なぜ今、アイドルはヒップホップを選ぶの? TREASUREがHIPHOPを選ぶと直談判

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by JohnAira / HIPHOPCs

image via @yg_treasure_official instagram

いきなり正直に言います。

最近のアイドルが次々ヒップホップを選ぶ光景を見ていると、どこか居心地が悪くなるんです。

歓迎したい気持ちはあります。ヒップホップが市民権を得た証拠だ、裾野が広がった、シーンへの関心が高まっている

そういう見方も間違っていないけど。それだけで終わらせると、何か大事なものを見落とす気がして。

ずっとヒップホップを好きで育ってきたからすごく違和感があるけど、「ヒップホップか否か」を問うのは、もう時代遅れかも。それより先に問うべきことがあると思っています。

なぜ、いまのアイドル産業は「ヒップホップ」を選ぶのかです。

この問いを立てたとき、TREASUREの直談判も、Number_iのチャート独占も、HANAのポジションも、すべてが同じ構造から発生していることが見えてきました。


ヒップホップが最も機能する棚になった理由

答えは三つあります。

第一に、Popは激戦区です。 Mrs. GREEN APPLE、米津玄師、YOASOBI——2025年のBillboard JAPAN年間チャートをそのまま体現するような存在が並んでいます。同じ棚に新しいアイドルを置いても、埋もれる。勝てない。だから産業は棚を移すんです。

第二に、ヒップホップ棚はファンダムの動員力で上書きしやすいです。 J-Pop棚がメインストリームのリスナー全体に開かれた「大通り」だとすれば、ヒップホップ棚はニッチに見えて入口が太い棚です。ヒップホップを探しに来るリスナーが集まる分、再生・シェア・プレイリスト追加がそのままチャートの数字に直結します。長年真剣にやってきたアーティストたちがいるけれど、ラッパーのファンとアイドルのそれと動員の規模が違う。小さな棚に大きな動員力を持ち込めば、その棚の”代表顔”になれる問題があると思います。

第三に、「クール」と「グローバル」という文脈が借りやすい? ヒップホップはいま世界的な主流の一角であり、海外のリスナーに説明しやすい共通言語になっています。「ヒップホップをやっている」というだけで、アジアのアイドルが欧米のプレスやプレイリスト担当者と会話できる土台ができる。88risingとの接続、Coachellaへの道。

これらは「共通言語を持っている」という前提なしには開かない扉なんです。

ヒップホップは今のアイドル産業にとって最も機能する棚になってしまっている。悪意の話じゃないです。合理的な選択として、産業の論理がヒップホップを指し示している。

ヒップホップが選ばれているのか、それともヒップホップが使われているのでしょうか


TREASUREの直談判——「なぜヒップホップか」がまだ答えられていない

2026年3月4日、YG FAMILY公式アカウント(@ygent_official)が「2026 YG PLAN | YG ANNOUNCEMENT」と題した動画をXに投稿しました。277万回表示、リツイート7,293、いいね1.3万。動画の冒頭でヤン・ヒョンスク本人が口を開いていました。

「メンバーが直接私のところに来て、『僕たちはヒップホップをやりたいです』と言ってきた。正直、驚いた」

TREASUREのメンバーがYG代表に直談判した話が、Xを席巻しました。「よく言った」「5年分の思いが伝わってくる」という声が連鎖していましたよね、ファンが感動するのは当然だと思います。BIGBANGやiKONに憧れてYG (あのYGじゃないです)の扉を叩いた若者たちが、5年間会社の方針に従い続けた末に、直接トップの部屋へ向かった。だからこそ刺さるのかなーって思いました

ただ、感動する前に一度冷静になって考えてみると、なんでヒップホップなのかわからなくなってしまいます。

しかも会社が「ヒップホップでいいよ」と承認した瞬間に、完成してしまうんです。ヒップホップが本来持っていた緊張感——権力と対峙することから生まれる緊張感——とは、別物だなって思います。順序も逆。

ヒップホップの歴史を振り返ると、本物の転換はもっと違う形をしてありませんか?

