Brent Faiyazが2026年2月13日にリリースした3rdアルバム『Icon』の2曲目に収録された「wrong faces.」は、アルバムと同時にCole Bennett監督のミュージックビデオも公開され、注目を集めている。Raphael Saadiqをエグゼクティブ・プロデューサーに迎え、ゲストフィーチャーなしの全10曲で構成された『Icon』の中で、本楽曲はオープニングトラック「white noise.」のシンフォニックなイントロから自然に移行する形で、アルバムの本格的な幕開けを告げる1曲だ。
サウンドスケープの構築:ストリングスとボーカルが織りなす空間
「wrong faces.」のプロダクションは、Mathaius Young、Berg、Dilip、Dpat、99TheProducerの共同制作によるものだ。楽曲の特徴として真っ先に耳に入るのは、断片的に配置されたストリングスのフレーズである。これらの弦楽器の要素が楽曲に独特の質感を与えており、あるレビュアーが「choppy, string-led(断片的で弦楽器主導の)」と評したように、従来のR&Bトラックとは異なるテクスチャーを生み出している。
プロダクション全体としてはミニマルなアプローチが採用されており、Faiyazのボーカルが十分に呼吸できる空間が確保されている。SonderのメンバーでもあるDpatが参加していることから、Faiyaz初期の音楽性との連続性も感じさせる。アルバム全体のミキシングをMike Deanが手がけていることも、音響面での完成度に寄与しているだろう。『Icon』が全34分という凝縮されたランタイムで構成されていることを踏まえると、この「wrong faces.」における引き算のプロダクションは、アルバム全体の美学を象徴する選択と言える。
リリックの深層:間違った場所で愛を探すということ
楽曲のコアとなるのは、「You’ve been looking for love in all the wrong faces」というコーラスのフレーズだ。タイトルの「wrong faces」は、愛を間違った相手に求め続けてしまう人間の性を端的に表現しており、Faiyazはそこに穏やかな助言と個人的な渇望を織り交ぜている。冒頭で「最初からやり直そう」と語りかけるような導入から始まり、見当違いの相手に愛情を注いでしまう状況を描写していく構成だ。
注目すべきは、Faiyazが本作で見せるスタンスの変化である。『Wasteland』(2022年)やそれ以前の作品で「toxic R&B」の代名詞とされてきた彼だが、『Icon』では全体を通じてより肯定的で保護的な愛の表現にシフトしている。「wrong faces.」における「I’ll be your reason to stay at home」というラインには、相手を守ろうとする温かみが感じられ、これまでの作品群とは明確に異なるトーンが存在する。Faiyaz自身がRolling Stoneのインタビューで語った「innocence versus indecency(無垢と退廃)、vulnerability versus guardedness(脆さと防御)」というアルバムのテーマが、この楽曲にも色濃く反映されている。
文化的位置づけ:独立を貫くR&Bアイコンの宣言
「wrong faces.」を理解するうえで欠かせないのは、『Icon』が辿ってきた複雑なリリース経緯だ。同アルバムは当初2025年9月19日にリリース予定だったが、Faiyazはリリース前夜にチームへグループテキストを送り、アルバムの発売を突如中止した。リードシングルとMVもすべて破棄し、その後2025年10月31日に新たなリードシングル「have to.」を発表。この「have to.」はBillboardのAdult R&B Airplayチャートで1位を獲得し、USヒップホップ/R&Bシーンにおける彼の存在感を改めて証明した。
『Icon』がISO Supremacy/UnitedMasters経由でリリースされている点も重要だ。Faiyazは自身のレーベルISO Supremacyを通じてマスター音源の所有権を維持しながら、メジャーレーベルに依存しない独立した活動を続けている。全10曲にゲストフィーチャーを一切入れなかったことも、この独立精神の表れだろう。前作『Wasteland』がBillboard 200で2位(初週88,000ユニット)を記録し、プラチナ認定を受けた実績を持つFaiyazにとって、『Icon』というタイトルは商業的成功と芸術的自律の両立を宣言するものだ。「wrong faces.」はその宣言の入り口として、静かだが確信に満ちた1曲に仕上がっている。
