ホーム ヒップホップチャート 千葉雄喜「まーいいや」レビュー──Murda Beatz × Leslie Brathwaiteが包んだ“ゆるさの強度”

千葉雄喜「まーいいや」レビュー──Murda Beatz × Leslie Brathwaiteが包んだ“ゆるさの強度”

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千葉雄喜「まーいいや」レビュー──Murda Beatz × Leslie Brathwaiteが包んだ“ゆるさの強度”
千葉雄喜「まーいいや」シングル・ジャケット ©Yuki Chiba / via Spotify

Text by HIPHOPCs編集部|2026年5月11日

千葉雄喜の「まーいいや」が2026年5月6日にワーナーミュージック・ジャパンから配信された。プロデュースはMurda Beatz、ミックスとマスタリングはLeslie Brathwaite。「KIMNOTYO」「MAMUSHI」と来た流れの中で、今回の千葉雄喜は声を張らない方を選んでいる。リリース翌日にはタイ国政府観光庁「Amazing Thailand」のテーマソング起用も発表されたが、その話は別記事に譲って、ここでは曲そのものを聴く。

千葉雄喜「まーいいや」──力を抜いて遠くへ届かせる

基本情報

シングル一曲、3分13秒。ISRCはJPWP02600457でWarner Music Japan発行。EPでもアルバムでもなく、この一曲だけで成立させに来ている。配信は5月6日、翌7日にはタイ国政府観光庁の「Amazing Thailand」グローバルキャンペーンのテーマソング起用が告知された。本稿はキャンペーンの話は扱わない。曲そのものの聴きどころに絞る。

Murda BeatzとLeslie Brathwaite

作詞は千葉雄喜本人、トラックはMurda Beatz、ミックスとマスタリングはLeslie Brathwaite。Murda Beatzはカナダ・オンタリオ出身のプロデューサーで、Drake「Nice for What」でHot 100の通算8週1位を支えた人物。MigosやCardi Bの仕事でも知られる、北米のトップ層に位置する書き手だ。Leslie Brathwaiteはグラミーを受賞したミックス/マスタリング・エンジニアで、Pharrellをはじめ北米ポップとラップの主要作品を長く手がけてきた。日本人ラッパー一曲のためにこの二人が揃うのは、まだそう多くない光景である。

張る主流の中で、張らない方を選んだ

ここ数年の日本語ラップは、全体としてベースが重くなり、声を張る方に進んできた。YZERR周辺の重低音、Awich系のトラップ、Watson以降の高密度なフロウ。並べて聴けば、シーンが「もっと刺すように、もっと前に」と動いてきたのは肌でわかる。「まーいいや」はそこに合流しない。Murda Beatzのトラックには低域はあるが、上には空気が残っていて、派手なドロップは置かれていない。Leslie Brathwaiteのミックスは、ボーカルを前に出しても圧をかけない。何度聴いても耳が疲れない種類の混ぜ方だ。千葉雄喜は「KIMNOTYO」のキャッチーさも「MAMUSHI」の鋭さも引っ込めて、明らかに張っていない。タイトルどおりの距離感で、一語ずつのグルーヴが立ち上がる。

「まーいいや」が指している姿勢

「まーいいや」という言葉は、諦めにも許しにも開き直りにも転ぶ。この曲で千葉雄喜が置いた地点は、諦めではない。許して先に行く方の「まーいいや」だ。MV監督の木村太一は公開コメントで「抗うのではなく、受け入れる」と書いていて、その姿勢は曲側にもそのままある。怒鳴るでもなく、笑い飛ばすでもない。受け止めて、次に行く。誰かと張り合うのに疲れたリスナーの体感とは、たぶんよく合う。

キャリアの中での位置

2024年「チーム友達」でSNS発のスラング化を起こし、Megan Thee Stallionの「MAMUSHI」でBillboard Hot 100の36位。日本語ラッパーがあのチャートに名前を残したのは、ほぼ前例がない。POP YOURS 2026のDAY2ヘッドライナーではサックス奏者ゴセッキーを入れた生演奏編成を見せ、6月18日にはGlobal Citizen Live Tokyoが控えている。その流れに「まーいいや」は置かれた。これまでの千葉雄喜はキャッチフレーズで突き刺すタイプだったが、今回はムードで聴かせる方に振った。Murda BeatzとLeslie Brathwaiteと組んでこの方向に行ったのは、けっこう大きい判断だと思う。瞬間風速の高い曲をもう一発作るのではなく、長く残る曲の体力を仕込む方を取った。MAJ 2026の主要部門から日本語ラップが消えたという話と並べてみると、千葉雄喜の動き方が見えてくる。国内アワードの基準に乗らない場所に届く曲を、ちゃんと作りに行っている。

HIPHOPCsの見立て

「まーいいや」を初めて聴いて「派手じゃないな」と思う人はいると思う。だがこの曲の強さは、聴いた瞬間ではなく、プレイリストに紛れて何度か通り過ぎたあとに来る。声が張られていない、ミックスに圧がない、タイトルは口語そのまま。通勤、運転、作業中──集中していない時間帯に強い曲だ。Amazing Thailand起用で東南アジアや欧米のリスナーが千葉雄喜に最初に触れる曲がこのテンションだったというのは、たぶん大きい。海外の耳に届いていくときの最初の一曲が、このトーンであってよかった、と思う。Intelligence Series Vol.1で書いた話とつなげると、日本語ラップはいま「ストリーミングのトップを取りに行く側」と「カルチャーの中心軸として継承される側」に分かれていて、「まーいいや」が狙っているのは明らかに後者だ。派手な瞬間を作る曲ではなく、千葉雄喜のキャリアを支える土台になる曲。HIPHOPCsとしては、そう見ている。

よくある質問

千葉雄喜「まーいいや」のリリース日は?

2026年5月6日に、ワーナーミュージック・ジャパンから配信リリースされたシングル。3分13秒、収録1曲、ISRCはJPWP02600457(Warner Music Japan発行)。Spotify、Apple Musicほか各DSPで配信中。

プロデューサーは誰?

カナダ出身のMurda Beatz(Shane Lee Lindstrom)がトラックを担当。ミックスとマスタリングはグラミー受賞エンジニアのLeslie Brathwaite。Murda BeatzはDrake「Nice for What」やMigos、Travis Scottなどの仕事で知られる人物で、両者が一曲で揃う日本人アーティストの作品は、まだ多くはない。

Amazing Thailandとの関係は?

リリース翌日の2026年5月7日、ワーナーミュージック・ジャパンとタイ国政府観光庁から、「まーいいや」がタイの「Amazing Thailand」グローバル観光キャンペーンのテーマソングに起用されたことが発表された。同キャンペーンに日本人アーティストが起用されるのは初。MV監督は木村太一、撮影は2025年4月にバンコクで行われている。詳しくはこちらの記事で扱った。

🎧 千葉雄喜「まーいいや」はSpotifyで配信中。Murda BeatzとLeslie Brathwaiteが組んだ”抜いた”一曲、ぜひ通しで聴いてみてほしい。

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HIPHOP Cs編集部
HIPHOPCs(ヒップホップシーエス)編集部は、海外/日本のヒップホップ専門のニュースチームです。速報だけでなく、データと一次情報をもとに動向を整理する「Intelligence Unit」として、週間ニュース総まとめ、チャートやトレンド分析、背景解説を定期配信しています。さらに、アーティスト/関係者への独占インタビューなど一次取材も実施。参照先は主に海外一次ソース(例:Spotify 等)で、誤情報は追記・訂正し透明性を重視して運営しています。

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