EXODUSとBLOCKは何を生み出してきたのか?NevalOneが語るクラブカルチャーの現在地【HIPHOPCs独占インタビュー】
左からFUJI TRILL、NevalOne、Jin Dogg、TYOSiN 写真:取材先提供
渋谷のクラブシーンを長年にわたり支えてきたclubasiaでは、毎週水曜日に開催される「EXODUS」をはじめ、独自の歴史を築いてきたパーティー「BLOCK」も開催されている。音楽を楽しむだけにとどまらず、さまざまな表現や人々が交差するこの場所では、どのようなカルチャーが育まれてきたのだろうか。
FUJI TRILLをはじめ、多方面で活躍するDJやアーティストが集結し、毎週水曜日の渋谷の夜を盛り上げる「EXODUS」。豪華なゲストやDJによるパフォーマンスに加え、LIVE PAINT、LIVE TATTOO、EXHIBITIONといった多彩なブースも展開されている。音楽を軸としながら、アートやタトゥーなど、ジャンルの垣根を越えた表現が一つの空間に集まるのも、このパーティーの魅力だ。それぞれのカルチャーが交わることで、EXODUSならではの世界観が形づくられ、渋谷の水曜日に独自の熱気を生み出している。
一方、「BLOCK」は、池袋bedからclubasiaへと開催場所を移しながら、独自のスタンスを貫き、音楽だけでは語り尽くせないカルチャーを形成してきた。その歩みは、単なるイベントの歴史にとどまらず、日本のHIPHOPシーンにおける多様な表現や価値観を考えるうえでも、興味深いものといえるだろう。
長年にわたり2つのパーティーを手がけてきたNevalOneことワンさんは、イベントとどのように向き合ってきたのか。これまでの歩みや音楽との関わり、そして今後の展望について話を伺った。
佐藤杜美
8月29日に開催されたBLOCKにお邪魔しました! まずは、今回初めてワンさんのことを知る方やEXODUS、BLOCKについて詳しく知らない方もいらっしゃると思うので、簡単に自己紹介をお願いします。
NevalOne
ワンです。若い頃はラッパーとして活動したり、コロナ前後にはクラブを経営する側に回ったりしながら、並行してイベント制作をしていましたが、現在はオーガナイザーとしてのみクラブシーンに携わっています。
佐藤杜美
NevalOneという名前には、何か由来があるんですか?
NevalOne
名前についてよく聞かれるのですが、NevalOneというのは「ネバーアローン」と読みます。Never Aloneを崩したものです。座右の銘というか活動において大事にしている言葉なんですが、呼び方はワンで大丈夫です。
佐藤杜美
ご出身はどちらになりますか?
NevalOne
生まれてすぐは青森にいたのですが、育ちは東京です。
佐藤杜美
学生時代からHIPHOPに親しんでいて、将来的に音楽シーンに携わりたいという思いがあったのでしょうか? 当時はどのような音楽を聴いていたのかも、ぜひお聞きしたいです。
NevalOne
HIPHOP以外にもいろいろ聴いていました。音楽大好き!みたいな感じではなかったです。人並みではありましたね。BLANKEY JET CITYとか安室奈美恵さんとか。HIPHOPに限って言えば、入り口は耳の早い同級生から教わった日本語ラップと、地元のローライダーチームに出入りしていた仲間から教わったウエストコーストの音楽ですね。当時のドラマ、IWGPの影響とか、不良文化でいうとギャング世代ということもあって、音楽よりもファッションやライフスタイル的なものへの憧れがスタートかもしれないです。そこから自分でもラップを始めたり、HIPHOPCsさんでもインタビューしていたDJ Couzさんのレコ持ちやイベントスタッフもさせてもらうようになりました。当時の経験が現在の活動に繋がっています。
EXODUSとBLOCKが築いてきた独自のスタイル
EXODUSフライヤー。写真:取材先提供
佐藤杜美
EXODUSとBLOCKについて、それぞれ詳しくお聞きしたいです。現在、EXODUSは毎週水曜日、BLOCKは年に3回開催されているとのことですが、それぞれ今年で何年目を迎えるのでしょうか?
NevalOne
EXODUSは今年で6年目で毎週水曜日に行っています。ちょうどコロナ禍で始めました。BLOCKは今年で11年目で年3回ですね。
佐藤杜美
普段のお仕事をしながら、イベントのオーガナイザーとしても活動されていますが、両立するのは大変ではないですか? 準備や運営など、仕事以外にも時間や労力が必要ですよね。
NevalOne
両立という概念じゃないですね。普通の仕事で稼いだ金を使って遊んでたら、少しお釣りもらえた…みたいな感じです(笑)
イベントで僕が得ている収入は、年間で見ても普通の会社員の方のボーナス分にも満たないし、メインの収入源には成り得ないので。費やした時間や労力に対する金銭的リターンで言えば、イベントオーガナイズは最悪ですよ。
ただ普段の僕は、本当に放っておいたらずっと家にいるようなタイプで、人見知りでもあるし、人とのコミュニケーションも苦手で。クラブやイベントというフィルターを通して社会に溶け込ませてもらってるようなものですね。
佐藤杜美
なるほど、仕事とイベント活動を両立しているというよりも、好きなことを楽しみながら活動している感覚に近いのでしょうか?
