HIPHOPCs Global Hip-Hop, JP.

Eminem(エミネム)未発表曲流出、元エンジニアが有罪答弁:約5万ドルで売った音源が800万回超アクセス

USヒップホップ10 min read

2025年1月にネットへ流れ出した、Eminem(エミネム)の未発表曲。その一部をスタジオのハードドライブから無断でコピーし、ネットで売った元エンジニアが罪を認めた。

ミシガン州ホリー在住のJoseph Strange(ジョセフ・ストレンジ)被告(48)が現地時間2026年10月22日(木)、ミシガン州東部地区連邦地裁で有罪答弁をした。認めたのは、著作権を侵害した罪1件。米司法省が同日発表した。

被告が受け取ったのは約5万ドル。ところが司法省によると、売られたファイルはのちに一般の配信プラットフォームにまで上がり、当局が特定した侵害ファイルのアクセスは2025年11月時点で800万回を超えた。侵害額は少なくとも75万ドルと見積もられている。

HIPHOPCsは9月、この答弁の予定を既報で伝えた。そのとき分からなかったのは、音源がどこまで広まったのか、侵害額がいくらと見積もられるのか、刑がいつ決まるのかの3つ。今回の発表で、その3つに数字が付いた。

この記事の要点

  • 2026年10月22日、Eminemの元エンジニアJoseph Strange被告(48)が、ミシガン州東部地区連邦地裁で著作権侵害1件について有罪答弁をした(米司法省発表)。
  • 2024年7〜8月、スタジオのドライブから無断でコピーした未発表曲の音声ファイル10点以上を、約5万ドルで売った。
  • 司法省によると、侵害ファイルのアクセスは2025年11月時点で800万回超。侵害額は少なくとも75万ドルと見積もられている。
  • 量刑の言い渡しは2027年1月27日の予定で、上限は禁錮5年。盗品の州際輸送の罪は取り下げられた。
  • 弁護側は、司法省本省の発表を「誇張」と批判している。
スポンサーリンク

有罪答弁で決まったこと、まだ決まっていないこと

有罪答弁は、被告が法廷で自ら罪を認める手続きだ。「有罪判決」と取り違えやすいが、10月22日に刑が決まったわけではない。刑は2027年1月27日に予定される量刑言い渡しで、連邦地裁の判事が量刑ガイドラインなどを考慮して決める。上限は禁錮5年だが、そのまま科されるとは限らない。

罪名は、もともと2つあった。2025年3月の告発では著作権侵害に盗品の州際輸送が加わり、APは両方で有罪なら最大禁錮15年と伝えていた。2026年8月28日に検察が出した起訴状(Information)に残ったのは、著作権侵害の1件だけ。地元紙The Detroit Newsによると、検察は有罪答弁と引き換えに、上限禁錮10年の州際輸送の罪を取り下げることに同意した。

売値は約5万ドル、侵害額は75万ドル以上

司法省によると、被告はスタジオのドライブから、制作段階もさまざまな10点以上の音声ファイルを無断でコピーした。2024年7月から8月にかけて、それらをネット経由で買い手に売り、合計でおよそ5万ドルを受け取った。エミネム本人はこの売買を知らず、許可もしていない。

侵害額は少なくとも75万ドル。被告が受け取った額の15倍以上だ。同紙によると、司法取引の合意書は侵害額の「合理的な見積もり」を約100万ドルとしている。どちらも見積もりで、エミネム側の実際の損害額や、被告が払う額が決まったわけではない。

司法省は「政府側が主張する事実」として、商業リリースは間近でも確実でもなかったが、一部の音源にはリリースの可能性に備えたプロの作業が施され、スタジオでのマスタリングまで施されたものもあったとしている。

侵害額も、リリースに向けた準備が進んでいたかどうかも、量刑に響く。連邦量刑ガイドラインの著作権侵害の項目(§2B5.3)は、侵害額が大きいほど刑の目安となる「犯罪レベル」を引き上げ、商業配布に向けて準備中だった作品なら、さらに2段階上げると定める。

ここでいう「準備中」は、無断で配布された時点で、著作権者が商業配布を合理的に見込み、まだ商業配布されていなかった作品を指す(米著作権法506条(a)(3))。

「間近でも確実でもない」と断っておきながら、わざわざマスタリングに触れる。司法省のこの書き方は、この線を意識したものとも読める。どう当てはめるかは判事が決める。

スポンサーリンク

「信頼された立場」の中身

ストレンジ被告は2007年ごろから2021年まで、ミシガン州ファーンデールのスタジオで働いた。司法省によると、エミネムの音楽を保存するコンピューターシステムの構築と運用を手伝い、制作途中の音源が入ったパスワード付きハードドライブにも手が届く立場だった。

