ますます盛り上がりを見せているヒップホップシーン。特に本場であるアメリカのヒップホップ業界の成長は止まる事を知らず、新たなラッパーが毎日のように誕生し、入れ替わりの激しい実力主義の世界で熾烈な競争を繰り広げているのだ。
しかし、ヒップホップという文化が発展を遂げているのは、危険なイメージと結び付けられがちなアメリカだけではない。
近年、アジアのヒップホップは確実に存在感を高めている。日本ではオーディション番組『Rapstar』にATL JacobやZaytovenといった海外のビッグネームがビートを提供するなど、シーンはすでに国境を越えた動きを見せている。そして、この流れは今に生まれたものではない。
2015年に公開されたKeith Ape、JayAllDay、Loota、Okasian、Kohh(千葉雄喜)による日本と韓国のラッパーのクロスオーバー楽曲「It G Ma」は、現在までに約9000万再生を記録。
この大ヒットをきっかけに、A$AP FergやWaka Flocka Flameが参加したリミックス版が公開されるなど、アジア発の楽曲が世界的バイラルヒットを記録し、USリスナーの注目を集めることに成功した。
その後、コロナ禍に88risingから公開されたRich Brianによる「Tokyo Drift Freestyle」がバイラルとなったことで、アジアのヒップホップは一過性のブームではなく、カルチャーとして認識されるようになる。
そして現在、その潮流を巧みに乗りこなした千葉雄喜がMegan Thee Stallionのアルバム『MEGAN』収録楽曲「Mamushi」に参加。グラミー賞でノミネートを果たすなど、アジアのヒップホップ業界における影響力は、もはや無視できないものとなってきている。
明確な文化としての輪郭を獲得し始めたアジアヒップホップシーン。この大きな流れの中で、自国の文化により力を与えようと奮闘する1人のラッパーがいる。
彼の名はFinesse’Boy。親日国としても知られる台湾出身の彼は、日本や韓国のラッパーと積極的に交流を重ねる、クロスボーダー世代の代表格だ。
日本にも頻繁に足を運び、JP THE WAVY、Showy、PETZ、DJ JAMなど、数多くの日本アーティストとコラボレーションを果たしてきた。そのため、すでに彼の存在を知っている読者も少なくないだろう。
また、彼のInstagramには千葉雄貴の姿が度々登場するなど、日本のヒップホップシーンとの強いコネクションも見て取れる。
今回は、言語の壁もあり日本ではなかなか触れられる機会の少ない台湾のヒップホップシーンにおいて、ひときわ異彩を放つFinesse’Boyにインタビューすることに成功。イベントでのパフォーマンス直後という多忙なタイミングの中、貴重な話を聞かせてもらった。
音楽との出会い、改心を経ての現在
Lucie:JP THE WAVY、Showy、PETZ、DJ JAMといった日本のアーティストとの楽曲をきっかけに、あなたの存在を知った日本のリスナーも多いと思います。Finnese’ Boyさんを初めて知る人に向けて、どんなラッパーなのか、簡単に自己紹介をお願い致します!
Finesse’Boy:俺はとにかく、夢を見続けているラッパーだ。ただ好きなことをやって、音楽を作り続けている。日々変わっていく感情を映し出すように、日記をつける感覚で作品を生み出しているんだ。
Lucie:では、最初にヒップホップに出会ったきっかけは何だったのでしょうか。音楽やカルチャーのどんな部分に惹かれて、本気で向き合おうと思ったのかも聞かせてください。
Finesse’Boy:俺がヒップホップに出会ったのは10歳の頃。偶然見つけたEminemとかを聴き始めて、そのままのめり込んでいった。若い時にはいろいろ悪いこともしてたから、気づけば周りにいたのはヒップホップシーンに関わる人間ばかりだった。その後、仕事も昔の生活も全部捨てて、ちゃんとした人間になろうと努力し始めた。それからは音楽一本で、真剣に向き合うようになった。
特にここ2年は、自身がようやく“本物“になり始めた感覚があるよ。3年か4年くらいはまとまった作品を出していなかったんだけど、今年はいよいよ新しいミックステープをリリースするつもりさ。
Lucie:なるほど!本腰を入れて再び動き出すわけですね。
それでは、過去の代表曲についても触れさせて頂きたいのですが、中国発のクルーHigher Brothersとの「BENZ Remix」は、Finesse’Boyさんの名前を世間に知らしめた1曲だと思います。このコラボはどんな流れで実現したのでしょうか。また、あの楽曲があなた自身に与えた影響も教えてください。
Finesse’Boy:元々、彼らのことは音楽を始める前から知っていたよ。その曲を作っていた時はウィードを吸っていて、正直かなりイカれてた気がする。当時は人をリスペクトするっていう精神性が自分には無かったし、エゴを剥き出しにして書いていたんだ。
でも、結果的に「BENZ Remix」は俺にとって全ての始まりになった曲だし、自分を大きく変えるきっかけになったよ。
「ヒップホップは“ライフスタイル“であって“宿題”ではない」
Lucie:続いて、台湾という国、そしてそこに根付くヒップホップシーンについて詳しく教えて頂ければと思います!
