jzaインタビュー|クオンタイズは使わない。耳で組むドラムと『jzaturument』の温度
取材・文:Cook Oliver
東京を拠点に活動するビートメイカー、jza(ジェイジーエー)。アルバム『jzaturument』を入り口に、クオンタイズを使わないドラム、サンプリング、SPでのビートライブについて、本人に聞きました。
一度、売りました。でも、買い戻しました。
初めて買った機材は、RolandのサンプラーSPでした。お金がなくて手放した時期もあります。それでも今、ビートライブ(自作のビートをその場で操作しながら聴かせるライブ)で使っているのは、またSPです。
「ライブ用のエフェクトが結構よくて。やりやすいので、いつも使っています」
気負いのない答えでした。ひとつの道具を使い続ける理由は、案外こういう言葉に表れるのかもしれません。
17歳から約7年間、独学でビートを作ってきたjza。2026年9月に発表した『jzaturument』で、最初に耳に残ったのはドラムでした。少し埃っぽく、ざらついているのに耳当たりがいい。その温かさを、彼はどう作っているのでしょうか。
鍵になるのが、音のタイミングを拍の目盛り(グリッド)にそろえる機能、クオンタイズを使わないこと。jzaはドラムの位置を自分の耳で決めています。事前に答えてもらった8つの質問を入り口に、普段の制作について話を聞きました。
このインタビューのポイント
- ドラムの気持ちよさ:クオンタイズに頼らず、ズレを耳で調整する。
- サンプリングと音数:迷ったら音を引く。「g」と「i’m fallin」の制作を本人が解説。
- 曲が作れない時:一旦音楽から距離を置き、本や映画に触れる。
※事前回答と取材時の会話をもとに、発言の趣旨を保ちながら、質問の順序や重複を整理・再構成しています。
jzaの原点——17歳から7年間、独学でビートを作る
Cook Oliver:まず、ビートを作り始めた頃のことから聞かせてください。17歳くらいから続けているんですよね。
jza:そうですね。高2くらいだったので、17歳です。今24歳になって、7年間くらい、好きなこととして続けてきました。
今まではSoundCloudとかにしか上げていなかったんですけど、今回、たまっていたものを出したいなと思って。
Cook Oliver:それが今回のアルバムになったんですね。制作も、自分で覚えてきたんですか?
jza:そうですね。Abletonのプラグインでやっています。EQとコンプレッサーとリミッターは、前にいい感じの本を見つけて。それを読んで、という感じです。
Ableton LiveとMaschine 3——制作を支える機材
Cook Oliver:今回、主に使った機材やソフトも教えてください。
jza:機材はAKAIのMPK49とMaschine Studioです。ソフトはAbleton LiveとMaschine 3ですね。特にAbleton Liveはずっと使っています。
Cook Oliver:機材によって、音が違ったりもするんですか?
jza:機材によって音は違うとは思うんですけど、あまり明確にこだわってはなくて。
Cook Oliver:Abletonとは長いんですね。やっぱり、しっくりくるところがありますか?
jza:いや、そういうことでもなくて。DAW(音楽制作ソフト)って結構高いじゃないですか。最初にAbletonを買って、それからずっと使っているだけで。他のは触ったこともないので、どういう感覚なのかも分からないんです。
今はAbletonがすごく重くなっちゃっていて。曲をロードするのに2分とか3分かかるので、すぐ作りたい時はMaschineを立ち上げて、そっちで作っています。
Cook Oliver:機材やソフトに共通して、自分の制作に合っていると感じるのはどんなところですか?
jza:曲の完成形を見る必要がなく、遊びの中でループや断片を作って、偶然できたものを組み立てられるところですね。そこが自分に合っています。
サンプリングは特に正解もないと思うので、いい感じにって感じです。
一度売って、買い戻したSP——ビートライブで使う理由
Cook Oliver:RolandのSPも使っているんですよね。
jza:はい。SPは、たまにエフェクトをかける時と、ビートライブで使っています。
Cook Oliver:ライブで使うようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
jza:前に「ビートライブといえばSP」みたいなところがあって。初めて買った機材がSPだったんですよ。
Cook Oliver:最初の機材だったんですね。
jza:はい。お金がなくて一回売ったりもしたんですけど、買い戻して。ビートライブはこれを使っています。
Cook Oliver:どういうところが使いやすいですか?
