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Producer Tagは「音の落款(らっかん)」|Hip-Hopはいかにプロデューサーの名前を音に刻んできたのか

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Instagramで「HOW MANY PRODUCER TAGS DO YOU KNOW?」という、Producer Tag(プロデューサー・タグ)を次々と紹介する一本の動画が流れてきた。

Tay Keith、Turbo、Murda Beatz、London On Da Track、Young Chop、Wheezy、DJ Mustard、etc。

顔や名前を見る前に、ほんの数秒の声を聞いただけで「あ、この人だ」と分かる「アレ」だ。

そこでふと思った。

Producer Tag(プロデューサー・タグ)って、日本でいうと何なんだろう。

最初に浮かんだのは「屋号」だった。でも、少し違う。

屋号は「名前」そのものだ。

しかしProducer Tagは、完成した作品の中に「これは自分の仕事だ」と残す印でもある。それなら、もっと近いものがある。

落款(らっかん)だ。

書家や画家が作品に自らの印を残すように、Hip-Hopのプロデューサーはビートの中に「音の印」を残す。

Producer Tagとは、いわば「音の落款」なのではないか。

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書家や画家が作品に残す「落款」

落款(らっかん)とは、「落成款識(らくせいかんし)」の略。書や絵画が完成した際に、作者が名前や雅号などを書き入れたり、印を押したりすること、またはその署名や印そのものを指す。

単なる「印鑑・ハンコ」ではない。

京都国立博物館は落款を、作品完成の記念に書き入れる署名という意味で説明している。また中国では印章そのものに2000年以上の歴史があり、書画では作者の名前を示すだけでなく、赤い印が作品の構図を彩る視覚的要素としても使われてきた。

さらに興味深いのが「隠し落款」である。

中国の宋代には、岩肌など作品の一部に紛れ込ませるように作者名を記す手法も盛んに行われていたという。署名でありながら、作品そのものにも溶け込んでいる。

そう考えると、Hip-HopのProducer Tagとの共通点が見えてくる。

曲の外側にクレジットを書くのではない。

作品そのものの中に、自分の名前を刻む。

紙と墨が、ビートと声に変わったのだ。

Producer Tagのルーツを辿るとDJ文化に行き着く

ではProducer Tagはいつ始まったのだろうか。

実は「最初にProducer Tagを使った人物」は、はっきりしていない。

DJ Boothもこの起源を調査しているが、Darkchild、Pete Rock、Jermaine Dupri、DJ Clueなど複数の名前が候補に挙がり、明確な一人には辿り着いていない。

ただし、そのルーツはProducer Tagが一般化する以前のHip-Hop文化に見ることができる。

Producer Tagの前史には、DJがmixtapeやラジオで自身の存在を示すために使った「DJ drop」がある。アーティストからのshout-outなどを録音した短い音声をmixに挿入し、「誰のmixなのか」を耳で分からせる手法だ。

1980年代からDJたちは、自分の名前を知らせる「drop」をmixの中に入れていた。1990年代になるとDJ Kid CapriやDJ Clueらのmixtapeでも、DJ自身の名前や声が曲の中に繰り返し登場する。

「これは誰のmixなのか」を、音そのものに記録していたのである。

つまりProducer Tagは突然生まれたというより、DJの名乗り → mixtapeのdrop → Producer Tag

というHip-Hop内部の文化の延長線上にあると考える方が自然だ。

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「Just Blaaaaze!」はどう生まれたのか

2000年代に入ると、この「名乗り」はプロデューサー自身の署名として、よりはっきりした形を持ち始める。

その代表例の一人がJust Blazeだ。

Just Blazeの名前自体は、それ以前にもAmilやCam’ronらの声によって楽曲に登場していた。2002年のCam’ron『Oh Boy』では、Cam’ronが口にした「Just Blaze」という声を曲頭に移して使用している。

そしてJoe Buddenの2003年のヒット曲『Pump It Up』で、現在広く知られる本人の声による「Just Blaaaaze!」が生まれた。

Just Blaze自身は、もともとレコード上で喋ることが好きではなかった。しかし、Buddenの歌い方をからかって低い声でふざけていたところから、あの独特な「Just Blaze」の言い方が生まれ、そのまま曲頭に入ることになった。

今ではプロデューサーを象徴するTagの一つだが、その始まりは、スタジオでの偶然のやり取りだったのである。

ここにはProducer Tagの重要な意味が見える。

プロデューサーの名前が、曲の外のクレジット欄から、曲の中へ入ってきたからだ。

デジタル時代、「署名」はウォーターマークにもなった

Producer Tagにはもう一つ、非常に実用的な役割がある。

ビートを守ることだ。

インターネット上でビートを送り、販売し、共有する文化が拡大すると、制作者の手を離れた音源が無断で使用されたり、誰が作ったのか分からなくなったりする可能性も高まった。

そこでTagは、画像に入れる透かしと同じようなaudio watermark(音声透かし)として機能する。

「これは自分のビートだぜ!」。

と、その証拠をビートそのものに入れてしまうわけだ。

Producer Tagが2000年代後半から2010年代にかけて急速に一般化した背景には、Trapの台頭だけでなく、こうしたデジタルでのビート流通もあったと指摘されている。

