「Shake ya a$$, but watch yourself!」と一度聴いたら忘れられない超有名なフレーズと、咆哮系のラップで一世を風靡した本名Michael Lawrence Tyler(マイケル・ローレンス・タイラー)ことルイジアナ出身のラッパーMistykal(ミスティカル)。和訳すると、「ケツ振って盛り上がれ、でもハメ外すんじゃねぇぞ!」という彼の代名詞とも呼べるパンチラインだが、どうやら墓穴を掘ってしまったようだ。
Via @mindofMystikal instagram
本名がマイケルって普通過ぎて意外!と思ったOGやヒップホップファンも多いはず。いや、論点はそこではなくこの55歳のラッパーが、2022年に起きたとされる性的暴行事件をめぐり、第3級レイプの罪を認めたというニュースがヒップホップ界隈を賑わせている。
ルイジアナ州アセンション郡ゴンザレスの裁判所で有罪答弁が行われ、量刑は6月6日に言い渡される予定だ。判決によっては最大20年の懲役刑が科される可能性がある。
ミスティカル、ことタイラーは当初、第1級レイプや単純強盗、家庭内暴力による絞首、暴行、監禁、器物損壊など複数の重罪で起訴されていた。これらの罪で有罪となれば終身刑が義務付けられる可能性もあったが、検察との司法取引により罪状が第3級レイプに変更された。
事件は2022年7月30日、ルイジアナ州プレイリービルにあるラッパー自身の自宅で発生したとされる。女性が性的暴行を受けたと病院で訴え、警察が捜査を開始。女性には外傷が確認され、タイラーが加害者として名指しされたという。
被害を訴えた女性は、ラッパーに殴られたり首を絞められたりしたうえでレイプされたと主張。また、逃げられないように携帯電話や車の鍵を取り上げられ、CashAppを通じて金銭を送るよう強要されたとも説明している。警察による家宅捜索では、ヘロインやザナックス、マリファナ、メタンフェタミンなどの薬物や関連器具が自宅から押収されたとされる。
タイラーは2022年の逮捕以降、保釈が認められないまま拘束されていた。裁判は当初2025年3月に予定されていたが、今回の有罪答弁によって審理は行われないことになった。
彼は過去にも同様の事件で有罪判決を受けている。2003年には自身のヘアスタイリストに対する性的暴行と恐喝の罪を認め、ルイジアナ州の刑務所で約6年服役し、2010年に出所した。この事件はビデオに記録されていたとされる。その後も2012年に家庭内暴力事件で約3か月収監されたほか、2017年には女性へのレイプと誘拐の疑いで起訴されたが、この件は2020年に不起訴となった。
今回の事件は、タイラーが約20年の間に性的暴行関連の疑惑で捜査対象となった3度目のケースとなる。一方で、2023年にラスベガスで開催された音楽フェスティバルでは同郷でNo Limit Recordsの恩師でラッパーのマスターPが観客に対し、彼の釈放を支持するよう呼びかける場面もあった。
量刑は今後の裁判所の判断に委ねられる。判決の内容によるが、ミスティカルは再び長期の刑務所生活を送ることになる可能性がある。
ここからは長年ミスティカルの音楽を聴いてきたファンとしての私見であるが、今回のニュースにはとても複雑な気持ちである。彼のエネルギッシュなラップやクレイジーなパフォーマンスは、米国ヒップホップ史を顧みてもかなり独特で生命力に満ちており、魅力に溢れていた。だからこそ、このような事件で再度ヒップホップ界を賑わせているのは、正直残念で仕方ない。
もちろん、被害を訴えている人がいる以上、事実は重く受け止めるべきである。だが、今回彼自身が罪を認めたという事実は大きく、司法の判断がきちんと下されることが重要だと感じている。2003年から繰り返し起きている事件と、被害を受けたとされる人のことを考えると、簡単に擁護するという気持ちにはなってはいけない。
だがその一方で、長年彼の音楽を聴いてきた身としては、彼のアーティストとしての功績や楽曲に付随する個人的な思い出もあるので、ショックや悲しさは否めない。たとえファンや推しのアーティストであっても、その行動には責任が伴うということを改めて考えさせられるケースである。
今後の裁判の結果を見守ろう。Shake ya a$$, but watch yourself!
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この記事について
本記事は、BETおよびComplexの報道を一次情報として構成しています。事件の経緯はルイジアナ州アセンション郡裁判所の公判記録に基づく各社報道を参照しました。末尾の私見はライター個人の見解であり、HIPHOPCs編集部としての公式見解ではありません。
ライター
Sei(HIPHOPCs)
HIPHOPCs唯一ロサンゼルスにバックボーンを持つライター。USヒップホップの歴史から交差点まで、速報・ロングリード・コラムを横断して書ける書き手です。「なぜ2Pacは史上最高のラッパーと呼ばれているのか?」シリーズは出生からデスロウまでを複数回に分けて追った長編で、日本語で読める2Pac論として屈指の情報密度を誇ります。「ヒップホップと偏見について:入獄経験のあるラッパー達」では、刑務所がラッパーのキャリアに与える構造的影響を整理。
今回のミスティカル記事では、2003年・2012年・2017年・2022年と続く事件の時系列を正確に整理しつつ、末尾で「ファンであっても行動には責任が伴う」と書ききった姿勢が、ニュース記事としての誠実さを担保しています。
記事内容は2026年3月18日時点の情報に基づきます。量刑は2026年6月6日に言い渡される予定です。
