Kianna, Siero, Yog*「goldenblue」歌詞を読む 「I don’t like Tokyo」の後に、二つの「けど」が来る
東京が嫌いだ、と言う。そのすぐ後に「けど」が来る。
Kianna(キアナ)、Siero(シエロ)、Yog*(ヨグ)の「goldenblue」には、東京への二つの答えがある。フックでは「けどmove」。終盤のヴァースでは「けど好きだ」。ところが、好きだと口にした後にも、曲は嫌いだと言うフックへ戻る。東京で暮らす気持ちは、一度の言い直しでは片づかない。
2026年10月7日配信、3分40秒。スペースシャワーネットワークの発表によると、KiannaとSieroが出演するPOP YOURS初のツアー『Golden Age Tour』の開催に合わせて企画された曲だ。トラックはKiannaとLudioが手がけ、ミックスにはwxstepainとKianna、マスタリングにはwxstepainがクレジットされている。
| 配信日 | 2026年10月7日 |
|---|---|
| 名義 | Kianna, Siero, Yog* |
| 曲の長さ | 3分40秒 |
| 収録 | 1曲入りシングル |
| 作詞 | Kianna、Siero、Yog* |
| 作曲・プロデュース | Kianna、Ludio |
| ミックス | wxstepain、Kianna |
| マスタリング | wxstepain |
| 権利表記 | © ℗ 2026 Mary Joy Recordings |
一人で出る。記憶も持っていく
曲の最初に置かれるのは、足並みをそろえず出発する言葉だ。
いっせーのしないで今一人で行くよ
三人の名前が並んだ曲が、一人で行くという宣言で始まる。誰かと組むことと、誰かの合図を待つことは別なのだろう。周囲から好かれているかどうかも、出発の条件にはしていない。
冒頭の短いフックに続いて最初のヴァースがあり、その後に戻るフックでは、嫌なものや汚いものにまで手を伸ばす言葉が加わる。そこで東京への態度が出てくる。
I don’t like Tokyo,けどmove
今日も
好きだから動ける、とは言わない。街への不満を抱えたまま、今日の動きを止めずにいる。その後には、消したい記憶も持っていくという言葉が続く。新しい場所へ出れば過去をきれいに置いていける、という旅立ちではない。夢も記憶も持ち歩き、東京へ戻ってくる。その身軽になりきれなさが、このフックには残る。
ヘイターにも、明日の生活がある
最初のヴァースには、Spotifyの歌詞表示で「SIERO THE GOAT」と記されている。ここからのSieroの言葉は、生まれてから死ぬまでを大づかみにしたかと思うと、急に目の前の予定へ近づく。
資格勉強 バイト 受験
支払い期限 仕事 人間関係
勉強も仕事も、誰かとの関係も、別々の話にせず並べる。この列挙の後でヘイターを責める動機がないと言うのだから、単に相手を圧倒して勝つヴァースにはならない。
悪口を言う相手にも暮らしがある。生活の隙間に誰かを罵り、その後は食事をして、明日のために眠る。そんな場面が続く。攻撃してくる人間を特別な敵として大きく描かず、自分と同じように日々を送る人として見る距離がある、と読める。許すと言い切るのでも、やり返すのでもない。相手の日常まで思い浮かべたら、責める理由が薄れていく。
続いて様々な人を並べ、誰が場違いなのかと問う。誰かを街の外へ追い出すための問いというより、そもそも誰にその線が引けるのか、という問いに感じられる。東京の居場所をめぐる話が、ヘイターへの態度とつながっている。
20歳になる頃にこの街へ住みたいと思った記憶のそばには、『AKIRA』の名前もある。作品名が一つ入るだけで、目の前の生活とは別の東京、かつて思い描いた街の像がのぞく。ここでも、いまの不満だけで街を語り切ってはいない。
BATICAは記憶、幕張は「いつか」
その憧れの大きさを、次の二行が会場の広さに置き換える。
初め広かったBATICA
いつか幕張でも足りない
BATICAは恵比寿のクラブだ。最初は広く見えた場所と、いつか足りなくなるほどになりたい場所。その二つの間に、これまでの記憶と、これからの願いがある。過去形で振り返る一行目から、「いつか」と先を見る二行目へ。会場を二つ挙げるだけで、時間まで動く。
POP YOURSが幕張メッセで開催されてきたことを重ねると、ツアーに合わせたこの曲で幕張を挙げる意味も大きくなる。フェスの会場さえ足りなくなるほどの未来へ、想像を伸ばしているようだ。
その先では、乏しかった財布と、親に金を渡しに帰る実家が描かれる。舞台の大きさを語ったばかりの言葉が、家族との距離へ戻ってくる。金をいくら手にしたかだけでなく、それを持ってどこへ行くのか。成功の像が、会場と実家の二つの場所にまたがっているのがいい。