jza:ライブ用のエフェクトが結構よくて。そういうところがやりやすいので、いつも使っていますね。
「ビートライブといえばSP」。jzaのこの言葉には、少し背景があります。
RolandのSP-404は2005年に登場したサンプラーです。初代にも、音の一部を反復させ、再生速度や方向を変えられる「DJFX LOOPER」が搭載されています。(Roland公式製品情報)
Roland Articlesは、2006年にロサンゼルスで始まったクラブイベント「Low End Theory」を、SP-404を使う作り手がライブ演奏を試す場のひとつとして紹介しています。そこで重ねられた実験が、現在の「ライブ・ビート・セット」につながっていきました。(Roland Articles)
同じ記事は、SPシリーズをヒップホップ史に刻んだ作品のひとつにJ Dillaの『Donuts』を挙げています。後半で触れますが、jzaが好きなアーティストとして真っ先に名前を出したのも、J Dillaでした。
写真で彼が操作しているのは、RolandのSP-404シリーズです。具体的にどのエフェクトを使っているかまでは、今回の取材では確認していません。ただ、「ライブ用のエフェクトが結構よくて」という言葉からは、その場で音を動かせる道具としての魅力が伝わってきます。
クオンタイズを使わないドラム——「catharsis」の作り方
Cook Oliver:実際に曲を作り始める時は、どこから手をつけることが多いですか?
jza:特には決まっていないです。イケてるドラムができた時はドラムから作りますし、使いたい上ネタがあったら先にチョップするし、という感じですね。でも、半分くらいはドラムから作るかもしれないです。
※上ネタ:ドラムの上に乗せるメロディやコードのサンプル。チョップ:サンプルを細かく切り分けること。
Cook Oliver:「catharsis」は、どうやってできた曲なんでしょう?
jza:あれは以前MPCで打っておいたドラムを最初に取り込んで、イケてる上ネタがあったので乗せました。
ビートに重みが欲しかったので、同じ上ネタを3トラックで流して、それぞれにリバーブをかけて、みたいな。
Cook Oliver:アルバムを聴いて、ドラムの組み方がすごく耳に残りました。よくあるパターンじゃないと、一発で分かるドラムだなと。
jza:あ、本当ですか。うれしいです。
今回のアルバムにはソウルフルな曲もあったり、ちょっと実験的な曲もあったりするんですけど、全体でいうと、ドラムにはこだわっていると思います。やっぱり耳に残るのってドラムだと思うので。
Cook Oliver:自分で「気持ちいい」と感じるリズムにするために、意識していることはありますか?
jza:自分は曲作りでクオンタイズを全く使わなくて、ドラムも上ネタも感覚でやっています。さすがにズレすぎたらグリッドを見るんですけど。
あとは、スネアがバチンと決まった時が気持ちいいですね。
Cook Oliver:クオンタイズを使わない理由も、少し聞かせてください。
jza:難しいんですけど、クオンタイズを使った曲って、自分には機械っぽい音楽に聞こえるところがあって。だから使っていないんです。
さすがにズレすぎちゃったら直すんですけど、そこでもちょっとズラして合わせる感じですね。
サンプリングと音選び——埃っぽい音、静かな上ネタ
Cook Oliver:音を選ぶ時はどうですか。「これは使いたい」と思う音に、共通するものはありますか?
jza:真新しくてきれいな楽器というより、埃っぽくて歪んでいたりする音のほうが好みです。もちろん、作りたい雰囲気によって変わるんですけど。
Cook Oliver:ブーンバップのような昔のビートや、オールドスクールな感じも好きなんですか?
jza:そうですね。そっちのほうが好きです。今流行っているトラップとかは、あまり耳に入ってこなくて。
Cook Oliver:今回のアルバムにも、すごく温かみを感じたんです。デジタルっぽさが前に出てこないというか。
jza:そうですね。今回のアルバムは、デジタル感はあまりないですね。
Cook Oliver:最近はSpliceのようなサンプル配信サービスを使う人も多い印象です。どう思いますか?
jza:Spliceって、あれですよね。有料のサンプルサイト。
Cook Oliver:そうです、そうです。
jza:いい曲が作れるなら、いいと思います。自分は買ったことはないですけど。
Cook Oliver:じゃあ、もう全部機材で作り込んでいる感じなんですね。
jza:サンプリングはするんですけど。レコードから取るか、YouTubeから取るかですね。最近は時間がなくて、YouTubeも多いです。
Cook Oliver:レコードから取ると、やっぱり温かさが出ますか?
