Tohji「apck」歌詞を読む “ラストシングル”に別れの言葉はない
Tohji「apck」カバー。画像:Spotify。
「ラストシングル」と紹介された曲なのに、Tohji(トウジ)は別れを言わない。10月21日に配信された「apck」の公開歌詞には、「最後」という言葉が一度も出てこない。
2026年をもって音楽活動を終えると発表しているTohjiは、11月17日(火)に東京ドームで「Tohji Last Live “TOKYO MALL”」を開く。その27日前に出た2分42秒のこの曲を、Apple Musicは「柔らかく、静かに響くラストシングル」と呼んだ。
ところが歌詞の中のTohjiは、クラブの招待状を配って、サイゼと叙々苑を行き来して、ノリでハワイまで行ったりしている。しんみりした空気は、まるでない。
この記事の要点
- Tohjiが2026年10月21日に配信した「apck」(2分42秒)。Apple Musicは「ラストシングル」と紹介している。
- 公開歌詞には「最後」も引退も、ファンへの感謝も出てこない。あるのは会員制クラブの招待状、サイゼと叙々苑、そして「world is mine」。
- 11月17日の東京ドーム公演「Tohji Last Live “TOKYO MALL”」を前に、筆者は歌詞のクラブを、本人が最初に考えていた「小さなクラブでの最後のライブ」と重ねて読む。
招待状を渡して、「入りたい?」と訊く
ヴァースは冒頭の1つだけだ。ファンタ、見たことのない時計、デカンタの上で乾杯する仲間。そう並べてから、自分のプランは分かっていると言い切る。そこへフリーメーソン的なクラブが出てくる。Tohjiはそのクラブに入るための招待状、パスを渡すと言い、2回続けて訊く。「入りたい? でもメンバーズonly」。
差し出したそばから、会員制だと断る。誘っているのか、締め出しているのか。歌詞はそこを決めないまま、さっさとフックへ進んでしまう。
サイゼと叙々苑、アル・パチーノとCalvin Klein
フックは、金をスってもとりあえず笑っておく、という調子で始まる。自分はアル・パチーノでCalvin Klein(カルバン・クライン)だと名乗り、サイゼに行ったり「叙々ったり」する。叙々苑を動詞にした造語だ。ファミレスと高級焼肉が同じ行に並び、そのままノリでハワイまで行ったりもする。値段の差なんて、はじめから気にしていない。
締めは、飛び回りながらの world is mine だ。アル・パチーノの名前と並ぶと、彼の主演作『スカーフェイス』(1983年)が浮かぶ。飛行船の広告にも屋敷の地球儀の像にも、「The World Is Yours」と掲げられていた映画だ。本人の説明はない。でも筆者には、Tohjiがそれをmineに言い換えたように聴こえる。
雲の上のLINEと、2人だけの場面
そのあと、When i flyで始まる短いパートで、曲は2人だけの場面に切り替わる。雲の上まで届くLINE、自分のクエルボ(テキーラ)くらい熱い相手の鼓動。こちらの言葉が聞こえないふりをして後ろ髪をかき上げ、2人で吸う。何を吸うのかは、歌詞に書かれていない。仲間もクラブも出てこない、この曲でいちばん距離の近い場面だ。
そして曲は、何事もなかったように同じフックに戻って終わる。公開歌詞のどこを探しても、引退の話もファンへの感謝もない。
東京ドームを、歌わなかった
Tohjiは2018年、Mall Boyz(モール・ボーイズ)の「Higher」で「東京ドームの上で歌ってる」とラップした。8月には新録版「Higher 2026 in 東京ドーム」のMVが公開され、音楽ナタリーは、Tohjiのキャリアの伏線が1つ回収されたと書いた。なのに、その本番を目前にした「apck」には、ドームの一語も出てこない。
「最後」と銘打たれてきたのは、ライブのほうだ。8月9日にLaLa arena TOKYO-BAYで開いたアリーナ公演も、当初はラストライブとして告知され、東京ドーム公演はそのステージの上で発表された。いまの公演名にも「Last Live」とある。
曲の出し方は、ずいぶんあっさりしていた。配信日の10月21日0時過ぎ、本人はXで「New Single」と告げ、曲名とプロデューサー3人の名前、配信リンクを並べただけだった。翌日に延びたMVの告知にも、最後を思わせる言葉はない。「ラストシングル」はApple Musicの紹介文の言葉だ。
8月の単独名義曲「Amelie」も、本誌はラストシングルとして売る形をしていない曲として読んでいる。
「入りたい?」と、まだ迷ってる人
歌の中のクラブは会員制だった。一方で現実のドームは、公式サイトによると2度の抽選先行を締め切り、いまは11月1日までの先着先行で入口を開けている。
10月12日にその開始をXで告げたTohjiは、ここからは抽選ではなく買った順に席が割り当てられていくと説明し、こうも書いた。「まだ迷ってる人、行ってよかった人生だったってなるとおもうよ。」
はじめから、こんなに大きく開くつもりだったわけではない。8月10日のX投稿によると、引退を発表した2025年10月のTohjiは「小さなクラブで近い人たちとだけで最後のライブをやろうと思っていた」。それがツアーとアリーナになり、マネジメントから東京ドームを持ちかけられたときも、すぐには頷けなかったという。
同じ投稿には、一人で始めた音楽が「みんなの居場所にもなっていた」と気づいた、とも書いている。
歌詞のクラブは「フリーメーソン的」だから、踊りに行くクラブというより秘密結社に近い。ただ筆者には、その最初の構想と重なって聴こえる。近い人だけを入れる、小さな場所だ。現実のTohjiは入口をドームの大きさまで広げ、迷っている人の背中を押している。それでも歌の中では、招待状を配りながら、まだ「入りたい?」とはぐらかす。
最後の大舞台を前にして書いたのが、別れの言葉ではなく、サイゼと叙々苑とハワイの歌。ラストシングルにしんみりした別れを期待する空気への、Tohjiなりの返事なんだと思う。
「apck」がセットリストに入るなら、11月17日にはこのフックを、ドームの客席が一緒に口にすることになる。会員証があるとすれば、たぶんその合唱だ。行く人は、フックだけでも覚えていってほしい。
作品情報
「apck」/Tohji。2026年10月21日配信、2分42秒。作詞はTohji、作曲・プロデュースはTohji、Le Makeup(ル・メイクアップ)、RY0N4で、8月の「Amelie」と同じ3人。ミックスはLe Makeup、マスタリングはEGL。MVは10月22日18時に公式YouTubeで公開され、監督はeternalusaと020baby(クリエイティブ・ディレクション:Tohji)。題名「apck」の意味について、10月24日時点で本人の説明は見当たらない。配信はTuneCore Japan(℗ 2026 Tohji)。
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参照資料:TuneCore Japan(公式歌詞/公式クレジット)/Apple Music/Tohji公式YouTube/Tohji Last Live公式サイト/TohjiのX(8月10日/10月12日/10月21日の配信告知とMV告知)/音楽ナタリー/KAI-YOU/TuneCore Japan THE MAGAZINE
歌詞の読み解きは筆者の解釈で、描かれた出来事を本人の私生活の事実として扱うものではない。