BES×金勝山『HOT JOINT』インタビュー|「思ってたよりもめっちゃBESでした」
イナタイの最前線。地元でパーティを続け、若いラッパーには「さっさと成功しろ」と声を掛ける。40歳になった金勝山は、自分のラップについて「今の方が鋭いです」と語る。
金勝山(KINGSHOWZAN)が20歳の頃、桐生の洋服屋「HOT JOINT」で受け取ったSCARSの『THE ALBUM』。そのCDで聴いたBESと、2022年には「Never go away」で初めて共演した。自分のパートを自宅で1000回録ったと、金勝山は振り返る。
2026年9月23日に発表したジョイントEP『HOT JOINT』では、4曲を一緒に作った。全曲のプロデュースは小柴雄二郎。熊谷からTIPとDJ MINEも参加し、EPのタイトルには、かつてCDを受け取った店の名前を選んだ。
出会いと、2022年の初共演
Rei:まず、お二人が初めて直接会った日のことを教えてください。お互いの第一印象は覚えていますか?
金勝山:2012年だったと思います。熊谷のLagoonというクラブで僕が主催していたイベントに、BESさんが急遽ライブをしてくれることになって、その時に初めてお会いしました。A-THUGさんやSTICKYさんなどSCARSの面々と来てくださって、DJ MUNARIさんも遊びに来てくれました。神回だった記憶です。
BESさんの第一印象は、間近で観たライブの感動です。「SHOW TIME FOR LIFE」がかかったんですけど、BESさんのヴァースになる前にSTICKYさんが音を止めちゃって。あの時の驚いた顔のBESさんが印象的でしたし、その曲が一番好きなので、マジで聴きたかったです。
BES:イケメンだなあと思いました。
Rei:金勝山さんは、20歳の頃にHOT JOINTでもらったSCARS『THE ALBUM』や、BESさんの『REBUILD』のインタビューに大きな影響を受けたそうですね。実際にBESさんと曲を作ることになった時、昔の自分を思い出す瞬間はありましたか?
金勝山:昔、自分が受けた衝撃を思い出します。初共演は4年前の「Never go away」なので、その時のことを話しますが、自分のパートは自宅で1000回のレコーディングをしました。
「あのBESさん」と共演するわけですから、真の実力が問われる挑戦です。長期間準備をして、当日のレコーディングに挑みました。「ノリ」でやるとか、出たとこ勝負とか、無理ですね。
絶対に成功させるために、渾身のワンヴァースを完璧に体に叩き込んでブースインしました。結果、昔自分が受けた衝撃の波に乗ることができました。
Rei:BESさんは、最初に金勝山さんのラップを聴いた時、どこに惹かれましたか?
BES:人間味のある人だなあと思いましたよ。
Rei:これまで数多くのラッパーと曲を作ってきたBESさんが、「この人とは一緒に作品を作りたい」と思うラッパーには、何が必要だと思いますか?
BES:楽しくお金を生み出す。何と言いますか、曲に対しての生みの苦しみは当然のことで、その先のことですかね。
『HOT JOINT』の制作と、BESの「職人技」
Rei:今回は1曲の客演ではなく、4曲のジョイントEPになりました。最初からEPを作るつもりだったのでしょうか。それとも、制作する中で自然に曲が増えていったのでしょうか?
金勝山:最初からEPを作るつもりで、BESさんにオファーをさせていただきました。僕はこの2年間で、EPとシングルを合計10作リリースしました。その集大成として、BESさんとのジョイントEPを作りたかったんです。
BESさんは日本のラップ界のレジェンドです。一皮二皮剥けないと形になりません。自分を剣だと思って、炎の中、水の中にぶち込みました。
BES:ジョイントEP的な感じで、お話をいただきました。
Rei:実際の制作は、どちらかが先にヴァースを書いて相手が返す形だったのか、それとも同じ空間で作っていったのか。スタジオでの様子も含めて聞かせてください。
金勝山:僕が先に仕上げたヴァースをBESさんに送って、書いていただきました。ビート、テーマ、構成、タイトルの選定は僕の担当だったので、あとはBESさんが最高のヴァースをぶちかましてくれれば完璧、という形で制作を進めました。
「Never go away」の時も同じ流れでした。あの時は僕がスタジオに着いたら、もうBESさんのレコーディングは終わっていたので、今回初めてレコーディング風景を見たんです。
BESさん、3テイクくらいですぐ終わるんですよ。
声めっちゃでかいし、ラップめっちゃうまいし、声の被せ方も型が完璧だし、思ってたよりもめっちゃBESでした。
職人技。ラッパーってこういう人のことを言うんだなって思いながら、モニターを見てましたね。レコーディングの合間はずっと穏やかに面白い話をしてますし、隙がない「プロ」でした。学びしかなかったです。
エンジニアのI-DeAさんには鳥取から来ていただいて、すげー作品になりそうだなって、ウキウキしたのを覚えていますね。だって、BESとI-DeAのゴールデンコンビの戯れまで付録で付いてくる作品ですので。制作も有意義な時間がたくさんありました。
BES:僕は後からヴァースを入れました。
Rei:お互いのヴァースを初めて聴いた時に、「これは負けられない」と思った瞬間はありましたか?
