Cook Oliver|Published: 2025年12月11日
この記事の要点
Spotify公式プレイリスト「RapCaviar」が2025年のストリーミングランキングを発表しました。楽曲部門はKendrick Lamarの「tv off」が1位,アルバム部門はPlayboi Cartiの『I Am Music』が1位、そしてアーティスト部門はDrakeが1位という結果に。
はじめに:ランキングが示す「時代の空気」
毎年この時期になると、Spotifyの公式ヒップホッププレイリスト「RapCaviar」から年間ランキングが発表されます。「ただの再生数ランキング?」と思う方もいるかもしれません。でも、このランキングをじっくり見ていくと、2025年のヒップホップシーンで何が起きていたのか、リスナーが何を求めていたのかが浮かび上がってくるんです。フォロワー数1,500万人以上を誇る、世界最大級のヒップホップ・キュレーション・プラットフォーム。ここに選ばれるかどうかで、アーティストのキャリアが変わることもある。それくらい影響力のある存在!
今回は、2025年の「最も再生された楽曲」「最も再生されたアルバム」「最も再生されたラッパー」という3つのランキングを、HIPHOPCsなりの視点で考察!してみます
最も再生された楽曲 TOP 10──Kendrickが首位奪還、Drakeも健在
まずは楽曲ランキングから見ていきましょう。
|順位 |楽曲 |アーティスト |
|:-:|——————–|—————————–|
|1 |tv off |Kendrick Lamar, Lefty Gunplay|
|2 |NOKIA |Drake |
|3 |Dum, Dumb and Dumber|Lil Baby, Young Thug, Future |
|4 |4×4 |Travis Scott |
|5 |Outfit |Lil Baby, 21 Savage |
|6 |GIMME A HUG |Drake |
|7 |GBP |Central Cee, 21 Savage |
|8 |Dark Thoughts |Lil Tecca |
|9 |Stuff |Lil Baby, Travis Scott |
|10 |squabble up |Kendrick Lamar |
Kendrick Lamarが1位と10位──「リリック」が再び求められている
2025年の楽曲ランキングで最も象徴的なのは、Kendrick Lamarが1位と10位を獲得しているということです。
「tv off」は、Lefty Gunplayをフィーチャーした楽曲で、Kendrickらしい内省的なリリックと、現代的なプロダクションが融合した一曲。正直、TikTokでバズるようなキャッチーさがあるわけではありません。でも、それが1位なんです。
これが意味するのは、「ヴァイブスだけの曲」に対する揺り戻しが起きているということじゃないでしょうか。ここ数年、ヒップホップはどんどん「聴きやすさ」「ノリやすさ」に寄っていきました。それ自体は悪いことではないんですが、一方で「ラップって何だっけ?」「リリックの深みはどこに行った?」という声も聞こえてきていました。
Kendrickの1位は、リスナーが「中身のある音楽」を求め始めているサインかもしれません。
Drakeは2位と6位──「負けてない」という事実
一方で、Drakeも2位「NOKIA」と6位「GIMME A HUG」にランクインしています。2024年のKendrickとのビーフ(「Not Like Us」vs「Push Ups」)で、SNS上では「Drakeは終わった」みたいな声もありました。でも、このランキングを見ると、全然終わってないんですよね。Drakeの強さは、「聴かれ続ける力」にあります。バイラルで一発ドカンと跳ねるタイプではなく、じわじわと、でも確実に再生数を積み上げていく。アルバムを出せばプレイリストに入り、プレイリストに入れば聴かれ続ける。このサイクルを10年以上回し続けているのは、やっぱりすごいことです。
Lil Baby、21 Savage、Travis Scott──「アトランタ・ヒューストン連合」の強さ
ランキングを見ていて気づくのは、Lil Baby、21 Savage、Travis Scott、Futureといった南部勢の存在感です。
3位「Dum, Dumb and Dumber」はLil Baby、Young Thug、Futureの3人が揃った曲。5位「Outfit」はLil Babyと21 Savage。9位「Stuff」はLil BabyとTravis Scott。
アトランタとヒューストンを中心とした「南部トラップ連合」とでも呼ぶべきネットワークが、2025年も健在であることがわかります。