ここでも「落款」との類似が面白い。

落款も作者を示し、作品の真正性や制作年代を考える手掛かりとなる。Producer Tagもまた、誰の作品なのかを音の中に残すからだ。

「署名」から「ブランド」へ

だがProducer Tagは、盗用防止のためだけには留まらなかった。

やがてTagそのものがプロデューサー自身のブランドになっていく。

Lil Wayne『A Milli』の冒頭で聞こえる、Bangladeshの特徴的なTagもその代表例だ。The FADERは、デジタル制作環境の普及と作品を識別する必要性がTagを一般化させ、それがプロデューサー自身をスターへ押し上げる一因になったと指摘している。

つまり、署名 → 所有の証明 → ブランディングへと意味が広がっていった。

そして2010年代、Metro Boominの時代になると、さらにもう一段階進化する。

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Metro Boomin:Tagそのものが曲の「見せ場」になる

Futureの声による、

「If Young Metro don’t trust you…」

というMetro Boominの有名なTag。

その元になった言葉は、MetroがプロデュースしたUncle Murda『Right Now』のセッションでFutureが発したものだった。

Metroによると、完成曲で使われたテイクとは別の声のトーンがセッションに残っており、それを後から抜き出してTagとして使用したという。Drake & Future『Jumpman』では、ラップが録音される前からすでにビートにそのTagが入っていた。

そしてKanye Westの『Father Stretch My Hands Pt. 1』。

ここではTagはもはや「誰が作ったか」を知らせるだけのものではない。あの声が流れ、その直後にビートが爆発する。

Tagそのものが、曲の演出になっている。

「Metroだ」と認識するためだけではなく、そのTagが来ること自体をリスナーが待つ。

「やべ、Metroキター!」となる瞬間まで含めて、音楽になったのである。

Producer Tagはここで、署名 → ブランド → 演出と進化…いや、昇華した。

では、Dr. DreやBabyfaceにはなぜTagがないのか

Threadsに本件について呟いたら、フォロワーさんから興味深いレスが来た。

逆の疑問が浮かび上がったのだ。

Dr. DreやBabyfaceのような、Producer Tagを前面に出してこなかった名プロデューサーたちはどうなのか。

面白いことに、彼らの場合は名前を言われなくても「この音はDreっぽい」「これはBabyfaceっぽい」と感じることがある。

つまり、Producer Tagとは別にSignature Sound(シグネチャー・サウンド=音の特徴・作風)が存在する。

The Neptunes/Pharrell Williamsの『4-count』は、この境界にある面白い例である。

Pharrell本人によると、曲頭の4カウントは当初「自分の署名」にしようとして作ったものではなかった。

歌を頭から入れやすくするため、メトロノームの代わりに入れていたカウントがそのまま残ったもので、後になって人から指摘されて自分でも気づいたという。

名前を叫んでいるわけではない。それでも数秒聴いただけで「Pharrellだ」と分かる。

ここまで来ると、Producer TagとSignature Soundの違いは、日本の書画に例えると分かりやすい。

Producer Tagが「落款」なら、Signature Soundは「筆跡」だ。

落款を見れば、誰が作った作品なのか分かる。

しかし名匠の作品なら、落款を見る前に、線や筆運びを見ただけで作者や画家が分かることがある。

音楽も同じと考えると面白い。

Hip-Hopプロデューサーが音に押す「印」

Hip-Hopでは長い間、最も目立つ存在はMCだった。

しかし曲を作っているのはMCだけではない。

ドラムを選び、サンプルを切り、ベースを鳴らし、曲の世界そのものを構築しているプロデューサーがいる。

Producer Tagは、その存在をわずか数秒でリスナーに知らせた。

DJたちのdropから、ビートを守るウォーターマークへ。

そこからブランドとなり、ついには曲の演出そのものになった。

数百年前の書画家と現代のHip-Hopプロデューサーに直接的な文化的つながりがあるわけではない。それでも、作品を作った人間がそこに自分の印を残したいという行為には、不思議な共通点がある。

書家や画家が作品に落款を残すように、Hip-Hopのプロデューサーは、ビートに音で印を押す。

そして、本当にその人だけの音を確立したプロデューサーなら落款(Tag)を見る前に、筆跡(音)だけで誰なのか分かる。

それが、Producer Tagのさらに向こう側にある「Signature Sound」なのかもしれない。

ちなみに筆者が個人的に好きなProducer Tagは、DJ Mustardの「Mustard on the beat, ho!」である。

この声の主はMustard本人ではなく、長年の盟友YG。初期のコラボ曲『I’m Good』でYGが発したフレーズをMustardが切り取り、その後自身のTagとして使うようになったものだ。

そして筆者がこのTagを好きな理由は、「インパクトが強い」というだけではない。

早口すぎて、何度聴いてもさっぱりそう聞こえないからだ。筆者の耳には長年、なぜかずっと、「まず本田ビートYo!」と聞こえていた。

本稿では、Producer Tagとは作者を識別するための「音の落款」なのではないか、と考えてきた。

しかしどうやら一つだけ付け加えておく必要があるらしい。

落款が、きちんと読める…否、聴き取れるとは限らない。

<Sources>

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