金勝山:BESさんのヴァースに対して「これは負けられない」と思った瞬間はなかったです。自分のポテンシャルはすべて出し切った自負はありますので。
強いて言えば、「俺のヴァースを聴いてもらって、BESさんのやばいヴァースを引き出したら俺の勝ち」みたいなことで、作曲という勝負に負けられないと思っていたところはあるかもしれません。
だから、どんなやばいヴァースが録音されるのかが楽しみでしたね。勝敗で言ったら圧勝ですね。BESさんのヴァース、めちゃくちゃかっこいいです。
BES:そういう観点からではなく、お互いの良いところがうまく出ればいいと思い描きました。
Rei:4曲とも小柴雄二郎さんがプロデュースしています。同じプロデューサーで一作品を通した理由と、ビートについてどんな話をしたのか教えてください。
金勝山:僕がこの2年でリリースした作品はすべて、1作品1プロデューサーで完結しています。今作はその企画の集大成として、小柴さんにフルプロデュースをお願いしました。
ビートについては、フローが映える曲、I REPな曲、マイライフな感じの曲、フッドの未来を歌う曲という4曲でやりたいと伝えて、15〜20曲ほど聴かせていただいて、その中から決めました。
Rei:BESさんは、SCARSやSWANKY SWIPEの音楽を聴いて育った次の世代と、今こうして一緒に曲を作ることをどう感じていますか?
BES:嬉しいことにつきる! ですかね。
Rei:金勝山さんは、かつてリスナーとして聴いていたBESさんと実際に制作してみて、イメージと一番違ったところは何でしたか?
金勝山:気さくで面白いところです。自虐の天才というイメージですね。BESさんがそれを言ったら笑うしかない、みたいなことを言って笑わせてきます。
あとは逆に、締めるところはきちんと締めるプロなところですね。そういうオンオフも含めて、依頼して良かったなと思えたのは、20歳の時に聴いていたBESさんのイメージとはまた違った衝撃がありましたね。
金勝山が語る『HOT JOINT』の4曲
Rei:「GOOD DAY」「Myself」「GUESS WHO’S BACK」「HOT JOINT」。この4曲には、それぞれどんなストーリーがありますか?
「GOOD DAY」
金勝山:「GOOD DAY」は、朝に仕事へ向かう車の中で聴いたら気分が良くなる曲をイメージして作りました。ポジティブな曲にしたかったですね。
埼玉の東秩父村でレストランを経営している地元の後輩たちがいるんですが、その3人の出勤風景をイメージして作りました。いつもニコニコしてて、気持ちがいい3人なんですよね。
僕のイベントにフード出店してくれたり、彼らの店舗でライブしたり、今も付き合いが深いんです。社長の名前をヴァースにドロップしてます。
聴いてくれた方が、今日も頑張ろうかなと思ってくれたら本望です。
「Myself」
金勝山:「Myself」は、虚飾に満ちた他者の自己顕示や嘘に惑わされるな、自分の心の声を聴け、という曲です。
ゴールドチェーン、高級車、邸宅、お金、権力、他者からの承認は大切だし、楽しいです。資本主義、物質主義はHIPHOPの醍醐味の一つだと思ってます。
ただ、SNSを使って注目を集めるためだけの中身のない動画とか、お金のために浅はかな発信をして収入を得ることを是とする時代の風潮は、もう終わりになると思います。
「本質」が伴っていない人やものは淘汰されていくと思います。ここ最近、異なる領域で同じような話をよく耳にします。
SNSで醜態を晒して、金に心を握られた自称アーティストなんかとは関わらなくていいんです。僕たちは自分に嘘をついている醜い人種ではありません。
この曲を作ったのは1年以上前なんですが、惑わされず自分の尊厳を高く保ち、混沌とした狂った時代を真っ直ぐ歩く指標として作りました。
「GUESS WHO’S BACK feat. DJ MINE」
金勝山:「GUESS WHO’S BACK」は、自らをネクストフェーズに持ち上げた自己啓発曲です。
wannabeはもう終わり。
理想や夢に向けてもがいている自分を美化してしまっていて、現実が一向に進化しない時間が長かったんです。「お前はそんなこといつまでやってるんだい?」と、自分に問いかける曲を作りました。
「Never go away」を書いて、勤めていた会社を辞めました。「GUESS WHO’S BACK」は、お金の稼ぎ方を変え、音楽で生計を立てると決めて書きました。
書いたリリックは現実化します。
フックでは、熊谷の尊敬する先輩、DJ MINEさんにスクラッチをお願いしました。