日本と台湾は文化的にも近く、親日的な国として知られていますよね。日本には台湾に親しみを感じている人も多いですが、Finesse’Boyさんから見た今の台湾はどんな場所でしょうか?
Finesse’Boy:台湾の人々はいろんな文化や人に対してとてもオープンなんだ。どこから来た人に対しても親切にするし、情熱に溢れている国だね。俺にとって台湾は生まれた場所で、ルーツそのもの。どこにいても誇りを持ってシャウトアウトしているし、今の自分を作り上げたかけがえのない故郷だと思っているよ。
Lucie:現在の台湾のヒップホップシーンをどのように捉えていますでしょうか?数年前と比べて変わった部分、逆に今も変わらない部分があれば教えてください。
Finesse’Boy:今は台湾でもヒップホップという文化がどんどん大きくなって、ヒップホップを始める若い子達もどんどん増え始めているよ。それは良いことだ。良いことなんだけど…。もっと彼らは旅をして、世界を見て、ヒップホップを知るべきなんだ。
俺にとってヒップホップは“ライフスタイル“であって“宿題”じゃない。というのも、シーンが成長していくにつれて、この文化に宿題をこなすみたいに取り組んでいる人が増えてきていると感じるってことなんだ。何度も言うけど、これはライフスタイル。技術の有無は問題じゃないんだ。
ヒップホップの捉え方は人それぞれ違っていいものだとは思うし、誰でもそれぞれのヒップホップがある。ただ、俺が惹かれるのはリアルでオリジナルなもの。ハッスルしてトラップして、生きるために必死に働いて、音楽を作り続ける。そういう物語こそに意味があると思ってる。
簡単に手に取って、簡単に手放せるほど軽い文化じゃないってことさ。
Lucie:言葉の重みがヤバいです。本物のリスペクトを感じる答えを聞けて、こちらまで嬉しい気持ちになってしまいました。
Finesse’Boyさんは過去のインタビューで、台湾のヒップホップシーンの課題として「国際的な視野」と「個人のセンス不足」を挙げていましたね。
先ほどの「ヒップホップを宿題のように捉えている」という発言は、知識不足とはまた別の問題が生じている、という意味にも聞こえます。そうした状況の中で、シーンが正しく成長していくためには、何が必要だと考えていますか?
Finesse’Boy:最近になって、ようやくメインストリームのマーケットや業界の形態が、実はまだ何も変わっていないことにみんなが気づき始めてきていると思うんだ。ここがアジアである以上、変化には絶対時間が必要にはなるはずだ。でも、シーンに加わる仲間は確実に増えている。
だからこそ、今俺らがやらないとね。誰かがやるのを待ってなんていられない。次の世代に「夢を持ち続けろ、やり続けるんだ」っていう姿勢を見せるつもりだよ。
“偽らない姿勢“、アジアが世界に挑むために
Lucie:そうですよね。僕もまだまだ時間はかかると思います。アメリカを基準に考えるとアジアのマーケットはまだまだ小さいですし…。やはり、そうした環境の中でヒップホップをキャリアとして選ぶのは、中々勇気のいる決断でしたよね。
Finesse’Boy:確かに。でも後はタイミングの問題だと思うよ。だから才能云々の話ではなく、続けることが大事になってくる。アジアにはまだ強いヒップホップ文化が根付いていないから、時間が必要になる。けど、そのうちみんなも理解し始めるはずだと思っているよ。
Lucie:なるほど、後はタイミングだと。実際、アジア全体のヒップホップシーンは確実に盛り上がっていますからね。
ただ、アメリカを含めたグローバルな舞台に本格的に入り込むのは、まだ簡単ではありません。アジアのアーティストが“世界を取る”ために、最も重要だと思うことは何でしょうか?
