via @lilpoppa instagram
2026年2月18日、ヒップホップシーンに衝撃が走りました。
ジャクソンビル出身のラッパーLil Poppa(リル・ポッパ)が、わずか25歳でこの世を去りました。本名はJanarious Mykel Wheeler。フルトン郡医療検査局は、彼が同日午前11時23分に死亡したことを確認しています。その後の検視により、死因は銃による自傷と断定され、自殺と判定されました。
報道によれば、Lil Poppaはジョージア州ヘイプヴィル近くのI-85で単独の交通事故を起こした後、マネージャーに電話をかけたそうです。近くのヒルトンホテルの駐車場で合流し、車内で会話をしていた最中に自ら命を絶ちました。遺書は見つかっていません。
この突然の訃報は、多くのファンや音楽業界の仲間たち、そして家族に深い悲しみをもたらしました。
追悼の声が続々と 業界が失った”本物”
Lil Poppaの死後、数々の著名アーティストたちがSNSを通じて彼を追悼しています。
Boosie Badazz(ブーシー・バダズ)は、こう語りました。
「Thug in peace to Lil Poppa。彼は俺の小さな弟だった」「いつも俺を支えてくれて、Boosie Bashにも毎回参加してくれた」「彼は本当に才能があったし、誠実な奴だった」
そしてYungeen Ace(ヤンジーン・エース)もInstagramに感情的な投稿を寄せています。
「6:30am、俺はKallを待っている」「君がネットの噂を信じるなと言ってくれるのを期待していた」「でもまさかこんな形で信じることになるなんて。本当に信じられない」「俺たちは同じ夢を持ち、同じ問題を抱えていたんだ」「君は伝説だ。君の平安を祈る」
さらにLil Duval(リル・デュヴァル)もXでこう追悼しています。
「このニュースは本当に心が痛い。Lil Poppaのことは本当に気にかけていた」「ジャクソンビルでは子どもの頃からみんなが彼を知っていた。俺たちは全員、彼の成功を願っていたんだ」「ドリル音楽が終わった後も、彼だけが残り続けていた。それだけの実力があったからだ」「ジャクソンビルの若手ラッパーたちが本当になりたかったのは、彼だった。敵でさえ、最初は彼のファンだったんだ」
所属するCMG(Collective Music Group)も以下のような声明を出しました。
「私たちは、愛する家族であるJanarious “Lil Poppa” Wheelerの死に衝撃を受け、深い悲しみの中にいます」「彼は単なる才能あるアーティストではなかった。年齢を超えた深みを持つ、野心的な若者でした」「彼の情熱と誠実さは、あらゆる人々の心に届きました。Poppa、私たちはあなたのレガシーを名誉と敬意を持って守り続けます」
これらの言葉が示しているのは、Lil Poppaが単なる”人気ラッパー”ではなかったということです。彼は人間として尊敬され、愛されていた存在でした。
ジャクソンビルで唯一無二の存在だった
ジャクソンビルのラップシーンを語る上で、Lil Poppaの特異性を理解していただく必要があります。
フロリダ州ジャクソンビルは、2020年代前半にアメリカのヒップホップシーンで一気に注目を浴びた都市です。ただし、その理由は音楽の美しさではありませんでした。Yungeen AceとFoolio(2024年に殺害)を中心としたATK対KTAの抗争──それをそのまま楽曲に落とし込んだフロリダ・ドリルの過激さが、世界中の耳目を集めたのです。「Who I Smoke」や「When I See You」といった楽曲は、死んだ対立相手の名前をそのままリリックに織り込み、墓地でMVを撮影するという、ドリルの中でも特に攻撃的なスタイルでした。
そんなシーンの中で、Lil Poppaはまったく別の道を歩んでいました。
彼の音楽は「ペインラップ」「メロディックトラップ」と呼ばれるジャンルに位置します。内省的で退廃的なリリック、感情を剥き出しにしたヴォーカル、苦悩や孤独をそのまま楽曲に昇華するスタイルです。全国的に見れば、Juice WRLD、Polo G、Rod Waveといったアーティストと同じ系譜にある音楽性といえます。実際、2024年にはRod Waveのツアーでオープニングアクトを務めていました。