NevalOne
そうですね、そんな感じです。僕のイベントを楽しみに来てくれているお客さんと直に接することができるので、自分のやってることが誰かの生きる糧になっていたり、幸せに繋がっていたりするのかもしれないと実感ができて、やり甲斐があります。
あとはアーティストが僕を信頼してくれることが、お金よりもずっと大切で嬉しいことですね。例えばツアーとかワンマンとか、リリパ(リリースパーティー)とか、そういう特別で大切な日の制作をアーティストから僕に依頼してくれることがあるのですが、そういう時は特に「やってきてよかったな」と感じます。
若い世代のアーティストが僕のイベントに出ることを目標にしてくれたり、僕のイベントを通過点として、さらに大きくなっていく姿を近くで見られたりすることも、喜びのひとつです。
佐藤杜美
最近はイベントの企画や運営などで、HIPHOPに関わりたいと考える若い世代も増えているように感じます。これからイベント主催に挑戦したい方に向けて、まず大切にすべきことや、意識しておくべきことは何だと思いますか?
NevalOne
一番大切なことは出演してくれるアーティストと、会場となるクラブとの信頼関係が全てだと思います。極端な言い方をすれば、お金を払えばブッキングも会場レンタルも誰でも簡単に出来ます。その中でアーティスト自身からも「出演したい」と思ってもらえるようなイベントにしていくには、イベントの色をしっかりと積み重ねていくこと。知名度や集客力でブッキングするのではなく、アーティストの作品やそれぞれのスタイル、活動の背景を理解して「このイベントにはあなたが本当に必要なんだ」と相手に伝わるような姿勢を大切にしています。
会場であるクラブにも、それぞれの個性や歴史があるので、そこに対するリスペクトを忘れないこと。働いているスタッフの皆さんの協力なしにイベントは成立しないので、まず人として好かれるというか、信用されることが大事だと思います。
最近イベントオーガナイズをする若い世代が増えているという話も聞くんですが、未払いやイベント自体が直前でキャンセルになったりというような話も耳に入ってくるので、まずは最低限の人として当たり前のところからですね。
BLOCKフライヤー。写真:取材先提供
BLOCKもEXODUSも独自のスタンスを持つパーティーとして長く続いていますが、開催するうえで大切にしていることや他のイベントとは違う部分を教えてください。
NevalOne
まずBLOCKで言うと、もともと池袋bedの閉店を経てasiaに移ってきたわけですが、bed時代は毎月開催だったこともあって、asiaでの不定期開催を始めた当初は良くも悪くも単発のお祭り感がありました。でも6年前にEXODUSがスタートしたことで連続性が生まれたというか、毎週開催ってもう生活の一部じゃないですか。だからもう生活や人生そのものが、その連続の中に巻き込まれてしまったんですね。BLOCKとEXODUS、両方レギュラー出演してくれてるメンバーも、それは同じだと思うんですけど。
それで毎週のように遊びに来てくれるラッパー達がいて、同じ場所でタトゥーを入れたり服を買ったりして。毎週フロアのどこかでアーティスト同士が知り合い、仲良くなって、新たに曲を作ったりするわけです。その曲をEXODUSやBLOCKで披露したりとか、そういうことが当たり前の日常になっていて、それをお客さんもリアルタイムで目撃していくような感じ。なので、BLOCKとEXODUSは独立したイベントというよりは、全部まとめて一つのシーン、一つのカルチャーを作っているような感覚ですね。
次世代のアーティストと、変わりゆくHIPHOPシーン
写真:取材先提供
佐藤杜美
現在、特に注目しているアーティストはいらっしゃいますか? また、今後の活躍を楽しみにしている方などがいれば、ぜひ教えてください。
NevalOne
誰か1人を挙げるのは難しいんですけど、自分が主催するイベントに出演してくれているアーティストには、特に注目していますね。 具体的には042ghxstとSlumza、彼らを中心とした042VICESIDEは間違いなく日本のアンダーグラウンドシーンの中でも突出した存在だし、最近だと042とも近い関係にあるHPE周辺の名古屋のシーンも熱いですね。Yukiya Mishimaも好きです。
S TILL I DIE、rirugiliyangugiliなど、ずっと近くで活動を見てきたアーティストの成長もリアルタイムで実感していて、今後絶対もっと大きくなると思っています。最近2〜3周くらい回って、rirugiliyangugiliにまたハマってるんですよね。S TILL I DIEはラップスタア獲るんじゃないですか。
自分のルーツである東北のシーンや、東北出身のアーティストも、D-SETOやYUNGSTAお仲間、S4Lを筆頭にいつもチェックしています。福岡や大阪のシーンも好きです。
あと詳しいキャリアや活動内容はまだ把握できてないんですが、単純に曲だけを聴いて最近カッコいいなと思ったのは、303というコレクティヴの皆さん、XiangXiangさん、TwoBSさん、Fisongさん、日本猿さんなどですね。