Death Rowを離れたDr. Dreは移籍交渉を自分でやったし、Lil Wayneはキャッシュ・マネーとの契約問題で法廷まで戦って。

Kendrick LamarはTDEを離れ、pgLangとUMG直接契約という形で動いた。共通するのは何かを言うために動いたということですよね。。ヒップホップをやりたいから動いたんじゃなくて、ヒップホップじゃないと言えないことがあったから、ヒップホップという形式を選んだ。

ここで反論が来るのはわかっています。「EminemだってAftermathの承認なしには存在しない。Dr. Dreがプロデュースしたから本物じゃないのか」などなど

これはその通り。

ヒップホップの歴史に、権威から完全に自由なアーティストなんて存在しない。

でもそこじゃないんです。問題は、彼らが意志を持ったかどうかじゃない。ヒップホップで何を言うのかがまだ提示されていないことです。ラップがしたいのかヒップホップがしたいのか、何がしたいのかよくわかんないです。

YGスタイルのヒップホップ、という説明はどういうことなのか意味がわかりたいです。何を語るのか、その答えが6月のミニアルバムにあるかどうか、そこを聴かなければいけないなあと思っています。

Number_iの先例——動員がを上書きするとき

この問いで最初に摩擦が生まれ始めたのはおそらくNumber_iじゃないでしょうか。 

2024年1月1日、「GOAT」が叩きつけられました。元King & Princeの3人が、TOBEへの移籍一発目でゴリゴリのヒップホップを出した。MVは3日で1,000万再生。神宮寺は「日本のアーティストがあまりやってないゴリゴリのヒップホップを、自分たちなりに表現したかった」と語り、滝沢秀明も「本人たちの意向を反映させています」と明言してましたよね。

その後の実績は確かです。「BON」はSpotify「Daily Viral Songs(Japan)」で365日連続チャートインという前例のない数字を叩き出した。Coachella出演、88risingとの接続、WMEとの契約——ファンダム以外の層が、ヒップホップ経由でNumber_iを発見し続けた証拠です。やばいでしょ。365日連続チャートインって何ですか?意味わからないし。それってどういうこと?笑

これがまさにアイドルが最近「ヒップホップ」を選んでいる理由の事例じゃないのでしょうか。

選んだジャンルで完璧に成功してビジネスとして、ヒップホップは完璧に機能した感じですよね。

そして2026年1月のことを話さなければいけません。Apple Musicの「ヒップホップ/ラップ」部門の上位にNumber_iが並んだ、そんなスクリーンショットが拡散した時のことです。

起きていることを、あなたの体験に落として考えてほしいです。

あなたが今夜、Apple Musicでヒップホップチャートを開いたとします。最初に出会う曲が何かで、以降の推薦が決まりますよね。 そのジャンルの入口にNumber_iが立っているとき、アルゴリズムはNumber_iを「ヒップホップの基準点」として学習して、あなたに似たリスナーにも同じ曲を推薦し続ける。これは私ではありませんが、実際に友人に起きた話です。

長年チャートの上位にいたラッパーたちの楽曲は、消えていくんです。

これはジャンルの競争じゃないです。動員がオーセンティシティを上書きするという設計の問題です。誰かの悪意じゃなくて、ジャニーズ好きの規模がそのままプラットフォームの「評価」に変換されてしまう構造の問題なんじゃないでしょうか。

Number_iはなぜヒップホップチャートを独占できたのか——課金構造が問う「自律性」の矛盾では、この問題をさらに構造的に掘り下げていましたが。ここでもう一つだけ指摘させてください。

「GOAT」は本当にヒップホップか、という問いへの答えは、ぶっちゃけどちらでもいいんです。 ダンス、ヒップホップ、R&B、ハイパーポップが混在するジャンル横断的なサウンドとか。作詞作曲もやっぱり彼らの名前じゃないことも問題じゃないでしょうか?

これはNumber_iが作り出した独自の言語だと思っています。問題は「本物かどうか」じゃなくて、その言語がヒップホップというタグの下に収納されたとき、そのジャンルに何が起きるかです。

88risingが評価したのも、Number_iがヒップホップだからじゃないでしょう、多分。グローバルに通用する何かを持っていたから、ヒップホップという文脈でそれが機能した——そういう順番なんです。ヒップホップを選んだからグローバルに出られたんじゃないし。機能するから選ばれたんではないでしょうか?というか、そもそも海外でナンバーアイがヒップホップのジャンルで音楽活動するにあたって、どうなるかすごく気になるし、逆にそれ大丈夫??とも思うし、やばくねともなります。

HANAの「隣接ポジションの設計」棚か文化か

この構造が最も整理されて見えるのが、HANAのケースじゃないですか?

