとして配置されている。
両者は同じ「追加ライブアクト」だが、本公演で背負っている役割は同じではない。MaRIは女性ラッパー不在への直接的な応答であり、3Li¥enは複数の文化的背景を持つ新世代枠として、別方向から継承の輪郭を広げる存在である。
ここで気づくべきことが二つある。
一つ目。追加された二人は、いずれも現在のシーンの中心にいるヘッドライナー級ではない。比較的新しい世代から選ばれている。
これは第一弾出演者のRHYMESTER、キングギドラ、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのような「歴史的レジェンド枠」とは、はっきり位置取りが違う。「歴史を称える」セレモニーにおいて、女性ラッパーとして追加されたMaRIも、「これから」の側であり、「これまで」の側ではなかった。
二つ目。より大きな空白が残されている。これは後の章で扱う。
第二弾発表は、第一弾時点で残っていた構造的な不在を、結果として一段階更新した。ただし、それは問題の解決ではなく、継承の輪郭がどこまで広げられるのかを問い直すための更新である。
PUNPEEとWatsonが広げた継承者の射程
PUNPEEとWatsonの追加は、ライブアクト陣に違った質を持ち込んだ。
PUNPEEは、PSG期から現在のソロ活動まで、日本語ラップの言葉の感覚を更新し続けてきたアーティストである。プロデューサーとしての仕事、楽曲の中での文学的な引用、サンプリングの感覚。
彼が継承するのは「ラップする人」のレイヤーではない。「ラップを編む人」のレイヤーである。
第一弾にはトラックメイカー/プロデューサーのSTUTSが入っていた。第二弾でPUNPEEが加わったことで、編む側の人材が二人になった。「継承」がMCだけの問題ではないという宣言として読める。
Watsonの追加は、別の方向に射程を広げる。
徳島出身、地方シーンから出発し、日本武道館での単独公演を成功させた現在進行形のスターである。RHYMESTERやキングギドラのような「歴史」、T-Pablowや¥ellow Bucksのような「中堅」、3Li¥enのような「新世代」のどれにも完全には属さない。今のシーンの主役の一人である。
本誌はこれまで、Watsonの武道館単独公演を含む彼のキャリアを継続的に追跡してきた。
地方発のラッパーが東京の中心ステージに呼ばれるという構図は、日本語ラップの地理的な力関係が動いていることを示す。本誌がPOP YOURS 2026の構造分析で論じた通り、現在の日本語ラップは、東京中心の歴史の語り方から、地方発のスターを含む多層的な広がりに移っている。
Watsonが呼ばれたことは、その流れがTHE SUCCESSORという「公的なセレモニー」の側にも届いたことを意味する。
PUNPEEは「言葉と編集」、Watsonは「地方と現在」。この二人の追加によって、継承する側の射程は、第一弾時点の東京中心・MC中心の枠組みから、編集者の力と地方の力という二方向に広がった。
四大要素のショーケース化──「ラップを聴く場」から「ヒップホップそのものの場」へ
第二弾発表で最も大きな構造の変化は、四大要素のショーケース化である。
BBOY SHOWCASE、DJ SHOWCASE、NEW DANCE SHOWCASE、BEATBOXING SHOWCASE、そしてGraffiti Art Gallery。ヒップホップ文化を構成する四つの要素――MC(ラップ)、DJ、ブレイキン、グラフィティ――が、ライブアクトと同じ舞台に並ぶ。
これは、本公演が「ラッパーのライブ」ではなく、「ヒップホップ文化全体の式典」だということを実体として示す宣言である。
日本のヒップホップイベントで、四大要素を横断的に見せる形式自体は新しくない。POP YOURSやそれ以前のフェスでも、複数の要素は並べられてきた。
しかしそれらは「フェスとしての多様性」の文脈に置かれていた。本誌はPOP YOURS 2026の構造分析で、フェスにおける多様性が「横の制度化」として機能していることを書いた。
THE SUCCESSORが違うのは、それを「継承」の文脈で行うという点である。
同じ多様性の見せ方でも、フェスは「今のシーンの広がり」を示すために行う。THE SUCCESSORは「ヒップホップとは何か」の定義を示すために行う。意味がまったく違う。