こんな感じでやってほしいと簡単な指定をさせていただくんですが、毎回必ず僕の予想を超える仕上がりにしてくれます。
お互いの信頼関係が構築されているなと思える人なので、ここぞというタイミングで声を掛けさせていただいております。
「HOT JOINT feat. TIP」
金勝山:「HOT JOINT」は、フッドの将来を歌った曲です。
TIPさんとは一緒に曲をやろうと数年前から話していましたが、なかなか良いビートに出会えませんでした。EPの企画が進んできて、このビートに出会った時に「この曲だ」と思い、お声掛けさせていただきました。
HOT JOINTとは、桐生にあった洋服屋さんの店名です。HIPHOP好きが集まる地元のアンテナショップでした。
後に今のレーベルの社長がお店のオーナーになったのですが、僕と社長が出会うきっかけを作ってくれたのがTIPさんでした。
僕は埼玉出身ですが、20代は桐生に住んでいました。20代後半で一度街を出ましたが、音楽をするために戻ってきました。そして、この街に何か貢献したいと思い、桐生や群馬のHIPHOPシーンに向けてリリックを書きました。
TIPさんは常に熊谷のシーンの先頭に立っていました。TIPさんにしか歌えないメッセージがあると思うので、それを乗せてほしいとお願いしました。
BESさんのサビで熊谷と桐生がつながり、全国のローカルで根を張って地元の文化を守っている同志たちに届くといいなと思っています。
YOUNG CHILD監修のミュージックビデオも激渋です。
若いラッパーへ、「さっさと成功しろ」
Rei:金勝山さんは「HOT JOINT」を「フッドに捧げる一曲」としています。今、「フッドに還元する」とは、具体的にどういうことだと考えていますか?
金勝山:今作で言う「フッドに還元する」とは、その土地の若いアーティストへのメッセージを意味しています。
僕は今年で40歳になりました。25年以上ラップをしています。あの時こうしていればとか、あそこで逃げなければとか、そういう思いがたくさんあります。
これだけ長くラップをしてきて、いまだにラップで生計が立つほどの稼ぎは得られません。これはおかしな話です。何かが大きく間違っていたんだと思います。僕の場合、時間はかかりましたが、経済面の成功は必ずします。
自分の経験から、若手はもっと早く成功することができると思ってます。余計なことは言いませんが、ターニングポイントでちゃんと背中を押してあげたり、経験を曲にしたりして、「さっさと成功しろ」と伝えていくことを「フッドに還元する」と捉えています。
Rei:HOT JOINTという場所自体は火災によって閉じています。それでも、そこにあった文化は人を通じて残っている。この作品を作って、場所がなくなったあとも残るHIPHOPとは何だと感じましたか?
金勝山:あの時、あの場所で、同じ時間を共有した人間たちのつながりだと思います。
当時の僕は、そこにいる人たちから「かっこいい」とはどういうことかを学んでいた時期で、日々HIPHOPを感じ取って生きていました。
今、桐生にはGOOD LIFE CAFEというBARや、MOESという服屋があります。以前HOT JOINTで僕が感じていたことが、今は別のカルチャースポットで引き継がれています。
「かっこよさを引き継いでいく」というのが、地元や土地に根付き、残っていくHIPHOPなんだと思います。
BES:いい曲はいいし、人がどう感じていただけるか? ですかね。
「今の方が鋭いです」
Rei:若い頃とは違う人生経験を重ねた現在も、マイクを握り続けています。20代の頃と今では、「ラップに本当のことを書く」という意味は変わりましたか?
金勝山:変わりました。今の方が本当のことを書けてますし、今の方が鋭いです。
昔はもっと力んでました。「こうじゃなきゃいけない」とか「こういうのはダサい」とか、そういう観念に囚われながら存在していた気がします。
昔は自信がありませんでしたが、今は自分に自信があります。その分、脱力できていて自然体になりましたが、信念は変わらず鋭利です。
歳を取って「丸くなる」感覚とは違っていて、若い頃と比べて迷いも恐れも消えていますし、角が取れた分、持ちやすいですし、鋭利に突き刺さりますので。格段に殺傷能力は上がっていると思います。
Rei:今、日本のHIPHOPは以前より大きなマーケットになりました。一方で、お二人の作品には地元や仲間、実体験といったローカルなものが強く残っています。HIPHOPが大きくなった今だからこそ、失いたくないものは何ですか?
