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千葉雄喜が3年黙って、「Team Tomodachi」で帰ってきた時のこと、覚えてますか。SEEDAが13年ぶりにアルバムを出した時の衝撃も。日本のヒップホップって、黙ってる時間が長いラッパーほど、戻ってきた時にとんでもないものを持ってくると思いませんか?
いま太平洋の向こうで、まったく同じことをやろうとしてるラッパーがいます。
Baby Keem。新作『Ca$ino』を2026年2月20日にリリースします。前作『The Melodic Blue』から4年以上。全12曲。従兄弟のKendrick Lamarも参加。これ、ただの新譜じゃないです。
沈黙から復帰が強い理由
Baby Keemの話に入る前に、日本のシーンを振り返らせてください。ここ2年で長い沈黙のあとに名盤を出すパターンが立て続けに起きてるんです。しかも全部、ちゃんと結果を出してる。
千葉雄喜(元KOHH)——名前を捨てて、世界に届いた
2020年にKOHHとしての引退を宣言。2021年末にラストライブをやって、そこから約3年、本当に消えました。文學界にエッセイを寄稿したり、服屋を開いたりはしてましたけど、音楽としての「KOHH」は完全にゼロにした。
で、2024年2月に突然出てきたのが「Team Tomodachi」です。名義はKOHHじゃなくて本名の千葉雄喜。ビートを手がけたのは徳島のラッパーWatsonの仕事でも知られるKoshy。この曲がバイラルして、そこからの展開がすごかった。Megan Thee Stallionの「Mamushi」でBillboard Hot 100にチャートイン。Will Smithがリミックスに参加。2025年7月には武道館ワンマンを成功させてます。
3年間何もしなかったんじゃなくて、KOHHという殻を脱いで、千葉雄喜として生まれ直す時間だったわけです。結果的に、沈黙前よりはるかにデカくなって戻ってきた。
Skaai——『Gnarly』。12曲で「クラシック」と呼ばれたアルバム
ヴァージニア州生まれ、大分育ち。九大の研究者でもあるSkaaiが2025年末にリリースした『Gnarly』は、全12曲・約35分。生楽器を多用したジャジーなサウンドに、スキルフルなラップが乗る。批評家から日本語ラップのクラシックになると言われてます。これ、リリース直後からそういう評価なので相当です。
ちなみにこの12曲という曲数、Baby Keemの『Ca$ino』と完全に同じです。20曲超えがストリーミング時代の定石になってる中で、あえて絞ってくる。偶然かもしれないですけど、日米のアーティストが同じ時期に同じ判断をしてるのは面白いです。
Baby Keem『Ca$ino』——4年の沈黙が生んだ12曲
ここからBaby Keemの話です。2026年2月10日、Instagramのストーリーでいきなりアルバムを発表しました。タイトルは『Ca$ino』。レーベルはpgLang / Eerie Times / Columbia Records。リリース日は2月20日。
直前まで動きはほとんどなかったんです。Governors Ball 2026のラインナップに名前があったり、Kendrickとのミュージックビデオ撮影が目撃されたりはしてましたけど、公式な情報はゼロ。Instagramのプロフィール写真を変えたのが当日の朝で、その数時間後にトラックリストがドンと出てきた。
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トラックリスト(全12曲)
- No Security
- Ca$ino
- Birds & The Bees
- Good Flirts ft. Kendrick Lamar & Momo Boyd
- House Money
- I Am Not A Lyricist
- Sex Appeal ft. Too Short
- Tubi ft. Che Ecru
- Highway 95 Pt. 2
- Circus Circus Freestyle
- Dramatic Girl
- No Blame
同時にbooman.coで限定ヴァイナル・CD・ボックスセットの予約も始まってます。そしてYouTubeには約9分半のドキュメンタリー「Booman I」が公開されていて、Keemの幼少期を家族が語る内容。ここにKendrickも出てきます。