ヴァースの終わりでは先の計画に触れながら、目先のことに必死だった過去も振り返る。未来を見る視線のそばで、古い記憶がまぶしくなる。前へ進むほど過去が薄くなる、という一直線の成長物語には収まらない。
それを「苦労」とは呼ばない
二つ目のヴァースには、まだ行ったことのない国へ向かう願いが出てくる。生きているうちにやりたいことがある、という切迫した言葉の後で、こう言い切る。
苦労とか一度もしてねえ
全部やりたいからやってるだけ
前のヴァースが日々の負担を並べたのに対して、こちらでは自分の選択として引き受ける。生活に揉まれる感覚と、好きでやっているという意思。一曲の中で隣り合う言葉は、同じ暮らしを語るときにも、何を強く言いたいかで見え方が変わることを感じさせる。
やりたいからやっている。それだけで生活の重さがなくなるわけではないが、苦労話を成功の証明に使わない姿勢は鮮明だ。先に苦労を認めてもらい、そこから自分の価値を説明する順番を取らない。
金についても、後からついてくればいいという位置に置く。その先で問うのは、成功した後に何があるのかということだ。未知のものへの関心が残っているので、金を得ることだけでは話が終わらない。これは貧しさを選ぶ宣言というより、自分の中身と、後から得るものの優先順位を決める言葉として読みたい。
東京の、誰を思い出すか
終盤のヴァースでは、朝早い移動の記憶に続き、バイトを辞めた現在とタクシーが出てくる。最初のヴァースでは日々の負担の一つだったバイトが、ここでは以前の暮らしを示す言葉になる。仕事と移動の描写を通じて、生活の変化が見えてくる。
そして、東京へのもう一つの答えが来る。
I don’t like Tokyoけど好きだ
仲間達と友達
矛盾をほどく手がかりは、すぐ後にある仲間の言葉だ。大切な相手と行った街の記憶も続く。街全体に満足していなくても、そこで過ごした時間までは嫌いになれない。東京への好意は、街の評判や便利さよりも、顔の浮かぶ人たちと結びついているように読める。
この後には、これからここを好きになるという未来形も残る。すでに好きなところと、まだなじめないところがあるのだろう。嫌いから好きへ一度で切り替わるなら、この先の時間は要らない。街が少しずつ自分を作るものになっていく、その途中の言葉だ。
最後のフックは、もう一度東京が嫌いだと言う。終盤の好意を取り消したと読むより、両方の気持ちを抱えたまま戻ってきた、と受け取りたい。仲間や記憶ができても、嫌なことはなくならない。それでも今日動く、という言葉には、最初とは違う厚みが生まれる。
『Golden Age Tour』と、Kianna「LA」の先
『Golden Age Tour』は、2026年10月10日に大阪のGORILLA HALL OSAKA、11月3日に東京のZepp Shinjukuで開催予定。発表されている出演者はAOTO、HARKA、Jellyyabashi、Kianna、Siero、27AMで、10月7日の主催者発表では両公演とも完売となっている。
主催者は、9月30日に配信されたHARKAとGam Ballの「MVP」に続く曲として「goldenblue」を紹介している。三人のうちKiannaとSieroが発表済みのツアー出演者に名を連ねる。曲では同じ東京を見ていても、一人ひとりの言葉はきれいに一つへそろわない。その違いを残して並ぶところに、この共作の面白さがある。
Kiannaが9月18日に出した『Instinct』の「LA」も、街と自分の距離を歌った曲だった。HIPHOPCsの既評では、上空から見た街とエコノミー席、グラミーへの願い、稼ぐときに関わる相手の選び方を取り上げている。遠い街で見る夢と、いま暮らす街で抱えるもの。二曲を並べると、成功への願いが日々の移動や生活の言葉にどう表れるかを比べられる。
「goldenblue」の東京には、憧れた街も、疲れる生活も、大切な人のいる場所も重なっている。どれか一つを選んでほかを捨てることができないから、「けど」の後ろに言葉が続く。好きになり切るのを待たず、嫌いだという理由だけで去りもせず、今日を動いている。
出典
- Spotify「goldenblue」:配信日・再生時間・収録形態・権利表記。歌詞は同サービスのプチリリ提供表示(2026年10月7日参照)。
- スペースシャワーネットワーク(2026年10月7日):企画の経緯、制作クレジット、ツアーの日程・出演者・完売情報。
- YouTube「Kianna – Topic」goldenblue:作詞・作曲クレジット。
- POP YOURS公式X:配信告知・制作クレジット(2026年10月7日、日本時間)。
- POP YOURS『Golden Age Tour』公式サイト:出演者・公演案内。