佐藤杜美
長年イベントを続けるなかで、HIPHOPシーンやクラブカルチャーの変化を感じることはありますか? 例えば、今の若手アーティストの音楽や活動の仕方について、昔とは違うと感じる部分があれば教えてください。
NevalOne
揶揄するわけではないんですが、Abema経済圏、ラップスタア経済圏みたいな、そこに属さないと大きく売れるのは難しいという状況になっているのかなと思います。MCバトルや武道館公演なども含め、ほぼ全てのシーンが影響下にありますよね。あまりにも「一強」が続くのは健全とは言えない気もしています。とはいえ、現状は受ける恩恵の方が圧倒的に大きいのですが。
そして若い世代のラッパーにとっては、もしかしたらクラブがあまり重要ではなくなってるのかなとも感じます。小箱から活動をスタートして、SoundCloudやTikTok、それこそラップスタアなどメディアで広く知られるようになって、気付いたらasiaやHARLEMを通り越して、もう幕張に出たりワンマンやったり…みたいな。ギャラも高騰していて、クラブ規模ではもう難しいアーティストも増えていますね。
でも若いアーティストの中にも音楽性だけでなく、アティテュード的にもアングラ回帰というか、そういう志向の人たちも増えてきているので、僕としては現状のシステムに不満というよりは、こうした状況を利用して、ちゃんと分母を増やすことによってアングラでもしっかり稼げるようになったりとか、そういう土台を作って支えていく方向に目を向けていきたいです。
佐藤杜美
FUJI TRILLさんとは親交が深い印象がありますが、どれくらい長いお付き合いになるのでしょうか? また、ほかにも親交のあるアーティストがいらっしゃれば、ぜひ教えてください。
NevalOne
FUJIは7年くらいの付き合い。あと仲良いのはTYOSiNとJin Doggとか。この2人はFUJIより長いですね。あと意外と付き合い長いのが釈迦坊主とかZERRY。それより下の世代になってくると年齢が離れ過ぎていて、関係値をしっかり築けているとしても、友達感覚で「仲良いです!」と僕から言うのは少し違うかなと。最近だとkrynXのお父さんが僕と同い年だと判明したり、そういう世代とのジェネレーションギャップを酒で埋めているような感じです。
あくまでもオーガナイザーとして「出演してもらっている」というスタンスが基本にありつつ、それでもEXODUSで毎週一緒のメンバーだったり、Young zetton、Showy、X GANGのメンバーのような活動初期から今でも交流があるアーティストに対しては、活躍を誇らしく思っています。
佐藤杜美
最後に、記事を読んでいるヘッズの皆さんに向けて、伝えておきたいことやメッセージがあればお願いします。また、今後のイベント情報などもあれば、ぜひ教えてください。
NevalOne
今ってラッパーに限らず世の中が完全に数字に捉われてるし、悪い意味でも注目さえ集めれば金になるから、人の迷惑も考えず好き勝手やっても、それなりの成功体験が出来ちゃうし、それを見たバカが更に真似するみたいな、そういう下品な連鎖に踊らされないで欲しいです。
ちゃんと評価されるべき人が評価され、報われるようにしたい。これだけは本当に昔から一貫して思っているのですが、ヘッズの皆さんにしっかり見極めてもらうことが何よりも大切なので、これからもカッコいいカルチャーを一緒に作っていきましょう。
最後に、現在EXODUSに出演してるDJ・プロデューサーと、縁のあるラッパーたちと一緒にコンピレーションアルバムを制作しています。その参加メンバーによるリリースパーティーを、12月26日に開催予定のBLOCKでやる予定です。かなり良い作品になりそうなので、リリパも併せて楽しみにしていて欲しいです。通常回のEXODUSも毎週変わらずやってますので、ぜひ気軽に遊びに来てください!
インタビューを通して
EXODUSは6年目、BLOCKは11年目を迎え、それぞれ独自の歩みを重ねてきた。ワンさんにとって、イベントを続けることは単にパーティーを開催することではない。アーティスト同士が出会い、新たな音楽が生まれ、その過程をお客さんもリアルタイムで共有する。そうした積み重ねが、一つのシーンやカルチャーを形づくっている。
アーティストやクラブとの信頼関係を大切にしながら、数字だけでは測れない価値を守り、育てていく。今回のインタビューからは、ワンさんが長年の活動を通じて貫いてきた姿勢が伝わってきた。
2つのパーティーが今後どのような出会いや表現を生み出していくのか、引き続き注目したい。
NevalOne
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clubasia (クラブ エイジア)
1996年のオープン以来、クラブカルチャーの先駆けとして、常に渋谷の音楽シーンを牽引してきた老舗クラブ・ライブハウス。「すべての音楽を受け入れる」をコンセプトに、オールジャンルの音楽を楽しめるエンターテインメントスペースとして、LIVEやDJ、DANCE、レセプションなど、幅広いイベントやパーティーに対応している。
