耳を潤す極上のR&Bに浸ろう:Kehlaniの新アルバム『Kehlani』レビュー

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クレジットされている客演だけでテンションが上がるアルバムが、たまにある。Kehlani(ケラーニ)が4月24日にリリースした自身の名を冠した新アルバム、『Kehlani』もその1つだ。

キャリア5作目で、満を持してのセルフタイトルアルバム。その決断の奥に、彼女の意志が垣間見える。

『Folded』で魅せた純度の高いR&B

心に染み入る、ちゃんとしたR&Bを久しぶりに聴いた気がした。それが昨年リリースした彼女の代表曲『Folded』である。この曲でグラミー賞を2つ獲得し、且つ色々なリミックスバージョンもリリースされた。彼女自身は2017年の『SweetSexySavage』で注目され、その後もそれなりに知名度を上げていった。ただ、歌が上手くて美人なR&Bシンガーは履いて捨てるほど業界に居るし、そこまで抜きん出た評価を得ていなかった。彼女の「代表曲」もしくは「彼女と言えば、これ!」と呼べる一曲が無かったのだ。

そう、『Folded』をリリースするまでは。同曲で彼女が作り上げた世界観に、R&Bファンは熱狂した。過剰な歌い上げに頼らない抑制されたボーカル、メロウでソウルフルなトラック、そして過激さに頼らないリリック。ヒップホップ寄りでも、流行りのアフロビーツでもない。筆者はこの曲を「純度の高いR&B」と勝手に呼んでいた。

『Kehlani』が選んだ2000年代R&Bへの回帰

本作『Kehlani』は、前作『Crash』の散漫さを修正し、明確な方向性を打ち出していた。それが「2000年代R&B」への回帰だ。フィーチャリングも、Clipse、Lil Wayne、Usher、Brandy、T-Pain、Lil Jon、Missy Elliotといったその時代を象徴する面々が参加し、サウンド面でもその美学が徹底されている。あの時代が好きなリスナーにはたまらない音に溢れている。

その上、The PharcydeやBusta Rhymes、Aaliyahらへのオマージュも随所に散りばめられ、単なる懐古ではなく「再構築」として機能しているのだ。

活かし切れなかった客演

さて、収録されている楽曲に触れよう。アルバムは「成長は最初から美しくはない」という言葉で幕を開ける。その宣言通り、作品全体には成熟した感情表現が通底している。『Oooh』のような艶やかで官能的でありながら品を保った楽曲や、内省的なミッドテンポ曲が並び、彼女の進化を強く印象づける。

R&B界では大御所となったBrandyとの『I Need You』では大御所を上回る歌唱力と安定感でスキルの高さを見せ、Usherとの『Shoulda Never』では耳が喜ぶ相性の良いハーモニーが味わえる。両曲でケラーニはレジェンドらと対等に渡り合い、もはや「次世代」ではなく「同列の存在」であることを証明してみせた

ただ、客演の多さが裏目に出てしまった感も否めない。親友Cardi BやBig Seanらの参加曲はなんとなくおふざけが感じられるし、Missy Elliotのフィーチャリングも、彼女のラップとビート、ケラーニの歌の良さがちっとも上手く生かされていないように感じられた。Clipse参加の楽曲もしかり。

とは言うものの『Cruise Control』は例外で、客演に頼らず彼女自身の魅力で成立させた、アルバム後半部分のハイライトとなっている。

でもやはり耳は潤うKehlaniの歌声

いくつかの弱点を挙げはしたものの、本作は間違いなくケラーニのキャリアにおける到達点と言える。洗練されたプロダクション、円熟味を増したボーカル、そして現代R&Bにありがちな安っぽい表現を避けたリリック。そのサウンドはまるで2000年代から届いたかのようであり、それはその時代への最大級の賛辞、オマージュと言える。

セルフタイトル作品は通常、単なるアルバム名以上の意味を持つ。それは長い試行錯誤の末にケラーニ自身が、「これが私よ!」と言い切った証であり、アーティストとしての記録、且つ総決算でもある。そして今作はまさに、その名にふさわしい内容となっている。

そしてこのアルバムこそが、今のR&Bにとって最も価値のある希望なのかもしれない。なぜなら、長らくR&Bから離れていた筆者のような古参リスナーの耳を潤し、再びR&Bの世界に引き戻してくれたからだ。

ラッパーの客演も多いからか、本アルバムはR&Bをあまり聴かない、ゴリゴリのヒップホップ好きも入りやすい。HiphopCsヘッズの皆も是非、聴いて意見を聞かせくれ。

執筆者Seiという保証

本稿の筆者Seiは、HIPHOPCsで203本を執筆してきたライターである。専門領域は90年代〜2000年代の米国ヒップホップ/R&B──まさに本作『Kehlani』が回帰の対象に据えた時代そのものだ。

近年の代表作だけでも、Mos Defとの制作秘話を引き出したdj honda独占インタビュー、2Pacの最終形態を『The Don Killuminati』から読み解いたマキャベリ編、LA拠点2年目の大門弥生が南カリフォルニア最大の日系フェスに登壇した夜を最前列から記録した現場レポがある。いずれも90s〜2000s米国シーンの空気を肌で知る筆者でなければ書けない、HIPHOPCsの一次情報である。

つまり本レビューは、Brandyの『Full Moon』の時代を、Usherの『Confessions』の時代を、Missy Elliottの『Get Ur Freak On』の時代をリアルタイムで通過してきた耳が下した判定だ。「2000年代R&Bへの回帰」という本稿のテーゼは、当時のサウンドを耳に染み込ませた者から発せられた一文として受け取ってほしい。

Seiの執筆本数203本と全記事は、著者ページから確認できる。本稿の判定が「ただの感想」ではなく、長年米国R&Bの最前線を聴き続けた耳の所産であることを、最後に付記しておく。

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