金勝山:パーティやイベントを続けることです。その気持ちや行動力は持ち続けたいです。
地方だと、クラブやイベントで遊ぶ人間って本当に限られてます。群馬の場合、県内のどこでイベントを開催しても、大体同じメンバーがいます。そのくらい限られた人間しかクラブには来ないんです。
でも、それを無理に増やそうとしなくてもいいと思うんですよね。かっこいいことを続けていくことが大切なんだと思います。
マーケットが大きくなったのは、HIPHOPがかっこいいことが認知されただけのことです。他人からの評価のためにダサいことをするのではなく、そのタイミングが来るまで、自分たちが「イケてる」と思うことを自信を持って続けていることが大事ですし、こんな軽々しい時代だからこそ、その気持ちを失いたくないです。
SNSの動画編集や楽曲編集でそれっぽいものを作って、「俺すごい」みたいなことを言う人がいますが、「現場」でかっこいい人、そこにいるだけで他者から慕われる人が、今も昔もHIPHOPなんだと思います。
少しずつでいいから、その輪を大きくしていくアクションを取り続けていきたいです。
BES:地元より、03地区Big up! 忘れたくないものは初心的な! です。
(編集部注:「03」は東京の市外局番)
20歳の自分へ
Rei:最後に、20歳の頃、HOT JOINTでSCARSのCDを受け取った金勝山さんに、今から言葉を伝えられるとしたら、何と言いますか?
金勝山:「そのままだと、お前が思っているよりもかなり時間がかかるぞ。お前はもともとかっこいいから、そのままで大丈夫だ。自信を持て。はっきりと目標を決めて、5年でここまで来い」と言います。
Rei:なるほど。今回はありがとうございました!
作品情報・出典
金勝山&BES『HOT JOINT』(2026年9月23日/BONSHOTTA BROS.)
収録曲:1. GOOD DAY/2. Myself/3. GUESS WHO’S BACK feat. DJ MINE/4. HOT JOINT feat. TIP
クレジット:Producer 小柴雄二郎/Director YOUNG CHILD(「HOT JOINT feat. TIP」)、ナベプロ(「Myself」)/Jacket Design 安中屋
各配信サービス / 「HOT JOINT feat. TIP」MV / 公式サイトの作品紹介
作品区分について:配信元のTuneCore Japanでは「Album」として登録されている。本記事では、本人たちの呼び方に合わせて「ジョイントEP」と表記する。
クレジット表記について:プロデューサーの正式な表記は「小柴雄二郎」。金勝山公式サイトの『HOT JOINT』のクレジットには「小柴 雄次郎」とあるが、本記事は編集部で確認した表記に合わせた。TuneCore Japanの配信紹介にも「小柴雄二郎」と記載されている。
金勝山「Never go away Featuring BES」(2022年7月29日)
クレジット(公式サイトより):Prod. 小柴 雄二郎/Mix, mastered by I-Dea/Dir. YOUNG CHILD
各配信サービス / MV
HOT JOINTとGOOD LIFE CAFE
金勝山の公式作品解説によると、桐生の店「HOT JOINT」の地下にはクラブ「LEVEL-5」があり、パーティ「GOOD LIFE CAFE」が開かれていた。のちにBONSHOTTASが店を引き継ぎ、3階にはスタジオも作られた。店とスタジオは火災で閉じたが、GOOD LIFE CAFEの名は桐生駅前のBARに残っている。
TIPとDJ MINE
熊谷のMUSASABIのメンバーであるTIPのソロEP『メビウスの輪』(2017年)には、DJ MINEが「軍鶏」のスクラッチで参加している(CRIB RECORDS/WENOD RECORDS)。TIPは「DAY DREAM」でA-THUGとも共演している(TuneCore Japanのプロフィール)。DJ MINEは金勝山の『TRAINING DAYS』(2021年)収録曲「Monkeys down」にも参加(公式クレジット)。
BESの作品
SCARS『THE ALBUM』、SWANKY SWIPE『Bunks Marmalade』はともに2006年発表。初のソロアルバム『REBUILD』は2008年にリリースされた(Manhattan Recordingsのプロフィール)。
取材を読んだあとに
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