jza:まあ、ありますね。
Cook Oliver:上ネタを選ぶ時にも、何か好みはあるんでしょうか?
jza:ドラムが入りすぎていると、ちょっと難しいので。静かめな曲を選んでいるのかな。自分でも、あまりはっきり分からないんですけど。
Cook Oliver:プラグインで、よく使うものはありますか?
jza:一番使っているのはSerato Sampleですね。これは全部の曲で使っています。
Cook Oliver:マスタリングも自分でやっているんですよね。
jza:そうですね。本当に全然知識がなくて、本を読んでやっていました。
今は大体耳でやっているんですけど、本職の方が聴いたらどうなんだろう、というのはありますね。自分の中ではあるんですけど、そこはまだ練習中という感じです。
迷ったら音を引く——「g」と「i’m fallin」の制作
Cook Oliver:全体を通して、こだわりが見えるアルバムでした。
jza:そうですね。結構こだわって作りました。スキットとかは適当にやっちゃったんですけど、それはそれで面白いかなと思って。
Cook Oliver:聴くだけでは気づかないかもしれないけれど、制作について知ってもらえたら、という部分はありますか?
jza:作った場所も機材も全部バラバラなことですね。自宅で機材をフルに使った曲もあれば、友達の家で作った曲もあって。同じ環境で作った曲がないんです。多分、聴いても分からないと思います。
Cook Oliver:それは聞かないと分からなかったです。制作中、音を足すか引くか迷ったら、どうしていますか?
jza:迷った時は必ず引いています。もともと音が少ない曲が好きなので、とりあえず引くようにしていますね。
Cook Oliver:今作の中で、特に「自分らしいビートができた」と感じる一曲を挙げるなら、どれでしょう?
jza:「g」ですかね。大ネタを使っているんですけど、あえて曲の中で音数を減らしているところがあって。ああいうサンプルの切り方が好きですね。
※大ネタ:広く知られた曲をサンプリングすること、またその素材。
Cook Oliver:アルバムの中で、一番好きな曲を挙げるなら?
jza:うーん、何が好きかな。大ネタを使った曲もあって、ファイナルファンタジーを使ったりもしたんですけど。14曲目に「i’m fallin」という曲があって。あれはYouTubeか何かで誰かが喋っている音声を、音程を変えて使ったんです。
※「i’m fallin」は配信版のみに収録。
Cook Oliver:もとは喋っている声なんですか?
jza:そうです。ピッチを上げて、ちょっと歌わせるような感じにして。大ネタでもないし、今までやったこともなかったんですけど、たまたまバチッとハマったんですよ。
Cook Oliver:最初に話してくれた、遊んでいる中で偶然できる、という感じですね。
jza:そうですね。でも、別に聴いて上がるとか、そういう感じでもないんですけどね。
Cook Oliver:それでも、14曲目は絶対聴かないといけないですね。
好きな音楽はJ Dilla、Gil Scott-Heron、Samiyam
Cook Oliver:普段、好きで聴いているアーティストも教えてもらえますか?
jza:やっぱりJ Dillaですね。
Cook Oliver:『Donuts』も好きですか?
jza:そうですね。あとはGil Scott-Heronとか。ほかにもいっぱいいるんですけど。
Cook Oliver:J Dilla以外のプロデューサーだと、誰が浮かびますか?
jza:音色は全然違うんですけど、Samiyamっていうアメリカのプロデューサーがいて。すごく好きです。
Cook Oliver:いろいろ掘ってきたんですね。
jza:そうですね。ディグは結構頑張ったと思います。
先に触れたRoland Articlesの記事では、SP-404やその前身機種に影響を受けた作り手として、J DillaとSamiyamの名前がどちらも挙がっています。jza自身がその系譜を意識しているかは聞いていません。ただ、SPでビートライブをするという選択と好きな作り手の名前は、同じ地図の上に並んでいます。
曲が作れない時は、一旦音楽から距離を置く
Cook Oliver:長く続けていると、うまく作れない時もあると思うんですけど。そういう時は、どうしていますか?
jza:作れない時ってことですか?