ただ、ジャクソンビルにおいてこのスタイルを貫いていたのは、ほぼ彼だけだったのではないでしょうか。
Lil Duvalが語った「ドリルが終わった後も、彼だけが残り続けていた」という言葉は、まさにその事実を証明しています。ドリルの熱狂が過ぎ去り、多くのジャクソンビルのラッパーが逮捕されたり殺されたり、あるいは単にシーンから消えていく中で、Lil Poppaは自分の音楽性を貫き通しました。Billboard 200にも複数回チャートインし、Yo GottiのCMGと契約を結んでいます。彼のブレイクスルーとなった2018年の「Purple Hearts」は、ドライブバイ・シューティングの生存者としての罪悪感を歌った楽曲でした。トレンドではなく、自分自身の痛みをそのまま音楽にしていた方だったのです。
そして今、ジャクソンビルはかけがえのない才能を失ってしまいました。
痛みを歌い続けた者たちの宿命 カート・コバーンの系譜
Lil Poppaの死は、音楽史に繰り返し現れるある悲劇的なパターンを想起させます。
自らの苦痛を創作のエネルギーに変換し続けたアーティストが、やがてその苦痛に飲み込まれてしまう──カート・コバーンがそうでした。Juice WRLDがそうでした。Lil Peepがそうでした。そして、Lil Poppaもまた、その系譜に連なる存在だったのかもしれません。
コバーンは27歳で自ら命を絶っています。彼もまた、内面の苦痛をそのまま音楽に変換する天才でした。「心の中の嵐」を作品にすることで多くの人々を救いましたが、本人はその嵐から逃れることができなかったのです。Juice WRLDは、コデインやパーコセット(オキシコドン)への依存を自身のリリックで赤裸々に歌い、21歳で薬物の過剰摂取により亡くなりました。Lil Peepも同様に、ザナックスとフェンタニルの過剰摂取で21歳で命を落としています。
Lil Poppaの死因は薬物ではなく自殺でした。しかし彼もまた、痛みを音楽に変換し続けた側のアーティストだったことは間違いありません。CMGは声明の中で「彼は自身の痛みと成長、真実を丁寧にアートに注ぎ込む、稀有なアーティストだった」と語っています。プロデューサーのScotty OTHは「彼ほどのハードワーカーは見たことがない。最後までスタジオに残り続ける男だった」と振り返りました。
痛みを燃料にして走り続ける者は、やがてその燃料に焼かれてしまう。これは、音楽ジャンルを問わず、創作の歴史が何度も証明してきた残酷な事実ではないかと筆者は感じています。
リーンとコデイン ヒップホップを蝕むもう一つの闇
Lil Poppaの死因は薬物ではありませんが、彼の死を機に、ヒップホップシーンにおけるドラッグカルチャーとメンタルヘルスの関係について改めて触れさせてください。
筆者自身、過去にドラッグの使用経験があります。だからこそ断言できるのですが、薬物がメンタルを破壊するというのは、単なる啓発スローガンではなく、身体で理解する類いの現実です。特にコデイン(リーン)のようなオピオイド系の薬物は、一時的に精神的な苦痛を麻痺させてくれますが、その代償として依存と精神の崩壊を確実に加速させていきます。
ヒューストンのDJ Screwが2000年にコデインの過剰摂取で亡くなって以来、リーン文化はヒップホップの南部シーンを中心に拡大し続けてきました。Pimp C、Lil Wayne(何度も痙攣発作を起こしています)、そしてJuice WRLD。FutureはかつてJuice WRLDから「あなたの音楽を聴いて、中学生の頃にリーンを始めた」と告白され、「他にも何人の中学生に影響を与えてしまったんだ」と自問しています。
今の世代の方々にお伝えしたいのです。コデインもリーンも、遊びではありません。「みんなやっている」「曲に出てくるから」──その感覚が、あなたの精神と身体を確実に蝕んでいきます。パーコセット(オキシコドン)に至っては、ヘロインとほぼ同等の依存性を持っています。Juice WRLDのリリックに「Perky in my brain I’m a junkie」という一節がありますが、それは比喩ではなく、彼の現実そのものでした。そしてその現実が、彼を21歳で死に追いやったのです。