「Good Flirts」——Kendrickとの共演を読み解く
やっぱり一番気になるのは4曲目「Good Flirts」ですよね。Kendrick LamarとMomo Boydが参加してます。
KeemとKendrickは従兄弟です。でも2人の関係って、家族だからコラボしてるという次元をとっくに超えてます。2021年の「Family Ties」でGrammy(Best Rap Performance)を獲って、2023年には「The Hillbillies」を出してTyler, the Creatorもカメオ出演。共演するたびにシーンの空気が変わるんですよね。
日本のシーンで例えるなら、千葉雄喜とWatsonの関係性に近いかもしれません。単にフィーチャリングし合うんじゃなくて、「この2人が組むと新しい回路ができる」みたいな感覚。SEEDAがJJJやR-指定と組む時にも同じことが起きてました。「誰と一緒にやるか」がそのまま思想の表明になる。これは日米共通のヒップホップの文法です。
「I Am Not A Lyricist」——この問いかけ、日本のシーンでも聞き覚えありませんか
6曲目のタイトルが「I Am Not A Lyricist」(俺はリリシストじゃない)。これ、相当挑発的です。
ラップって結局なんなの?テクニック?エモーション?ストーリー?バイブス?この論争はアメリカでも日本でもずっと続いてます。
2025年の『ラップスタア誕生』が象徴的でした。審査員のSEEDAは「わかりやすさ」「直球で伝わるかどうか」を評価軸に置いた。一方でR-指定やBenjazzyは韻の構成力やラップの足腰を見てた。結果、SEEDAが推した候補者の多くが他の審査員に通らなくて、SEEDA本人が「撃沈でしたね」とコメントする場面も。技巧派とバイブス派の溝って、やっぱり深いんですよね。
Skaaiはこの問題に対して面白い回答を出してます。九大の研究者というバックグラウンドがありながら、ジャジーなサウンドでラップする。知性とバイブスは両立する、ということを作品そのもので見せた。「リリシストかどうか」みたいなラベルの話じゃなくて、もっと大きな音楽の話をしよう——そういうメッセージを感じます。
Baby Keemが「I Am Not A Lyricist」と銘打ったのも、たぶん同じ方向を向いてます。ラベルなんかいらない。アルバム全体で聴いてくれ、と。
Too ShortとChe Ecru——この客演の組み合わせが面白い
客演の人選も見逃せないです。
Too Shortは1980年代から活動してるベイエリアのレジェンド。ストリートラップの生きた歴史みたいな人です。「Sex Appeal」に参加してるのは、Keemが西海岸の系譜にちゃんと敬意を払ってるってことでしょう。
一方のChe Ecruは、R&Bの空気感を持った現代型のアーティスト。「Tubi」に参加してます。こっちは未来の方向性を示すピースですね。
過去のレジェンドと現在進行形の才能。この組み合わせ方、SEEDAが『親子星』でやったことと本当によく似てるんです。VERBALやBES、D.Oといったベテラン勢と、SieroやBonberoみたいな若手を同じアルバムに並べた。「自分がどこから来て、どこに向かうのか」を客演リストで語る。ヒップホップの伝統的なやり方ですけど、やっぱりこれができるのは「何を選ぶか」に自信がある人だけです。
12曲にした理由——ストリーミング時代にあえて逆を行く
ここ数年、ヒップホップのアルバムって長くなる一方でした。20曲とか25曲とか入れて、ストリーミングの再生回数を稼ぐ。1曲でも引っかかればOKみたいな確率のゲームです。
『Ca$ino』はその逆をいきます。12曲。たぶん40分前後。全部聴いてくれというメッセージです。
日本のシーンだと、この考え方はもう珍しくないですよね。Skaaiの『Gnarly』は12曲・約35分。CreativeDrugStoreの『Generic』もタイトに仕上げてました。2025年に批評家から高く評価されたアルバムって、だいたいコンパクトなんです。リリースの頻度は高くないけど、出す時は間違いないものを出す。そういうスタンス。
Baby Keemが同じ選択をしたのは、おそらく偶然じゃないです。2020年代後半のヒップホップは「量で回すか、質で勝負するか」の分岐点にいて、Keemは質のほうに振り切った。日本のアーティストたちがすでに実践してきたやり方です。
「Ca$ino」というタイトルー金の話だけじゃない