ミュージックビデオ:Cole Bennettによる映像表現
アルバムリリースと同日に公開されたミュージックビデオは、Cole Bennettが監督を務めている。映像は雨が降りしきるビーチに停められた黒いスポーツカーの中にFaiyazが座るシーンから始まる。そこから車を降りた彼が、雨の中を歩きながら歌う姿が映し出される。周囲には複数の女性が登場し、叫び声を上げる者や海へ走り出す者など、楽曲のテーマである「間違った顔」を視覚的に表現する演出が施されている。Cole Bennettのディレクションは、楽曲が持つ内省的なトーンとビジュアルの緊張感を巧みに調和させている。
HIPHOPCs編集部の評価
評価できる点
「wrong faces.」の最大の強みは、アルバムの導入部としての機能性の高さにある。「white noise.」のオーケストラルなイントロから本楽曲へのトランジションは見事で、リスナーを自然に『Icon』の世界観へ引き込む。ミニマルなプロダクションの中でFaiyazのボーカルが前面に出る構成は、彼の声そのものが持つ表現力を最大限に活かしている。また、繰り返されるコーラスのメロディは中毒性が高く、耳に残りやすい。歌詞面では、Faiyazのこれまでの「毒性のあるロマンティシズム」から、より成熟した保護的な愛の形へのシフトが感じられ、アーティストとしての進化を示している。
改善の余地
一方で、ミニマルなアプローチが楽曲のダイナミクスを制限している面もある。約3分43秒の楽曲の中で、展開の変化が乏しく、聴き通す際に起伏が欲しくなる瞬間がある。アルバム全体を聴くと「other side.」のディスコソウルや「pure fantasy.」のシマリングなスロウジャムなど、Faiyazの多面性が明確に表れるトラックがある中で、「wrong faces.」単体ではその多様性が見えにくい。アルバムの文脈では効果的に機能するが、シングルとして独立した強度を求めるリスナーには物足りなさが残る可能性がある。
よくある質問
「wrong faces.」のプロデューサーは誰ですか?
Mathaius Young、Berg、Dilip、Dpat、99TheProducerの5名が共同でプロデュースを手がけています。なお、アルバム『Icon』全体のエグゼクティブ・プロデューサーはRaphael Saadiqが務めており、他のトラックにはBenny Blanco、Chad Hugo、Tommy Richman、Paperboy Fabeなども参加しています。
アルバム『Icon』の全トラックリストは?
全10曲で構成されています。収録順は以下の通りです:1. white noise. / 2. wrong faces. / 3. have to. / 4. butterflies. / 5. other side. / 6. strangers. / 7. world is yours. / 8. four seasons. / 9. pure fantasy. / 10. vanilla sky. すべてのトラックタイトルは小文字でピリオドが付く表記で統一されており、ゲストフィーチャーは一切含まれていません。
この曲のミュージックビデオはありますか?
はい。2026年2月13日のアルバムリリースと同日に、Cole Bennett監督によるミュージックビデオが公開されています。雨のビーチを舞台にした映像作品で、YouTubeおよび各種プラットフォームで視聴可能です。
『Icon』のリードシングルは「wrong faces.」ですか?
いいえ。『Icon』の公式リードシングルは2025年10月31日にリリースされた「have to.」です。この楽曲はBillboardのAdult R&B Airplayチャートで1位を獲得しました。なお、2025年7月4日にリリースされた「Tony Soprano」と「Peter Pan」の2曲は当初アルバム収録が予想されていましたが、Faiyazがアルバムの方向性を変更した結果、最終的なトラックリストには含まれていません。
Brent Faiyazの「wrong faces.」をSpotifyで聴く
本記事の楽曲解釈は編集部の印象に基づくものであり、アーティストの公式見解を代表するものではありません。