一つだけ救いがあるとすれば、日本にはパーコセットがほぼ流通していないという事実です。アメリカでは処方薬として容易に入手でき、それが若者のオピオイド依存の入口になっています。日本の規制環境がこの点において機能していることは、忘れてはならないと思います。
ただし、コデインを含む市販薬は日本でも手に入ります。以前、本サイトでも取り上げた体験談にあるように、ブロン錠に含まれるジヒドロコデインでさえ、3年間の常用で深刻な依存を引き起こすことがあります。油断はできません。
日本のヒップホップシーンにも通じる課題
この問題は、決してアメリカだけの話ではありません。
日本のヒップホップシーンでも、メンタルヘルスに関する議論は少しずつ広がりつつあります。アーティストが自身の精神的な苦悩を楽曲で表現するケースも増えており、それが多くのリスナーの共感を呼んでいます。
けれども同時に、業界全体としてのサポート体制はまだ十分とは言えないのが現状です。アーティストが安心して相談できる環境の整備、メンタルヘルスケアへのアクセスの充実。これらは今後の大きな課題だと考えています。
Lil Poppaの死は、こうした問題がグローバル規模で存在することを示しています。そして、音楽業界全体が精神的健康にもっと目を向ける必要があるという事実を突きつけているのではないでしょうか。
音楽は永遠に Lil Poppaの遺したもの
Lil Poppaの死は、ジャクソンビルの音楽シーン、そしてヒップホップ業界にとって大きな損失です。
けれども、彼の音楽と人間性は、今後も多くの人々に影響を与え続けるはずです。「Purple Hearts」「Love & War」「Mind Over Matter」「HAPPY TEARS」──彼の楽曲は、痛みの中にいる人々にとっての灯火であり続けるでしょう。亡くなる5日前にリリースされた最後のシングル「Out of Town Bae」は、今となって特別な重みを持って響きます。
そして何より、彼の死がメンタルヘルスとドラッグカルチャーの問題への理解を深めるきっかけとなることを願っています。痛みを音楽に変えることは、美しい行為です。けれどもそれは、本人が壊れてもいいという免罪符ではありません。
微力ではありますが、この記事が誰かの心に届き、何かを考えるきっかけになれば幸いです。
🎯 要点まとめ
- Lil Poppa(本名Janarious Mykel Wheeler)が2026年2月18日、25歳で死去。死因は銃による自傷(自殺)
- ジョージア州ヘイプヴィル近くで交通事故後、ヒルトンホテル駐車場でマネージャーとの会話中に自ら命を絶った
- ジャクソンビルのドリル全盛期に、メロディック/ペインラップという独自路線を貫いた唯一の存在
- Juice WRLD、Polo G、Rod Waveと同系統の音楽性を持ち、2024年にはRod Waveのツアーでオープニングアクトも担当
- Yo GottiのCMG所属。Billboard 200に複数回チャートイン
- Boosie Badazz、Yungeen Ace、Lil Duval、CMGが追悼声明を発表
- 痛みを創作に変換し続けたアーティストが、その痛みに飲み込まれるパターン──カート・コバーン、Juice WRLD、Lil Peepの系譜
- ヒップホップにおけるドラッグカルチャー(リーン、コデイン、パーコセット)とメンタルヘルスの関連性を再考する契機に
📞 もし悩んでいるなら、相談してください
もしあなた自身、または周囲の誰かが精神的な苦痛を抱えている場合は、どうか一人で抱え込まないでください。専門機関への相談をお勧めいたします。
相談窓口:
- いのちの電話: 0570-783-556(24時間対応)
- こころの健康相談統一ダイヤル: 0570-064-556
- よりそいホットライン: 0120-279-338(24時間対応・無料)
音楽は人を救うこともあります。けれども、その裏側で多くの方が苦しんでいることもあります。
Lil Poppaの死を無駄にしないためにも、私たちは行動する必要があるのではないでしょうか。メンタルヘルスへの理解を深め、支え合える社会を作っていかなければなりません。
彼の魂が安らかであることを、心からお祈り申し上げます。