「HANAはヒップホップか」でも「HANAはラッパーか」でもなく、「HANAはヒップホップの棚を必要としているか」と問うべきだと思います。HANAはラッパーなのか——ちゃんみなのDNAと「J-Popの成功」の間ででその問いを丁寧に展開していますが、ここでは核心だけを言います。

ちゃんみな自身は本物です。自分のバックグラウンドを音にして、混血として日本で生きることのリアルを歌詞に叩きつけて、アイドル産業の文法を無視したキャリアを築いてきた。そのDNAがHANAに流れているのは疑いない。オーディション「No No Girls」でメンバーたちが自分の弱さと向き合い、傷を抱えながら這い上がった過程には、ヒップホップが語り続けてきた物語と重なる部分があります。

ただHANAはちゃんみなではありません。作詞・作曲も彼女たちの名義ではないですし「ROSE」も「Blue Jeans」もポップなダンスナンバーです。Billboard JAPAN Hot 100初登場1位、ストリーミング週間5週連続1位(女性グループ史上初)、紅白初出場、日本レコード大賞最優秀新人賞——それはJ-Popの成功です。ヒップホップの文脈で評価された成功ではない。

HANAを私にとってこの議論で出したのは一番正しい道を行っていると思ったからです。だってApple Musicでジャンルがヒップホップじゃないんです。実は。 私からしたらその方が応援しやすいし、ちゃんみん自体はかっこいいからそのままでいいと思ってますし、一番の正しい選択だったんじゃないのかなって思ってます。

ここで言っているのは成功の否定じゃないです。どの文脈で評価されている成功なのか、その区別の話です。

ちゃんみなというブランドとBMSGのコネクションが後ろにいるからです。それは「HANAがヒップホップである」ことの証拠じゃなくて、「HANAがヒップホップ隣接のポジションに設計された」ことの説明だと思いませんか。

YZERR、Awich、Creepy Nutsと同じステージに立ったことは、ヒップホップなのか、それともポップなのか、どちらでもいいんですが、この隣接ポジション的なところはめちゃくちゃビジネス的に上手いですよね。とにかくジャンル的には今ヒップホップじゃないから応援しやすいです。応援してます

HANAに関して言えるのは、そういったポジションにいるっていうことだと思います。そしてちゃんみなはやっぱり純度高いヒップホップだと思ってます。あくまで私の意見です。

ポップという激戦区

Pop棚という激戦区を避けて、ヒップホップという「機能するジャンル」に入る。TREASUREもNumber_iも、同じ構造の上で動いてないですか?どうですか?

アイドル産業がヒップホップを選ぶ理由は、共通しているんです。

それこそ、競合がいるところからヒップホップに行くと、一気に紹介のされ方とかも変わってきますよね。ヒップホップチャート1位とか、ポップで20位よりヒップホップ1位の方がインパクトあるし、そういうことじゃないんでしょうか。

ブームは淘汰されない BIGBANGが残した、もう一つの答え

ここまで読んで、こう思う人もいるかも。「ヒップホップブームはいつか終わる。本物だけが残る。だから自然に淘汰される」。

私はそう思っていないです。

理由は、すでに前例があるからです。

BIGBANGを見てほしいです。G-DRAGONはラップをするし、T.O.Pはラップをするし、彼らはヒップホップを使って、ヒップホップの文脈で、ヒップホップのジャンルとして一目置かれてきました。まさにBIGBANGって感じですよね。

考えてみてほしいです。韓国や日本のファンやラッパーたちは、BIGBANGをヒップホップのアーティストとして扱っていたのか?