カジノって聞くと派手なイメージがありますけど、本質は選択とリスクです。どのテーブルにつくか。いつチップを置くか。いつ降りるか。
4年以上黙ってたこと自体がリスクです。ファンは離れるかもしれない。トレンドは変わる。それでも12曲に絞って、自分の名刺代わりになるようなアルバムを作る。これは衝動的な賭けじゃなくて、テーブルの流れを読んだうえでの勝負ですよね。
千葉雄喜がKOHHの名前を捨てたのも賭けでした。13年黙ってたSEEDAがアルバムを出すのも賭けでした。でもどっちも勝った。沈黙の時間が長いほど、復帰作のインパクトは大きくなる。Baby Keemもそれをわかってるはずです。
AOTY候補と言われてる理由を整理します
まだリリース前ですけど、もう「Album of the Year候補」という声が出てます。期待値だけで語るのは危険ですが、根拠はいくつかあります。
前作『The Melodic Blue』は全米プラチナ認定。そこから4年以上のブランク。Kendrick Lamar参加。12曲のコンパクト構成。アルバム発表と同時にワールドツアー「The Ca$ino Tour」(2026年4月〜9月、北米+欧州約40公演)も発表されてます。6月のGovernors Ball、8月のAll Points East(ロンドン)ではTyler, the CreatorやClipseと共演予定。チケットのプレセールはCash App Card連携で、2月11日から始まってます。
つまり、アルバムを出して終わりじゃなくて、ライブで「証明する」場所まで用意されてるということです。この周到さが、単なる復帰作じゃないことを物語ってます。
2026年の日米ヒップホップ——見えてきた共通の流れ
ここまで書いてきて改めて思うのは、日本とアメリカのヒップホップがいま、かなり近い場所にいるということです。
2025年の日本語ラップは、Creepy Nutsが17億回再生・MUSIC AWARDS JAPAN 9冠という異次元の数字を叩き出す一方で、Skaaiの『Gnarly』やSEEDAの『親子星』が「商業的ヒットとは別の勝ち筋」を示しました。千葉雄喜の「Mamushi」がBillboard Hot 100に入って、Awichが国際展開を加速して、Number_iがWME(William Morris Endeavor)と契約してグローバル化を本格化させた。
商業で勝つ道も、作品で勝つ道も、どっちも開かれてる。そういう成熟したシーンに日本はもうなってます。
Baby Keemが『Ca$ino』で選んだ作品で勝負するという道は、日本のリスナーにとっては馴染みのある美学です。だからこそ、このアルバムは日本のヒップホップファンにもストレートに響くんじゃないかと思います。
リリース情報まとめ
- アーティスト:Baby Keem
- アルバム名:Ca$ino
- レーベル:pgLang / Eerie Times / Columbia Records
- リリース日:2026年2月20日
- 収録曲数:12曲
- 主な客演:Kendrick Lamar、Momo Boyd、Too Short、Che Ecru
- 注目曲:Good Flirts(ft. Kendrick Lamar & Momo Boyd)
- 前作:The Melodic Blue(2021年/全米プラチナ認定)
- ツアー:The Ca$ino Tour(2026年4月〜9月/北米+欧州約40公演)
- 関連映像:Booman I Ca$ino Documentary(booman.co)
黙ってた時間が、次の一手を強くする
千葉雄喜が名前を捨てて蘇ったように。SEEDAが13年越しに『親子星』を落としたように。Skaaiが12曲でシーンの風景を塗り替えたように。黙ってる時間は、負けてる時間じゃないんです。次の手札を揃えてる時間です。
Baby Keemの『Ca$ino』は、そういう意味でのオールインだと思います。
この記事について
Billboard,Complex等の公開報道、公式SNS発表情報、およびHIPHOPCsが蓄積してきた日本語ラップシーンの取材・分析データを基に構成しています。日本のヒップホップとの比較分析は、HIPHOPCsの独自視点によるものです。
注意
記事内容は2026年2月1日時点の情報に基づきます。最新情報は各アーティストの公式アカウントをご確認ください。記事内容は公開時点の情報に基づきます。最新情報は公式アカウントをご確認ください。