ヒップホップ四大要素という枠組み自体は、1970年代後半のニューヨーク・ブロンクスで生まれた文化定義である。現在の世界中のヒップホップ文化の基盤の一つになっている。
THE SUCCESSORがこれを舞台に持ち込むことは、日本語ラップの継承を「日本のラップシーンの歴史」だけでなく、「世界のヒップホップ文化の一部としての日本」という大きな枠組みで定義しようとする意志の表れである。
CRAZY-A、マシーン原田といった日本のBBOYシーンの第一世代がBBOY SHOWCASEに配置されていることも、この枠組みを補強する。彼らはラップシーンの「外側」の人ではない。日本のヒップホップ文化を作ってきた当事者である。第二弾発表は、その事実を改めて舞台に乗せた。
ここまでが四大要素のショーケース化が示す「ヒップホップとは何か」という文化の定義の話である。
プレゼンター陣の話は、これとは別の軸に属する。「ヒップホップとは何か」が文化要素を横に並べる継承だとすれば、プレゼンター陣の配置は、ヒップホップ史を縦に語り継ぐ「語り手」の問題である。
プレゼンター11名が示す「歴史を語る権利」の配置
プレゼンター陣11名の配置を一人ずつ見ていくと、本公演の語り手の編成が見えてくる。
近田春夫といとうせいこうは、1980年代から日本のラップ/ヒップホップに関わってきた人物である。
近田はPresident BPMとしてのラップ実践、楽曲制作、批評を通して、日本のヒップホップ受容の最初の局面に深く関わった。いとうせいこうは1986年の『建設的』を含め、日本語ラップ最初期の重要な作品を残してきた人物である。
この2名がプレゼンターに置かれることは、本公演が「日本のヒップホップ40年」を語るときの起点を、80年代の前史にまで遡って認めるという宣言である。
DJ YUTAKAとDJ KAORIは、日本のヒップホップDJ/クラブカルチャーの中心を担ってきた人物である。彼らがプレゼンターに入ることで、ラップ中心の歴史の語り方に対して、DJの側からの参照軸が確保される。
COMA-CHIは、女性ラッパーとしてのキャリアを持ち、現在もシーンで活動を続けている。彼女がプレゼンターとして配置されたことは、「ステージで歌う女性」ではなく「ステージから語る女性」として歴史を保証する役を担うという編集判断である。
ここに、本公演の女性に対する位置取りの複雑さが現れている。
MaRIは「これから」の側の女性ラッパーとして配置され、COMA-CHIは「語る側」として配置される。一方で、LANA、Awich、ちゃんみなのような現在の主役級、あるいは日本語ラップ史における女性アーティストの中心的存在が、ライブアクトとして配置されているわけではない。
KEN THE 390、サイプレス上野、ZEN-LA-ROCK、漢 a.k.a. GAMIといった面々は、2000年代以降のシーンの各方面――UMBバトル、パーティーカルチャー、ストリートシーン――の中核を歩んできた人物である。
彼らがプレゼンターとして並ぶことで、2000年代以降に枝分かれした日本語ラップの各シーンが、それぞれ「語る側」に位置取られる。
プレゼンター陣の構成は、1980年代から2010年代までの日本語ラップ史を、各時代の当事者によって語らせるという編成である。
本誌はSEEDA20年のフックアップの系譜を扱った記事で、日本語ラップにおける「誰が次の世代を選ぶか」という選定権の構造を整理した。THE SUCCESSORのプレゼンター陣の配置は、その選定権の問題を「誰が歴史を語るか」という別の角度から制度化した試みとして読める。
歌う側、選ぶ側、語る側。日本語ラップの権威の三角形が、ここで揃った。
それでも残る空白──LANA、Awich、ちゃんみな、女性主役級の不在をどう読むか
第二弾発表によってMaRIと3Li¥enが追加されたことで、ライブアクト陣の女性の不在は部分的に更新された。しかし、より大きな空白が残されている。
本誌が5月4日に分析したMUSIC AWARDS JAPAN 2026公式ノミネートを見ると、興味深い事実が浮かぶ。