彼らの強みは、単発のヒットではなく、コンスタントに曲を出し続け、お互いをフィーチャーし合うことで「シーンとしての厚み」を維持している点にあります。これは日本のヒップホップシーンにとっても参考になる部分かもしれません。
Central Cee──UKラップの存在感
7位に入っている「GBP」は、Central Ceeと21 Savageのコラボ曲。
Central CeeはロンドンのUKドリル出身のラッパーで、ここ数年で急速にグローバルな存在感を高めてきました。USのRapCaviarランキングにUKのラッパーが入ってくるのは、以前なら考えにくかったことです。これはヒップホップの「脱アメリカ中心主義」が進んでいる証拠とも言えます。Spotifyのようなグローバルプラットフォームの普及によって、USとUK、あるいはUS以外の国々の音楽が同じ土俵で戦えるようになった。
日本語ラップにとっても、これは希望のある話です。言語の壁はあるけれど、「良い音楽は国境を越える」という可能性が、少しずつ現実になってきています。
最も再生されたアルバム TOP 10──Cartiが示す「アルバムの新しい意味」
続いて、アルバムランキング。
|順位 |アルバム |アーティスト |
|:-:|——————-|——————–|
|1 |I Am Music |Playboi Carti |
|2 |$ome $exy $ongs 4 U|Drake, PARTYNEXTDOOR|
|3 |Dopamine |Lil Tecca |
|4 |Don’t Tap The Glass|Tyler, The Creator |
|5 |Am I The Drama? |Cardi B |
|6 |WHAM |Lil Baby |
|7 |I Hope You’re Happy|BigXthaPlug |
|8 |The Last Wun |Gunna |
|9 |More Chaos |Ken Carson |
|10 |Thy Kingdom Come |$uicideboy$ |
Playboi Carti『I Am Music』-「待たせる」の勝利
2025年のアルバムランキング1位は、Playboi Cartiの『I Am Music』でした。
これ、ちょっとすごいことなんです。というのも、Cartiはアルバムをほとんど出さないアーティストとして知られています。前作『Whole Lotta Red』から数年、ファンは「いつ出るんだ」「また延期か」とやきもきしながら待ち続けていました。でも、その「待たせる時間」が、逆にアルバムへの期待値を最大化させたとも言えそう。現代は、毎週のように新譜が出て、TikTokで15秒切り取られて消費されて、次の曲に移っていく時代です。そんな中で、「アルバムという単位」で勝負し、しかも勝つというのは、ひとつの新しいモデルなのかも。Cartiの音楽自体も、従来のトラップの枠を超えた実験的なサウンドが特徴です。「聴きやすさ」よりも「世界観」を優先する姿勢が、熱狂的なファンベースを生み出し、結果的にストリーミング数にもつながっている。
Drake & PARTYNEXTDOOR『$ome $exy $ongs 4 U』──R&B回帰の意味
2位はDrakeとPARTYNEXTDOORの共作アルバム『$ome $exy $ongs 4 U』。このアルバムは、Drakeのキャリアの中でもかなりR&B寄りの作品です。攻撃的なラップというよりは、メロウでセンシュアルな楽曲が中心。2024年のKendrickとのビーフを経て、Drakeは「戦うモード」から「自分の好きなことをやるモード」にシフトしたようにも見えます。これが戦略的な選択なのか、本当にやりたいことなのかはわかりませんが、少なくともリスナーには受け入れられた。「ラッパーはずっと戦い続けなければいけない」というのは、実は思い込みかもしれません。DrakeはDrakeのやり方で、自分の居場所を確保し続けている。それもまた、Drakeの魅力だと思います。
Tyler, The Creator『Don’t Tap The Glass』──「アーティスト」として認められること
4位のTyler, The Creatorは、もはや「ラッパー」というカテゴリに収まらない存在になっています。ファッションブランド「Golf Wang」のオーナー、「Camp Flog Gnaw」フェスティバルの主催者、そしてグラミー賞受賞アーティスト。音楽だけでなく、ビジュアル、ファッション、イベント、すべてを自分でディレクションする「総合アーティスト」としての地位を確立しています。『Don’t Tap The Glass』は、そんなTylerの「自分の世界観に入りたければ入ってこい」というスタンスが貫かれたアルバム。万人受けを狙わない、でも好きな人には深く刺さる。このアプローチがRapCaviarで4位に入るというのは、リスナーの成熟を感じさせます。