Finesse’Boy:みんなが自分を偽らず、自分自身でいること。それに尽きると思う。
今のシーンにいる人達は才能に溢れているけど、やっぱりアメリカの焼き増しに聞こえてしまうことが多い。俺たちは俺たちのやり方で、俺たちのスタイルで、俺たちの色を出さなきゃいけない。これが大きな課題になってくる。
台湾にも良い音楽を作る若い子たちはいっぱいいるけど、全部同じような音に聴こえて記憶に残らないんだ。だったら「同じ曲を聴けばいい」って思ってしまう。
これから大事なのは戦略どうこうじゃない。自分自身であり続けることだ。嘘をつかずに続けていれば、きっと人々は感じ取ってくれるはずだからね。
日本を愛する理由、千葉雄喜との関係性
Lucie:Finesse’Boyさんは日本を頻繁に訪れていますが、あなたにとって日本はどんな国ですか?音楽的に、そしてパーソナリティ的な面においても、日本から受けている影響があれば教えてください。
Finesse’Boy:俺は“職人”をリスペクトしてるんだ。日本の人たちは得意分野を極めていて、とにかく仕事が細かいよね。
アジアの中でも特にアメリカからの影響を受けている国ではあるんだけど、それらをオリジナルな形に作り変えて自国の文化や歴史に落とし込んでいる。日本はいろんな国の文化を受け入れることができる国だ。だから好きなんだよね。
Lucie:そして、Finesse’BoyさんのSNSでは、Kohh(現・千葉雄喜)さんが時折姿を見せていたり、過去のインタビューではKohhさんのことを「親友」と表現していました。2人はどのように出会い、今はどんな関係性なのでしょうか?
Finesse’Boy:Kohhは日本でできた最初の友達なんだ。初めて会ったのは10年前で、まだ俺は音楽を始めていなかったな。ライブで一緒に日本や台湾を行き来する中で仲良くなって、それからずっと彼は俺のメンター的な存在になってくれている。感情とどう向き合っていくべきかを教えてくれたよ。
俺たちは友達以上の関係性、家族や兄弟みたいなものだ。夢を見続けて、動き続けるためのモチベーションをいつも俺にくれる。彼は実際に夢を叶えているし、やり遂げた。彼を誇りに思うよ。
Finesse’Boyが見据える先は
Lucie:では、今の台湾のヒップホップシーンで「このラッパーはチェックしてほしい」という存在がいれば教えてください。
Finesse’Boy:俺。
Lucie:Dammmmnn. 間違いない!最高ですね。
そして最後に、これから先にどんな動きを考えていますか?今後のリリースやビジョンがあれば、ぜひ聞かせてください。
Finesse’Boy:今年はミックステープをリリースする予定だ。全ての準備は整っているよ。
ライフスタイルはライフスタイルとして、制作はまた別の勝負になる。ここ数年は時々シングルを出すに留めていたけど、今年は俺自身の物語を作品として共有したいんだ。だから、ミックステープという形をとった。みんなも期待してると思うし、ワクワクしてほしいからね。
Lucie:ミックステープマジで楽しみにしています!この度はお忙しいところインタビューに応じて頂き、ありがとうございました!
Finesse’Boy:全然!こちらこそありがとう。
インタビューを終えて 〜アジアという大陸の可能性〜
国境を越えて縦横無尽に活動するFinesse’ Boyが見据えているのは、台湾という一国に留まらない、アジア全体のヒップホップカルチャーの進化だ。彼が求めているのは、アメリカの模倣ではない、アジア独自の文脈を持ったカルチャーの形成である。
職人精神を胸に、愚直に制作と向き合い、夢を見続ける姿勢に迷いはない。台湾出身という誇りと、日本文化への深いリスペクトを併せ持つ彼の一挙手一投足は、今後のアジアヒップホップの行方を占う上で、確かな指標となっていくだろう。
今年リリース予定のミックステープを皮切りに、その動向に注目したい。
この記事のポイント
・Finesse’Boyが語る、アジアヒップホップが世界へ挑むために必要な姿勢
・「ヒップホップはライフスタイルであって宿題ではない」という核心的思想
・日本との深い関係性、千葉雄喜(Kohh)との10年にわたる絆
・2026年リリース予定のミックステープに込めた“自分自身の物語”
資料提供:Finesse’Boyさん
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