シーンの中で同じ文化を担う人たちだったのか? そこまで考えたとき、結論が出ました。

実際の答えはほとんどNOだったと思います。

リスナーも同じです。BIGBANGのファンは、BIGBANGをヒップホップとして聴いていない。K-POPとして、エンターテインメントとして、BIGBANGというブランドとして聴いている人がほとんどじゃないでしょうか。「ヒップホップ」というラベルは、彼らの音楽体験において実質的な意味を持っていないんです。

では、BIGBANGは淘汰されたのか。そうじゃないです。彼らは世界的な成功を収めたまま、ヒップホップ文化と並走し続けたけれど、結局大きく交わらなかった、その感じのまま。

これが答えだと思っています。ブームは淘汰されないんです。ブームはヒップホップの隣で成功し続けて、シーンとは別の場所に着地する。そしてヒップホップの棚だけが、そのブームの通過点として使われた爪痕を残す感じゃないんでしょうか。

いまNumber_i、HANA、そしてTREASUREが起こしているのも、構造的には同じ感じですよね。ただこれだけ話題になるのは、やっぱりその時代にSNSがなかったからだと思ってます。あとヒップホップもこんなに影響力がなかったから。

Number_iが成功した。HANAが成功した。TREASUREが同じ選択をする。 ブームが増殖しているんです。「ヒップホップを選べば機能する」という実績が積み上がるほど、次のアイドルがヒップホップを選ぶ理由が強化されていくからこそみんなヒップホップを選び始めたんじゃないでしょうか。

このサイクルが回り続けたとき、ヒップホップに何が残るかです。リスナーはその棚でヒップホップを探すけれど、出会うのはヒップホップとして設計されていない音楽ばかりになる。長年その棚にいたアーティストたちの声は、どんどん遠くへ押しやられていく。

BIGBANGの前例が教えているのは、本物が残るという説が成立しないということです。本物は残るかもしれない。でも、棚の設計が変わってしまった後では、本物がそこで発見される可能性が下がり続けます。

あなたが「ヒップホップチャート」を開いて、違和感を覚えた瞬間はいつでしたか。その違和感が、棚の設計が変わり始めているサインかも。

私は今回のTREASUREの件でめっちゃくちゃ違和感を覚えました。


では、誰が判断するの

この問いに対する答えを、私は持っていません。

ヒップホップにはもともと「リアルか」という問いがあります。この問い自体、シーンの内側で何度も繰り返されてきた。答えは時代ごとに変わり、シーンごとに変わり、アーティストごとに変わる。

けどいま、その問いに新しい層が加わっています。誰がリアルかより先に、なぜヒップホップが選ばれているかを問わなければいけない時代になったと感じています。SNSのせいなのか携帯のせいなのかAIのせいなのか、ヒップホップを指し示している以上、選ばれたという事実だけでは何も証明されない感じですよね。

判断の軸は提示できます。

制作の透明性—誰が書いて、誰が作っているか。歌詞を書いてるのかどうかってことです。そこ大事ですよね。

ライブの説得力——表現としての身体性が伴っているか。振り付けとフロウは別物です。

そしてシーンへの還元——共演というポジショニングじゃなくて、循環を作れているか。アーティストやビートメーカーに還元しているか、後輩に道を作っているか、後輩の名前を呼んでいるか。

この三つが積み重なったとき、本物だという評価が生まれと思いませんか?。チャートの数字でも、事務所のブランドでもない、ヒップホップで何を言うのかという答えが、そこにあるかどうかです。

TREASUREが6月に出すミニアルバムを聴いたとき。Number_iの次のプロジェクトを聴いたとき。HANAが2枚目・3枚目でどこへ向かうかを見たとき、わかりやすいことが起こるかも。

もし彼らが本物だったとしたら、問いを立てなかったヘッズの方が遅れを取っていたことになります。それでも構わないです。問うことをやめた瞬間、文化はアイドルに回収されるんだから。

私はヒップホップが大好きだし、ヒップホップを愛しているからこそ、絶対にこの違和感は出しておこうと思いました。

だから答えより先に問いを立てまくることが大事だと思いました。 

皆さんはこのアイドルがヒップホップに移行しているムーブについてどう思いますか?


by JohnAira / HIPHOPCs

出典:

  • YG FAMILY 公式X(@ygent_official)「2026 YG PLAN | YG ANNOUNCEMENT」2026年3月4日:https://x.com/ygent_official/status/2028847994133717010
  • RealSound「Number_i、異例のバイラルチャート365日連続ランクイン達成」2025年6月:https://realsound.jp/2025/06/post-2053836.html

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