$uicideboy$──「アンダーグラウンドの星」がメインストリームへ
10位の$uicideboy$(スイサイドボーイズ)は、ニューオーリンズ出身のデュオで、ダークでヘヴィなサウンドが特徴です。退廃的な感じ。。
彼らは長年、メジャーレーベルに所属せず、SoundCloudやBandcampを中心に活動してきた「永遠のアンダーグラウンド」的な存在でした。それが2025年、RapCaviarのTOP10に入ってきた。これは「アンダーグラウンドとメインストリームの境界線がなくなってきている」ことの象徴です。ストリーミングの時代には、ラジオでかかるかどうか、テレビに出るかどうかは関係ない。聴かれた数がすべて。日本で言えば、同じような立ち位置のアーティスト──メジャーに属さず、でもコアなファンを持っている人たち──にとって、これは希望のある話ではないでしょうか。
最も再生されたラッパー TOP 10──「Drake vs Kendrick」の先にあるもの
最後に、アーティスト全体のストリーミングランキングです。
|順位 |アーティスト |
|:-:|————————–|
|1 |Drake |
|2 |Kendrick Lamar |
|3 |Tyler, The Creator |
|4 |Kanye West |
|5 |Future |
|6 |Travis Scott |
|7 |Playboi Carti |
|8 |Juice WRLD |
|9 |YoungBoy Never Broke Again|
|10 |$uicideboy$ |
DrakeとKendrick──「ポップ」と「アート」の二極
2025年もトップはDrakeとKendrick Lamarの二人。これは2010年代から続く構図ですが、改めて考えると面白い対比です。Drakeは、「共感」と「ヴァイブス」の人。恋愛、成功、孤独、感情の機微を、誰もが口ずさめるメロディに乗せて届ける。良い意味でも悪い意味でも「大衆的」であり、だからこそ世界一再生されるラッパーになった。Kendrick Lamarは、「メッセージ」と「アート」の人。社会問題、人種、内面の葛藤を、複雑なリリックとサウンドで表現する。「聴きやすさ」は二の次で、「考えさせる音楽」を作り続けている。
この二人が同時にTOP2にいるということは、リスナーが「どちらか一方」ではなく「両方」を求めているということでもあるのだと思いました。
Kanye West──「問題児」でも聴かれ続ける
4位にKanye West(Ye)がいるのは、ある意味で驚きであり、ある意味で当然でもあります。近年のKanyeは、反ユダヤ主義的な発言やさまざまな騒動で、多くのブランドとの契約を失い、メディアからも批判を受け続けています。それでも聴かれ続けている。
これをどう評価するかは難しい問題です。「アーティストと作品は分けて考えるべき」という意見もあれば、「作品を聴くことは人格を肯定することにつながる」という意見もある。ただ、事実として言えるのは、Kanyeの音楽が持つ影響力は、騒動によって消えていないということ。それがヒップホップという文化の懐の深さなのか、それとも問題なのか。考え続ける必要があるテーマです。
Juice WRLD──「故人」が聴かれ続けることの意味
8位のJuice WRLDは、2019年に21歳で亡くなったアーティストです。亡くなってから6年経った2025年にも、TOP10に入り続けています。筆者も依然として聞いてしまう。
これはストリーミング時代ならではの現象です。CDやレコードの時代には、故人のアーティストが「新しいリスナー」を獲得し続けることは難しかった。でも今は、プレイリストやアルゴリズムを通じて、「まだ生まれていなかった世代」にも届く。Juice WRLDの音楽が持つエモーショナルな力は、時代を超えて若いリスナーに刺さり続けている。これは悲しいことでもあり、美しいことでもあります。
YoungBoy Never Broke Again──「YouTubeの王」の実力
彼はラジオでほとんどかからない、テレビにもあまり出ない、でもYouTubeとストリーミングではとんでもない数字を叩き出す。「メディアに取り上げられなくても、ファンがいれば勝てる」ことを証明し続けている感じです。日本のアーティストにとっても、YoungBoyの成功は参考になります。「誰に認められるか」ではなく「誰に届くか」が大事な時代。メジャーの後ろ盾がなくても、戦える可能性はあるのかと。
日本のヒップホップにとっての示唆──「世界の中の日本語ラップ」を考える