告発状によると、2007年から2021年までにそのドライブに触れられたのは被告を含む4人だけで、使わないときは金庫の中。流出曲と同じ曲目の一覧があったドライブ「RAID 1」には、被告の在職中の2019年10月と2020年1月に、外付けドライブがつながれてファイルが取り出された記録が残っていた。

被告は2021年1月、退職時の取り決めの一部として秘密保持契約(NDA)に署名し、エミネムの音源を守るために「必要かつ適切なセキュリティ対策を取る」ことにも同意していた(同じく告発状の記載)。

司法省が強調したのも、この立場だ。刑事局のA. Tysen Duva(エー・タイセン・デュバ)司法次官補は「ジョセフ・ストレンジは信頼された立場を悪用し、エミネムの未発表曲を違法にコピーして売り、まだ一般への配布が認められていなかった作品で利益を得た」と述べた。

同紙によると、司法取引の合意書にも「ストレンジは信頼された立場にあり、それが犯行に大きく寄与した」とある。量刑ガイドラインには、信頼された立場の悪用が犯行を大きく容易にした場合に、犯罪レベルを2段階上げる規定(§3B1.3)がある。適用するかどうかも判事が決める。

弁護側は発表を「誇張」と批判

扱いの大きさも変わった。2025年3月の告発は、ミシガン州東部地区の連邦検察が発表した。今回は司法省本省の広報局が発表し、刑事局トップの司法次官補のコメントを先頭に置いた。訴追には、本省のコンピューター犯罪・知的財産課(CCIPS)の担当者も加わっている。

弁護側が反発したのは、この点だ。ストレンジ被告の弁護人Wade Fink(ウェイド・フィンク)は、地元の連邦検察には敬意を示したうえで、ワシントンの司法省の発表に異を唱えた。「有名な告訴人のために出された、誇張に満ちた自画自賛の声明は、依頼人と家族にひどい影響を与えた。ワシントンの司法省が詐欺や不正を追及するかどうかが、被害者の名声や富に左右されてはならない」(同紙)。

フィンクは、公に語られた内容は実際の事実とほとんど一致せず、「ただ臆面もなく盗んだ男の話より、はるかに複雑で微妙な事件だ」とも主張する。それでも依頼人は自分のしたことの責任を引き受け、家族に起きたことを深く悔いているという(同紙、Variety)。どの数字や記述に異を唱えているのかは、声明からは分からない。

エミネム側は今回、弁護士も代理人もコメントを控えた(同紙、Variety)。9月には広報担当のDennis Dennehy(デニス・デネヒー)が「ストレンジはエミネムの作品を守ることを託されていた」と述べ、法が許す最大限の処罰を望むとしていた(同紙、Complex)。

スポンサーリンク

雑感

筆者がいちばん引っかかったのは、金額の釣り合わなさだ。約5万ドルで売られた音源が、800万回を超えてアクセスされた。売値では、広がりをまったく測れない。

しかも流れたのは、まだ出すと決まっていない音源だった。合意書の言葉では、ドライブの中身は「マザーズ(エミネム)が公開すると決めるまで、そして決めない限り、機密のままにしておくはずのもの」だった(The Detroit News)。エミネムほどのアーティストでも、金庫の中のドライブを自分で見張り続けるわけにはいかない。だから仕組みを作り、人に任せる。その仕組みを作る側にいた人間が、中身を売った。

もうひとつ。動いたのは、売った元エンジニアだけではない。カナダの買い手「Doja Rat」はファン仲間と資金を出し合って代金を払い、曲をネットに上げたのも仲間の誰かだと考えていた。その買い手の存在をエミネム側に知らせたのも、英国のファンだった(いずれも告発状の記載)。800万回という数字には、未発表のエミネムを聴きたい気持ちの大きさが表れている。

気持ちは分かる。でも、その気持ちが本人の「出すかどうかを決める権利」を追い越してしまった。

エミネム本人は10月9日、Shady Records所属のEZ MILの新曲「MADARA」で、今年最初のヴァースを聴かせたばかりだ(本誌の「MADARA」解説)。表では新しいヴァースが鳴り、法廷では、盗まれた未発表曲をめぐる量刑が待っている。

量刑の言い渡しは2027年1月27日の予定だ。判事が「75万ドル以上」という見積もり、「準備中」の線、そして「信頼された立場」をどう量るのか。筆者はそこまで追い続ける。

関連記事

最終事実確認日:2026年10月24日

Sources:

アイキャッチ:Eminem(2014年11月11日、ワシントンD.C.「The Concert for Valor」)。撮影:EJ Hersom(DoD News Features)/Wikimedia Commons/CC BY 2.0。HIPHOPCsが16:9にトリミング・縮小した派生画像。