最優秀ヒップホップ/ラップ楽曲賞には、STUTS、Creepy Nuts、YZERR・LANA・JP THE WAVY・¥ellow Bucks、ちゃんみな、RIP SLYMEが入っている。最優秀ヒップホップ/ラップアーティスト賞には、Creepy Nuts、LANA、m-flo、RIP SLYME、STUTSが含まれる。
つまりLANAとちゃんみなは、本年のMAJ自体の枠組みの中で、日本のヒップホップ/ラップを代表するアーティストとして公式に認められている。
それなのに、THE SUCCESSORのライブアクト陣にも、プレゼンター陣にも、LANAとちゃんみなの名前はない。Awichについても同様である。本誌が現在把握できる範囲では、彼女たちが本公演に関わる予定はない。
ここで言えるのは、現象としての不在だけである。
LANA、Awich、ちゃんみなが本公演から外れている理由は、公開された情報からは確定できない。出演オファーがされたが断られた可能性、スケジュール上の理由、本人の意向、編集側の判断。どれもありうる。
しかし、現象としてはこう観察できる。
MAJの賞レースという「審査」の枠組みでは認められた女性ラッパーが、THE SUCCESSORという「継承」の枠組みからは外れている。
賞と継承は、同じMAJの中にあっても別の権威の枠組みであり、両者の対象は完全には重ならない。
第二弾発表で追加されたMaRIと3Li¥enは、いずれも現在の主役級ではなく、「これからの世代」として位置取られている。「これまでの女性ラッパー」と「現在の女性主役級」は、依然としてTHE SUCCESSORの輪郭の外側にいる。
これは批判ではなく、観察である。
本公演が完成した形で示されるのは6月8日当日であり、それまでに第三弾発表やサプライズ的な出演が加わる可能性もある。本誌は現時点で発表された情報に基づいて、構造的な特徴を記録するにとどまる。
THE SUCCESSORは完成形ではなく、更新される「日本語ラップ史の編集案」である
第二弾発表が示したのは、THE SUCCESSORが一度きりのライブイベントではないということである。段階的に更新されていく「日本語ラップ史の編集案」である。
第一弾発表は、ライブアクト中心の人選という最初の輪郭を引いた。
第二弾発表は、四大要素のショーケース化とプレゼンター陣の配置によって、文化要素の継承と語り手の配置という二つの軸を加えた。
第三弾発表があるかは現時点では分からない。しかし、本公演が「セレモニー」として位置づけられている以上、その完成形は当日のステージ上でしか確定しない。
ここで大事なのは、本公演が引いた輪郭が、今後の日本語ラップ史の語り方に影響する可能性が高いという点である。
MAJという公的な賞レースの枠組みの中で、誰が「継承者」として呼ばれ、誰が「歴史」として呼ばれ、誰が「語る側」として呼ばれたか。この配置は、今後の論文、ドキュメンタリー、書籍、メディア記事で参照される可能性の高い基準として残っていく。
その意味で、第二弾発表で追加されたMaRIと3Li¥enの位置取り、PUNPEEとWatsonの配置、四大要素ショーケースの存在、プレゼンター陣の構成――それぞれが、日本語ラップの「公的な歴史」の輪郭を更新する編集判断である。
そして、まだ書き込まれていない空白――LANA、Awich、ちゃんみなを含む女性主役級、関西、九州、沖縄を含む各地域の現在進行形のシーン、ヒップホップとR&Bの境界線――は、今後の日本語ラップ史の語り方の中で、誰が、どのように埋めていくのかという問いとして残される。
本誌は5月4日のMAJノミネート分析、5月8日の第一弾分析、そして本稿の第二弾分析を通して、MAJと日本語ラップの関係を一連の編集として追ってきた。
6月8日のTHE SUCCESSOR当日、そして6月13日のMUSIC AWARDS JAPAN 2026授賞式まで、この継承の編集はまだ終わらない。本誌は、その全工程をHIPHOPCsの読者と共有する。
THE SUCCESSORは、6月8日に終わるイベントではない。
日本語ラップ40年の継承を「公的に編集する」という作業の、最初の参照点として残るイベントである。
本誌は、当日のステージ構成、そこで語られる内容、舞台上の配置を引き続き記録し、第二弾発表で開かれた問いがどう展開されるかを追う。
ここに残された空白は、HIPHOPCsが書き続ける。それが、日本語ラップを「定義する側」のメディアの仕事である。