ここまでRapCaviar 2025のランキングを見てきましたが、最後に日本のヒップホップシーンを考えてみます。
グローバルプラットフォームが「土俵」を平らにしている
Spotify、Apple Music、YouTubeといったグローバルプラットフォームの普及によって、「どこの国のアーティストか」という壁は低くなっていると思いませんか。Central CeeがUSのランキングに入ってきたように、言語や国籍の壁を越えて聴かれるチャンスは確実に増えている。日本語ラップがグローバルに広がる可能性も、ゼロではありません。
実際、Spotify Japanのプレイリストでは、海外のヒップホップと日本語ラップが並んで配置されることが増えています。「日本語だから聴かれない」という時代は、少しずつ終わりに向かっているのかもしれません。
「アルバム単位」で勝負することの意味
Playboi Cartiの成功が示しているのは、「アルバムという単位」で世界観を作り込むことの価値です。日本のアーティストは、どうしても「シングルを出して、TikTokでバズって、次のシングル」というサイクルに追われがちです。でも、コアなファンベースを作り、長く聴かれ続けるためには、アルバムという「作品」を作る意識も大切なのかもしれません。たとえばAwichの『THE UNION』や、PUNPEEの『MODERN TIMES』のように、アルバム全体で世界観を提示する日本語ラップ作品は、海外のリスナーにも「アーティストとして」認識されやすい傾向があります。
「ニッチだけど深い」が武器になる
$uicideboy$がTOP10に入ったことは、「万人受けしなくても、深く刺さればメインストリームに届く」そういうことだと思います。日本語ラップは、言語の壁もあって、どうしてもグローバルでは「ニッチ」な存在です。でも、ニッチだからこそ、そこに深くハマる人を作れれば。。。
KOHHが海外のヒップホップファンから支持を集めたのも、まさに「ニッチだけど深い」路線でした。言語がわからなくても、フローとエモーションで刺さる。そういう突破口は、確実に存在しています。重要なのは、「薄く広く」ではなく「狭く深く」。その「深さ」をどう作るかが、日本のアーティストにとっての課題であり、チャンスでもあります。
まとめ:2025年のヒップホップは「多様性」と「深さ」の時代へ
RapCaviar 2025のランキングから見えてきたのは、以下のようなことでした。
楽曲ランキングでは、Kendrick Lamarが1位を獲得し、「リリックの力」が再評価されている兆しがある。一方でDrakeも健在で、Lil Baby、21 Savage、Travis Scottら南部勢の存在感も強い。
アルバムランキングでは、Playboi Cartiが1位を獲得し、「待たせる美学」「世界観で勝負する」というアプローチが有効であることが示された。Tyler, The Creatorや$uicideboy$のように、万人受けを狙わないアーティストも上位に入っている。
アーティストランキングでは、DrakeとKendrickがTOP2を占め、「ポップ」と「アート」の二極が共存している。Juice WRLDのように故人が聴かれ続ける現象や、YoungBoyのように従来のメディアを介さずに成功するケースも目立つ。
ヒップホップは2025年も進化し続けています。一つの正解があるわけではなく、いろんなやり方で勝てる時代になっている。
それは日本のヒップホップにとっても同じこと。Awich、PUNPEE、KOHHのように、自分たちの「強み」と「深さ」を見つけて、磨いていく。その先に、グローバルへの道が開けているかもしれません。
【E-E-A-T:著者情報・編集方針・出典・免責】
この記事の著者 Cook Oliver
日本語ラップと世界のHIPHOPシーンを橋渡しする音楽メディア「HIPHOPCS」の編集チーム。チャート分析、現場取材、アーティストインタビューを通じて、データと文化的文脈の両面からHIPHOPを追い続けています。 – 運営サイト:[HIPHOPCs](https://hiphopnewscs.jp) –
編集方針
1. 公式データを参照し、客観的な情報を提供します
1. 文化的考察:単なるランキング紹介ではなく、その背景にある文化的意味を考察します
1. 日本との接続:グローバルなトレンドを、日本のヒップホップシーンの文脈で読み解きます 出典 – Spotify公式プレイリスト「RapCaviar」2025年ランキング – 各アーティストの公式情報
- 免責事項 – 本記事はストリーミングデータを基にした分析であり、筆者の意見・解釈を含みます – ランキングデータは記事執筆時点のもの
記事情報 – 公開:2025年12月12日 – 最終更新日:2025年12月12日 –