Cook Oliver:そうです。なかなか形にならない時とか。
jza:どうするかな。一旦音楽から距離を置いてます。本を読むなり、映画を観るなりして。
Cook Oliver:最後に、作る時にいつもそばにあるものはありますか? コーヒーとかタバコとか、そういう身近なもので。
jza:ああ、そういうことですね。タバコとコーヒーはいつもありますね。あとはお菓子もあったりして。
結構、みんながゲームをする感覚なのかなと思います。
Cook Oliver:作っている時の様子が、少し浮かんできました。今日はありがとうございました。
jza:こちらこそ、ありがとうございました。
取材を終えて — Cook Oliver
「いい感じにって感じです」
最初にこの答えを読んだ時は、もう少し詳しく聞いてみたいと思いました。話し終えた今は、この短い言葉に、彼が7年間で積み重ねてきたものが詰まっているように感じています。
ドラムは自分で打ち、クオンタイズはかけません。ズレすぎた時だけグリッドを見て、そこでも少しズラして合わせます。スネアが「バチン」と決まる位置を、最後に決めるのは自分の耳です。
埃っぽく、少し歪んでいるのに耳当たりがいい。『jzaturument』の温かさは、そうやって聴きながら選び、直してきた音の重なりから来ているのだと思います。
その素材は、古いレコードだけではありません。最近はYouTubeからも拾います。一番好きな曲を聞いた時に挙げた「i’m fallin」では、誰かの話し声を、ピッチを上げて歌わせています。今までやったことのない方法が、たまたまバチッとハマった一曲でした。
切って、重ねて、時には引く。新しい素材を使う時も、何を残すかは自分で決める。「g」であえて音数を減らしたという話にも、その感覚が表れていました。
道具の話も印象に残っています。本人は機材に「あまり明確にこだわってはなくて」と話し、Abletonを使い続けているのも、最初に買ったからだといいます。それでも、一度手放したSPを買い戻し、今もライブで使っています。使いやすいから、手元に置く。その付き合い方が、彼の率直な言葉によく似合っていました。
作れない時は、一旦音楽から距離を置く。本を読むなり、映画を観るなりして。そんな答えにも、好きなこととして7年間続けてきた人の、無理のない距離感が見える気がします。
Spliceについては「いい曲が作れるなら、いいと思います」と答えていました。自分では買ったことがない。それでも、使う人のやり方を否定しないところも印象的でした。
AIについては今回の取材で尋ねていません。ただ、筆者としては、AIで曲を作れる時代だからこそ、自分の耳で試し、たまたまバチッとハマる瞬間を楽しむ作り手に惹かれます。7年かけて音を探してきたjzaのような人が、埋もれず、ちゃんと報われるシーンであってほしいと思います。
タバコとコーヒー、時々お菓子。「みんながゲームをする感覚」の、そのそばでビートが生まれています。
『jzaturument』を聴くなら、まずはドラムに耳を向けてみてください。次に、音が重なるところと、ふっと減るところへ。スネアがバチンと決まった時、彼の言う「気持ちいい」が少し分かるかもしれません。
jza『jzaturument』の作品情報・収録曲
配信版とBandcamp版の違い
| 版・公式リンク | 発売日 | 収録 |
|---|---|---|
| 配信版(TuneCore Japan) | 2026年9月19日 | 全15曲・約31分 |
| Bandcamp版 | 2026年9月5日 | 全12曲 |
配信版は、Bandcamp版の12曲に「gaya」「i’m fallin」「DREAMFLOWER」の3曲を加えた構成です。一部の曲名表記は両版で異なります。
収録曲(配信版)
- yanasegawa
- catharsis
- ringer
- #2000
- skit1
- jeanluc
- class one
- GHETTOWORLD
- ysatnaflanif
- skit2
- B patch
- g
- gaya
- i’m fallin
- DREAMFLOWER
jza(ジェイジーエー)のプロフィール
東京を拠点にするビートメイカー。高校2年生、17歳でビート制作を始め、取材時点で24歳。約7年間、独学で制作を続けてきた。2026年9月、アルバム『jzaturument』を発表。
Instagram:@jzathebeats/TuneCore Japan アーティストページ
取材・出典について
本文の発言は、jzaの事前回答とCook Oliverによる取材をもとに構成しています。「取材を終えて」は筆者の所感です。
作品の発売日・曲数・曲名は、jzaのBandcampとTuneCore Japanの作品ページを参照。配信版の再生時間はTuneCore Japanのアーティストページに基づきます。SP-404の歴史と機能は、本文中にリンクしたRolandの公式資料を参照しています。